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4.禁断症状

 「…あらまあ、やってくれましたわね。」

 使用人の死体の前で、シトロン王女が顔をしかめていた。状態から見て、死後一時間くらいだろうか。彼女の傍らには、若い男性の使用人が一人いた。じっくりと傷口を見て、不思議そうに言う。

 「剣で斬りつけたのは間違いないですが…なんとも乱雑な切り口ですね。しかも近くには、血塗られた3連単…。」

 「隣国のアルゴ王子でしょうが…彼がこんなことするとは思えないわね。以前お会いした際、確かに噂通りではあったけれど、理性が残ってるような人だったわ。少なくとも酔って殺害衝動にかられ、乱雑に切り殺すことは無い。」

 「となると…誰かがそう見せかけたということになりますね。」

 この3連単もアルゴ王子に罪を擦り付けるため…と使用人が考え込んでいると、シトロン王女がため息を吐いた。

 「……いろんな可能性が考えられるわ。でも一番最悪なのは…。」

 「ルウェル様が王の素質を持っており、サラ様を本気で愛しておられ、我々の目的に勘づいていらっしゃるということでございます。」

 彼女がこくりと頷いた。

 「ちょっと鎌をかけてみましょう。王の素質を持つか否か、サラを愛しているか否か。ただし、私の策略だとバレるのは困るわね。理由は分かるでしょう?」

 「シトロン様は王の素質を持つ方の妻となり、王妃になるのが目的でございます。そのため、もしルウェル様が王の素質を持っており、サラ様を本気で愛しておられる場合、シトロン様が王妃になろうとしていることがバレては大変でしょう。」

 「正解。その通りよ。」

 彼女は小さく微笑んだ。

 「王の素質に興味は無いの。あの力は使うたびに、代償として王になるのに不要なものが消えていくのよ。そんな恐ろしいものを得てまで王になるより、私は兄弟の中で唯一の女性なのだから、王妃を目指せば良いのよ。他国になんて行きたくないのだから、探し出して見せるわ。王の素質を持つ者が誰なのか。」

 作戦は即実行に移すわよと彼女が言うと、使用人がお任せをと言い、深々と頭を下げた。


 アルゴ王子が帰ってから、ルウェル王子とサラの二人は部屋にいた。昼食を食べ終え、優雅に紅茶を飲んでいるところに、使用人の一人がやって来た。

 「お話し中失礼いたします。サラ様、少しお時間いただいても良いでしょうか。」

 「ええ。どうしたのですか?」

 二人が訝し気な様子でいると、使用人が困ったように言い始めた。

 「サラ様にお会いしたいという方がいらっしゃいまして…恐らく容姿的には一般の方ですので、サラ様がここに来られる前にお知り合いになった方かと…。」

 「誰かしら…。えっと、入口の方ですか?」

 「いえ、客室で待機していただいてますので、ご案内いたします。」

 ありがとうと言い、サラが席を立つ。ルウェル王子はまた後でねサラと手を振り見送った。


 それから一時間後。

 クロム執事がサラの部屋を訪れる。

 「失礼いたします。サラ様、夕食のメインに関してなのですが…。」

 すぐに部屋のテーブルで、一人突っ伏している男を見つけた。明らかな負のオーラに、思わずたじろぐ。

 「ル…ルウェル様…?」

 彼はばっと顔を上げると、絶望に満ちた視線を向けた。金髪のふわふわとした髪を揺らし、ぶるぶると体を震わせている。口からぼそぼそとした声が飛び出る。

 「サラが…一時間も帰ってこない……。」

 その瞬間、ガタっと席を立った。頭を抱え、もう我慢の限界だを叫び始めた。

 「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!あの笑顔が見たいっ。優しい声で俺に話しかけて欲しいっ。頭がおかしくなりそうだ。いやいっそ写真でも良い。君に声をかけられるなんて贅沢だったか?!贅沢だよな?!俺は傲慢だった。髪の毛一本で十分だからっ。まつ毛でも眉毛でも大歓迎さ。君のたんぱく質が感じられるだけで俺は幸せだ!」

 「ルウェル様、落ち着いてください。」

 クロム執事が両肩に手を置くが、彼は止まらなかった。目の焦点がおかしくなってきている。

 「くそっ。どの姿を取ったらいいか、どれも可愛くてシャッターチャンスに迷っていた俺が馬鹿だった。写真の一枚でも取っておけば…!こんな状況に陥る日が来るなんて思ってもみなかった。でも、なあ許してくれ。写真を閉じ込むファイルを発注してまだ届いてないから、撮った写真が保存できないのは嫌だったんだ!…待てよ、紅茶か?サラの飲んでたコップに紅茶を淹れて、俺が飲むか?いや、本人がいないときに間接キスするなんて傲慢にも程がある。俺は変態になりたいわけじゃない。いや待って?俺は元々変態だったか?!」

