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6.その笑顔に狂う

 アルゴ王子がそっと懐からドライバーを取り出し、窓の一部を割る。ピッキングで開けると、二人はにこにこして拍手しながら部屋に入って来た。あまりの笑顔に硬直するサラと、少し微笑んでいる使用人の前に立つ。ルウェル王子は満面の笑みでアルゴ王子に説明し始めた。

 「…サラはね、こんなところでずっとめそめそしてるような、物語のヒロインとは違うんだ。ちゃんと俺のこと分かってて、それでも一応周囲の人や本人に確認をとって、その上で頑張るような、ヒーローみたいな一面もあるんだ。一方で、普段は可憐なのさ。敵意や悪意には敏感で、それが自分や周囲に向けられると立ち向かいに行くんだ。可愛いだろう?」

 「ああ。中身を見れば見るほど目が逸らせないじゃないか。どうしてくれるんだ、このギャップ。一升瓶を持つ手が震えてどうしようも無いんだが。ルウェル、お前のさっきの、兄が去った後の態度も良かった。思わず酒を飲む手が止まったほど、息が止まったぜ。ああ、良い。ルウェルのみならず、サラのギャップまで拝めるとは…幸せ過ぎる。」

 ぶるぶると震える手で酒を飲むが、あまりに震えすぎて口元でばしゃばしゃとこぼしている。だが二人ともこぼれた酒など目に入らない様子で、サラへ笑顔の視線を向けている。あまりの絵面に彼女はやや困惑しながらも、思い出したようにルウェル王子に言った。

 「ルウェル様、先程…。」

 「なんだい、サラ。」

 完全に脳内花畑の様子で、名前を呼んだ直後食い気味にルウェル王子が返事をした。少し引きつつも、サラが真剣な様子で言う。

 「明日、ツキ様がお祝いにと……パーティーを開催するとおっしゃっていたのですが…。」

 「うん。俺もケイ兄さんから聞いたよ。俺達のお祝いにってね。一応社交パーティーだから、社交ダンスもするだろうね。」

 一つうなづくと、サラが使用人とルウェル王子に向かって頭を下げた。思わぬ事態に使用人が驚いていると、サラの真剣な声が飛んだ。

 「ダンスのご指導、お願いします!明日ですので、すぐには覚えられないかもしれませんが…。もしお時間がありましたら…!」

 その瞬間にルウェル王子が涙を流し始めた。その様子に気付いたサラが顔をあげ、きょどる。使用人は苦笑いしていた。

 「ああ、もう本当…やばい。俺の涙袋が枯れそう。使用人とか関係なく頭を下げることが出来るとか…ブラボーするしかないよ。人として完璧すぎる。そして可愛い。」

 時間が無くても、勿論だよ、絶対協力すると涙声で言い放つ。使用人も静かに頷いた。

 「お任せください、サラ様。」

 ルウェル王子の横でアルゴ王子も頷く。

 「俺もいくらでも手伝うぞ。」

 嬉しそうに顔を輝かせ、彼女は心から言った。

 「ありがとうございます!」

 あまりに眩しい笑顔。

 ルウェル王子は懐から酸素吸入器を出し、嬉し涙を流しながら酸素を吸い始めた。

 アルゴ王子はサングラスを取り出したが、動揺しすぎて、一升瓶にサングラスをかけた。

 使用人は挙動のおかしい二人の様子を静かに見守っていた。

 数回のノックの後、王子の様子を見るため部屋に入ってきたクロム執事。

 眼前に広がる、二人の王子の奇行。サングラスのかかった一升瓶。

 理解不能だった。

 

 クロム執事に連れられ、四人はルウェル王子の部屋へと戻って来た。道中でクロム執事にあらかた説明をしたルウェル王子が、サラの方に向いて言う。

 「とはいえ、別にサラがダンスを習得する必要は、さほど無いんだけどね。」

 「…え?」

 首を傾げるサラの隣で、アルゴ王子がおいおい、お前あの噂本当だったのかよと驚いた様子で言う。彼は笑いながら頷くと説明した。

 「今まで俺がダンスパーティーで、沢山の奇行をしてきたからね。ダンスしてたら踊るエリアを越えて、気が付いたら真っ白なテーブルに突っ込んでたとか、途中でプロレスの試合の音が聞こえたから、ダンスそっちのけでその場でゴロゴロ転がったりとかね。うん…全部、俺とは誰も踊れないようにした覚えがあるよ。」

