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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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織田信長の問い③

とうとう信長との面会です。

信長と光安との間に以前、どんなやりとりがあったのかを知らない秀綱は、思惑もなしに応えていきます。

 秀綱は、見上げていた。安土山の上に聳え立つ望楼の天守閣は、町のどこからでも見ることができた。

五重六階の天守の高さは、1000尺(約30メートル)を優に超している。西洋風の建築も一部取り入れた荘厳なものであった。


――いやはや、壮大な建物を建てる人だな――


 秀綱は驚いた。だが、同時に懐かしさも感じた。


――そうか、銅雀台どうじゃくだいのようなものだな――


 秀綱は、太史慈の記憶から曹操の建てた銅雀台を思い出した。


「なあ、光安。あれは、銅雀台のようなものだな」

 光安は軽く笑った。

「私も同じ感想だったよ。だが、あの城は威圧だけの城ではない。本質は、鎮魂にあるんだと私は思う」

「鎮魂?どこがだ?」

「まあ、行けばわかるさ」


 秀綱は光安についていった。安土の町は、商人たちで賑わう界隈を過ぎて、家臣たちの邸が集まる地区に入った。光安は勝って知ったるように、すいすいと進んでいく。秀綱には、もはやどこを進んでいるかすらわからなかった。


それがしは、出羽の最上義光の使者である志村伊豆守光安と、鮭延典膳秀綱にござる。信長様への使いとして罷り越しました。森様にお取次ぎ願いたい」

 光安が門番に声をかけた。既に伝わっているようで、門番は「少々待たれよ」と声をかけて邸内に走っていった。


 それほど待たずに秀綱たちよりも若い武士がやってきた。

「蘭丸にございます。光安殿、お久しゅうございますな」

 互いに面識があるようで、光安と蘭丸はにこやかに挨拶を交わした。

 ふと、蘭丸は秀綱に視線を向けてきた。

「お初にお目にかかります。鮭延典膳秀綱ございます。以後、お見知りおきを」

「丁寧な挨拶、痛み入ります」

 そう言って、蘭丸はまぢまぢと秀綱を見てきた。

――値踏みされているな――

 秀綱は、蘭丸の顔をぼんやりと、槍をつける相手をみる時のような遠間の視線で見ていた。


「なろほど、光安殿。この者が、今回の答えというわけでございますか」

「左様にござる」

「信長様も楽しみにしてございます。早速に、ご案内いたしましょう」


 蘭丸は、光安と秀綱に背を向けて、安土城へと歩いていった。途中、城の案内などを蘭丸がしてくれた。


「ここが総見寺でございます。城内に寺を建てております」

「ここは何を祀っておるのですか」

 秀綱は蘭丸に尋ねた。

「ここは、信長様が菩提寺として建てられました。ただ、自身だけでなく、今まで戦死した将兵の菩提も弔う寺にございます」

「左様でございますか。ここが、どこよりも尊く感じられますな」

 秀綱は、しばし立ち止まって手を合わせた。

「ほう」

 蘭丸は、少し驚いた表情を見せた。少し、にこやかな顔にも見える。



「こちらでお待ちくだされ」

 案内されたのは、安土城の天守閣であった。一方からは、琵琶湖を一望できる。もう一方からは、安土の町を睥睨できる。秀綱はその眺めを楽しんでいた。


「殿のおなりでございます」

 蘭丸の声が聞こえた。静かに、しかし威圧感をもって、信長が姿を現した。秀綱と光安は平伏して出迎えた。

「面をあげよ」

 少し高めの響く声であった。秀綱が顔を上げると、信長は無表情であった。

「光安、お主の答えは、その者か」

「はっ、この者こそ、我が主君 最上義光が、信長様への答えとして遣わしたものでございます」

「左様か」

 挨拶などなしに信長から話しかけてきたことに秀綱は驚いた。

――なるほど、堅苦しい常識など要らぬというわけだな――


