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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡
第1章 最上家の武将 鮭延秀綱編

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織田信長の問い②

ここは家康からの値踏みを受けます。それを切り抜ける場面です

 秀綱は、光安とともに浜松城を訪れていた。

 

 徳川家康は、最上義光と織田信長の間の陳情や要請などを仲立ちする「取次役」であった。今回は義光から信長へ家臣派遣の要望を取り継いだ。「面会を心待ちにする」という信長からの返書を送っていた。その仲立ちの礼を述べに、使者である光安と秀綱は家康を訪問したのである。


◇◇◇


「殿、最上の使者のお二人を控えの間に通しましたぞ」

 家康の重臣・酒井忠次が静かに家康のいる書院に入った。無駄な動きのない足取りで家康の前に座った。

「今回の使者も、若い者のようだな」

「はっ、以前の使者である志村伊豆守しむらいずのかみ光安あきやすに加えて、今回は鮭延典膳さけのべてんぜん秀綱ひでつななる若武者もおり申す」

 家康は、やれやれという風に頭を振った。

「最上殿は、信長殿を軽く見ておるのか。もっと老練な者を送ればよいものを……。信長殿の勘気に触れたら、取り継いだ儂もとばっちりを食らってしまうわい」


 家康の嘆きを聞いて、忠次は笑った。

「はっは。斯様な心配は要りますまい。この二名、若くてもなかなか一筋縄ではいかぬ者かと」

「それは、忠次の見立てか」

「はっ。二名と話していて、まるで同年代の者と話しておるかのように感じましたぞ」


 家康は、忠次に向き直った。忠次の話で興味を持ったようだ。

「信長殿からは儂で二人を値踏みせよ。光安は器量を知っているが、同行の秀綱なるものが会う価値なしと思うたならば、出羽に返せと書かれておる」

 家康は、信長からきた書を忠次に見せた。


「……、これはまた、意地の悪い」

 忠次は内容を読んで、ニヤリと笑った。

「されど、おそらく彼の秀綱ならば問題ございますまい」

「忠次もよくよく気に入ったものよ。楽しみじゃ」

 家康は、小姓に光安と秀綱をここに案内するように命じた。




「此度は、信長様への取次にご足労を賜り、誠に感謝申し上げます」

「主君義光の名代であります、この秀綱ならびに光安、義光になりかわって御礼申し上げます」

 光安と秀綱は、順に家康に礼を述べた。そして、秀綱はお礼の品の目録を脇に控える酒井忠次に奉じた。忠次は、家康に目配せをした。家康も、秀綱の所作に、若者にはない堂々とした自信溢れる所作に感じ入った。


「若い二人と聞いて、儂は危惧しておった。もし、信長殿の前で粗相でも致したら、取次である儂も面目を失うからのう。特に信長殿に初めて面会する秀綱じゃが、なかなかの所作であるな。これならば、問題なかろう」

「家康様からお褒め戴き、恐縮に存じます。されど、まだまだ、我ら若輩者にて、信長様の前では気をつけて振舞いまする」

――何せ、俺は曹操に会ったこともあるからな。そこまで、緊張もしておらんそ――

 秀綱は内心を隠して、恭しく言った。家康は、満足げに頷く。


「されど、儂は少々気になっておる。信長殿は、今回貴殿らに前回の問いの回答を持ってくるものと期待している、と儂にも書いておる。これは何なのじゃ。教えてくれまいか」

「殿は貴殿らの回答が、信長様のご機嫌を損ねてはいかぬと心配されておるのじゃ」

 脇から忠次が会話に入ってきた。あくまでも親切心からの申し出あると付け加えた。


「お心遣い、痛みいり申す。されど、これは、この光安が信長様から直に問いを戴いたものでございます。これを家康様と言えども、みだりに明かすことはでき申さぬ」

 光安は断った。秀綱も続く。

「我ら若輩ゆえに、心配をかけるは心苦しゅうございます。されど、これは織田家と最上家の信義がかかっており申す。大恩ある家康様と言えども、軽々に明かすことはできません」


 この答えに、家康は眉間に皺寄せて、不快感を露わにした。


「全く儂は親切心に申しておるに、愚かな者どもじゃ。このままでは、義光殿に恥をかかせるかも知れんのだぞ」

「そうならぬように、我ら務めるだけにございます」

――これは、俺を試しているな、受けてたってやる――

 秀綱は、闘志を秘めて笑みを浮かべて、家康を見返した。


 家康は嘆息した。頭を振って、嘆かわしそうに頭を抱えた。ややあって

「全く、義光殿は大胆と言うか、惧れを知らぬというか……。そもそも、儂は義光殿の人柄を知らぬ。風聞では、大将にそぐわぬ猪武者であるかのように聞いておるが。お主たちから見て、義光殿はいかがな人物じゃ」

