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偽典尼子軍記  作者: 卦位


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104/123

第104話 1557年(弘治三年)8月 八雲城

 ◆◆◆尼子義久◆◆◆


 北山からみる八雲は前に菊と来た時より大きくなったな。反対の方を見れば日本海、いや出雲灘が見える。京に上ってから忙しかったな。しかもつい最近まで将軍が八雲に来てたんだ。なんていうか、良いのか悪いのか。足利将軍と友達?みたいになったような気がするが、俺の勘違いなのかな。暴れん坊将軍と南町奉行みたいな感じかな。変にいい関係になって将軍が敵対したらどうしよう。そりゃ戦って潰すけど、なんか情が湧いちゃったから辛くなるだろうな。そうならなきゃいいな。

 三好と戦ったんだな。日本の副王と呼ばれた三好長慶。強かったな。でも戦えた。負けなかった。勝ったんじゃないか。あまり勘違いしたらだめだけど勝ったよな。勿論俺一人の力じゃない。父上、家臣たちみんなで勝ち取ったんだ。自信待っていいよな。

 無性に一人になりたい時がある。昔からそうだ。人が嫌いって訳じゃないが、一人で孤独に浸りたい時がある。カッコつけてるんじゃねーって自分に突っ込んでみるけど、そうじゃない。本当に一人になりたいんだ。んでこうして一人で暫くいると、人恋しくなる。あー誰かの所に行こうって歩き出す。そんな感じだ。


「御屋形様ー」

「御屋形様〜」


 ほぼ同時に自分を呼ぶ二つの声がした。声の方向に顔を向けると山歩きの装いのお菊とお通がやって来る。お菊は満面の笑みを浮かべ、お通は伏し目がちで控えめな笑みをたたえていた。自然と顔が綻ぶ。


「御屋形様、何も言わずに出ていかれては困ります。私達も山登りは好きなのですよ!」


 抗議するお菊の横でウンウンと頷くお通。見れば見るほど可愛いな。綺麗だな。俺の妻たちは。


 何の前触れもなく過去の記憶が浮かんだ。何度面接に挑んでも採用されない。いい加減億劫になる。家からでない。妻は働いていた。旦那の分まで働く。働き詰め。家で遊んでいる旦那。

 切れる妻、それに対して切れる夫、そして夫は切れることもしなくなり壊れていく。妻は子を連れて出ていった。俺が悪いのか、妻が悪いのか今となっては分からない。


 涙が溢れる。俺はどうすれば良かったのか。教えてくれ。


「義久様」

「御屋形様」


 俺を呼ぶ声がする。フラフラと声のする方へ足を運ぶ。優しい香りが俺を包む。二人を抱きしめていた。二人の手も俺の背中に添えられてた。


「御屋形様、泣きたくなったら泣いていいのですよ。私とお菊様が一緒に泣いて差し上げます」

「そうですよ。いつもお側にいますかから」


 嗚咽が込み上げてくる。武士は泣いちゃいけないんじゃなかったか。でも俺は武士じゃないから泣いてもいいか。いや武士だろう。もうどっちでもいいや。


 ひとしきり泣いたらスッキリした。あの時出来なかった事を今度はしよう。同じ過ちを繰り返さないように。


 このまま一緒にいたら子ができるだろう。子供とは上手く行ってたと思う。だけど会えなくなった。最後の方では子供とろくに話もできなかったな。

 今度生まれてくる子は大名の跡取りになる。なれない子もいる。俺が昔いた世界とは違うんだ。だけどせめて生まれてきたことを等しく祝い、愛情を持って育てていこう。あ、愛を注ぐのは妻たちに基本任せて俺は厳しさを教えよう。愛は与えるよ。だけど父親は世の中を教えるのが基本じゃないのかな。そう思ってる。


「もう気が済みましたか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

「では帰りましょう。御屋形様が造られた八雲場へ」

「菊、通。ありがとう。二人が妻で良かった。これからもよろしく頼む」

「はい、任されました」

 二人の声が重なっていた。










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