プラクティスステージボス戦
お読みいただきありがとうございます。
旧版では長すぎたと思ったので分割しました。
ステージクリアまでです。
「はぁ~!」
B氏が構えていた銃を下し、大きく息を吐いた。
「ありがとうござました。助かりました」
B氏がわたしに礼を言った。
チャラいキャラかと思っていたが、意外と素直で礼儀正しい。
「最後の一発はタイミングもバッチリでしたね。その要領です。」
声をかけたのは、わたしの後ろにいたX氏だった。
彼はわたしの後ろで、わたしのサポートが間に合わなかったときのために備えてくれていたようだ。
「あなたは教えるのが上手ですね。サポートもうまい」
X氏は笑いながらわたしに言った。
「いやいや、あなたのアドバイスをそのまま伝えただけですよ。それにパーティープレイな以上サポートは当然でしょう。全員でクリアしたいですからね」
わたしは照れながら言った。
「それが大事です。チームは連携してこそ戦略が広がります」
X氏は納得したように言った。
戦略?自衛隊の方なのかな?
X氏は、進行方向に向きなおると、先を進んだ。
間もなく、右へ曲がる角が見えてきた。
画面に、右向きの矢印が出る。
X氏は右側の壁に背をつけて、曲がり角の先を伺う。
「この先に、プラクティスステージのボスにあたるモンスターがいます。取り巻きもいるので今までより数が多いです。でもそいつを倒すと、ステージクリアですよ。」
X氏はそう言うと、角を曲がった。
わたしとA氏B氏もそれに続いて角を曲がった。
少し歩くと、レーダーに4つの赤い点と、他の4つより少し大きめの赤い点が一つ、現れた。
視界にも、モンスターらしき影が小さく見える。
近づくと、それらのグラフィックが徐々に大きくなってくる。
画面のエネミーの領域に、まずダークウルフが表示された。
こいつがレーダーの4つの赤い点だ。
しかし、目の前にはダークウルフだけではなく、その後ろに、身長3Mくらいの巨人がいる。
エネミーの表示が切り替わった。
二足歩行の人型で、額に角が一本生えているグラフィックが表示された。
名前の欄に、OGREと出た。
オーガだ。
こいつが大きい点か。
ボスと言ってもプラクティスステージだから、せいぜいオークやスケルトンぐらいかと思っていたが、めっちゃ強そうだ。
オークやスケルトンとは戦っていないので、それらが弱いのかどうかもわからないが。
オーガのグラフィックは、日本の鬼のイメージに近い。
体が大きく、額に30cmくらいの反りを持った角が一本、生えている。
体つきは超マッチョだ。
口には牙も見える。
髪はボサボサで、首が隠れるくらいか。
固そうな髪質だ。
体表は薄い緑色をしている。
上半身は裸で、ゴブリンと同様に腰蓑のようなものを下半身に纏っている。
「ダークウルフはさっきと同じですが、オーガは四人で40発当てないと倒せません。しかも、腕で防御してるときは弾が通りませんから、腕を下しているときに攻撃しましょう!接近速度が速いので距離を取って、近づいてきたら逃げてください!」
なにそれ、強すぎる。
ほんとにプラクティスステージ?
とにかく、まずは周囲のダークウルフを何とかしないと。
ダークウルフの行動パターンはX氏が言うようにさっきと同じだ。
ジグザクに移動しながら近づいてくる。
オーガが気になってしようがないが、「落ち着け!」と自分に言い聞かせながら、リズムを取る。
初弾を外した。
やばい、けっこう接近された。
もう一度リズムを合わせてタイミングを計る。
移動先を見極めて、三連射する。
よし当たった!
ダークウルフが後退する。
三歩ほど接近されたが、二歩分後退した。
三歩進んで二歩下がる、だ。
などと下らないことを言ってる場合じゃない。
そもそもネタが古すぎるだろう。
と心の中で自己ツッコミしながらさっきと同じ位置に三連射する。
当たった。
今度は下がる二歩分後ろの位置に、先に三連射する。
後退したダークウルフに命中した。
当然だが、X氏はすでに受け持ちのダークウルフを倒している。
今回わたしは、自分の受け持ちのダークウルフを倒したが、後ろにオーガが控えているので、A氏B氏のサポートに回れない、と焦った。
この隙にオーガに接近されたら、たまらないからだ。
しかし、オーガは初期の出現位置から、動いていなかった。
その場で雄叫びを上げたり腕を振り回しているが、移動はしていない。
なるほど、ここはさすがにプラクティスステージということか。
取り巻きのダークウルフが全滅するまで動かないのだろう。
たしかに、ダークウルフとオーガの同時攻撃は、初心者にはキツイ。
A氏も、今回はわたし同様にオーガを意識しすぎたのだろうか、ダークウルフの接近を許し、ダメージを受けた。
助けに入ろうとしたが、その直後にダークウルフが飛び下がった位置に、A氏自身が先読みで撃つことができて、それが命中し、ダークウルフは消滅した。
B氏は、今回も接近を許している。
だが、あと一歩のところまで接近されたところで命中し、先ほどと同様、再度ジグザグ移動を始めたところを仕留めた。
「一回攻撃されちゃいました。」
A氏が報告のように告げた。
「俺も二回目受けちゃいました。」
B氏もちょっと恥ずかしそうにそう告げる。
わたしの見ていなかった時に、B氏も二回目のダメージを受けたとのことだ。
「ライフゲージは?」
X氏が聞く。
「95%ですね」
とA氏。
「俺は90%です」
とB氏。
なるほど、ダークウルフの攻撃を受けると5%のダメージか。
