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太史慈転生伝~最上義光を放っておけないので家臣になって手助けしちゃいました~  作者: 黒武者 因幡


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10/15

折れた槍 折れない想い①

上司になる楯岡満茂を登場させました。今後、しばらくは秀綱とかかわりをもつ人です。

イメージは、できる人なんだけど、普段の言動は田舎の会社か役場の総務部長のような感じで書いてます。


でも、今後はイケオジにしたいなあって思ってます。

 秀綱は、見上げていた。自身の背も、5尺7寸(約171センチ)と決して低くはない。

最上義光も6尺(約180センチ)で大柄だが、秀綱もそこまで大きいと思ったことはなかった。

 

 しかし、今日鮭延城を訪れた楯岡豊前守たておかぶぜんのかみ満茂みつしげは桁が違った。

身の丈6尺5寸(約195センチ)と言われていた。出迎えた秀綱も久々に見上げる程の巨漢であった。今は相手は馬上である。威圧も相当なものであった。

 

 満茂が来ている甲冑は藍脅あいおどしで、簡素なもののよく手入れされているのがわかる。そして、兜は不動明王の倶利伽羅剣を前立てとしている。

 不動明王は現世利益をもたらす仏である。明王信仰の厚い出羽三山の修験者に命じて、満茂自らが祈祷を行い、願掛けをした前立てである。何を願ったのか満茂は周囲に語らないが、その願いは羽州統一とも、最上家の奥羽統一であるとも噂されていた。

 

 その満茂率いる10騎ばかりが、鮭延城を訪れたのは、冬前であった。遠くの峰には既にうっすらと雪が積もっていた。

――満茂殿もそうだが、従う武者たちも精鋭だというのがわかる――

 黒備えで統一された10騎の武者には、行動に隙がなかった。


 さすがの最上家の武士たちと秀綱は感じていた。大宝寺家でも小野寺家でもこれほどの威厳を備えた武将は、多くはなかった。


「出迎え、ご苦労」

 低く威厳のある一言を発して、満茂は馬を降りた。従う10騎も満重に倣って下馬した。


「鮭延殿、今後は我が指揮下に入ることは聞いていよう。配下の者たちには、城を見分させたいので、誰かに案内を願いたい。また、儂は早速であるが、秀綱殿と内密に打ち合わせを行いたい。一室を借りて、人払いを願いたいのだが、宜しいか」

 ゆっくりと聞き取りやすい言葉で満茂は話す。秀綱は、承諾して二の丸に案内した。城内の見分の立ち合いは、佐藤式部に案内を命じた。

「志村光安殿も参られよ。三人で語りたい」

「承知仕りました」

 秀綱の傍らにいた光安も心得たとばかりに頷き、満茂の後に従う。光安はいつの間にか風呂敷包みを手にしていた。何か気になったが、問う暇はなかった。秀綱は、満茂たちを案内した。


――いきなりの密談とは、いかなる話であろうか――


 先の戦いで最上家に服属した秀綱たちの鮭延城であったが、今後は最上家の対小野寺義道の戦いの最前線になる。重要な城であり、本来は最上家から別の城主がやってきて、秀綱は副将となってもおかしくない。

 しかるに、鮭延城主となり続けて、かつての主筋の小野寺家との前線の指揮の一角を任されるのは異例であった。それだけで、義光が秀綱に信頼を置いているのが伺える。


――しかし、他の将はどうであろうか――

 秀綱を前線に配置していても裏切るのではないかという危惧を持つ者もいる


 光安からそんな話を聞かされても、秀綱は当然だと思った。そこに満茂から一団を率いて、鮭延城を視察したいという申し出あった。当然受け入れるべきなので、歓迎の意を伝え、使者に文を持たせた。


『明日、鮭延城を訪れたい』という文が、その二日後に届いた。満茂の城・楯岡城までは往復すれば馬で三日はかかる。それが異例の速さで文まで届いた。秀綱は困惑していた。


「だから、満茂殿が二日で往復できる距離にいたってことだよ」

 光安は何事もないように言った。だが、秀綱はそんな距離に満茂が内密に来ていたということが気にかかった。そのことを光安に言うと、光安は笑って応えた。

「そんなことで驚いていたら、この先さらに驚くよ。あの満茂様は、最上家の草の者(※忍者のこと)たちの束ね役でもあるから。何であんな目立つ人に草の者を任せるのかって家中では疑問に思われているけどね。あはははは」

