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第11話 受付嬢マウリ

「——いいよね。お兄ちゃん。ずっと我慢してたんだから」



 ウララの吐息に湿り気が帯びる。


 彼女の赤い唇が、俺の唇に重なる。


 瞬間、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。


 家の外で、「ども、お届け物でーす」と宅配業者の声が響いた。



「………」


「………」



 水を差された——いや、一旦落ち着け、俺。


 我を取り戻した俺は、多少動くようになった腕を持ち上げた。



「お……にいちゃ——」



 表示したステータス画面の一番上。俺の名前が書かれたその横にあるON/OFFボタンを押し込んだ。


 と、同時にウララの胸も押し込んでしまったらしく、



「ひゃあ——っ」



 体を震わせながらうしろに倒れた。


 


――――――――――――――――――――


 名前:百女鬼 湊

 Lv.7

 職業:淫魔

 称号:淫魔の末裔


 HP=20/700

 MP=340/340

 VP=100

 ATK=3→105

 DEF=3→105

 MAG=4→106

 AGI=2→104

 LUC=5→108

 成長値=2

 固有スキル:罪色欲之王(アスモデウス)《EX》

 職業専用スキル:性魔術|《C》、淫我|《C》、絶倫|《C》、精強|《C》

 スキル:鎧冑の如く《F》、剣術《F》

 スキルP:10

 

 ログ

 レベルが上がりました。

 レベルが上がりました。

 スキル:剣術《F》を獲得しました。

 以下略


 ――――――――――――――――――――



 

 システムの恩恵を取り戻し動けるようになった俺は、ウララを引き剥がして玄関へ向かった。


 ……ちゃっかりレベルが二つも上がっていたが、深く考えるのはやめた。





「ふぅ~ん。システム外して走り込みしてきたんだあ」



 場所は変わり、リビング。


 俺はつい先ほど届いた最新型スマートフォンの新規設定を行っていた。


 これで両親や高校の同級生、そのほか知り合いから連絡が来ることもないし、前職の恐怖メッセージとの因縁も二度と目にすることはない。


 ノンストレスでスマホを扱える日が来た。連絡先もウララしか入っていない。完璧だった。



「どこまで行ったの?」


「そこの山まで」


「へえ」



 俺はアプリ『ようこそ、オンラインギルドへ!』をダウンロードする。


 システムとの自動接続を許可。


 しばらくしてから、画面が切り替わりホーム画面にたどり着いた。



『はじめまして、探索士さま。わたしは受付嬢のマウリです。よろしくお願いしますね!』


「うわ、なんか喋った」


『こちらはログインボーナスです。毎日ログインして、報酬をたくさん受け取ってくださいね!

 あとあと、ただいま2周年記念のイベントもやってますので、ぜひぜひ参加してください!

 ——あっ、こちらはビギナーさん専用のログインスタンプと特典も用意してあるので、ぜひご活用くださいっ!』



『HPポーション×10個を習得しました』


『MPポーション×10個を習得しました』


『成長剤×1を習得しました』


『ビギナー専用ランダム防具セット』


『ビギナー専用ランダム武器セット』


『スキル:胆力《E》』


『お小遣い:3万円』



 間違ってソシャゲでもダウンロードしたのかなと勘違いしてしまうほどに、ソシャゲ感がすごい。


 窓口に座った受付嬢のマウリは、右側で結ったながい黒髪を揺らしながら、時折こちらに向かって微笑む。


 試しに胸をタッチしてみた。



『やっ!? ど、どこ触ってるんですか探索士さま! もぅ、お仕事紹介してあげませんよ?』


「え、ちょーかわいい」


『も、もう! 探索士さまのえっち!』


「おおっ」


『ちょっと! いい加減にしないと超高難度依頼『冥王龍の咆哮』に強制転移させますよ?』


「なにそれ怖い」


『冗談じゃないんですからっ!』



 恥じらいながら胸を押さえて悶えるマウリちゃん。キッチンの方から、ウララが言った。



「百回目のタッチでマウリちゃんの表情に影が落ちて、百一回目で病んだマウリちゃんによってどこかに転送されるっていう都市伝説が二年前に流行ってて、実際試した人が大勢行方不明になっていまだに帰ってきてないから気をつけてね」


「ごめんなさいマウリちゃんもう二度とパイタッチしません」


『わかればよろしいのです』



 俺は身震いしながら慎重に操作することを心に固く誓った。



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