2.推しが……! 尊すぎる……!
彼の執務が、ここ連日立て込んでいたせいか。珍しく、今日は私が先に目を覚ました。
隣には、少しだけあどけない表情で眠るジェンティーの姿。
(眼福……!!)
推しが……! 尊すぎる……!
推しっていうか、旦那様だけど……!
(……結婚、したんだもんなぁ)
自分で考えておいて、ちょっとその事実に冷静になる。
だって少し前までは、物語の中の人物の一人で、最推しで。だから本気で好きにはなれないんだって、心のどこかでブレーキをかけてたはずなのに。
なぜか、向こうから私を求めてくれて。
そして今、こう。
(改めて、物凄い確率での奇跡が起きたなって思うけど)
そっと眺める寝顔は、間違いなく現実で。
これは奇跡でもなんでもなく、どちらかといえば、お義兄様方に仕組まれたことだったわけだけれど。
(私としてはラッキーだったので、問題ないんですけどね)
むしろありがとう! 極度のブラコンでいてくれて!
実際ジェンティーは、かなり可愛がられて大切にされてるし。その延長線上で、私のことも大切にしてくれる。
家族仲がすごくよくて、私も居心地がいいのは事実だった。
「……どうか、しましたか?」
「ふぁっ!?」
飛び上がるほど驚いたのは、眠っていると思っていた人物から、突然声をかけられたから。
実際、心臓はまだバクバクと音を立てているし。簡単には、鎮まりそうにない。
「お、起こしちゃったかしら……?」
「いいえ、特には。自然に目が覚めたら、ヴァイオレットがとても嬉しそうに笑っていたので」
え!? 私笑ってた!?
自覚なかったんだけど……。
「それで、どうかしましたか?」
「え? あ。えーっと……」
起き上がったジェンティーに、再び問いかけられるけれど。
なんか、ちょっと。素直に全部話すのは、恥ずかしくて。
「幸せだな~と、思って?」
そんな風に、誤魔化そうとして。
「……なるほど、そうですか」
「う……ん?」
失敗した。
しかも、結構ダメな方向に。
「え、っと……ジェンティー……?」
「なんでしょうか?」
笑顔なのに、どこか圧を感じるのは……。気のせいじゃ、ないですよね?
というか。
「この態勢は、いったい……?」
急に腕を引っ張られたと思ったら、いつの間にか背中はベッドにしっかりとついていて。
つまり、そう。
私はジェンティーに、押し倒されたわけで……。
(なんで!?)
冷静に考えてみたけど、やっぱりちょっとおかしいって!
なにこの展開! どうしてこうなった!?
「愛しいヴァイオレットが、私に隠し事をしているようなので」
「……なので?」
「罰として、私の気が済むまで好きなところに口づけしますね」
「!?」
私が不穏な気配を読み取ったのと、言い終わったジェンティーが本当に口を塞いできたのは、ほとんど同時だった。
これではどうやっても、対応できない。
「ん~~!」
両手はしっかりと彼の手で、ベッドに縫いつけられているし。
そもそも覆い被さってきている体が、しっかりと密着していて。
どう考えても、動けないし抜け出せない。
「んっ、ぁっ……、ジェ、ンっ。んぅ~~」
合間合間に喋ろうとしても、全然手加減すらしてくれないし。
それどころか、どんどん激しくなっていくキスが、執拗に私を追い詰めていく。
(無理ぃ~~!!)
結婚してから、それはもう毎日のようにキスをしたがるジェンティーは。完全に、私のことを理解していて。
だから。
「はぁ……」
喋るどころではなくなった私の唇を、ようやく解放してくれた彼は。
当然のように、次の場所に狙いを定めて。
「ひゃんっ!」
キスのせいで赤くなってしまっているであろう耳に、そっとキスをして。
「いっそ、お休みしてしまいましょうか」
「ぁんッ……」
言葉ごと息を吹き込むように、耳元でそう囁くから。
私は涙目になりながら、その言葉を否定する。
「だ、めっ……。お仕事、しないとっ……」
「ヴァイオレットのせいですよ?」
「ぁふっ……。だ、め……だってばぁ」
いつも優しいジェンティーの意地悪に、違う意味でもドキドキしてしまう。
まさかこんな、Sっ気があったなんて……!
「ひゃんっ! ダメ、だってばぁ……!」
その唇が、首筋をゆっくりと降りていく感触に。いよいよ危ないと思った私は、さすがに降参した。
「言う! 言うから! だからもう、ダメッ……!」
朝からこんな破廉恥なこと……!
どこまでエスカレートしてしまうか分からない以上、素直に話すのが恥ずかしいとか言ってられない!
「おや、残念ですね。せっかくなので、今日はヴァイオレットと一日ベッドの中で、ゆっくりと過ごそうと思っていたのですが」
「……それ、本当に、ゆっくりできる?」
「……さぁ?」
いい笑顔なのに、悪魔の笑みにしか見えない……!
「それで? どうして嬉しそうに笑っていたんですか?」
結局、推しの寝顔に興奮していましたと、洗いざらい吐いた私は。
恥と引き換えに、色々なものを守り切ったのだと。そう、思っていたのだけれど。
「あぁ、そうでした。続きはまた今夜、ですね」
「……え?」
「楽しみにしていてくださいね」
「…………え?」
最後に一つ、キスと一緒にその言葉だけを残して、寝室から出ていったジェンティーは。
それはそれは、とてもいい笑顔をしていて。
「…………えぇー!?」
つまり私は、逃げきれていなかったのだと。
嫌というほど思い知らされて、でろんでろんに愛されるまで。
あと、半日。
これにて完結です!
この次は「あとがき」となりますので、興味のある方だけ、どうぞお進みください(笑)
ここまでの方は、またどこか別の作品でお会いできたら嬉しいです!
それでは。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!m(>_<*m))