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スキル使い放題プラン!? ~俺だけ他の冒険者と繋がってスキルをシェアして最強無双~

作者: 白澤

 剣と魔法。ダンジョンとモンスター。


 神々から与えられた“ステータス”と“スキル”を駆使し、富と名声、そして人々の平和のために戦う冒険者たち。

 それが、この世界の当たり前の光景だ。


 冒険者として大成するには、まず己の“レベル”を上げることが基本だ。

 魔物を倒し、依頼をこなすことで経験値を得てレベルアップする。


 そして、レベルアップごとに得られるスキルポイントを、誰もが等しく与えられる“スキルツリー”に振り分け、計画的に能力を伸ばしていく。

 剣士は剣技の道を、魔法使いは魔道の深淵を目指し、レベルを上げて強力なスキルを解放していく。


 それが、この世界の常識。成功への唯一の道とされていた。


 ……俺、ユウトを除いては。


 十五歳になり、冒険者ギルドの門を叩いたあの日。

 俺も他の新人と同じく、初期レベルは1。ステータスも平凡そのものだった。


 同期の連中が期待と不安に胸を膨らませ、自身のステータス画面に表示されるスキルに一喜一憂する中、俺の視界に映し出されたのは、あまりにも異質な光景だった。


 枝分かれしていく樹木の形ではない。


 それは、まるで夜空に輝く無数の星々。

 点在する光の点が、複雑な光の線で結びつき、どこまでも相互に繋がり合って広がっていく――そう、“ネットワーク”と呼ぶしかない、巨大な光の網だったのだ。


「……は? なんだ、これ……スキルツリーじゃ、ない……?」


 呆然と呟く俺の声は、周りの喧騒にかき消された。


 スキルポイントをどこに振ればいいのか?

 そもそも、スキルポイントを得られるのかすら分からない。

 この光の点は何を表しているのか? これは本当に“スキル”に関係するものなのか?


 疑問ばかりが頭を埋め尽くし、期待は一瞬で戸惑いと不安に変わった。


 他の新人たちが、自分の初期スキルを確認し、レベルアップしてどのスキルを取るか計画に胸を躍らせる中、俺はただ一人、レベル1のまま、目の前に広がる理解不能な光のネットワークを見つめるしかなかった。


 俺の冒険者としての道は、他の誰とも違う、未知のシステムと共に始まる。


 その“スキルネットワーク”と呼ばれるものが、後に俺をこの世界の常識から逸脱した、唯一無二の存在へと押し上げることになるなんて、この時の俺は知る由もなかった。


 ただ、漠然とした孤独感と、レベルアップも意味がないかもしれないという焦りだけを胸に抱えて。


 ――――


 冒険者になって一ヶ月。

 俺、ユウトの現実は、はっきり言って底辺だった。レベルはようやく3になったが、スキルがないため戦闘能力は皆無に等しい。


 ギルドの雑用係。街の周りの薬草採取。

 たまに入る戦闘依頼も、レベル1~2程度の弱いゴブリン退治がせいぜい。それも、もっぱら後方支援か荷物持ち。


 理由は単純明快。俺には、まともな“スキル”がないからだ。


 同期の連中は、簡単な依頼でも着実に経験値を稼いでレベルを上げ、スキルツリーの枝を伸ばしている。


「レベル5になったぞ!【斬撃強化Lv.2】取った!」


「見て見て! レベル6で【ヒール】覚えたの!」


 なんて報告をし合っている。

 その輪に、俺は入れない。レベルだけ上がっても、スキルがなければ意味がないのだ。


 ステータス画面を開けば、表示されるのは相変わらずあの奇妙な“スキルネットワーク”。

 基本的な身体能力はレベル相応に上がっているものの、戦闘で役立つスキルがなければ、前線に出られるわけがない。


「はぁ……今日も薬草採取か。レベル3じゃ、まだこんな依頼しかないのか……」


 ギルドの掲示板前で、溜息混じりに依頼票を眺める。

 もっとこう、経験値の高い依頼を受けて、早くレベルを上げたい。そして、このネットワークの謎を解き明かしたい。


「ユウト! ちょうどよかった! ちょっと手伝ってくれない?」


 背後から、弾むような明るい声。

 振り返ると、そこには快活な笑顔を浮かべた魔法使いの少女、リナが立っていた。

 肩までの赤毛をポニーテールにして、魔法使いのローブを身にまとっている。


 彼女は俺と同期ながら、すでにレベル7に達し、初級火魔法【ファイアボール】を習得している期待の新人だ。


「リナか。どうしたんだ? レベル3の俺に手伝えることなんて……」


「もう、卑屈にならない! ゴブリンの巣穴調査の依頼なんだけど、思ったより数が多くて! レベル5前後のゴブリンもいるみたいなの。後衛がもう一人、手が空いてると助かるなって!」