 完全に発狂していた。クロム執事が返答に詰まっていると、窓が突然バンバンバンと叩かれた。さっと視線を向けると、ベランダに酒を持った男がへばりついていた。

 「アルゴ様…!?」

 クロム執事が驚いていると、シラを切らした彼は窓をドライバーで一部破壊し、鍵を開けた。そのままずかずかと部屋に乗り込むと、ルウェル王子の方に手を置いた。真剣な声で言う。

 「おい、サラが誘拐されてるぞ。」

 「なんだって!?」

 発狂している彼の耳に、しっかりと言葉が届いた。瞬時に焦点が合い、ばっと顔を上げる。やることなど決まっている。この禁断症状を解決するのみ。

 「サラを連れ戻すぞ!」

 異常な目に、アルゴ王子も異常な目をする。

 「ああ。俺も協力しよう!」

 クロム執事の横をすり抜け、イカれた二人の王子は部屋を飛び出していった。


 その頃、城下町の外れにある小屋で、一人の中年の男がへへ…と言い、札束を数えていた。真っ黒なダウンコートを着て、薄暗い小屋に紛れるようにいる。

 「誘拐ごときで金がもらえるとはな…。これで俺も金持ちだ。食事に困ることも無い。まさか、家に投げ込まれた、誰が書いたか分からない依頼書を遂行したら、こんなことになるとは思ったも無かったぜ。」

 彼は裏の世界では有名な誘拐犯かつ殺し屋だった。周囲には彼の他に住人くらい同じ格好をした男がいた。無論、共犯の仲間である。いつも行動するときはグループで行動していた。男は近くに視線を向けた。そこには、気を失ったまま、両手足を縛られ、柱に括り付けられているサラ。

 「ハハ。あんたのおかげでここまで稼げたよ。初対面でも、礼の一つくらいしないとな。」

 そう言うと、近くの棚からハンマーとカメラを取り出した。

 「見知らぬ女とはいえ、王子に結婚迫られて、可哀想に。同情するよ。他に好きな男とかいたら、生きてるだけで辛いだろう?なあに、俺が救ってやるよ。ハンマーでその頭ぶっ叩けば、少しは醜くなる。好きでもない男と一緒にいるなんてこたあ無くなるさ。あっちから願い下げてくれるよ。」

 ハンマーを振りあげ、目をつぶったままのサラにいざ…。

 その時だった。

 ゴワシャアアアアアアアアアアアアアアア!

 突如天井の一部が抜け落ちると共に、二人の男が落ちて来た。服はどちらも王子服で、一人は赤髪で一升瓶を持ち、酒を飲みながら落ちてきていた。もう一人はふわふわとした金髪である。砂埃を舞いながら、颯爽と着地する…と思われたが、なんと金髪で白い王子服の方は、空中で既に剣を抜いていた。同業者のそれより気の狂った、明らかな殺意を目に浮かばせ、サラの横にいる男に向かって叫ぶ。

 「この野郎!」

 剣をぶん投げ、ハンマーを持つ男の腹に、柄の部分をめり込ませる。常人とは思えない剣のめり込みように、男がうめき声をあげ、近くの壁に体を打ち付ける。

 「ぐっ…?!」

 剣と共にその場に倒れ込む。腹に穴は開きはしなかったが、確実に骨とあざは出来た気がした。思わずその場で吐きながら、冷静に考える。

 (なんだこの剣…異様に早く飛んで来たぞ…?)

 さっと目を走らせ、周囲を見ると、もうひとりの赤髪の男も一升瓶で近くの仲間の頭をぶん殴っていた。ルウェル王子が足をドスドス鳴らし、サラを連れ出して逃げようとする仲間に掴みかかる。狂気じみた不気味な笑顔を浮かべていた。

 「サラを………よこせよ。」

 どう見ても王子の存在とはかけ離れていた。完全に同業者で、よりプロの誘拐犯若しくは殺し屋の声の口調である。よく見るとカタカタと腕が震えていた。怒りを押し殺しているようにも見え、あまりのやばさに固まる男たち。だがサラを抱えたままなのを見て、彼は遂にしびれを切らした。