 秀綱が応えた。

「義光は、聡明にして仁勇略を備えた人物でございます」

「ほほう、大きく出たな。詳しく教えてくれまいか」

 家康は大きく身を乗り出した。秀綱は続ける。

「聡明な部分は、年齢に拘らず、弁舌の才で脇に入る光安を抜擢したことでしょう。これで、前回は信長様の心を打ち、最上家の面目を保ちました。仁であれば、白石八郎兵衛という人物を保護したことでございましょう。槍を振るえなくなったつわものなれど、同様の者たちの導きとなれとして、保護してございます。勇は、自然と己の武とも言えますが、これは配下領民が傷つくを哀しみ、自身が武にて守らんとする姿勢の表れでございます」

 家康は、秀綱の言葉を真剣に聞き入っている。

「なるほど、わかりやすい。では、略とは」

「今は出羽の地をさらに治めんと奮闘しております。それは、自身の仁政を広く出羽の地に広めたいがためにございます。その上で、同じく乱世を治めんとする信長様に誼を通じて、無駄な騒乱を治めたいとの思いがございます、これが、略にございます」

 秀綱の応えに家康は嬉しそうであった。

「なるほど、義光殿の人柄がわかるようじゃな。されど、儂の前で話すのに謙遜など全くせんのじゃな」

「家臣たるもの外において主君を辱めてはなりませぬ。それゆえ、正しいと思うことを申したのでございます」

 忠次が笑って脇から聞いてきた。

「出羽には、そなたのような家臣は何人くらいいるのだ?」

「私のような者は、車で積んで枡で測れるほどおります」

 秀綱もニヤリとして、忠次に返した。


「なるほど、これは儂の負けじゃ。そなたは古の呉の趙咨ちょうしにも劣るまい」

 秀綱は平伏した応えた。

「ありがたきお言葉。されど、それがしは、文においては趙咨の如く、武においては太史慈の如くありたいと思っておりまする」

「ふむ、文武において呉の忠臣の如くあらんとする心がけ、天晴なり」

 秀綱と光安は、平伏して家康の前を辞した。




 浜松城の天守に、家康と忠次は移った。城を去る光安と秀綱を見送っていた。

「忠次、お主の見立ての通りじゃったな」

「で、ございましょう。秀綱と話していて、三国志など故事に詳しく、博識でしたゆえ。舌鋒、人を挫くとまで言われた光安が一言も言いませなんだ。秀綱と言う武将もまた、底の知れぬ若武者でございます」

「最上殿は、よき家臣をお持ちだ」

 家康はしみじみと呟き、二人の背中を見つめていた。



◇◇◇


「やはり家康殿は我らを試してきただろう」

「言った通りだったな。太史慈の記憶に助けられた。自分の死後を知るため呉史を読んでいた経験が生きた。今後も、呉史以外の漢籍も読んでいくとしよう」

「家康殿は、漢籍に詳しいから嵌ったが、信長殿は一筋縄ではいかないからな」

「わかっている。気を引き締めていくとしよう。それより、信長殿の問いとは、一体何だ。お前は、何を信長殿に話したんだ」

 

 光安はまた沈思し始めた。馬上だから危ないなと思っている矢先にずり落ちた。

 言わんこっちゃないと思って、秀綱は光安を引き上げようとしたが、光安は腕を組んだままだった。


「いや、お主には教えん。下手に事前に考えていては、却って信長殿に機嫌を悪くするかも知れん。ま、曹操と渡り合った太史慈殿だ。思う通りに応えてくれてれば、大丈夫だろう」


「それって、却って不安なんだが」

「大丈夫、面会の場を戦場だと思って感覚を研ぎ澄ませていれば、信長殿の言の葉の刃は躱せるだろうよ」


――ええい、ままよ。今日も切り抜けられたのだ、何とかなるだろう――


 何か問題が出来したら光安が助けてくれるだろうと秀綱は腹を括った。安土まで、あと4日はかかる。二人は少しでも早くつこうと馬を走らせた。






次回は信長との面会です

信長、結構、圧強めでいく予定です。

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