「俺でいいのか? 足手まといになるぞ、きっと。レベル差もあるし」


 スキルがない俺を誘うなんて、物好きにもほどがある。レベル差も大きい。


「いいのいいの! いざとなったら私が守るから! それにユウト、変なところで勘が良いっていうか、索敵っぽいこと得意でしょ? あれ、結構助かるんだよね!」


「索敵スキルなんて持ってないけどな……」


「細かいことは気にしない! さ、行こ! 経験値も美味しいよ!」


 有無を言わさぬリナの勢いと、「経験値」という言葉に釣られ、俺は彼女のパーティーに臨時で参加することになった。


 メンバーは、屈強な体格のリーダー兼盾役、ゴードンさん(レベル12)。

 身軽そうな斥候兼短剣使いのメアリーさん(レベル10)。

 そして魔法使いのリナ(レベル7)と、低レベル雑用係の俺(レベル3)。

 レベル差が歴然としていて、ますます心許ない。


 ゴブリンの巣穴があるという森の奥へ進む。

 道中、先行するメアリーさんの後方で、俺は意識を集中して周囲の気配を探る。


 特別なスキルはないはずなのに、なぜか俺は人や魔物の気配を漠然とだが感じ取ることが得意だった。

 これも、あの“スキルネットワーク”の影響なのだろうか? 理由は分からないが、役に立つならそれでいい。


「……よし、ここだ。気配は……結構いるな。レベル5クラスも混じってる」


 メアリーさんの囁きと共に、一行は岩陰に隠れた巣穴の入り口に到着した。

 中は薄暗く、湿った土と、獣のような臭いが混じった空気が漂ってくる。


「突入する! ユウトは後方で状況を見て、危なそうな味方がいたら声をかけろ! リナ、詠唱準備!」


 ゴードンさんの号令と共に、俺たちは巣穴へと足を踏み入れた。


「ギギッ!」

「グギャアア!」


 奥から、汚らしい緑色の肌をしたゴブリンたちが、棍棒や錆びた剣を手に奇声を上げて飛び出してくる。

 数は……6、7匹! レベルは3~5といったところか。


「来たぞ! 前衛、頼む!」


 ゴードンさんが大盾を構え、ゴブリンの攻撃を受け止める。レベル12の彼にとっては、この程度のゴブリンは雑魚だろう。

 メアリーさんもレベル10の実力で、短剣を逆手に持ち、素早い動きでゴブリンの間をすり抜け、急所を的確に突いていく。


「――燃え盛る炎よ、敵を穿て!【ファイアボール】!」


 リナの手のひらから放たれた灼熱の火球が、レベル5のゴブリンの一匹に直撃し、派手な音と共に吹き飛ばす。強い! さすがは期待の新人だ。


 順調に数を減らしていくかに見えた、その時だった。


 巣穴のさらに奥から、先ほどよりも多くのゴブリンが、まるで湧き出るように現れたのだ。

 その中には、一回り体が大きく、明らかに他のゴブリンとは違う威圧感を放つリーダー格らしき個体もいる。

 レベルは……おそらく15以上!?


「くっ、新手かっ! しかも、リーダー格まで! レベルが高いぞ!」


 ゴードンさんがリーダー格のゴブリンが振り下ろす巨大な棍棒を受け止めきれず、体勢を大きく崩される。


「ゴードンさん!」


 メアリーさんも複数のゴブリンに囲まれ、捌ききれていない。

 リナは次の魔法の詠唱に入っているが、間に合うか……?


 まずい! このままじゃ前衛が崩れる! 一瞬でパーティーが壊滅するぞ!


 俺にできることは……?

 腰のショートソードを抜くが、レベル3の俺では、レベル15以上のゴブリンリーダーには掠り傷一つつけられないだろう。

 防戦一方で、何の役にも立てない! 何か、何か手はないのか!? スキルの一つでもあれば……!


 焦燥感が全身を駆け巡る。

 その瞬間、俺の視界の端で、リナが【ファイアボール】の詠唱を終え、炎の力をその手に収束させているのが見えた。


 ――ピキンッ!


 まるで何かのスイッチが入ったかのように、俺の頭の中に、あの“スキルネットワーク”が強制的に展開された。


 無数の光点が複雑な線で結ばれた、広大なネットワーク。

 その中に、ひときわ強く輝く点が一つ。それは……リナだ! 間違いない!

 そして、そのリナを示す光点から、確かな光の線が伸びて、俺の光点へと接続されている……!?


『【ファイアボール】――』


 まるで囁きかけるように、そのスキル名と、炎を操る感覚、魔力の流れ、詠唱の言葉までもが、情報として俺の頭の中に流れ込んできた。


『――使える?』


 冗談じゃない。そんな馬鹿な話があるか。

 スキルはレベルを上げて自分で習得するものだ。他人のスキルが使えるなんて、聞いたこともない。


 でも、この感覚はなんだ?

 まるで、最初から知っていたかのように、【ファイアボール】の使い方が理解できる。


 ゴードンさんがリーダー格の追撃を受け、地面に膝をついた。

 メアリーさんの悲鳴が聞こえる。リナの次の詠唱はまだ終わらない。


 もう、迷っている暇はない! できるかできないかじゃない、やるしかないんだ!


 俺は咄嗟に、ゴードンさんに止めの一撃を加えようとしているリーダー格のゴブリンに、震える右手を向けた。

 イメージするのは、さっきリナが放ったあの炎の球。

 頭の中に流れ込んできた感覚を頼りに、レベル3の俺のけして多くない魔力を練り上げ、言葉を紡ぐ。


「――【ファイアボール】!」


 自分でも信じられなかった。

 俺の右手のひらから、リナのものよりは少し小さいが、しかし紛れもなく、燃え盛る炎の塊が放たれたのだ!

 レベル3の俺が、スキルを使った!


