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偽典尼子軍記  作者: 卦位
52/118

第52話 1548年(天文十七年)7月 吉田荘他

「そうだ。しっかり構えて狙え。姿勢が大事じゃ」

 弩からパシュンと矢が放たれる。矢は藁人形に突き刺さった。

「今のを体に覚えさせるのじゃ。続けろ」

 百姓は次の矢を放つ。また、命中した。

「そうじゃ、そうじゃ。お主上手いのう」

 褒めながら次の者に向かう。

「重くないか」

「大丈夫でございます」

 女子が答える。

「あまり無理をするでないぞ」

 暫しその場で様子を見た後、次の者に移る。

 松田誠保まつださねやすは百姓たちの調練を行っていた。

 今年の三月、自領の検地が終わると同時に誠保の父、松田満久まつだみちひさは領地を尼子宗家に委ねた。そして家督を誠保に譲った。誠保の母は尼子晴久の姉である。

 新宮党粛清後、誠保は晴久の下で戦い信任を受けている。最近は百姓の調練をよく担当している。

 吉田の新宮党と呼ばれた兵力は晴久の指揮下におかれ、今や晴久が率いる軍の主力になっている。問題は兵を指揮する武将だ。晴久は積極的に若い武将を登用し古参の配下にしながら育てている。それと民百姓を鍛錬することを始めた。三郎の常備軍まではいかないにしろ、戦になれば民百姓が足軽になるのだ。ならば平素少しでも鍛錬しておけば良いではないか、そう思い畑仕事に差し支えないように人数を加減しながら鍛錬を始めている。三郎も手放しで喜んでいる。

 その手始めが弩の使い方だ。鉄の量産により弩が大量に作られるようになった。足軽ひとりひとりに支給することができるのだ。弓兵は育てるまで時間がかかるが、弩ならそんなに時間はかからない。

 新宮党館は撤去され更地になった。そこが今は調練の場所だ。誠保は明日もこの場所に立つであろう。


 鉢屋冶弥三郎はちややさぶろうは新たに五十丁の鉄砲の支給を受けていた。これで富田の鉢屋衆は百丁の鉄砲を持つことになる。晴久は配下の鉢屋衆を鉄砲衆として編成することを明確にした。今後鉄砲と弩による遠距離攻撃を主体とする戦い方を目指していく。直にアユタヤとの交易を通じて硝石が確保されると鉄砲を実際に使った調練を増やすことができる。このような軍の方針について晴久と三郎はよく話し合ったし、これからも話を続けていく。そして家臣をその話の輪に含め武官として育成している。


 三沢為清は塩冶直轄軍を率いて行軍していた。八雲城建設が本格的に始まり塩冶にいた軍は内藤川の北、松寄に新たに設けられた駐屯地に移動することになった。今日は移動の日だ。去年の七月に塩冶の代官になり、新見に出陣もし戦も行った。たった一年しか経っていないがとても濃密な日々を送ってきた。まったく妻と一緒にゆっくりする暇もない。いつ子供を作るんだ…三郎にも困ったものだ。などと思いながら松寄まで行軍している。

 政もしっかりと励んでいる。尼子において代官の任はとても重い。民百姓を食わせ、富ませ尼子の臣民とする。これがいかに大事であるか、為清は新見で骨の髄まで思い知った。あの時、民百姓が駆けつけて来なければ三郎と自分は毛利、三村に討ち取られていたであろう。民百姓に救われたのだ。新見での経験は為清に確固とした領民観を植え付けた。三郎の言わんとすることをその身に体現したのである。

 軍の長としても著しい成長を遂げている。もともと【鬼三沢】と呼ばれるほどの大力で大弓の名手である。一町の距離なら的は外さない。為清は三郎の指示に従いつつ、独自に大弓衆を編成していた。自分と同じ技量を持つ者たちを選抜し調練している。嬉しいことに十五名揃っている。あと五人は欲しいとこだ。

 軍略に関しても兵法書を読み、考えを巡らす。今まで自分が行ってきた戦を振り返り書き出すことも始めた。

 三郎と二人で決めていることがある。必ず新見での借りを返す。必ずだ。

 さて、松寄に着いたら早速走り込みから始めるか。八雲城か。面白い。ホントに三郎といると退屈しないぞ。よきかなよきかな…


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