「一団を率いているのにその知らせが俺の方に届いていないのが、怖いだろうが」

 秀綱も諜報を怠っていたわけではない。それなのに複数の者たちの潜入を読めなかったのは、今後致命傷になりかねない。その危惧を光安に伝えると、


「それは大丈夫。満茂殿の草の者は、そんじょそこらの者たちじゃ感知不可能だから」

 光安はあっけらかんと話す。

――それって、凄い優秀な者たちなのでは――


 秀綱は満茂のことを知りたいと思ったが、光安は

「事前に知ってしまうと面白くないから。まあ、会ってみてよ。面白いから」

といって、それ以上教えてくれなかった。


――だが、只者ではない。証拠に足音がほとんどしないではないか――

 板張りの廊下である。鈍重な者が歩くと、足音が響く。だからこそ、人払いできる一室のある二の丸に案内しているのだ。しかし、秀綱の背後に続く満茂の足音はしない。甲冑の音で気づかせないつもりなのだろうが、平服であれば気配すら消せるだろうと秀綱は思った。


「ここにお入りくだされ」

 秀綱が襖を開けた。満茂と光安が中に入ったのを見て、秀綱は襖を閉めた。


「光安」

「はっ」

 光安が風呂敷包みを広げた。中には、小汚い百姓が着る古着が入っていた。頷いた満茂は、やおら甲冑を脱ぎ始めた。

「秀綱殿も手伝って」

 光安に催促され、何かわからぬままに満茂が甲冑を脱ぐのを手伝った。満茂が甲冑を全て解き、古着を着ていった。細部にまで泥や埃に塗れていて、他の農民たちの服と同様に思えた。


「ああ、解放された。甲冑など着たくはないものじゃ。この冬を迎える時期なのに暑くてかなわん」

 先ほどまでの緊張感はどこへやら。満茂には、総大将の風格から、田舎の爺のように見えた。


「満茂殿は極度な汗かきなんだ。だから、甲冑を着ると、不快感が上昇して不機嫌になる。指示も端的になるし、話もしないくらいになっちゃう。だから、こうして人払いして、寛げる場を設けないといけないんだ。ひどいと暴れるよ」

「光安、秀綱殿に斯様なことを教えるな。されど、動いて汗をかくのは好きでな。農作業など最適ではないか。そこで、お忍びで領内の農民たちの手伝いをしていたら、慕われてしまってな。開墾の手伝いなどは力が要るからな。そんなこんなでいつのまにやら勝手にいろんな情報が入ってくるようになったのだ」


――ああ、はいはい。そういうことですか。民衆たちの持つ情報が勝手に入ってくるようになったのですね。勝手に俺がすごい優秀な忍びだと勘違いしていたのですね――


 俺の表情を見て、秀綱が笑いを堪えているのがわかる。


「されど、満茂殿。歩く際に足音がしなかったのは、何か体術でも心得ておられるのでしょうか」

「ああ、気づいたか、さすがじゃな。これは、泥田を歩く際に身に着けた。何せ深い泥濘に足を入れるのだ。真上に足を抜かねば、泥田では動けん。斯様に遅くては、田植えの際に百姓たちに怒られるのでな。いつの間にか身についてしまったのだよ。わっはっはっは」


 秀綱は頭を抱えた。仕方なく酒を勧めたが、満茂は

「すまぬ。儂は下戸でな。飲めぬ。茶でよいぞ」


――そのごつい見かけで下戸なんですか!!――

「調子狂っちゃうでしょ?」

 光安が秀綱に語り掛けた。

「言葉に出してもいいんだよ秀綱殿。満茂殿はそんなことで怒る度量の狭い人ではない」


――何だか、この家でやっていけるのか不安になってきたよ。俺は――

 満茂に茶を点てながら、秀綱は今後に若干ではない不安がよぎった。何事も君臣の間にあると思っていた礼儀や作法などが、最上家ではほとんどなかったからだ。

 そんな思いに満茂は気づきもしないように、茶碗を受け取り、静かに茶を飲んだ。作法には適っている。礼儀などは問題なく心得ているようだった。直垂を着る秀綱から、汚い農作業着の満茂に茶を点てるという格好を除いてはだったが。


「さて、秀綱殿。本題に入ろう。人払いしたのは、他でもない」


 上手そうに飲み干した満茂が、やおら雰囲気を変えて秀綱に向き直った。

小汚い作業着から汗と土のにおいが漂ってきた。

――本当に領内で農作業をしてきたようだな――

 秀綱は息を止めて、満茂に顔を向けた。そして、気付かれにように、満茂から少し距離をとった。光安は、仰ぐふりをして扇子で風を起こして、臭いを自身から秀綱の方に向けている。

 秀綱は、光安をキッと睨みつけた。

タイトルは、今後に向けての内容です。

いよいよ、次回は満茂が秀綱に依頼する密命です。

これを光安とともに取り組んでいく予定です。更新は、明日の夜になるかも?です。


期待していただければ嬉しいです。

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