 ゴオォッ!という音と共に、火球は正確にリーダー格ゴブリンの顔面へと吸い込まれ、派手な炸裂音と共にその醜い顔を灼いた。


「グギャアアアアアア!?」


 予期せぬ方向からの攻撃に、リーダー格ゴブリンが苦悶の叫びを上げ、大きく怯む。

 その一瞬の隙を、歴戦の冒険者であるゴードンさんが逃すはずがなかった。


「うおおおっ!【シールドバッシュ】!」


 即座に体勢を立て直したゴードンさんが、渾身の力で盾を叩きつけ、リーダー格のゴブリンを吹き飛ばし、追撃の剣で心臓を貫いた。

 リーダー格は断末魔の叫びを上げて消滅し、いくつかのアイテムと経験値の光がゴードンさんに吸い込まれた。


 リーダー格が倒れたのを見ると、残りのゴブリンたちは戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように巣穴の奥へと逃げていった。

 戦闘後、俺たちにも経験値が入った感覚があった。俺のレベルも、これで4に上がるかもしれない。


「……ふぅ。助かったぞ、ユウト! あの【ファイアボール】がなければ危なかった!」


 ゴードンさんが荒い息をつきながら、俺に感謝の言葉をかける。


「え? えっ? 今の……ユウトが……やったの? レベル3なのに?」


 リナが詠唱を中断し、目をまん丸くして俺を見ている。

 メアリーさんも、信じられないといった表情でこちらを見ていた。


「ユウト、お前、いつの間に火魔法なんて覚えたんだ? スキルなしじゃなかったのか? しかもレベル3で……」


 ゴードンさんの当然の疑問に、俺は自分の右手を見つめながら、しどろもどろに答えるしかない。


「い、いや……俺にも、よく分からないんです。でも、さっきリナが魔法を使うのを見てたら、なんか……こう、フワッと……使える気がして……」


 我ながら苦しい言い訳だ。だが、嘘ではない。


 しかし、俺の頭の中では、先ほどの出来事が反芻され、一つの確信が形になりつつあった。


 あの“スキルネットワーク”。あれは、やっぱり普通のスキルツリーじゃない。

 他の冒険者と“繋がる”ためのものなんだ。

 そして、繋がった相手のスキルを、一時的に借りることができる……いや、“シェア”する、と言った方が近いのかもしれない。レベルに関係なく!


「スキルツリーじゃない……スキル“ネットワーク”……そういう、ことか……!」


 俺の冒険は、まだ始まったばかりだ。

 この世界でただ一人、俺だけが持つ、この奇妙で、とんでもない力。

 他の冒険者と繋がり、そのスキルをシェアする力。レベルが低くても、高レベルの冒険者のスキルを借りれば戦える!


 これがあれば、スキルなしと馬鹿にされた俺でも……いや、俺だからこそ、誰よりも多くのスキルを使いこなし、想像もつかない高みへ行けるかもしれない!


 興奮に体が打ち震えるのを感じながら、俺は再びスキルネットワークを意識する。

 近くにいるゴードンさんの【シールドバッシュ】。メアリーさんの【ステルス】や【短剣術】。そして、リナの【ファイアボール】……。


 それら全てが、淡い光の線で、確かに俺の光点と繋がっているように見えた。


「……最強スキルマスター……」


 思わず口から漏れた言葉は、まだ現実味のない響きをしていたが、俺の心には確かな熱が灯り始めていた。

 まずはレベルアップだ。このネットワークを使いこなすためにも、俺自身のレベルを上げる必要がある。


 ――――


 巣穴から戻る道すがら、俺は改めてゴードンさんたちに向き直った。

 さっきの【ファイアボール】の件を、どう説明したものか。正直に話したところで、信じてもらえるだろうか?


「あの、さっきの魔法のことなんですけど……」


 意を決して切り出すと、ゴードンさんは意外にも穏やかな顔で頷いた。


「ああ、ユウト。無理に話さなくていい。お前には何か、俺たちには分からない特別な力があるんだろう。それがどんなものであれ、俺たちを助けてくれた事実に変わりはないさ」


 隣のメアリーさんもこくりと頷く。


「そうそう。あのゴブリンリーダー、レベル15以上はあったわね。ユウトがいなかったら、今頃……ねぇ?」


「ユウト!」


 リナがキラキラした目で俺に詰め寄る。


「すごかったよ! まるで熟練の魔法使いみたいだった! レベル3で【ファイアボール】なんて! ねぇ、どうやったの? 私の魔法、見てただけで使えるようになったの?」


 三者三様の反応だが、少なくとも疑いや拒絶の色はない。むしろ、興味津々といった感じだ。

 俺は少し迷った後、正直に話すことにした。ただし、全てを話すのはリスクが高い。


「俺のスキルシステム、どうも普通の人と違うみたいなんです。スキルツリーじゃなくて……なんか、ネットワークみたいになってて。レベルアップしてもスキルポイントは貰えないみたいなんですけど、その代わり、近くにいる人のスキルを、一時的に『借りる』ことができるみたいで……さっきのは、リナの【ファイアボール】を借りたんだと思います」


