『適性』の無かった転生者の独白
久々に書いたので読みづらいかも。
ゆるふわ世界観なのでゆるふわでお読みください。
あぁ、やっときたか。
まぁそう急くな。時間はいくらでもあるんだ。
少しだけ話に付き合ってもばちはあたらんさ。
何から話そうか。そうだな、やはり最初からだな。
愚かな男の愚かな顛末劇だ。せいぜい楽しんでくれ。
はじまりは俺が神様の手違いとやらで死んだことだった。
詫びに好きな世界に好きな能力で転生させてくれると言われて、大喜びしたもんだ。
そして俺が願ってしまったのは、はまっていたオンラインゲームのキャラクターになって、そこに似た世界に転生したい、ということだった。
結構課金もしていたし、やりこんでいたからな。所謂トッププレイヤーってやつだ。レアアイテムだって山ほど持っていたさ。
そのゲームのステータスさえあればなんだって出来ると思っていたし、実際そうだった。
お前も俺の功績を聞いてきただろ? 多分ほぼ本当のことだぜ。多少盛られてる可能性もあるけどな。
最初は楽しかった。困った人を助けて、感謝されてな。
俺にとってはどんなことも簡単だった。
不治の病に冒されている人を助けることも、凶悪なモンスターを倒すこともな。
どんな状態異常だって治す薬はガチャの外れ枠だったから大量に持っていたし、俺のステータスがあれば相手になる奴なんていなかった。俺TUEEEってやつだな。
色んなやつに頼りにされて、色んな場所に行って、問題を解決して。
俺が心血注いで作りこんだキャラクターだ。当然容姿も最高だからな。モテにモテたぜ。
ハーレムだって作りたい放題だ。嫁が何人いたかなんてもう覚えちゃいない。
毎日が夢のようだった。
……まぁ、すぐに飽きたけどな。
周りの誰もが俺より圧倒的に弱い。歯ごたえがなさすぎるんだ。
初心者用のフィールドでトッププレイヤーがずっと遊んでるようなもんだ。
ちょっとなら楽しめるだろうよ。弱い敵を瞬殺して、悦に浸る。もしくは、使い慣れない技の練習をする。そういった遊び方も出来るだろう。
だが、そんなもんいつまでも出来るわけじゃない。使い慣れない技も何回もやってりゃ慣れてくるし、弱い敵をなぶるのなんかそれこそ一瞬で飽きる。やりがいもなんもない。雑魚をどんだけ倒しても、暇つぶしにすりゃなりゃしねぇ。
……俺には向いてなかったんだな。チートも俺TUEEEも。
俺は強敵を倒すのが好きだった。それこそ何度も何度も挑まなければ倒せないボスに紙一重で勝つ瞬間が好きだった。自分の技術を、武器を磨き、手も足もでなかった相手に勝てるようになるのがたまらなく楽しかった。
弱い相手をどれだけ倒したところで、それでちやほやされたところで、うれしかったのは最初だけだ。
初心者狩りでもしてるような、レベルに見合わない狩場でイキリちらしてるような、俺が嫌っていた害悪プレイヤーと同じことをしているような居心地の悪い感触しか感じられなくなった。
俺がすべて嫌になって何もしなくなると、周りの態度は一変した。
今まで助けてきた奴らは俺を罵った。なんでも出来るのに何故何もしないのか、助けてくれないのかってな。
クエスト感覚で色々やりすぎたんだな。そして周りもそれが当たり前になっちまった。
お、これは聞いてないか? まぁ当たり前か。自分達にとって都合の悪いことは黙っておく。当然だわな。
ほとんど無償でどんなことでもやってくれる便利な奴が、急に何もしなくなった。
そうなると焦った周りはなんとか俺を動かそうとしてきた。友人ぶったり、仲間ぶったり、被害者ぶったり。色んな奴が色んなことをしてきたな。
笑っちまうのは、俺に愛を囁いていた女達も同じだったことだ。
なんとか俺に今まで通り働かせようと、あの手この手で迫ってきた。
……何? 将来の不安? 別に不自由な思いなんてさせてないぜ。言ってた通り、レアアイテムもどっさりあったからな。それをちょっと売るだけで一生困らないくらいの金は手に入った。好きなだけ使わせてたんだから、文句言われる筋合いはないね。
まぁ、だから、その時にやっと気付いたんだ。周りの女達は別に俺が好きだったんじゃない。俺のチートが目的だったんだってな。
それぞれ自分の主のために、俺を都合のいいように使おうと必死だった。ちょっと調べたらすぐわかったさ。索敵能力だって俺に敵う奴なんていないんだからな。
あぁそうだ。お前は大丈夫か? 奴隷用の自由を奪う首輪をつけられたり、毒やらなんやら盛られてないか? ……そうか。ならよかった。一応これつけとけ。全状態異常無効のペンダントだ。効果は実証済みだから安心しろ。
……ん? そうだよ。一通りされた。まぁ利にならないなら殺しちまったり自分の支配下に置いた方が安心できるからな。国宝級のアイテムも使ったらしいぜ? 意味なかったけどな。
お前も鑑定スキルあるか? ならよかった。さっきのも鑑定しとけよ。いや、今後はすべてやることをオススメするね。
……好物だって言った料理に猛毒が入っていたり、今までのお礼だと差し出された宝石に服従の呪いがかかっていたり。食べたりつけたりしてから気付くよりは、先にわかってた方がまだ気分がいいぜ?
……一人だけ、信じられる子と思っていた子がいた。
その子の渡してきたアクセサリーが自我を破壊し、操り人形にする呪いがかかっていた時は何かの間違いだと思った。騙されているんだと思ったさ。
喜んで身につけて、呪いがかかったふりをした時にそいつは大喜びしたんだ。これでご主人様に喜んでもらえる。こいつのそばに嫌々いた甲斐があった、てな。
異世界にきてチートを手に入れて、浮かれた気分をはがしてみれば、そこにあったのは醜悪な現実だった。
あぁ、本当に、くだらない話だ。
……とと、悪いな。話が長くなりすぎた。
そして、この世のすべてが嫌になった俺はそれでこうして隠遁生活をしているわけだ。
スローライフ適性はなんとかあったみたいでな。こうして穏やかに過ごしている。
さて、お前も異世界からの転生者、だな?
ここから世界のすべてを把握することなんて造作もない。お前がこの世界に来た時には知っていたさ。
で、なんだ。俺を退治しろとでも言われたか? 悪逆非道の行いを吹き込まれたか? 俺を倒せば富も名誉も手に入るとそそのかされたか?
別に死んでやってもいいんだが、生憎お前では俺は殺せんよ。レベル差がありすぎる。
欲しいアイテムがあるなら持ってけ。同郷のよしみだ。なに、どうせ俺が持ってても使わんから遠慮するな。
お前も俺ほどではないが十分強い、武器と防具を整えれば、なんでも出来るようになるだろうよ。
……願わくば、君だけでもチート適性のあらんことを。
俺TUEEEEするのって結構適性必要な気がします。
それで気持ちよくなれたらいいけど、弱い者虐めみたいに思ってしまった時点で楽しめなくなりそう。
後輩転生者君が適性あって楽しむのも、適性なくて苦しむのも、主人公からしてみたらどっちでもよくて、いい暇潰しくらいで見守ってそうです。
まぁピンチになったら助けるくらいはすると思う。