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偽典尼子軍記  作者: 卦位
23/118

第23話 1547年(天文十六年)2月 鰐淵寺

 常に120名程の寺僧がいる鰐淵寺だが今はそれの倍は人がいる。増えたのは主に修験者だ。浮浪滝ふろうのたきで滝行を行い周りの山々を真言を唱えながら歩き続ける。そのものたちを見つめる和田坊栄芸わだぼうえいげいの目には不退転の決意が宿っていた。

 去年の10月、国造との決別以降、栄芸は一つずつ策を進めていた。まず、比叡山延暦寺に杵築大社が神仏習合を否定し、仏法を落としめんとしていることを報告した。次に多治比殿(毛利元就)に状況を説明する文を書き助力を求めた。そして修験者を寺に多く集め僧兵として訓練を始めた。尼子に恨みを持つ者たちと密かに連絡も取っている。鷺浦の民を手懐けて湊を使えるよう手筈も整えた。

 二月になって嬉しい書状が届いた。大内家臣安芸守護代、弘中隆包ひろなかたかかねより月山富田城の合戦以降出雲を追われた宍道隆慶しんじたかよしが此度の強訴に合力するという内容だった。

「宍道殿が!なんと喜ばしいことか」

 今後、宍道隆慶は石見守護代、問田隆盛といだたかもりの指揮の元、海路で出雲に上陸する手はずである、追って沙汰があるまでしばしお待ちをという内容が書かれていた。

 やはり我は正しき道を歩んでいる、仏の道を離れるなど許されるわけがないのだ。杵築は過ちを犯した報いを受けねばならぬ。尼子も同じく同罪である。そのためにもしかと準備をしておかねば…

 栄芸は坊に向かい歩き始めた。歩きながら食料を余分に調達しなければならぬと考えを巡らせていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 問田隆盛といだたかもりは陶隆房からの書状を受け取ると直ぐに小笠原長徳おがさわらながのりに使者を送った。小笠原氏は石見東部の豪族であり大内、尼子の間を上手く渡りながらおのが所領を拡げている油断ならぬ相手であった。月山富田城の戦以降、尼子寄りになっているきらいがある。今回の鰐淵寺の動きを利用して、大森銀山経営を任せるとの条件を出して小笠原を大内に引き戻し、奪われた大森銀山を取り戻そうと隆盛は考えた。

 同時に水軍を束ねる冷泉隆豊れいぜいたかとよに助力を求める書状を書いた。海から鰐淵寺に乗り込もうというのだ。鷺浦の港がすぐ近くにある。事前に話を進めておけば上陸に問題はないであろう。後はどのように軍を進めるかだ。出雲国内を混乱させ、尼子の出陣を遅らせる。混乱に乗じて小笠原を上手く使い山吹城を攻略する。石見から山吹城に軍を送る時間は十分ある。

 問田隆盛は軍の編成を考えた。(隆盛自身は山口にいて政務を行っている)面倒な吉見、益田ではなく福屋を動員することにする。こいつも小笠原がからむと所領絡みで少々面倒だがまだマシだ。問田自身も出陣するつもりでいる。子細が決まれば鰐淵寺にも書状を送らねばと段取りを考え始めていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 二月の終わりに問田隆盛の使者が小笠原氏の居城、温湯城ぬくゆじょうに着いたとき、当主の小笠原長徳は病に臥せっていた。しかし長徳は病をおして使者に会い大森銀山奪取の計画を知らされ、了承した。己の死期が近いことを悟った長徳は嫡男の小笠原長雄おがさわらながかつを呼んだ。

「長雄よ、尼子がまた揺れる。この機に大森銀山を取り返すのだ。その後は大内を頼みとせよ」

「わかりました、父上。していつ銀山に攻め込めばいいのでしょうか」

「追って沙汰がある。それまで尼子に気取られるでないぞ」

「わかりました。では早速内応する者を城に入れまする」

 いつもの如く大内と尼子を天秤にかけ、どちらにも深入りせずその都度強き者に従う。そして隙を縫って所領を拡げる。今回もそのように上手く立ち回ろうと長雄は考えた。父の病も芳しくない。自分が当主の座に座るのもそう遠くはないだろう。銀山を手にし当主としての力を家臣たちに示すのに絶好の機会が訪れたと、長雄はほくそ笑んでいた。




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