「スキルネットワーク……? 他人のスキルを借りる? レベルに関係なく?」


 ゴードンさんが唸る。メアリーさんも首を傾げ、リナは目を輝かせている。


「へぇー! 面白い! じゃあレベルが上がればもっと色んなスキルを借りられるようになるのかな?」


「そんな話、聞いたことがないな……。だが、現にユウトは魔法を使った。信じるしかないだろう」

 ゴードンさんはそう結論づけた。


「まあ、詳しいことはギルドには伏せておいた方がいいかもしれん。厄介事に巻き込まれるかもしれんからな。レベルもまだ低いことだし」


「賛成。ユウトの秘密ってことで!」

 メアリーさんが悪戯っぽく笑う。


「うん! 私も秘密にする! でも、今度私の他の魔法も試してみてよ! 私も早くレベルアップして、もっと強い魔法を覚えて、ユウトに貸せるように頑張るから!」

 リナがぐいっと距離を詰めてくる。近い。


 こうして、俺の秘密はとりあえず守られることになった。

 そして、この一件を機に、俺とリナたちの距離はぐっと縮まった気がした。


 ギルドに戻って報告を済ませ、報酬と経験値を受け取った。やはり俺のレベルは4に上がっていた。

 ゴードンさんたちもわずかに経験値を得たようだ。高レベルになると、低レベルの敵から得られる経験値は少なくなるらしい。


 ゴードンさんとメアリーさんは他の用事があるらしく先に帰り、俺とリナは二人でギルドの食堂で遅い昼食をとることにした。


「レベルアップおめでとう、ユウト!」


 シチューをスプーンで掬いながら、リナが祝福してくれる。


「ありがとう。リナたちのおかげだよ。でも、レベル4か……まだまだだな」


「でも、スキルネットワークがあれば、レベル差なんて関係ないんでしょ? すごいよ!」


「そうだといいんだけど……。さっき【ファイアボール】を使った時、結構魔力を使った感じがしたんだ。俺のレベルが低いから、高レベルのスキルを借りると、すぐに魔力切れになるかもしれない」


 俺は自分のステータス画面を意識の中で開く。レベル4。魔力量も少し増えている。

 そして、スキルネットワーク。近くにいるリナの光点は強く輝き、線で繋がっている。

 彼女のスキル【ファイアボール】【ライト】【ファイアアロー】の情報が見える。

 食堂にいる他の冒険者たちの光点も見えるが、繋がりは弱い。


 試しに、近くの席に座っているレベル9の軽装の冒険者――斥候系だろう――に意識を向けてみる。

 彼の光点との繋がりが、ほんの少し強くなった気がした。

 そして、頭の中にいくつかのスキル名が流れ込んでくる。

【隠密Lv.3】【短剣スキルLv.2】【罠探知Lv.4】……レベルも表示されるのか。


(なるほど……意識すれば、特定の相手との接続を強められるのか? スキルのレベルも分かるんだな)


 次に、食堂にはいないゴードンさんのことを強く意識してみる。

 彼の光点もネットワーク上に見えるが、かなり遠く、繋がりも細い。スキルを借りるのは難しそうだ。

 彼が持つであろう【挑発Lv.5】や【防御強化Lv.4】といった高レベルスキルは、今の俺のレベルと魔力量では、借りられたとしても扱いきれないかもしれない。


(距離も関係あるのか。それとも、パーティーを組んでいたり、面識があったりすることが重要? それに、借りる側のレベルも関係あるのかも……高レベルスキルを借りるには、俺自身のレベル=器の大きさが必要とか?)


 考えれば考えるほど、疑問は尽きない。だが同時に、この力の可能性の大きさに武者震いする。

 まずは自分のレベルを上げることが、ネットワークを使いこなす鍵になりそうだ。


「ねぇ、ユウト。今度、一緒に訓練しない?」

 リナが提案してきた。


「私の他の魔法もユウトが借りられるか試してみたいし! それに、一緒に依頼を受けて経験値を稼いで、早くレベルアップしようよ!」


「ああ、そうだな。俺もこの力をちゃんと理解したいし、レベルも上げたい」


「決まり! 明日の午後、ギルドの訓練場で!」


 リナの積極的な協力は、正直ありがたかった。

 一人で悩むよりも、信頼できる仲間と一緒に試行錯誤し、レベルアップを目指す方がずっといい。


 俺の冒険者としての本当のスタートは、ここからなのかもしれない。

 スキルネットワークという未知の力と、それを理解し支えてくれる仲間と共に。


 ――――


 リナたちとの訓練や簡単な依頼をこなすうちに、俺はスキルネットワークの扱いに少しずつ慣れ、レベルも順調に上がっていった。

 レベルは10に到達し、魔力量や体力もそれなりに増強された。


 やはり、近くにいる、あるいは親しい関係にある冒険者のスキルほど借りやすいようだ。

 ゴードンさん(Lv.15)の【挑発Lv.5】や【防御強化Lv.4】、メアリーさん(Lv.13)の【隠密Lv.4】や【解錠Lv.3】、リナ(Lv.11)の【ファイアアローLv.3】なども、意識すれば問題なく使えるようになった。


