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横山党、来たる

 昇る朝日が鎌倉の海を照らしている。

 建暦三年五月三日が始まろうとしていた。


 重兼は、喧騒によって目を覚ました。

 地面に布団も敷かずに寝たせいで、身体のあちこちが痛む。

 身体をほぐして痛みをとりながら周りを見渡すと、味方が集まって歓声を挙げている。

 どうやら増援が到着したらしい。

「重兼。 起きたか」

 一足先に起きていた兄、政義が声をかけてきた。

「兄上、あれは?」

「甲斐源氏だ。 武田信光殿が着いたらしい」

「なるほど」

 たしかに、旗印をみると武田菱が描かれている。

 あれが武田信玄のご先祖様か。

 そんな事を思いながら、重兼は新たな味方の到着を眺めていた。



「義時殿。 この武田信光、三百の手勢をもって参陣いたした。 我等 、甲斐源氏一門全てが幕府の御恩に報いるは今、この時と心得ておる次第」

「信光殿。 遠路の行軍ご苦労だった。 武田家の忠節は、将軍もさぞかしお喜びであろう」

「ははっ」

 簡単な挨拶を交わした後、義時は信光に戦の状況を説明した。

 勿論、重兼達の活躍も含めてである。

「なるほど。 新田党の方々、見事な活躍ぶり。 左様な事なら我等など必要なかったやも知れませんな」

「いやいや。 味方は一人でも多い方が有り難い。   信光殿には何と感謝して良いか分かりませぬ。 それに、敵方にも増援があるらしいので、武田家の方々には頼りにさせていただきたい」

