1.その王子、秘密あり
異世界番号0808。
セイレル王国では、面会が行われていた。国王の第三子である、ルウェル王子の縁談である。相手は王子が指名した、一般女性のサラ。なぜ一般人女性を…?と一時期は噂されたものの、第一子王子が他国の姫と、第二子王子が貴族と、となれば、次は国民と来たわけだ。まあ、他国との関係も良く、貴族とも良く、それに加え自国民にまで目を向けてくれる良い王様…!となれば支持率は良くなる。そういうわけで理由はともかく、縁談は開催された。
そして会場では、王子がめちゃくちゃ騒いでいた。
「好き!結婚して!いや待って。…もし嫌だったら断ってくれても良いよっ。それでも俺は君のこと好きだけどっ!」
「あッ…えっと…?……こちらこそ……その…よろしくお願いいたします…?」
「うわあああああああああああ!ありがとおおおおおおおおおおおおおお!今日人生最高の日だっ。やばい、まず収納を考えないとっ。写真は何枚も取る気だし、動画もダビングして保存しておきたいし…。え?泣いて良い?俺もう感動と幸せで涙腺崩壊しそうなんだけどっ。」
あまりの様子にやや面食らいながら、相手の女性が承諾した。
そうこれは、溺愛?ポンコツ?王子と、お相手の女性の話である。
とりあえず婚約は確定したが、挙式となると時期を選ばなければならない。それに、まだ互いのこともよく分かってないということから、挙式自体はしばらく後に回し、その間お互いのことを知ったり、一般人であるサラは城での生活やルールを学んだりする期間とすることになった。基本的にサラは城に住まうこととなり、荷物はすぐに馬車で移動され、部屋へと運ばれた。部屋は王子の部屋の隣である。家族は城下町で豊かな生活を送れるように国王が手配してくれた。
サラが来て初日。荷物移動などで時間が立ち、窓の外は夕暮れが綺麗だった。王子は既に彼女の部屋を訪れていた。テーブルに座り、とりあえずお話ししようというわけだ。サラは何も分かってない様子で、何が始まるのだろうと困った顔でいる。王子側の使用人が用意した真っ白なドレスを着て、椅子にちょこんと座っている。テーブルの上の紅茶は静かに湯気を立てていた。彼は真っ白な王子服を着て、ふわふわとした金髪を揺らしながら、上品な笑顔を浮かべていた。
(…まずは何から聞こうかな…。うわー!可愛いっ。緊急で無地のドレスしか用意できてなくて、露出も飾りも何もないのだけれど、だからこそあふれ出る上品さ!癒し!可愛さっ。すらっとした体形で少し瘦せてて、胸もあまりないところが、お人形さんみたいで綺麗だ。しかも似合ってるのがまた良いっ。未だに俺の婚約者ってのが夢かと思うほどかわいい。なんて幸運なんだ。まずは相手の好みから?いやいや、それとも、初めから俺のこと聞いちゃう?それもありだなあ。はアー↑幸せぇ↑!……よし、決めた。)
「…その、縁談を承諾してくれたよね。決め手というか…どうしてオーケーしてくれたんだい?」
(もうぶっちゃけ縁談決まったから、別にどんな理由でも良いんだけどね、やっぱ気になるよねぇ。ほら、あんまりお互いのこと知らない訳だし、やっぱルックスとか、王子だからとか…。一目ぼれとか、いろいろあるし……。)
彼女はキョトンとして答えた。
「えと…悪い人じゃなさそうだったので。」
その瞬間、彼の頭の中に宇宙が芽生えた。
(悪い人じゃなさそう…。いやまあ…。確かにね、王子だしね、悪い人じゃないけども…。)
必死に脳内を宇宙から切り離し、思考をフル回転させる。
「そのォ…ルックスとか…は…?」
「いや別に…特に…そんなに…。」
再び、彼の脳内に宇宙が芽生えた。
(特に…そんなに…。)
小さく溜め息を吐き、心を落ち着かせる。なんだか背中に冷汗が垂れた気がしたが気のせいだろう。
(いや待て。そうだよな。いや、自慢じゃないけど、モテるけども!俺のルックスが君好みとは限らないかァ。う~ん。いや、予想の斜め上を越してくるそんな回答も、かわいくて俺は好きだけどね☆もう名言集とか作っちゃって部屋に飾っても良いくらいには君を愛してるけど。う~ん、そっかァ…。あれ、もしかして俺に興味ない?なんか視線が違う方向に向いてない?)