 俺自身のレベルが上がったことで、以前よりも安定して、少しだけ強力なスキルも借りられるようになった気がする。

 ただし、複数のスキルを同時に借りて使うのは依然として難しく、魔力消費も馬鹿にならない。

 強力なスキルほど、借りる際の負担も大きいようだ。


 俺が戦闘で目に見えて活躍するようになると、ギルド内での俺を見る目も少しずつ変化してきた。

 以前のような「スキルなしの低レベル」という侮りは減り、「なんだかよく分からないけど、レベルの割にやる奴」くらいの認識にはなったようだ。

 ゴードンさんたちが俺の実力を認めてくれているのも大きい。


 だが、変化は良いことばかりではない。

 特に、俺と同期で、エリート意識の強い連中からは、嫉妬や疑念の目を向けられるようになった。


「おい、ユウト。レベル10になったからって、調子に乗ってるらしいな」


 ギルドの掲示板前で依頼を探していると、嫌味な声がかけられた。

 声の主はカイル。俺と同じく十五歳で冒険者になった同期だが、村長の次男坊で、初期スキルも【剣術強化】という恵まれたものだった。

 レベルもすでに14に達しており、常に上から目線で、俺のような平民を見下している。取り巻きを二人連れているのもいつものことだ。


「……カイルか。何の用だ?」


「何の用だ、だと? スキルなしのお前が、レベルだけは一丁前に上げて、ゴードンさんたちと組んでそこそこの依頼をこなしてるって噂だぞ? 何かズルでもしてるんじゃないのか?」


 カイルが値踏みするように俺を睨む。取り巻きたちもニヤニヤしている。


「ズルなんてしてない。俺は俺のできることをやっているだけだ」


「できること? スキルなしのお前に何ができるって言うんだ? レベルだけ高くても中身が空っぽじゃ意味ないぞ? それとも、高レベルのゴードンたちに寄生して経験値だけ吸い取ってるのか?」


 言葉の棘が突き刺さる。スキルネットワークのことは言えない。

 反論できない俺を見て、カイルは鼻で笑った。


「まあいい。せいぜい足を引っ張らないようにな、空っぽのレベル10くん」


 吐き捨てるように言って、カイルたちは去っていった。胸糞が悪い。

 だが、ここで言い争っても仕方ない。実力で見返すしかないのだ。


 そんな折、俺たち――ユウト(Lv.10)、リナ(Lv.11)、ゴードン(Lv.15)、メアリー(Lv.13)のパーティーに、少し難易度の高い依頼が舞い込んできた。