「心得申した。 それではお味方に挨拶をして回るので、また、後ほど」

 そう言って信光はまず、新田党の方へ足を向けた。


 新田家を代表して、棟梁の政義が信光に応対した。

「信光殿。 お味方していただけるようで、真に心強いです」

「政義殿、久しいですな。 いち早く参陣なされただけでなく、手柄も挙げられたそうですな。 実にお見事」

「恐縮です」

 意外な光景に思えた。

 こっちは上野国の平均的な御家人に過ぎないが、武田家は甲斐源氏の棟梁である。

 接点など無いはずなのだが。

 会話する時は、上から目線で話されてもおかしくないように思える。

 すると、信光は重兼に目を向けた。

「おお、貴殿が重兼殿か。 聞きましたぞ。 素晴らしい武功を挙げられたそうですな。 政義殿は良き弟を持たれたものだ」

「恐れいります」

 一礼して感謝すると、重兼は兄に尋ねた。

「兄上、信光殿とは親しいので?」

「えっ?」

 政義は、キョトンとした顔つきになった。

「重兼殿。 ご存じなかったのですか?」

 信光が、同じような表情で聞いてくる。

「某の妻は新田家の祖、上西入道(新田義重の法名)殿の娘なのです。 つまり某は新田家とは縁戚なのですぞ?」

「なっ……」

 全然知らなかった。

 自分の中に軽い驚きと、新田家の祖である新田義重に対する評価が変わったのを感じた。

 つまらない意地にこだわって、時代の流れを読もうとしなかった男。

 それが重兼の新田義重に対する評価だったのだが、彼の構築した他の武士団との関係は意外に役立つのかも知れない。

 そう思えた。

「……一向に存じませんでした。 失礼つかまつった。 どうかお許し願いたい」

「某からもお詫びします。 信光殿、どうかお許し願いたい」

 政義も頭を下げる。

「構わぬ。 舅殿が亡くなられてから、随分と無沙汰をしておったからな。 忘れていても仕方ないであろう」

 信光は気にした様子もなく、笑い飛ばした。

 その時、歓談する重兼達の耳に喧騒が届いた。

 しかしそれは、甲斐源氏の到着の時とは違い、驚きと動揺のそれだった。

「何事だ?」

 政義が騒ぎが起きた辺りへ歩き出す。 

 重兼、信光もあとに続く。

 どうやらどこかの武士団が着いたらしいのだが、雰囲気がおかしい。

「何があったのだ!?」

 政義が尋ねるが、誰も答えてはくれない。

「旗印からすると、結城朝光殿のようだが……」

 呟きながら信光が人混みに割って入ると、そこには『ボロボロ』とか『ヨレヨレ』といった風体の武士達がいた。

「義時殿は何処か。 朝光が戻って来たと伝えてもらいたい」

 棟梁らしい男が疲れきった様子で話した。

 それを聞いて何人かの武士が走って行き、しばらくして義時や、他の有力御家人達を連れて戻ってきた。

「朝光殿。 どうしたのだ!? 腰越を守っていたのではなかったのか!?」

 義時の問いにその男、結城朝光は首を振った。

「敵の増援に、横山党にやられた……」

 無念そうな朝光に、義時の傍らにいた足利義氏が怒りの声をぶつけた。

「それであっさり逃げ帰ってこられたのか!? 情けないと思わんのか!?  横山党の合流を防ぐのが貴殿の役目でござろう! 恥を知れ!」

 それに対し、朝光も怒りの声で応えた。

「その場にいなかった者に、とやかく言われる筋合いはない!! お主だったらどうにかできたとでも言うのか? こちらは百五十騎足らず、向こうは優に二千を越えておったのだ。 またたく間に数で押しつぶされたわ。生き残るだけで精一杯だった!!」

 それを聞いた者達の間に、沈黙と戦慄が走った。



 横山党の棟梁である横山時兼は、和田一族の熱い歓迎を受けていた。

 数で劣っている和田党に、軽く千を越える手勢を引き連れて合流しただけでなく、手土産代わりに結城家の軍勢を蹴散らしたのだ。

 和田党の士気は劇的に向上した。 

 意気消沈している父に代わり、長男の和田常盛が時兼を出迎えた。

 時兼とは、彼の妹を妻に迎えている事もあって親密な仲である。

「義兄上、よくぞ来てくださった!」

「常盛殿、お久しゅうござる。 まずは戦いに遅れた事をお詫びいたす」

「一向に構いませぬ」

 挨拶の後、時兼は戦いの状況を尋ねた。

「打ち合わせでは今日が挙兵のはずだが、何故、我等の到着を待たずに戦を始めたのだ?」

「それは……」

 常盛はこれまでの経緯を説明した。

 前日の夕刻に、北条方から攻撃を仕掛けて来た事。

 三浦義村が裏切った事。

 そのままズルズルと本格的な戦闘に引きずりこまれて、味方は常盛の弟の義秀が討ち取られた事。

 それによって父、義盛が意気消沈してしまった事など

「なるほど。 左様な事になっておったとは……」

「面目無い」

「何を言われる。 我等が来たからには、北条とその味方など捻り潰してくれよう。 常盛殿、戦はこれからですぞ」

「真に心強い。 して、お味方はいかほど連れてこられたのか?」

「まあ、二千ほど」

「なっ……」

 常盛は仰天した。

 確かに横山党は武蔵国の有力武士団ではある。

 しかし、それほどまでの動員力があるとは到底思えなかった。

「どのようにして、それほどの兵力を集めたのですか?」

 常盛の問いに、時兼はニンマリとした笑みで答えた。

「近隣の武士達に、北条と戦うという名目で軍勢催促をしたのよ。 そうしたら、集まるのなんの」

 義兄の言葉で、常盛はある程度の理解ができた。

 十年ほど前は、武蔵国の武士達は畠山重忠が仕切っていた。

 しかしその畠山重忠は北条の謀略によって殺害され、その一族は族滅の憂き目になった。

 その後、畠山の家名を継いだのは北条との関係が深い足利であった。

 しかも北条義時の弟、時房が武蔵守に就任して、北条家は文武の両面から武蔵国への影響力を強めている。

 武蔵国の武士達にとっては不快な状況になりつつあるのだ。

 彼等の中には源頼朝の父、義朝の代から源氏の家人だったという者も多く、北条なぞの下風に立つなどごめんだと思っているだろう。

 何しろ、頼朝が挙兵するまで足利はともかく、北条なんぞ聞いた事も無いという武士は多いのだ。

 武蔵国の武士は、昔の著名な軍事貴族の末裔が多く、彼等からすると北条なんぞどこの馬の骨だが分からない成り上がり者でしかない。

 その馬の骨が自分達の上に立とうとしているのだ。

 不愉快としか言いようがないだろう。

 彼等にとって今回の戦いは、目障りな北条を潰す絶好の機会なのだ。

 あと、相模の国の武士達もこれから合流するはずだ。

(これは勝てる)

 常盛は、確信した。





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