戦争反対!
「戦争なんてなくなればいいのに」
朋花が言った。
遠くで勃発した戦争に、クラスのみんながこぞってそれを話題にわいわいやっている。
あたしは朋花と抱きしめ合って、愚かな人間たちのことを想い、悲しんだ。
「プーサンが悪者だ」
「プーサン、大喜利のネタとして使うには面白かったのにな」
戦争を仕掛けたのはオソロシヤ帝国だ。
自国の言いなりにならないフェアリー共和国に一方的に開戦したらしい。
朋花が言った。
「誰も死ななかったらいいのに」
あたしもうなずいた。
「なんで戦いが起きるんだろう」
自分たちには関係ないと思えることなのに、あたしたちの心はフェアリー共和国の民衆のことを想って、ひどく痛んだ。
「おい! これ見ろよ」
男子たちが何やら騒いでる。
「これ、フェアリー共和国の人らしいぞ!」
男子が囲んでる誰かのスマートフォンを見ると、銀色の髪の、モデルさんらしき外国人の美人さんが、日本の生活を笑顔で楽しんでいる様子が映し出されていた。日付は今日だった。
みんなが口々にいう。
「何してんだ、こいつ」
「自分の国じゃ戦争が起こってるってのに、楽しそうに……」
「コメしようぜ。『おまえが楽しそうにしてちゃいかんだろ』って」
実際、見ているうちにもそんなようなコメントがたくさんついていた。
『フェアリー共和国帰れ!』
『同胞は苦しんでるんだぞ! 楽しそうにすんな!』
『バカ女!』
他にも日本で楽しそうにしている様子を自撮りした外国人は多い中で、何もなければ『かわいいー!』とかチヤホヤされそうなその女性の動画だけ、アンチコメで埋め尽くされた。
戦災地の動画が流れてきた。
フェアリー共和国の民衆が泣き、傷つき、犠牲者の死を悼んでいる。
「かわいそう」
「どうにかしてあげたい」
「人の命は尊いものなのに」
「あっ、この娘かわいい!」
クラスのみんながそんなことを口々に呟いていると、男子の一人が言った。
「おい! プーサン暗殺されたぞ!」
その子のスマートフォンを見ると、オソロシヤ帝国の将軍プーサンが、あっさりと内部に潜んでいたテロリストに暗殺されたというニュースが報道されていた。
みんなが笑った。
「スッキリ!」
「ざまぁ!」
「いいね!」
朋花が言った。
「よかったね、プーサン殺されて」
あたしは答えた。
「誰も死ななかったらよかったのに」