 近くの森にオークの集落が形成され、近隣の村への被害が出始めているため、その討伐をしてほしいという内容だ。

 オークはゴブリンよりも遥かに強力で、知能も高い。集落となれば、数も相当いるだろう。推奨レベル15以上、Cランク相当の依頼だ。


「オークの集落討伐か……。推奨レベルは15以上だが、今の俺たちなら、やれると思うか?」

 ゴードンさんが依頼書を見ながら腕を組む。


「やれるわよ! ユウトもレベル10になったし、私の【ファイアアロー】もLv.3になったんだから!」

 リナはやる気満々だ。


「そうだね。ユウトのサポートがあれば、ゴードンも楽になるし、私も動きやすい。レベル差はまだあるけど、連携でカバーできるはず」

 メアリーさんも同意する。


「俺も、皆さんの力になれるように頑張ります。レベルはまだ低いですが、スキルシェアで貢献します」


 俺たちの実力は確実に上がっている。連携もスムーズになってきた。

 オーク相手でも、十分に戦えるはずだ。俺たちはその依頼を受けることに決めた。


 依頼当日、森の入り口で準備を整えていると、見慣れた嫌な顔ぶれが現れた。

 カイルとそのパーティー(取り巻きもLv.12~13程度)だ。


「なんだ、お前たちもこの依頼か。レベル10のスキルなしまで連れて、Cランクなんて身の程知らずもいいところだな」


 カイルが嘲るように言った。


「お前たちこそ、大丈夫なのか? オークはゴブリンとは違うぞ。レベルも高い」

 ゴードンさんが冷静に返す。


「ふん、俺たちを誰だと思ってる。この程度、楽勝だ。お前たちみたいに、低レベルの寄生虫を抱えているパーティーとは違うんでな」


 カイルは俺を侮蔑の目で一瞥し、さっさと森の奥へと進んでいった。


「……むかつく! あのレベルだけが取り柄の!」

 リナが拳を握る。


「相手にするだけ時間の無駄だ。俺たちは俺たちのやるべきことをやろう」

 ゴードンさんがなだめる。


 俺たちは気を取り直し、オークの集落へと向かった。

 メアリーさんの斥候スキル――もちろん、俺もメアリーの【隠密Lv.4】と【罠探知Lv.3】を借りてサポートする――で慎重に進み、集落を発見する。

 思った以上の規模だ。見張りのオークが数体、集落の入り口を固めている。レベルは12~13程度か。


「よし、まずは見張りを片付けるぞ。メアリー、頼む。ユウト、援護を」


 ゴードンさんの指示で、メアリーさんが音もなく茂みに紛れる。

 俺もメアリーの【隠密】を借りて追従しつつ、リナの【サイレンス】(音を消す補助魔法)を借りて足音を消す。


 メアリーさんが見張りのオークの背後に忍び寄り、一瞬で喉を掻き切る。

 残りのオークが異変に気づく前に、俺はリナの【ファイアアロー】を借りて一体を射抜き、ゴードンさんが突進してもう一体を盾で殴り倒した。

 完璧な奇襲だ。討伐したオークから経験値が入るのを感じる。


「よし、このまま集落に突入する!」


 ゴードンさんの号令で、俺たちはオークの集落へと雪崩れ込んだ。中は混乱状態だ。

 棍棒や斧を持ったオークたちが次々と襲いかかってくる。レベルは10~14くらいが中心か。


「リナ、範囲魔法を! 俺が引きつける!」


 ゴードンさんが【挑発】スキルでオークたちの注意を自分に集める。

 もちろん、俺もゴードンさんの【挑発】を借りて、側面からオークを煽り、ターゲットを分散させる。

 レベル差がある相手への挑発は効きにくいが、ゴードンさんと合わせれば効果はある。


「燃え盛る矢の雨よ!【マルチファイアアロー】!」


 リナの詠唱で、無数の火矢が降り注ぎ、オークたちを焼き払う。


 メアリーさんは混乱の中を縫うように動き回り、確実にオークの数を減らしていく。

 俺もメアリーさんの【短剣術】を借りて応戦しつつ、ゴードンさんの【防御強化】を借りて被弾を最小限に抑える。


 スキルネットワークの真価は、この臨機応変さにある。

 盾役のスキルで耐え、斥候のスキルで翻弄し、魔法使いのスキルで攻撃する。レベル差をスキルシェアで補う。これが俺の戦い方だ。


 しかし、オークの数は予想以上に多かった。次から次へと湧いてくる。

 そして、集落の中央の大きな小屋から、ひときわ巨大なオーク――オークリーダーが現れた。

 その手には巨大な戦斧が握られ、全身から凶暴なオーラを発している。

 レベルは……測定不能!? 少なく見積もってもレベル20以上はあるだろう!


「グルオオオオオオッ!」


 オークリーダーの咆哮が森に響き渡る。

 その一撃はゴードンさんの大盾をも弾き飛ばすほどの威力だ。レベル差が大きすぎる!


「まずい、あいつは桁違いだ! レベルが違いすぎる!」

 ゴードンさんが叫ぶ。


「私が足止めする! みんなは他のオークを!」

 メアリーさんがリーダーに斬りかかるが、硬い皮膚に阻まれ、逆に戦斧で吹き飛ばされる。レベル13の彼女の攻撃でも歯が立たない。


「メアリー!」

 リナが悲鳴を上げる。


 その時、集落の隅で戦っていたはずのカイルたちのパーティーが、こっそりと戦線から離脱しようとしているのが見えた。


「おい、カイル! どこへ行く気だ!」

 俺が叫ぶ。


 カイルは一瞬こちらを見たが、すぐに顔を背けた。


「馬鹿馬鹿しい! あんな化け物、相手にしてられるか! レベル20以上だぞ!? 俺たちは撤退する!」


「仲間を見捨てるのか!」


「うるさい! 死にたければ勝手に死ね! レベル10のお前が足手まといなんだよ!」


 カイルたちは、俺たちの危機を尻目に、さっさと森の中へ逃げていった。


「なんて奴らだ……!」

 ゴードンさんが歯噛みする。


 だが、今は奴らを罵っている場合ではない。オークリーダーの猛攻は止まらない。

 メアリーさんは負傷し、リナも魔力が尽きかけている。ゴードンさんも満身創痍だ。

 俺自身も、借りたスキルを使いすぎて魔力も体力も限界に近い。レベル10の基礎能力では、高レベルスキルを連続で借りるのは負担が大きい。


 絶体絶命。このままでは、全滅……。


 オークリーダーの戦斧が、ゴードンさんの肩を砕かんと迫る。

 もう避ける力も、受け止める力も残っていない。

 リナの悲鳴が聞こえる。メアリーさんが必死に立ち上がろうとしている。


(くそっ……! ここまでなのか……!? レベル差がありすぎる……!)


 諦めかけた、その瞬間。

 俺の頭の中に、スキルネットワークが再び強制的に展開された。しかし、今回は様子が違った。


 いつも見ている、近くの冒険者たちの光点だけではない。

 ネットワークは、まるで宇宙のように、どこまでもどこまでも広がっていた。

 遥か彼方、おそらくギルドの街にいるであろう、無数の冒険者たちの光点が、星々のように瞬いている。

 その中には、レベル30、40、あるいはそれ以上の高レベル冒険者のものと思われる、眩い輝きもあった。


 そして、それらの光点からも、微弱ながら、確かに光の線が俺へと繋がっている……!


(まさか……近くにいなくても? ギルドに登録されている冒険者なら……高レベルの人とも繋がれるのか!?)


 そうだ、ネットワークなんだ! 物理的な距離だけが全てじゃない!

 ギルドというシステム、冒険者という共通項……それらが俺たちを繋いでいる!


(試すしかない! 俺のレベル10の器で、どこまでやれるか!)


 俺は意識を極限まで集中させた。

 眼前のオークリーダーを睨みつけながら、広大なネットワークの彼方へと意識を飛ばす。

 求めるのは、この窮地を打開する力。強力な治癒魔法、防御魔法、そして、一撃必殺の攻撃スキル……!

 ギルドにいるであろう高レベルのヒーラー、剣士、魔法使い……彼らのスキルを借りる!


 ネットワーク上の、ひときわ強く輝くいくつかの光点に意識を接続する。

 レベル30クラスのヒーラー、剣士、魔法使い……!


『――【ハイ・ヒールLv.5】』

『――【エリア・プロテクションLv.3】』

『――【剣技:グランドクロス】』


 断片的だが、強力なスキルの情報と感覚が、濁流のように頭の中に流れ込んでくる!

