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1話 私たちの英雄

「味方左翼は壊滅状態です!援軍を!」

「中央軍のクルス少将が討ち取られました!」

「ラーバン総大将、ご指示を!」

ここは魔族との戦争の最前線。

ラーバンはこの人族の軍の総大将を任された。

数々の戦で勝ち続け、36歳という史上最年少の若さで大将となった私でもこの戦いは厳しいものだ。

こちらの数は8万に対して魔族は6万。

数では勝っている、だがそれは大前提だ。

魔族は魔法技術と身体能力が人より桁違いに高い。

それに対して、人族は魔族と同等の魔法を扱えるものは少なく、魔族1体で人族10人と同等の力があると言われている。

つまり、現状打開するには60万もの兵が必要なのだ。

数では2万勝っていても、実際には52万分の戦力差があるということだ。

急に攻めてきた魔族に対して8万の兵力をかき集めただけでも我が国の中枢の有能さが垣間見える。

何より、この兵力差で5日間も耐えた私の手腕が素晴らしい。

神童の名は伊達ではなかったということだ。

ただ、魔族は軍とは言えない烏合の衆で、進行を止めるだけなら知略でなんとかなった。

しかし、最初は8万だった我が軍も今では1万もいない。

さすがにこれ以上は食い止めきれない。

この魔族たちを通したら一瞬で首都は壊滅する。

私たちの役目はできる限り時間を稼ぎ、兵力を少しでも増やす時間を与えることだ。


今、魔族たちは目と鼻の先にいる。

そろそろ私も腹をくくるしかない。

死ぬのは怖い。

だが国のため、兵士たちの家族のため、そして私の妻と一人息子を守るため奴らに一矢報いよう。

私は立ち上がり、待機している兵士たちの前に歩いていく。

「全員聞け!我々は現在、厳しい状況に置かれている!しかし!ここから逃げ出すことは許されない!国のため家族のため、我々は立ち向かわなければならない!共に死力を尽くそう。」

