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偽典尼子軍記  作者: 卦位


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120/123

第120話 1558年(永禄元年)12月 肥後西部 大村館 そして 長崎

 ◆◆◆大村館◆◆◆


 大村純忠(おおむらすみただ)は家臣の富永忠重(とみながただしげ)から長崎の状況について報告を受けていた。放った乱破が持ち帰った消息を聞きながら苦虫を潰したような顔をしていた。

「尼子は湊を拡げ大きな南蛮船が付ける桟橋を多数造っております。船も十月に一回、十一月に一回と入っており一度に四、五隻の南蛮船が来ております」

「兵の数はどうなっておる」

「千五百から二千はおるかと。烽火山の西と南に柵を設け守りを固めています」

「兵糧が持つのか。乱取りが起これば今に民百姓が一揆を起こすじやろう。いつ頃になりそうじゃ」

「…それが。一揆は起こりそうにありません」

「なぜじゃ」

「尼子は兵糧を船で運び込んでおります。漁師や百姓を賦役に駆り出すこともしておりません。乱取りも一切行われておりません。それどころか漁師どもを集めて、新たな漁の仕方を指南しております」

「なんだと…」

「足りない物があれば銀子を与えて民百姓から買い上げております」

 何をやっとるんじゃ、漁の指南に銀子?あのような辺鄙な湊で銀をもらったとて使う場所などなかろうに。

 尼子が十月に突如として長崎に現れ、湊を作り出した。長崎は大村が年貢を取っている大村の土地だ。富永忠重に兵を百ほど従えさせ長崎に送り尼子を追っ払う予定だったのだが。

 富永忠重は一戦も交えることなく兵を引いた。行ってみれば千近い尼子兵が確か全員が鉄砲を構えて並んでいた。

「大村殿、我らは大村殿と事を構えようとは思っておらん。直ぐに兵を引かれよ」

 淡々とした尼子の将の言葉に背中に冷たい汗が流れる。事を構えることはせんだと、人の土地にづかづかと入り込んで勝手をしておるくせに、事を構える気はないだと!

 富永忠重は声を張り上げ尼子の軍勢に斬り込みたかったが…兵を引き大村館に戻るしかなかった。

「今月に入り陣所を作り街道の整備を始めたそうです」

 居座るつもりか、何故?いや理由などどうでもよい。あの者たちを放置することは武士の沽券にかかわる一大事だ。武士は舐められたら負けだ。しかしどうする。足軽が皆鉄砲を持つ軍など見たことも聞いたこともないわ!

「殿、南蛮坊主が殿にお会いしたいと訪ねて来ました」

「南蛮坊主だと…うむ、直ぐに連れて参れ」

 南蛮といえば鉄砲じゃ。これは運が向いて来たぞと、心のなかで大村純忠は小躍りした。


「始めまして。ジョアン・フェルナンデスと申します。大村殿にお目にかかる事ができて、大変嬉しく思います。この出会いをもたらしてくれたデウスの神に感謝を」


 そう言ってフェルナンデスは十字をきった。少し訛りがあるがほぼ完璧な日本語を話す宣教師を見た大村純忠は素直に感嘆した。

「今日はどんな用事でやってきたのだ」

「大村様の領地でデウスの教えを広める許可をいただきに参りました。それと同時に商人たちの船が入ることのできる港を、定めていただきたいとも思っております」

「平戸のようにか」

「左様でございます」

 大村純忠は小躍りした嬉しくて、危うくニヤけてしまうところだった。南蛮船が寄港する平戸は栄え、松浦隆信は交易でしこたま儲けているという。儂の湊にも南蛮船を、との思いはとても大きい。

「うむ。では横瀬浦に入るがよい」

「布教の許可はいただけますか」

「勿論じや。バテレンの教えを広めてもよいぞ」

「大村様に感謝いたします。デウスのお導きがあらんことを」


 会談はトントン拍子に進んだ。今後の予定を確認した後、フェルナンデスは帰っていった。

「殿、バテレンの神なんぞを広めてよろしいのですか。寺社が黙っておりませんぞ」

 忠重に純忠は答える

「寺社より尼子じゃ。違うか!松浦隆信のように鉄砲を買いそろえ、尼子をおいだすのじや」

 主君の言葉に納得しつつも、少し不安が残る。

「忠重、城の普請も急がせろ。尼子との戦の準備じゃ」

 今の大村館では籠城はできない。純忠は戦のための城を造るつもりでいた。

 よし、必ず長崎は取り戻す。大村純忠の顔にはやっと笑みが戻った。



 ◆◆◆長崎◆◆◆


 神西元通、小笠原長雄と今回の朱印船でやったきた平田屋惣右衛門は、絵図を拡げ話し合っている。

「湊を要に扇が拡がるように町並みを造っていくが良いかと」

「旅籠と女郎屋は何処がいいかの」

「うーん、この辺りで良いのでは」

 神西元通が口を挟む。

「いの一番に女郎屋の場所を決めんでもいいじゃろう」

「何をおっしゃる。女郎屋はとても大事な場所ですぞ」

「ま、そうじゃが、それより先に決める場所があるじゃろ」

「陣所はほぼきまっておりますぞ」

 なんか揉めてるのか?

「惣右衛門、何か御屋形様から話はなかったのかのう」

 神西の問いに惣右衛門は答えた。

「御屋形様は長崎をあらゆる者共が集い、お互いを知る町にしたいとおっしゃっていました。たしか『魔都上海』とか究極的には『スプロール』とかおっしゃておりました」

「わかりやすく説明せんか」

 と神西は言う。

「うーんなんとなく分かるのう」

 と小笠原は言う。ホントか

「あらゆる神、大国主様も南蛮の神も、仏も、それ以外の神もいていい場所。海を超えてあらゆる所から人が集まる場所。何かが生まれるかもしれない町にしたいそうです。いずれ長崎は毛利領に取り囲まれる、よって毛利にもいい刺激になるだろうと言われました」

「それで町割りはどうするのじゃ」

「出島に南蛮人の町、中心に日吉神社、ここらに唐人の町、ここが…」

 惣右衛門の説明を聞いた後、三人は協議を続けるのだった。


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