 魔力が、ごっそりと持っていかれる! レベル10の俺の魔力容量では、ほとんど空になる!

 体が軋む! 脳が焼けるようだ! だが、構うものか!


「うおおおおおおおおっ!」


 俺は叫びながら、まず負傷したメアリーさんとゴードンさんに手をかざした。


「【ハイ・ヒール】!」


 眩い光が二人を包み込み、傷がみるみるうちに塞がっていく。

 本来なら高レベルヒーラーしか使えないはずの、治癒魔法。


「なっ……傷が……!?」

 ゴードンさんが驚愕する。


「体が軽い……!? まるでレベルアップしたみたい……!」

 メアリーさんも目を見開く。


 次に、オークリーダーの戦斧が振り下ろされる寸前、俺は両手を地面につけた。


「【エリア・プロテクション】!」


 俺たちを中心とした半径数メートルに、淡い光の障壁が出現する。

 オークリーダーの戦斧が障壁に叩きつけられるが、キィン!という甲高い音と共に弾かれた! レベル20以上の攻撃を防いだ!


「障壁魔法!? しかもこんな強力な……ユウト、あんた一体……!」

 リナが絶句する。


 そして、最後。俺はショートソードを構え、オークリーダーに向かって踏み込んだ。

 剣に、残ったけして多くない魔力と、最後の力が収束していく。

 ネットワークの彼方から借り受けた、高レベルの剣技。レベル差なんて、この一撃で覆す!


「これで、終わりだァァァッ! 【剣技:グランドクロス】!」


 剣を十字に振るう。閃光が迸り、巨大な十字の斬撃がオークリーダーを直撃した。


「グ……ギ……ギャアアアアアアアアアアッ!!」


 断末魔の叫びと共に、オークリーダーの巨体が光の中に掻き消え、塵となった。

 莫大な経験値の光が俺たちに降り注ぐ!


 オークリーダーが倒れると、残っていたオークたちは恐慌状態に陥り、散り散りに逃げていく。

 森に、静寂が戻った。


 俺は膝から崩れ落ちた。魔力も体力も、完全に空っぽだ。

 だが、勝った。仲間を守り切った。

 そして、レベルが一気に5つ上がって、レベル15になったのを感じた!


「ユウト!」


「ユウト、大丈夫か!?」


「すごすぎるよ……! 一気にレベル5も上がった!?」


 駆け寄ってきたゴードンさん、メアリーさん、リナが、口々に俺を心配し、そして称賛する。

 彼らもレベルが2~3つ上がったようだ。俺は彼らに支えられながら、なんとか立ち上がった。


 ふと見ると、森の茂みの影から、逃げたはずのカイルたちが、信じられないものを見たという顔で、呆然とこちらを見つめていた。

 彼らの顔には、恐怖と、理解不能なものへの畏敬のような色が浮かんでいた。


 俺はカイルたちを一瞥し、そして仲間たちに向き直って、小さく笑った。


「……帰りましょうか。ギルドに」


 最強無双。それは、まだ遠いかもしれない。

 でも、俺はこの力と、上がったレベルで、大切な仲間たちをもっと強く守ることができる。

 それだけで、十分だった。


 ――――


 ギルドに戻った俺たちは、オークの集落討伐、特にレベル20超えのオークリーダー撃破の報告を行い、大きな賞賛を受けることになった。

 ゴードンさん、リナ、メアリーさんが、俺の規格外の活躍――特に高レベルの治癒魔法や防御魔法、そしてオークリーダーを一撃で葬った謎の攻撃について――を詳細に証言してくれたおかげだ。


 もちろん、スキルネットワークの核心部分は伏せたまま、「ユウトには未知のユニークスキルがあり、低レベルでも高レベルの力を引き出せる」という形で。

 俺自身のレベルが15まで急上昇したことも、その証左となった。


 一方、戦闘を放棄し仲間を見捨てて逃げたカイルとそのパーティーは、他の目撃者の証言もあり、ギルドから厳しいペナルティを科されることになった。

 依頼達成義務違反、仲間への背信行為。


 しばらくの間、高ランクの依頼は受けられず、ギルド内での信用も失墜した。

 廊下ですれ違ったカイル(レベルは14のまま)は、俯いて顔を上げようともしなかった。

 これが、自業自得というやつだろう。ささやかな「ざまぁ」かもしれないが、俺にとっては大きな一歩だった。


 後日、俺はギルドマスター室に呼び出された。

 恰幅の良い、歴戦の風格を漂わせる壮年の男性、ギルドマスターのバルガスさんだ。


「ユウト君、だったね。レベル15、おめでとう。今回のオーク討伐、見事だったと聞いている」


 バルガスさんは、厳つい見た目とは裏腹に、穏やかな口調で話し始めた。


「単刀直入に聞こう。君のその力……一体何なんだね? ゴードンたちからはユニークスキルだと聞いているが、レベル10そこそこでレベル20超えのオークリーダーを倒し、高レベルのヒーラーや剣士のような魔法や技を使うとは、常識では考えられん」