 「お前すげえよ。周りの目を気にせず、よくそんなことが出来るな。」

 「いや、サラと最初に踊るって決めたから。」

 「なんだ。ただの男前だったな。」

 ぐびぐびと酒を飲むアルゴ。ちなみに未だに王子服は酒でびしょびしょのままである。その匂いがきついのか、使用人の表情が必死に作った笑みになっていた。まあでも、サラにお願いされたんだ、務めを果たすしかないじゃないかと彼は嬉しそうに言った。さっとサラの腰に手を回す。

 「演奏はクロム執事あたりに任せようか。すぐ傍のピアノでも弾いてくれ。勿論、本気で踊るのは後になるだろうけど、音源なんてすぐに覚えられないし、リズムを耳に鳴らす意味合いも兼ねて。」

 「承知いたしました。」

 さっとピアノの前に移動するクロム執事。その間にサラの手を取ると、彼はこの状態からスタートするんだと説明した。サラが戸惑いの視線を向ける。

 「結構…近いんですね。」

 「うん。この距離だから、わざと顔を赤らめたりする悪い奴もいるよ。相手に“自分に気があるんじゃないか”って思わせたくてね。」

 「え…。そんな…。」

 少し引く彼女にアルゴ王子がうんうんと頷く。顔を赤らめるだけならまだ良い方だ、もっと距離を詰めて来る輩とか、わざと露出を見せつけて来る輩とか、変に甘ったるい匂いのする輩もいると付け足す。面倒くさいんだよなそういう輩はと彼は愚痴った。

 「まあ、今回は俺としか踊らないから、そこらへんは警戒しなくても良いよ。というか、俺以外と絶対躍らせない。うん、絶対。」

 覚悟がんぎまりの目に、サラが優しく微笑む。その笑顔を間近で直視した彼は、小さく悲鳴を上げた。ばっと背中を向け、口元を隠すようにうずくまる彼を見て、クロム執事が呟く。

 「当日も…酸素呼吸器必要ですね。」


 最終的に、使用人が相手役となり、踊る二人を見てルウェルとアルゴが外野から口を出すということになった。四、五時間後、荒い呼吸と共にサラがその場に座り込んだ。とりあえず踊ることができるが、細部の優雅さはまだ半分といったところか。チラリと窓へ視線を向けると、いつのまにか薄暗くなっていた。呻く彼女に拍手が湧き上がる。

 「流石です!短時間でここまで上達なさるとは…。」 

 「エクセレントッ。ベリーベリーエクセレントッ、んー!酒と相まって、素晴らしいぜ!」

 「素晴らしい!ブラボー!」

 ニコニコしてる使用人の隣で、鉄で出来た溶接用マスクをつけ、拍手を送る王子二人。クロム執事もピアノから手を離し拍手を送る。

 「では明日、楽しみにしてるぜ。そろそろ日も暮れてきたし、帰る時間だ。明日は俺も参加するから、当日会場で。」

 「ああ。楽しみにしていてくれ。」

 ルウェル王子は満面の笑みで見送った。


 そして翌日。部屋ではいつも通りルウェル王子が紅茶を優雅に飲んでいた。服装も普段通りで、真っ白な生地に、金の装飾が付いた王子服である。

 「うーん。どれくらいのタイミングで行こうかな。いっそ盛大に遅刻して、サラとだけ踊って帰ってきても良いんだけど。これまでの行い的にそれくらい許されるだろうし。」

 「今回のパーティーは、城ではなく、外部の正式な会場をお借りしているそうですよ。バルコニーのみならず、庭園も広いそうです。確か、ニーナ海の方でした。サラ様と踊った後に、庭園やバルコニーの方へ行くのもよろしいかと。」