しかし、こいつから受けるダメージは、そんなものでは済まなさそうだ。
オーガの雄叫びが一層激しくなり、動きが変わった。
取り巻きのダークウルフがいなくなったことで、移動制限解除になったようだ。
数歩前進した。
まだ腕で防御していない。
X氏がその隙に連射する。
たしか40発当てないと倒せないんだっけ。
なんだか気が遠くなりそうな数字だ。
わたしも続いてオーガに向けて引き金を引く。
だがわたしの弾が当たる前に、オーガは腕を上げて防御してしまった。
ヒットしたのは、最初のX氏の数発のみだろう。
突然、右端に位置取りしていたX氏が横移動してこちらに小走りで来た。
「え?なに?」
一瞬、なにが起きたかと思ったら、オーガがたった三歩で、さっきまでX氏がいた位置に突っ込んできた。
体当たりだ。
なんだ?このスピードは。
しかしX氏はすでに移動していたので、オーガの攻撃は空振りに終わった。
攻撃をし終わったオーガは、また元の位置に戻る。
元に戻るのか。丁寧な奴だ。
「オーガが接近する直前に、体当たりされる対象者の画面に警告が出ます。出たらすぐに移動してください。オーガが動き始めてからでは、間に合わない可能性があります。」
X氏が叫んだ。
画面内で教えてくれるのか。それは親切な設計だ。
元の位置に戻ったオーガは、防御もせずに雄叫びを上げている。
そこを四人で集中攻撃した。
オーガの体力が70%を切った。
また防御態勢に入る。
オーガがこちらを見た。
やば、目が合った気がする。嬉しくない。
突然わたしの画面に赤い文字で「警告!敵接近!!」と出て、スピーカーから「回避してください」と声がした。
これが警告か。逆に焦るな。
もちろん突然接近されると、もっと焦るんだろうが、予備知識が無かったら、「回避してください」と言われたところで、どう回避したらいいのかパニクりそうだ。
わたしは先程のX氏の動きを参考に、右側へ移動した。
もちろん、先ほどこちらに移動したX氏が、すでに元の位置へ戻っていることを確認していたからだ。
オーガの攻撃は、今度も空振りした。
攻撃を空振りして怒っているオーガに、X氏は攻撃を続けた。
あ、この時も攻撃は通るのか。
たしかに防御はしてないな。
と感心する前に、わたしも一緒に攻撃する。
オーガは元の位置へもどった。
戻るのには五歩かかっていた。
また雄叫びを上げているので、その隙に全員で攻撃する。
お!オーガの体力が50%を切ったぞ。
ゲージの色が青から緑、そして黄緑になった。
オーガが防御態勢に入った。
もうパターンがわかってきた。
「次、そちら行きますよ!」
わたしはA氏に叫んだ。
「は、はい!」
A氏は緊張しているようだ。
それでもすぐに左に移動した。
しかし、移動先を確認していなかった。
A氏が思っていた以上に、B氏との距離が近かったようだ。
二歩移動したところでB氏とぶつかってしまった。
「あたー!」
二人の悲鳴のような声が、同時に聞こえた。
A氏は回避に必要な距離を移動できなかった。
オーガの体当たりが直撃する。
現実なら、A氏の体は吹き飛ばされていただろう。
「くっそー!」
タイミングは回避できていたのに、ダメージを受けてしまったA氏は悔しがった。
その間にも、X氏とわたしはオーガに銃撃を浴びせ続けた。
元の位置に戻ったオーガに、さらに銃撃を続ける。
オーガの体力が30%になり、ゲージがオレンジに変わった。
防御態勢を取り、力を溜めるオーガ。
「よし!来るぞ」
A氏がB氏に声をかける。
「警告出た!」
B氏が叫ぶと、A氏がB氏の腕を引っ張り、それに合わせてB氏がA氏の方にジャンプした。
いや、ジャンプしたというより、A氏に飛びついた、という方が妥当だろう。
B氏に飛びつかれたA氏は、予想外の動きに姿勢を崩し、二人で抱き合って倒れてしまった。
だがオーガは空振りした。
回避自体は成功だ。
二人は転んだまま爆笑している。
床がカーペット状で良かったと思う。
「お前、抱きつくんじゃねーよ!」
とA氏が笑いながら、B氏を押し戻そうとしているがB氏は抱きついたままだ。
わたしもX氏もつられて笑ってしまった。
だが、X氏は笑いながらも攻撃の手を緩めない。
すごい徹底しているな、この人。
オーガの体力が10%を切った。
やがてオーガが防御態勢に入り、X氏がもう一度回避でこちらに移動してきた。
空振りするオーガに、4人で容赦なく集中砲火を浴びせる。
ついにオーガの体力が0%になった。
オーガはもがきながら倒れ、点滅して消えた。
「よっしゃー!」
A氏とB氏、そしてわたしも一緒に叫んだ。
X氏だけは、静かに微笑んでいる。
画面に「STAGE CLEAR!」と出た。
さらに「ステージクリアいたしましたので、そのままEXITへお進みください」というメッセージが現れ、スピーカーからも同じ内容がアナウンスされた。
そして直進方向に矢印が現れ、その先に「EXIT」という電光掲示がついた出口が見えた。
本ステージなら、ステージをクリアすると、そのまま次のレベルに上がって続行のルートに入り、GAME OVERの場合(プレイヤーのダメージが0%になった場合)は退出ルートへ、と二手に分かれるが、プラクティスステージは、退出一択だ。
EXITをくぐると、瓦礫の通路は消え、無機的なコンクリートの通路が現れた。
これでプラクティスステージクリア、そしてプレイ終了だ。
お読みいただいてありがとうございます。
一旦プラクティスステージは終了しました。
このあとX氏へのインタビューとなります。




