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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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織田信長の問い④

 秀綱は思案していた。


「儂が、お主の目にはいかように映るか」

 それは、どのような答えを信長が求めているかではなかった。信長が、どのような人間なのか、秀綱が感じたままを伝えねばならぬという気がした。天下人と崇められても来ている信長だからこそ、真実の言葉が一番響くと秀綱は考えた。


「某は、信長様は、我が国で最も保守的で、古臭い人間だと思いまする」

 脇に控えていた蘭丸がビクッとした。信長も眉間に皺を寄せ、険しい顔になった。

何故なにゆえ?」

 信長は秀綱を睨みつけて問うた。


「この100年の間、誰しもが乱世を普通と勘違いしております。されど、それは間違いでござろう。信長様は、この乱世に、かつて失われた秩序を本気で再び建てようとされておられます。今の世に古の秩序を求めるがゆえに、古臭いと申したのでございます」

 秀綱は、信長の圧に負けずに言った。


「ふっ、こやつ言いおるわ」

 信長は少し柔和な顔つきになった。秀綱は続ける。


「信長様は、敵と戦ってきているだけではございませぬ。この国の100年の歴史、常識と戦ってきているのだと考えまする。この考え、違いまするか」

 信長は呵々大笑し、光安に視線を向けた。


「光安、こやつなかなかに面白いな。気に入った。お主からの、最上殿からの答え、しかと受け取ったぞ」

 信長は機嫌をよくしたようだ。刀を手ずからとって、「くれてやる」と言って、秀綱にさし与えた。



「さて、この秀綱、信長様と光安との間に交わされた問いとやらを知らぬのです。お教えいただけましょうか」

「なんと、お主は知らなんだのか」

 信長は驚いた顔をして、光安を見た。


「はい、秀綱は知りませぬ。下手に知って事前にきれいな答えを用意しても、信長様の御心を打つことはできますまい。それゆえ、何も知らせずに、秀綱を信長様と対峙させ申した」

 信長は何度も頷いた。壇上から降りてきて、秀綱の眼前に胡坐をかいた。


「お主の同輩は、大した度胸じゃ。そして、お主はそれを上回る武将じゃ。最上殿は、素晴らしき家臣を持っておるのう」

 そして、信長自らが光安とのかつてのやりとりを教えてくれた。



◇◇◇

 かつて、出羽国谷地でわのくにやちの領主 白鳥長久が、出羽守でわのかみの官職を得て、出羽を支配する権利を得ようと信長に接近した。当初、信長は白鳥長久の言葉を信用した。

 しかし、最上義光は、この動きを察知し、自身の正当性を証明すべく、光安を信長の許に派遣し、説明をした。

「お主は、最上義光が正当と申すが、その根拠はあるのか」

 信長の問いに、光安は涼しい顔で応じた。

「この家系図がございますが、こんなものでは、信長様の心には適いますまい」

「では、何をもって正当性を明らかにするのか」

 光安は、扇子を広げて信長に訴えた。

「もし紙切れの心証で正当性を認めるならば、白鳥を出羽守とすれば良うござろう。されど、本当に重要なのは、行動であるかと存じまする。出羽の地で信長様と思いを共有する者こそ、出羽守にふさわしいと考えまするが、いかがか」

「それが、最上殿ならできると言うか」

 信長は、前のめりになって尋ねた。


「信長様は、この乱世を終わらせるのを望むのでしょう。それは、単に自己の領地を守り、広げるだけを考える輩では、思いを共有など適いますまい。最上義光なら、それは叶いまする」

「何故、そう言い切れる」

「義光こそ、乱世を厭うておるからにござる。義光は譜代の家臣からも、父からも疎まれ、戦いたくない争いを経験いたしております。それゆえ、自身の領地の中だけは平穏にあってほしいと腐心して参りました。しかし、広く出羽を見れば、小人が幅を利かせ、領民たちは不当に搾取されてござる。それゆえ、義光は出羽の領民を己の庇護の許に置きたく、他の領主たちを討つのでございます」

「それこそ、己の野心を満たすための屁理屈ではないのか」

「斯様に思われるも致し方なきこと。さればこそ、今後の義光の行動を見てもらうほかございますまい。猛将の許には苛烈な猛将が幅を利かせまする。仁将の許には、仁を大事にする将が集いまする。最上家は人をもって、この言葉の証と致しまする」

 信長は光安の言葉に破顔した。

「されば、儂が天下を手中に収める前に、その証の人を連れて参れ。それができねば、最上家を潰す」

「承知いたしました。ふさわしき将をば、光安が連れて参ります」


 このようなやりとりがあって、仮にであるが、信長は最上義光を出羽守と認めたというのである。


◇◇◇


――光安も随分とハッタリをかましたものだ――

 秀綱も光安の度胸に内心驚いた。そして、自身がそんな約束の証人になっていたという事実にも驚愕した。


「殿、私も秀綱殿の言動に感動致しました」

 脇から蘭丸が口を挟んだ。信長は目線で、蘭丸の発言を許可した。


「私が安土城を案内する際、秀綱殿は総見寺そうけんじこそが、この城で最も尊いと話しておりました。いずれの大名も、天守閣の壮麗さなど煌びやかところばかりを口に致しますが、総見寺に言及されたのは、秀綱殿だけでございます。この寺には、我が父も祀られておりますゆえ、感傷的になったのやもしれませぬが」

 蘭丸の言葉が途切れた。涙を浮かべているのやも知れぬ。

「武将が、大名がかかれと申すは、兵士に死ねと申すも同じこと。そのため、死した将兵のことを忘れるような輩とは、天を共に戴くことは儂にはできぬ」

 信長はしみじみと話した。これまでの戦いで亡くなった多くの家臣たちのことを思い出しているのであろうと秀綱は思った

「我が主、義光も、斯様に申しておりました。それゆえ、自身が前線に出て戦うことで、将兵の犠牲を少しでも少なくしたいとの思いを抱いておりまする」

「左様か」

 信長は秀綱の眼前から立ち上がり、壇上に戻った。


「儂は、今年中に越後の上杉を滅ぼすであろう。そうなれば、出羽の平定は同時に叶う。左様、義光殿に伝えよ」

 信長は微笑をたたえて、光安と秀綱に伝えた。出羽の諸将の多くは、上杉家と誼を通じていた。その上杉家を滅ぼせば、織田家と誼を通じる最上家が、出羽を傘下に収めることになる。信長が、義光を出羽の盟主として正式に認めたことを意味した。

「秀綱よ、多くの者に、もっとたくさん教えるよう励め」

 そういいおいて、信長は下がっていった。光安と秀綱は、平伏したまま、気配が去っていくのを感じていた。



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