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兵乱の前夜

 鎌倉の北条義時邸。

 重兼は、北条義時と面会していた。

 尋ねたいこと、報告せねばならないことがあるためだ。

「重兼。 火急の用とは?」

「どうしてもお知らせしなければならない事が」

「何か」

「つい先程、我が一族の岩松時兼が見知らぬ者と和田義盛の屋敷に入って行くのを見かけました。 兄の政義には知らせずにです」

 重兼は義時の表情に目を凝らした。

 岩松時兼は、新田家を裏切って和田義盛につくつもりやも知れない。

 しかし、新田宗家は義時の味方だ。

 そう伝えたかった。

 しかし、義時は信用しないかも知れない。

 だが、それは杞憂だった。

「そうか。 他には?」

 だからどうした? と言わんばかりの反応を示されたのだ。

 重兼は、いささか拍子ぬけしながら言葉を続ける。

「ええと、和田義盛は何か、動きを見せておりますでしょうか」

「当然だ。 だが、案ずるな。 向こうの動きは把握しておる」

「左様でしたか……」

(史実通りになるな)

 重兼は確信した。

 義時は勝つ。

 そして、勝者につく事で、新田家の未来は拓ける。

 おそらく、和田義盛の周囲にスパイを配置してあるのだろう。

 誰が義盛についたなどは先刻承知と言うわけだ。

「失礼いたしました。 どうやら義時殿は全てをお見通しのご様子で」

「不安は拭えたか?」

「ははっ!」

「良いか? しばらくは何もせずとも良い。 事は全て筋書き通りに進んでおるのだ。 儂を信じて傍観しておれば良い。 分かったな?」

「御意にございます」

 安堵した重兼は、北条邸を退出した。


 その後、重兼は義時に言われた通り、様子見に徹した。


 建暦二年十二月。 

 世間は年末特有の慌ただしさに満ちていた。

 新しい年の準備に誰もが、「師走」の字の通り、学問の師も走り回る様な忙しさである。

 しかし、信濃国の小泉荘の泉親衡の館はそうではなかった。

 皆が寝静まった真夜中に、客人が訪れたのである。

 客は三人だった。

 泉親衡はその三人を自室にて、丁重に迎えた。

「遠路を、よくぞお越しくださった。 失礼ですが、方々のご尊名を賜りたいのですが」

 親衡の問いに、最年長らしい男が口を開く。

「某は和田義盛の子、四郎義直でござる。 こちらは弟の五郎義重と、従兄弟の胤長殿でござる」

 義直の答えを聞いて、親衡は三人を見回した。 

 いずれも和田義盛の血縁らしく、精悍な顔つきをしている。

 確証はないが、胤長が最年少のようだ。

「本来なら、胤長殿だけが参る予定でしたが、父の命で我等が同行した次第です」

「ほほう。 何故に?」

「胤長殿お一人より、我等がいた方が兵を集めるのに都合が良いだろうとの事です」

「……確かに」

 親衡は頷いた。

「事情は分かりました。 それでは方々、部屋の方へご案内いたします」

「親衡殿がですか?」

 和田胤長が驚く。

 このような事は下人がする事であり、主人がする事ではない。

「家の者は皆、休んでおります故」

「ああ、左様でしたか」

 三人は納得して、親衡の後に続く。

 部屋には既に、寝床が用意されていた。

「ではごゆっくり、旅の疲れをとってくだされ」

「かたじけない」

 互いに頭を下げた後、親衡は部屋を出た。

 顔がニヤけるのを必死に抑えながら。

 和田義盛の甥だけでなく、息子までも飛び込んてきた。

 これで、これから起きる事に和田義盛が深く関わっている動かぬ証拠が出来上がった。

(さて、最後の仕上げだな)

 年が明けたら動きだす事を決めて、親衡は寝所に向かった。

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