 クロム執事が紅茶を淹れながら、返事をする。

 「良いね。会場に長居すれば、俺やサラと踊りたい人が増えるだろうし。いっそ会場から二人で抜け出せばいいか。王の素質を狙う人達もいるだろうし。」

 その時、扉がコンコンと数回ノックされた。使用人が申し訳なさそうな顔で部屋に入ると説明しだした。

 「ルウェル様、申し訳ございません。アルゴ様が…。」

 「え、あいつ来てたの?会場で、とか言ってなかったっけ?」

 驚いた様子で聞き返すが、使用人がこくりと頷く。

 「酔った勢いでサラ様のドレスの一部を汚してしまいまして…。早急に準備をするのですが、パーティーにはニ十分ほど遅れてしまうかと…。」

 「ああ、それなら大丈夫さ。時間のことは気にしなくて良いよ。アルゴに責任を取ってもらおう。」

 にっこりと悪い笑顔を浮かべた。彼らが使用人と共にサラの部屋へ行くと、アルゴ王子が部屋の中央で土下座していた。近くには一升瓶が転がっていた。

 「すまん。酒こぼした。パーティーに行く前に、お前たち二人を眺めてから…なんてこっそり眺めようとして、裏口から侵入したら、酔ってたから間違って別室に入っちゃったんだ。違う部屋だって分かって、慌ててお前の部屋に行こうとしたら、段差につまずいて、近くの衣装ダンスに酒がかかっちまって。そこにサラのドレスもあったらしく…。」

 「別に良いよ。その代わり、サラの遅刻理由は、一緒に頑張ってもらおうじゃないか。あと護衛も。」

 にっこりと悪い笑顔を浮かべる彼に、アルゴ王子が何かを察した。

 「つまり……信頼できる嘘を吐けと…?」

 すくっと立ち上がると、彼は得意げに鼻を鳴らした。

 「おいおい。俺は情報屋だぞ?…任せろ、信憑性の高い嘘くらい捏造できる。勿論、護衛もな。腐っても王子だ。剣の腕くらいには自信がある。」

 「よし、許そう。それじゃあ、サラ。俺は先に行くから、君は後から…。」

 言いかけた言葉は途中で途切れた。かひゅっと小さく喉を鳴らすと、彼はその場に崩れ落ちた。頭を抱え、映画にも出れそうな迫真の声でつぶやく。

 「オフショットっ…!」

 近くのソファにゆったりと座り込んでいるサラが困ったように笑っている。普段のドレス姿とは違う、少し丈の短い白い服を着ていた。すぐに着替えられるよう、かといってドレスアップの前まで体が冷えないようにカバーするような服である。アルゴ王子もパチパチと拍手をしていた。

 「うん。やっぱ酒が上手く感じるわ、ここ。飽きないぜ。」

 「いつもの可愛らしい一本縛りと違った、今回の七三分けの前髪!ストレートっぽくも、毛先が内側にクルッとカールした、セミロングのピンク髪…!ゆるふわ感が見えるっ。うわ!可愛すぎてやばいっ!え、ちょっと待って。ドレスどころの話じゃないんだけど。レアすぎて、ちょっと一日、いや一週間くらいこの姿でいて欲しいくらいなんだけど。もう俺今日パーティー行かなくて良いかな。遅刻どころかパーティーすっぽかそうかな。しかもその飾り気のない真っ白な服とすんごいマッチして、まさにオフショット過ぎる。この距離でやばいと思うんだから、もうこれ以上近づいたら俺は間違いなく蒸発する。え、助けて?俺幸せ過ぎて昇天しそうなんだけど。ちょ、予約。これ予約。ドレス姿と一緒に予約。いつでも大歓迎だから、今回のドレス姿とこのオフ姿、定期的にどっちかの姿になって。ランダムで良いから。多分毎回発狂するとは思うけども。」

 早口でまくし立てるルウェル王子と、静かにニコニコしながら拍手を送るアルゴ王子。その二人の首根っこをクロム執事が掴むと、サラにぺこりとお辞儀をした。

 「このままでは遅刻しそうなので、行きましょうルウェル様、アルゴ様。それではお先にパーティーの方へ行きますので、サラ様は後程、会場へお願い致します。」

 ずるずると引きずられながら、王子二人は部屋から出ていった。

こんにちは。星くず餅です。

キャラの名前等に関して、少しだけ。

実は一部のキャラには、元となった名前があったりします。

ですが、キャラの性格や外見等に何のかかわりもございません。

はっきり言います。

名前を考えるのが面倒になって、なんとなく思いついた物から取りました。

そのため、性格とか外見とかの関連性は全くありません。

例がこちら。

クロム執事→クロロホルム、クロムウェル、Crクロム

アルゴ・プロトン→アルゴン、アルゴリズム、プロトン、プロトンNMR

ケイ王子→系、啓蒙思想、K

次回は検討中です。

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