「…えっと…その…ちょっと気になるのがさ、縁談もう決めちゃった後だから何とも言えないんだけども…。もしかして、他に付き合ってた人とか好きな人とかいたり…?」
恐る恐る聞く王子に対し、彼女は淡々と答えた。
「いえ。今まで恋愛したこと無いので……いないですね。そういう人は。」
その言葉に王子は心の中でガッツポーズをしていた。
(これはっ…推せるっ…推せるっ!…恋愛経験ゼロとか、もうそんなの可愛いに決まってる!ってことは待てよ、初照れ顔を拝めるってことか?!俺が、俺だけがっ、照れ顔初めて見れるってこと?!なんだこのVIP接遇は?婚約者になってくれてありがとう、神様この女性と出会わせてくれてありがとう!もう俺幸せ過ぎて気がおかしくなりそうだっ。)
心の中では騒ぎまくっているが、何事も無かったかのように優雅に紅茶をすする。女性は未だにそわそわした様子で、王子が飲む様子を見ていた。その様子に気付いた彼が視線を向けると、彼女は慌てた様子で言った。
「あ、えと…その、まだここに来たばかりで慣れていないもので…。何か特別な飲み方があったらと思って…。」
一本縛りの薄桃色の髪の間から、赤くなった両耳が垣間見えている。王子はにっこりと微笑んだ。口から本音が滑り出る。最早隠す気など無い。
「慣れても良いし、慣れなくても良いよ。うん。多分、君がどう行動しても、俺は感謝の拍手を送る自信しかない。」
ちょっと衝撃だったのか、サラは少し困った表情を浮かべた。どうやら少しドン引きされた様子。だが王子はにこにこと微笑んでいた。ドン引きされようが、嫌いだと言われようが、可愛い。それは何があっても覆らなそうだった。
突然部屋の扉が数回ノックされた。
王子が返事をすると、使用人の一人が部屋に入ってきた。
「お話し中、失礼いたします。サラ様、早速ですが城での生活のマナーに関して、お話がございます。これから長きにわたり、ちょっとずつ学ぶこととなります。王子の婚約者となれば今後、多くの方々とも接することになりますでしょうから、お疲れのところとは思いますが、本日は今から、ほんの少しだけ学びませんか。」
「…いえいえ、確かに少し疲れてはいるけれど、マナーを学ばせていただけるなんて…感謝しかありません。これからよろしくお願いいたします。」
サラが慌てて立ち上がり、深々とお辞儀をする。その様子を見て使用人は優しく微笑んだ。
「サラ様、とてもご立派なお辞儀でございます。ですがどうか、今後はお控えくださいませ。頭を下げるべきなのは私どもの方でございます。…それと、これは余計かもしれませんが、サラ様。本日のドレスはそのような無地のドレスしか用意できず申し訳ありません。緊急で用意できるものがそれしかなく…数日以内に素敵なドレスをご用意いたしますので、それまで少々お待ち下さいませ。」
「まあ、そんな…。でも、分かりました。ありがとうございます。」
ドレスに関しても何か言おうとしたが、使用人の言葉を思い出し、切り替えた様子だった。ここでは婚約者であるという自覚が芽生えたのだろう。使用人の案内に従い、サラは別室へと向かうこととなった。
「ルウェル王子様、それでは失礼いたします。」
「ああ、分かったよ。サラ。帰ってきたらまた少しお話ししよう。」
「はい。」
二人が部屋から出ていくのを見送ると、ルウェル王子は小さく声をあげて背伸びをした。
「さて…。今日も少し訓練しようかな。」
その時、再びノックが響いた。王子が返事をすると、一人の執事が部屋に入って来た。かなり年を取っているが、すらっとした体形をしている。椅子に座ったままの王子に向かって、静かに言った。
「ルウェル様。長男であるオリフィス様が隣国から戻られるそうです。城に戻って来るのは、三日後だそうですよ。」
「へえ。絶好の機会が回って来たもんだ。」
彼は不敵な笑顔を浮かべた。執事の目が少し肝の据わった目になるのを見て、彼は慌てた様子で言った。
「おっと、まだだよ。まだ、仕返しには早すぎる。次男と長男と…って確かにそろったけども、まだバレる訳にはいかないからね。長女がまだそろっていない。それに…サラが来たんだ。ちょっと泳がせてみるのもありだと思わないか?」
「…失礼ながら、本当にサラ様を愛しておられるのですか?」
執事の訝し気な質問に、王子は静かに微笑んだ。
「その質問には、今度答えるとしようかな。もう訓練の時間だ。今、城に誰もいない場所はどこだい?」
執事は王子の答えが少し気になる様子だったが、淡々と答えた。
「四階の西側と、南側には誰もいません。」
「よし、そこで訓練するとしよう。一時間くらい訓練するつもりだから、俺がいない間のことは頼んだよ。」
「かしこまりました。」
執事が深々とお辞儀をする。顔を上げたときには王子の姿は無く、部屋の窓が開き、優しい風が流れ込んできていた。
こんにちは。星くず餅です。
これ、悪役令嬢ものを書こうとして生まれた、副産物です。
半ば発狂して書いたものでして、王子は御覧の通り変でございます。
ギャグ強めのラブコメです多分。
とりあえず投稿してみました。今のところ、まだ四話しか完成しておりません。
反応が良ければ、話数を増やしていこうかと考えております。
次回は次の土曜日の午後一時を予定しております。
多忙につき、投稿が遅れる事もありますのでご了承ください。
無断転載、自己制作発言等お控えください。
ちなみに、作者はX(旧Twitter)をしておりませんので、よろしくお願いいたします。