日常の陰で
上野国、新田荘。
総持寺、新田館。
甘粕重兼は悩んでいた。
一つは、以前から考えていた食生活の改善。
もう一つは、新しい目玉商品の開発である。
前者については、半ば諦めている。
何しろ、この時代は食材と調味料が少なく、変化をさせるのが難しい。
まして、重兼は美食家ではない。
後者は諦める訳にはいかない。
新田家の収入増加につながる事案で、もうすぐ起こる和田合戦における資金源にもなるからだ。
今、収入が乏しい訳ではないが、お金があるのにこした事はない。
「何かないかな……」
自室の床に寝転がり、重兼は考え込んだ。
別に高価でなくても良い。
大量生産が可能で、生活必需品に近い物。
それなら安くても利益が見込める。
「……」
しかし、思い浮かばなかった。
相模国、鎌倉。
重兼が呑気な悩みを抱えていた頃、北条義時は館で二人の男と対面していた。
泉親衡と青栗四郎である。
「それは本当か?」
「いかにも」
親衡が答える。
「我等は義盛めに、義時殿を討つ企てに加わるよう持ちかけられましたが、幕府を裏切るなど出来るはずもなく、お知らせに参った次第」
「殊勝な事よ」
言葉とは裏腹に、義時の胸中には冷やかな思いが満ちていた。
義盛よりも、自分に勝ち目があると思って裏切っただけだろう。
まあ、義盛の無能を見抜いたのは褒めてやっても良いが。
そう思っていた。
勿論、口には出さない。
義時は冷静だった。
しかし、泉親衡の言葉には驚かされた。
「時房殿はからは、聞いておられぬのですか?」
「何だと!?」
一瞬、理解出来なかった。
何故、弟の事が出てくるのか?
「以前、義盛と義時殿を討つ話をしていたら、時房殿に聞かれてしまったのですが……」
義時は答えなかった。
動揺を隠すのに必死だった。
何故、弟は、時房は知らせなかったのか?
まるで分からなかった。
しかし、それについて考えるのは後回しにした。
今は、目の前にいる二人を丸め込んで味方につけるのが先だ。
もしここで、北条家が団結していない事を知られたら、この者達は義盛につくかも知れない。
「……弟からは知らされていた。 ただ、どうしても信じられなくてな。 様子見をしておったのだ」
「左様ですか」
「まあな。 それよりも……」
義時は思案をめぐらせた。
義盛は動き出した。
こちらも対応しなければならない。
理想は、『将軍に対して謀反を起こした和田義盛を、北条義時が成敗した』という結果になる事だ。
幸いな事に、現将軍の実朝は義時の手中にある。
あとは、義盛が謀反を起こす理由を捏造すれば良い。
(どうしたものか……)
暫くして、義時はある人物の事を思い出した。
すると、瞬く間に理想的な筋書きが出来上がる。
(これはいける!)
おのれの成功と勝利を確信した義時は、二人に目を向けた。
「二人とも、耳を貸せ」
近づいた二人に義時は、自分の思い描いた筋書きと、それを実現するための指示を伝えた。
翌日、二人は和田義盛の屋敷にいた。
「信濃に戻るだと?」
「はっ。 所領で兵を集めておこうと思います。 義盛殿もそろそろ、御子息にでも兵を集めさせた方が良いかと」
「なるほど……」
義盛は頷いた。
「誰かあるか」
主の声に、下人が姿をみせる。
「義直と義重に伝えよ。所領で兵を集めておけとな」
「はっ」
下人が下がる。
「それでは我等はこれで」
「うむ。 頼んだぞ」
二人は退出した。
顔に邪な笑みを浮かべて。