 「よこせっつってんだろ!」

 叫びと共に、遠くにいたアルゴ王子が振り回していた一升瓶が手から抜け、ルウェル王子の方にたまたま飛んでいく。

 「あ。すまねえな。手からすっぽ抜けた。」

 けらけら笑うアルゴ王子。彼は一升瓶を手に取るとサラを抱えている男の頭を、一升瓶でぶん殴った。そして力が抜けたのを見て、即座にサラを抱え上げる。その途端、今までの表情が一変し、彼はものすごく笑顔になった。気を失ったサラを見て、デレデレしている。さっきまでの殺意の目はどこかへ消えてしまった。早口でまくし立てる。

 「ああーーーーーっ。サラ!可愛い落ち着く。一時間ぶりのサラ、ああ、こんな贅沢良いのかな。またお姫様だっこしちゃったけど、え、良いのかな。でも俺頑張ったよね。耐えたよね。うわ幸せ。やっぱり写真とかより、実物が一番。気を失ってるところはちょっと悔しいけど、君に俺のかっこいいところを見せられなかったのは悔しいけど、こんな暴力的なところなんて見て欲しくないから結果オーライさ!」

 あまりの変わりように戸惑う男たちを、即座にアルゴが後ろから剣で切り殺した。そしてポケットから小瓶を取り出し、中のオレンジ色の液体をぐびぐびと飲む。ルウェル王子とサラに目を向け、静かに微笑んだ。

 「携帯用の酒はやっぱり大事だな。美味しい時に飲めると本当に上手い。」

 ルウェル王子の剣の付近で腹を抱え呻いている男に気が付くと、アルゴ王子はサラに夢中なルウェル王子の死角へ引っ張りこんだ。悲鳴をあげさせずに、さっと剣でとどめを刺す。酒を飲みながら冷たい視線を向けた。

 「良いムードに入ってくんな。」

 気を取り直したようにルウェル王子の方を振り返る。にっと笑うと、彼の肩に手を置いた。

 「よし、そろそろ帰るか。」

 

 部屋で優雅に紅茶を飲む男達。一人はベットに横たわるサラを眺めにこにこし、もう一人は平然としつつもそんな二人を盗み見て口角をあげ、もう一人の執事は静かに口を開いた。

 「ところでアルゴ様、どうしてサラ様が誘拐されたと分かったのです?」

 「現場を見てたからな。客室に来て、あの男と二人きりになったら、気絶させられてたんだ。」

 その言葉を聞いたルウェル王子が、一瞬で真顔になった。突き刺さるような視線をアルゴに送る。その様子を横目に、クロム執事も真面目な顔になる。

 「となると…アルゴ様は今日こちらにいらしていたと…?」

 執事の質問に詰まるアルゴ。だがルウェル王子はそんなことどうでも良い様子だった。

 「アルゴ。俺が見ていない時に、サラをお前が見ていたということか…?」

 クロム執事がああ、聞きたいのはそちらでしたか…と驚いた様子を見せる。目の奥で静かに揺れる殺意。なにせ禁断症状後だ。まともではいられない。言いたいことが分かったアルゴは、即座に席を立った。

 「用事があった。帰るわ。」

 「待て。ここに命を置いていけ。」

 「俺は王子だぞ。馬鹿言うな。」

 「俺も王子だが?」

 二人はじっと見つめ合った。両者動いたのは同時だった。ルウェル王子が剣を抜き、アルゴに向かってぶん投げる。だが彼の方がわずかに早かった。爆速で開いた窓へ向かう。ルウェル王子がティーカップの皿をぶん投げるが、またもや当たらない。アルゴはそのままベランダに出た。

 「じゃあな!」

 焦った叫びと共に、ベランダから飛び降りていった。ルウェル王子の発狂した唸り声が部屋に響き渡った。

こんにちは。星くず餅です。

ルウェル王子の禁断症状。元ネタあります。

野菜ジュースです。あくまで個人の経験ですが、毎日飲み続けていると、飲み忘れた日に禁断症状が…。

突然来る上に、最早千切りキャベツだけでも良いと感じますが、とても一時的であるので耐えられます。

ルウェル王子の場合は、それの誇張バージョン。

健康のために飲むとかではなく、好意からの発狂…うん、この王子ヤバイな。

皆さんも気を付けてください。

特に野菜ジュ…ウゲゴホンゴホン。個人の感想ですはい。

次回は未定です。

少しPV数を検討して、続ける場合は、来週の土日あたりに投稿出来たら良いなと思います。

よろしくお願いします。

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