私が兵士たちを鼓舞する。

「オオオーー!」

兵士たちもそれに答えてくれる。

私は先頭で軍を率いて戦場へ行く。

戦場へいち早く着くと魔族との戦闘に苦戦している兵士たちのところに行きその魔族を1撃で斬り伏せた。

「皆のもの安心しろ!私が全て斬り伏せる!」

戦闘中の兵士たちは一瞬唖然としたが一気に士気が高まった。

私はすぐに魔族と戦闘する。

1体、また1体と斬っていく。

正面に夢中になりすぎて背後から魔族に気づかなかった。

防御が間に合わないと思ったとき、その魔族は軽く吹き飛ばされた。

「ラーバン大将!援護します!」

「ジャベ大佐!後ろは頼む!」

「一緒に生きて帰りましょう!」

ジャベ大佐は直接的な関わりはないが稀に会議で顔を合わせる。

その時には積極的に私に話しかけてくれていた。

私のことをとても尊敬しているらしい。

彼に背中は任せ、私は正面の敵に集中する。

私が魔族を斬っているとき、ジャベ大佐は魔族の攻撃を凌ぎながら魔族を2体倒していた。

そして30体ほど魔族を斬り伏せたとき、私は強烈な悪寒を感じた。

只者ではない威圧感を出しながら、一体の魔族が私の前に現れた。

奴が現れた瞬間、周りの雑魚魔族達が大人しくなった。

今までの魔族とは格が違うのだと体で理解した。

お互いがお互いの様子を見ていて膠着状態が続いた。

先に仕掛けたのは魔族だ。

魔族は自分の拳を上げて軽く振り下ろした。

私はすぐに避けた。

奴が腕を振るだけでかなりの風が起こった。

周りの魔族は吹き飛ばされた。

ジャベ大佐はその場に踏ん張るだけで精一杯のようだ。

私は攻撃を避けたあとすぐに反撃しようと自分の剣でその魔族を切ろうとしたとき、魔族はさっき振り下ろした腕を私の方向に振ってきた。

その速度は最初の攻撃よりもかなり速く、私は目で追うのがやっとだった。

私は20メートルほど吹き飛ばされ、私の下敷きとなった魔族はミンチになっていた。

私は生きてはいるが全身が痛く、立つのがやっとの状態だ。

あの魔族はすぐに私の目の前にやってきてニヤリと笑って拳を振り上げた。

「うわああー!」

ジャベ大佐が体勢を崩しながら魔族に斬り掛る。

魔族はその拳をジャベ大佐に向かって振り下ろす。


肉が潰れる音がした。まるでハンバーグをこねてるときのような音。その後、ジャベ大佐はミンチになった。人の形、生き物の形をしていない。

あまり関わりはなかったが私に親しくしてくれ、共にこの戦場を戦ってくれた友が無様に肉片となってしまった。

私が感じたのは憎悪ではなく無力感だった。

神童ともてはやされた私でも優秀な部下1人守れない。

このまま死のう、そう思うと魔族は不快そうな顔をしてもう一度拳を振り上げた。

今度は今まで以上に力を込めて拳を握っている。

これで死ねる。

そう思ったとき、その魔族は消えていた。

「ラーバン大将、遅れてすまない。重症のところ申し訳ないがこの薬を飲んだ後、兵士たちを逃がしてくれ」

突如現れたその男は薬を渡してきた。

さっきの魔族はこの人が倒したのだろうか。

めまいがしてよく見る事が出来ない。

とりあえずもらった薬を飲むとみるみる傷が治った。ということはないが体が楽になり、ある程度動けるようになった。

めまいも収まってきてその男を見ると知っている体だった。

彼は2メートルもあり、筋骨隆々で巨人のような肉体をしていて見た目は20代くらいの青年のように見える。

そして伝説の勇者が着てそうな煌びやかで黄金に輝くゴツい鎧を着て魔物と相対していた。

「テイラー特別中将!」

私ですらその姿を見ることは数回しかない、彼は生きる伝説と言われている。圧倒的な魔族の攻勢を防げているのはほとんど彼のおかげだ。

「苗字じゃなくて、名前で呼んでもらっていいかな?」

「はい!アリステア特別中将!」

「じゃあ、元気になったし早く避難してくれ」

「はい!」

彼を見ると今までの疲労が嘘のように晴れた。

体から力が湧き上がる。

噂では将校のような指揮官を嫌っていると聞いていたがそうでもないのかもしれない。

アリステア特別中将から100メートルほど離れた後、元いた場所を見てみると彼がいなくなっていた。

そして周りの魔族は全て肉塊となっていた。



「特別中将が来てくれた!邪魔にならないよう引くぞ!」

私は近くの戦場に行き、兵士たちに撤退するよう伝えた。

「特別中将!?」

「あの?」

「そうだ!あの特別中将だ!」

私がアリステア特別中将が来たことを伝えていくと兵士たちはみるみる戦意を取り戻していった。

私が兵士たちを逃がしている最中、魔族と距離を取った瞬間にアリステア特別中将が来て一瞬で近くの魔族を蹴散らし、すぐに何処かに行ってしまった。

アリステア特別中将の援護により私たちは楽に戦線を離脱できた。

安全地帯の丘から戦場を見渡すと魔族の軍勢はすでに半分は消えていた。

戦闘しているところでは土煙が舞い、それと同時に魔族が数百体舞っている。

稀に5キロほど離れたここにも振動が来る。

私達が戦場を眺めて10分ほど経ったとき土煙が舞わなくなった。

そして瞬きした瞬間、アリステア特別中将が目の前に現れた。

「終わった。全員休んだ後、国へ帰れ。」

そういった後テントの方へ歩いていった。

その途中私に声をかけてきた。

「ラーバン総大将、ついてこい。」

私は威圧感を感じ、返事もできず黙ってついて行った。

テントに着いた後、特別中将が椅子に座って2つのコップに酒を入れた。

私が緊張感を持って、特別中将を見つめていると彼は首を傾げ、不思議そうな顔で見つめてきた。

「何してる、ラーバン大将も座らないか。」

特別中将の考えはわからないが、言われた通り椅子に座った。

「まずは勝利おめでとう」

「全部あなたのおかげです。」

「敬語でなくていい。しかし、私が来るまで堪えることができたのはラーバン大将の手腕のおかげだ。ただ、都市で問題があって、来るのが遅れてしまった。私がもっと早くいていれば被害を減らせていたのに、すまない。」

アリステア特別中将は伝説に似合わない情けない顔で謝ってきた。

私はそんな態度に安心して緊張が解けた。

「それは違います。私たちはあなたがいなくても国を守らなければならない。私達は死ぬ気で戦っていました、その時にあなたが助けに来てくれただけです。私達はあなたに感謝しています。」

アリステア特別中将は顔を上げて安堵した。

「そう行ってもらえると嬉しいよ。私はあなたと友達になりたいからタメ口だと嬉しいな。私のことはアリステアでいい。」

深刻な話から唐突に友達になりたいと言われ私は唖然とした。

友達になるのは歓迎だが、なぜわざわざそう言ってくるのだろうかという疑問が浮かんだ。

「構いませんがなぜですか?」

声に出てしまった。

「タメ口」

不快にさせるかとと思ったがタメ口でないことを指摘されてしまった。

私は言い直してまた聞いた。

「なんで?」

「私はね、指揮官が嫌いなんだ。現場で兵士たちが命をかけているのに安全なところで指示しているやつらが嫌いなんだ。でも君は違った。私が都市にいるとき、君が子供たちと遊んでいる。いや、遊ばれているかな?とにかく子どもたちと仲良くしていた。そして今回の戦闘。私はとても胸が打たれた!軍の上層部にもこんな人がいるなんて。だからあなたと友達になりたいんだ。」

どうやら指揮官を嫌いという噂は本当らしい。

しかし、恥ずかしいところを見られていた。

「もちろん良いですよ。」

「それは良かった。今日は飲もう。ラーバン殿。」

私達は兵士たちに酒を大量に出し、私達は2人で酒を飲んだ。

酒を酌み交わしながら私たちはお互いのことを話した。

私が最年少で大将になったせいで面倒が多いとか、アリステア特別中将はどうやってここまで強くなったとか。

話していたらいつの間にか寝てしまっていた。

私が起きた時にはアリステア特別中将はどこかへ行ってしまっていた。

昨日の片付けをしようと机を見るとすでにきれいになっていた。

机の上には置き手紙が残されていた。

(困ったらここに来い)

そう書いてある下に住所が書いてあった。


私は兵士たちを休ませ、彼らの調子を見ながら国へ帰った。

帰った後は報奨や追悼式とかを色々した後、私は家族の待つ家へ帰った。

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