北条兄弟
北条義時は思案していた。
泉親衡がこちらについたおかげで、和田一族排除の計画は大きく前進したと言える。
しかし、彼から聞かされた事で、どうしても放置できない事ができてしまった。
「誰かあるか」
下人を呼びつけた。
「義時様。何用でございますか」
「時房を呼べ」
しばらくして、北条時房が兄の館にやって来た。
義時は、自室に弟を招き入れて人払いをする。
「兄上、如何なる用件でございますか」
「何故、黙っておった?」
「何がですかな」
「和田義盛の件だ」
「はっ?」
「泉親衡が教えてくれたのだ。 奴と和田義盛が儂を討つ話をしているのを、お前に聞かれたとな。」
「……」
「申し開きは無いのか?」
「義盛の奴は、諦めていなかったのですか?」
弟の言葉に、義時は意表を突かれた。
「それはどういう意味だ?」
「拙者は確かに聞きました。 しかし、露見した以上、すぐに諦めるだろうと思っておったのです。故に知らせませんでした」
「……」
義時は考え込んだ。
時房の言う事に、一理はある。
しかし、信用できない。
「兄上。 お知らせしなかった事は幾重にもお詫びいたします。 どうか拙者を信じてくだされ。 もし、和田と事を構えるならば、拙者が先陣に立ちましょうぞ」
時房は、深々と頭を下げた。
「分かった。 お主の覚悟、しかと受けとめた。 疑って済まなかったな。 下がって良い」
「ははっ」
弟が帰った後、義時は再び考え込んだ。
おそらく、弟は北条の当主の座を狙っている。
密談を黙っていたのは、自分と義盛が共倒れになるのを期待していたからだろう。
先刻の言葉は、「もし信じぬならば、義盛の側につくぞ」という脅しもこめられているのだ。
排除するか?
それはできない。
和田義盛との戦いを前に、内輪もめなど論外だ。
何よりも、実の弟でもある。
ここは、自分の権威と実力を認めさせて従わせるのが得策だろう。
その為には、和田義盛を何としてでも討ち滅ぼす必要がある。
「世話が焼ける……」
義時はため息をついた。
同じ頃、時房もため息をついていた。
(危ないところだった……)
心底そう思う。
兄に、処罰をためらわせる事は出来たが、油断はできない。
それにしても、和田義盛は予想以上に使えない奴だった。
こうもあっさり仲間に裏切られるとは!
人の上に立つ器ではない。
まして、兄の義時に勝つなど不可能だ。
兄と義盛が共倒れになって、自分が漁夫の利を得る、北条の当主になるなど期待するするだけ無駄だろう。
時房には、先が見えた。
「しばらくは、様子見だな」
時房は、そっと呟いた。




