チラシ
20XX年
ある日、突如として地球上の不特定の場所に、空間の歪みが発生した。
それは、何もない空中に、ガラスの器に入れた水を通して向こう側を見る様な歪み、というか揺れのようなものが見える感じだった。ゆらゆらと空気が揺れているようにも見えるが、触れようとしても何もなく、ただ最初、人の拳大だったそれは、少しずつ大きくなっているようだった。
歪みの発生は、発見された物は公的機関に報告され、各国で研究が始まったが、それは人類の干渉を一切受け付けず、調査もままならない状態だった。
誰も気づかないまま人知れず大きくなっている物もどこかにあるであろうと推測された。
調査研究をしたいが何も出来ず、手をこまねいたまま、もしかしてこれは毒にも薬にもならないものでは?と誰もが思い始めた頃、そいつは牙をむいた。
それは、歪みが大きくなり、数メートルの大きさになったころだった。
歪みの向こう側の空間から、地球史上例を見ない異形の物体が現れたのだ。
それらは生物だと思われたが、人類の嫌悪感というものを形にした様な姿の生物達だった。
人のような形をしている物でも、皮膚の色や質感がとても生物とは思えない様なものであったり、四足動物の様な姿だが、やはり地球上に存在するどの動物よりも醜悪な姿をしていたり、あるいはそれは昆虫に酷似していたり、さらには不定形に形を変えるものまでいた。
所謂、怪物である。
怪物と文字にすると、安っぽいSF漫画や映画のように聞こえるかもしれないが、実際に現れるそれらは、人類にとって恐怖の対象でしかなかった。
彼らのパワーは、地球上の大型動物でさえ凌ぐ桁違いなもので、また、その外皮も生物の皮膚とは思えないほどに強靭だった。
そして彼らは、その力の限りを使い、地球上の生物に対して殺戮を開始した。
人類は彼らを排除しようとしたが、大型動物に致命傷を与えることができる武器でも、モンスターに対しては致命傷を与えることができなかった。
彼らを倒すには、軍隊並の威力を持つ「兵器」と呼ばれる物を使用しなければならなかったのだ。
政府は、歪みを軍に管理させようとしたが、不特定な場所に現れるそれらは、あまりに数が多すぎ、次々と新たに発生する歪みに小回りの効かない軍隊では対応しきれず人類の被害は拡大した。
一般人にはモンスターへの対応の術はなく、歪みに近づかない、モンスターが現れたら逃げて軍を呼ぶ、という対処しかなかった。
しかし、軍のとある研究者の発見で、事態は急変する。
軍隊が倒したモンスターの死体から回収される物質を使用すると、モンスターに大きなダメージを与えられることが発見されたのだ。
モンスターの骨や爪などの素材を取り込んで作成した弾丸で攻撃すると、一般人でもモンスターに致命傷を与えることができるのだ。
当初、軍がその情報を独占していたが、増え続ける歪みと小回りの利かない軍という組織では対応に限界があることから、その特性の情報を公開、その物質を使用しての武器の開発、製造を民間に委託、さらには、それによって開発された武器を民間人でも使用できるようにした。
基本対応は民間でやってね、ということだ。
特定のトレーニングを受け、モンスターを倒す武器の使用許可を取得した人々は、国の要請でモンスターが現れた地点に赴き、それぞれにモンスターを狩る活動を行った。
やがて彼らはハンターと呼ばれるようになった。
当初、ハンターたちは個々に活動していたが、そのうちハンター同士で情報共有や支援、救援、討伐要請の受付などを行う組合組織を作り、それは「ハンターギルド」と名付けられた。
ハンターが倒したモンスターの死体は、ハンター武器の素材となるので、ハンターギルドがハンターから買い取ることになった。
当初は、副業としてハンターを行っていた者も、数をこなせば一般会社員よりも高収入を得られることから、本業としてハンターになる者も増えていった。
モンスターの返り討ちにあう可能性も高く、死と隣り合わせの職業だが、腕を上げていけば狩れる獲物も増えていき、一流ハンターの中には一般的な会社員の数倍の収入を得る者もいた。
そんな中、歪みが多数集中する地域で、今までよりも圧倒的に多いモンスターの出現が報告された。
それにより今回、ハンターギルドより、モンスターの巣窟となっているポイントの情報が届き、出動要請が来た。
あなたはハンターとなり、ハンターギルドから指示のあったポイントで、モンスターハントを行うことになる。
これを読んだあなたは、昨今のはやりのライトノベルの設定かと思われたのではないだろうか?
わたしも、これが本屋のポップや、電子書籍サイトのおすすめ画面で見かけたものなら、「またか」と思っただろう。
しかし、この文章は、郵便受けに入っていた一枚のチラシに書かれていたのだ。
正確には、チラシの裏面になる。
(もう少し詳しく言うと、今回のチラシと、その後の続報チラシ、さらにはその後公開されたWEBの情報も併せてわたしがまとめたものになる)
表面には、「体感アトラクション!ハンターギルド〇月〇日オープン!!」というトップの見出しと、モンスターとそれに向かって銃を構える人間のイラスト。そして、簡単な場所のMAPが描かれていた。
わたしの住む兵庫県姫路市は、県内では比較的上位に位置する大きさの都市だが、政令指定都市ではなく、まあ小さくはないが大都市でもない、といった街だ。(市の関係者の方ごめんなさい。個人の意見です)
数年前に、中心部から少し離れたところ(と言っても車で10分以内、徒歩でも行けなくはない)にあった大型ショッピングセンターが閉鎖し、数か月前から工事が始まっていたので、その後にはどんなテナントが入るだろう、と思っていたところだ。
体感アトラクションとはどんな施設なのだろう。
チラシをもう少し詳細にみると、「世界初!VRゴーグルを使用しMRで施設内を自由に歩きながらモンスターをシューティング!」と書いてある。
MRといえばあれだ。
たしかVRゴーグルを使って、画面上で実際の周囲の風景の中にCGのキャラクターなどを表示させるやつだっけ?
ん?それって世界初か?
VRゲームでMRを使って家の中で銃を撃ちまくるゲームってあったような気がするが。
VRゴーグルは持ってないので詳しくは知らないが、ゲーム機自体は持っているし、PCでもゲームはするので、どこかでゲームの広告を見た気がする。
ふむ、なるほど、施設の中を歩き回ってシューティング、というところが世界初なのかな?
たしかにこれは家庭用ゲーム機やPCではできない要素だ。だとすると世界初!も嘘ではないかもしれない。
ちょっと興味が出てきた。
とはいえ、オープンはまだ先だ。
ここは期待を込めて、オープンを待つことにしよう。
お読みいただきありがとうございます。
VRゲームをプレイしていて、「こんな施設があったら面白いな」と想像しているうちに、自分の考えたアトラクションをプレイしているつもりでレポート風に書いたら面白いかも、と思うようになりました。
過去に趣味で小説を書いていたのは本作の主人公と同じで、投稿歴がないのも同じです。
主人公と同じで兵庫県姫路市住み。
生まれ落ちて以来姫路以外に住んだことはなく、心から姫路を愛する姫路市民です。
施設の場所は、実在の場所をイメージしています。
本作中のMRアトラクション的なものは、作中では「世界初」としていますが、本当に世界初かどうかは確認していませんので、もしも既にあったらごめんなさい。
内容の特性上、ストーリー的な完結というものは存在しません。
各ステージを何パターンかのプレイをして終わり、ということになるかと思います。