 隠し通せるものではないだろう。

 俺は覚悟を決め、正直に話すことにした。スキルネットワークのこと、他の冒険者のスキルをシェアできること。

 自分のレベルが低いと扱えるスキルに制限があるかもしれないこと、高レベルスキルを借りる負担が大きいことなどを説明した。


 バルガスさんは驚きに目を見開いた後、深くため息をついた。


「……スキルネットワーク、だと? まさに前代未聞だな。世界は広い。我々の知らない力がまだまだ眠っているということか。レベルに関係なく他者のスキルを借りられる、か……」


 彼はしばらく考え込んだ後、俺の目を真っ直ぐに見て言った。


「ユウト君。その力は、使い方によっては大きな脅威にもなり得る。だが、正しく使えば、この街と多くの人々を救う力となるだろう。君さえよければ、その力をギルドのために役立ててはくれんか? もちろん、相応の待遇は約束する」


 断る理由はなかった。俺はこの街で、このギルドで、冒険者として生きていきたい。

 この力で、仲間を守り、困っている人を助けたい。


「はい。俺にできることがあるなら、喜んで協力します」


「うむ、頼もしい返事だ。君のランクは今回の功績と、そのポテンシャルを考慮し、一気にCランクに昇格させよう。異例の抜擢だが、君の実力とレベル15という到達速度なら文句は出まい」


 Cランク! 新人が到達するには通常何年もかかるランクだ。

 俺の冒険者人生は、予想もしなかったスピードで動き出していた。


 ギルドマスター室を出ると、リナたちが心配そうな顔で待っていた。


「ユウト、大丈夫だった?」


「ああ。ギルドマスターに色々聞かれたけど、大丈夫だ。それに、俺、Cランクになったぞ!レベルも15だしな!」


「「「ええええっ!?」」」


 三人の驚きの声がギルドホールに響いた。


「すごいじゃないか、ユウト! Cランク冒険者か!」

 ゴードンさんが俺の肩を叩く。


「レベルも一気に上がったし、本当にすごいよ!」

 メアリーさんも興奮気味だ。


「やったね、ユウト! これで、もっと難しい依頼にも挑戦できるね! 私たちも早くレベル上げて追いつかないと!」

 リナが自分のことのように喜んでくれる。その笑顔が、やけに眩しく見えた。


「それで、提案なんだけど」

 ゴードンさんが切り出した。

「これを機に、俺たち四人で正式にパーティーを組まないか? ユウトがいれば、俺たちはもっと強くなれる。どんな高レベルの依頼だってこなせるはずだ」


「賛成!」


「私も!」


 リナとメアリーさんが即座に同意する。


 俺は三人の顔を見回した。ゴードンさんの頼もしさ、メアリーさんの冷静さ、そしてリナの明るさ。

 この仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えていける気がする。


「はい! よろしくお願いします!」


 俺は力強く頷いた。


 こうして、俺たち四人は正式なパーティー「リンク・スターズ」(リナが命名した。「繋がる星々」みたいな意味らしい)を結成した。

 スキルなしの低レベル冒険者だった俺が、Cランクパーティーの一員になるなんて、一ヶ月前には想像もできなかったことだ。


 エピローグ:繋がる未来へ


 それから俺たちの冒険は、まさに飛躍の連続だった。


 スキルネットワークを駆使する俺のサポートと、元々高い実力を持つゴードンさん(Lv.18)、リナ(Lv.14)、メアリーさん(Lv.16)の連携は、他のパーティーの追随を許さなかった。

 俺自身のレベルも依頼をこなすうちにどんどん上がっていき、レベル20、30と駆け上がった。


 レベルが上がるにつれて、借りられるスキルの種類やレベルも増え、ネットワークの接続もより安定し、広範囲の冒険者と繋がれるようになってきた。


 ダンジョンの深層攻略、レベル40クラスの凶悪な魔物の討伐、時には隣国からの緊急依頼まで。

 どんな困難な状況でも、俺はスキルネットワークを通じて仲間たちの力を借り、時にはギルドの他の高レベル冒険者たちの力さえも一時的にシェアして、道を切り開いていった。


 剣技、魔法、治癒、防御、探索……あらゆるスキルを状況に応じて使い分ける俺の戦い方は、「変幻自在」「千のスキルを持つ男」などと呼ばれ、ギルドでも注目の的となり、若くしてBランク昇格も間近と噂されるようになった。


 もちろん、スキルネットワークの全てが解明されたわけではない。

 なぜ俺だけがこの力を持つのか、ネットワークの限界はどこにあるのか、謎はまだ多い。だが、今はそれでいい。


 大切な仲間たちが隣にいる。


「ユウトがいれば百人力だよ! 私もレベル30になったよ!」

 と笑うリナ。


「お前のサポートは本当に助かる。おかげで私もレベル32だ」

 と頷くメアリーさん。


「今日も頼んだぞ、リンク・スターズの心臓部! 俺もレベル35だ!」

 と背中を叩くゴードンさん。


 彼らとの繋がりこそが、俺の力の源泉だ。


 レベルを上げ、スキルツリーという決められた道を歩むのではなく、無数の冒険者たちと繋がり、その力をシェアして共に未来を切り開いていく。それが、俺だけの道。


 視界の奥で、スキルネットワークが星々のように煌めいている。それは、無限の可能性と、仲間たちとの絆の証。


「さあ、行こうか! 次の冒険へ!」


 俺は仲間たちと共に、今日も新たな一歩を踏み出す。

 スキルネットワークが導く、最強無双の未来へと向かって。


(完)

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