 ますます、曹操に似ているなと秀綱は思った。


「秀綱と申したな、直答を許す。お主は何故、最上義光に降った」

 信長は前のめりになって尋ねてきた。視線は鋭い。どう応えるべきか、迷っていたが、信長の刺すような厳しい視線を見て

――ここは、戦場だったな―― と思い返した。


「義光は、某の成したことを評価してくれたからにございます」

「お主は何を為したのじゃ」

「貧しき者への教育にござる」

「ほう、仔細申せ」

 秀綱は、これまで領内の貧しき者や足軽などに文字や計算を教えてきたことを話した。信長の視線は相変わらず、厳しい。


「それは、お主の気紛れか」

「気紛れと言えば、それまででしょう。されど、文字や計算ができるだけで、他の者たちよりも仕事ができるようになりまする。それは、ひいてはその者の稼ぐ力を引き上げることになりましょう」

「何故、そのような能力を持たせる。戦働きをできるように致せば、金など稼げるようになろうが」

「それは戦がなくなったら、何もできぬ者を生み出すことになりまする。『狡兎死して、良狗煮らる』の故事もございます。某の領内からはそのような悲劇を出しとうはございませぬゆえに」


「なるほど、確かに爺臭い。説教臭いことを申すわ。お主、いかほどの戦場を経験しておる」

――赤壁、とか言ったら怒るだろうな――

 太史慈として、呉の主要な戦には参加していた。武功も上げている。魏の張遼とは競い合った。

――だが、秀綱としては、小さな小競り合い程度の戦が主だったな――


「信長様から見れば、小競り合い程度の戦しか経験しておりませぬ」


「左様か。まるで、赤壁の戦いでも経験しておるかのようじゃな」

 秀綱は驚いた。信長は思考が読めるのかと思って戦慄した。


「そこの光安が申しておったわ。お主は、義光の許にやってきた太史慈が如き武将であるとな」

 信長は秀綱の動揺を誘ったことができて、嬉しそうであった。

――案外、子供っぽいところもあるようだな――

 秀綱は信長に急に親近感を覆えた。


「お主は、儂を恐れておらぬようじゃな。何ゆえか」

 なるほど、確かに下心があって面会するなら、信長の鋭い洞察に恐怖するだろう。

――しかし、俺は何も聞かされていない――


「某、この光安から何も聞かされておりませぬゆえ」

「何! お主は儂が何を問いたいのか、全く知らぬのか」

 今度は信長が驚いた。事前に打ち合わせていたのか、今まで疑っていたのかも知れぬ。

「は、全く。虚心坦懐で臨んでおりますゆえ、正直何を応えるべきか知らぬままおります。何が正しく、何が間違っているかも知らぬゆえ、何を聞かれても怖くはありませぬ」


がっははははは!

 

 信長が高笑いした。

「では、問う。お主の答えに儂が怒り、お主らの首を刎ねよと命じたらいかがする」

「いかようにもなりますまい。何も教えてくれなんだ、この光安を恨んで、閻魔の前で怨嗟の声をかけるだけでございます」


がっはははは!

 再び信長が笑った。どうやら答えを気に入ってくれているようでよかった。


――俺だけ狐につままれたような心持ちだがな――


 秀綱は大事は避けられそうな雰囲気に安堵したものの、納得はしていない。その表情が、また信長の興を買ったようであった。


「最後に問う。儂は、お主の目にはいかように映るか」

 信長は笑顔で問うてきた。秀綱は、かつての記憶が蘇った。


◇◇◇

 俺(太史慈)は、呉魏の国境に近い魏の城・合肥城を攻めていた。相手は魏の名将・張遼だ。戦いの最中、城門が開いた。城を落とせると俺(太史慈)は思った。そして、城内に攻め込んだ刹那、城門から無数の矢が放たれ討死してしまった。


◇◇◇


――今は戦場なり、だったな。これは、絶対に失敗できない問いだ――


 秀綱は、いかに答えるべきか思案した。眼前には、秀綱の言葉を楽し気に待つ信長の顔があった。

次回は、以前光安と信長の間で行われたやりとりを明らかにします。

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