61.これからもずっと
「わ、私も、その」
とはいえ、もらってばかりではいられない。
私はこれから、この人に嫁ぐのだから。
「お手伝いできることがあれば、なんでもするわ。だから、少しは頼ってくれると嬉しい、わ」
これでも王族として、ひと通りの教育は受けてきているから。
魔法はまだまだ、全然分からないけど。役に立てるのであれば、いくらでも使ってほしい。
そう思って、伝えた言葉だったのだけれど。
「そう、ですね。……でしたら、まずは私を男として意識していただけると、大変嬉しいのですが」
「ふぁっ!?」
いや、ちょ、まっ……!
そうだけど……! そういうことになるんだろうけど……!
というか……!
(私、推しにガチ恋していいの!?)
そもそもここは現実だし、私も彼もこの世界で生きているわけだから。確かに問題ないし、障害なんてないんだけど。
ここしばらくの間は、でろんでろんに彼に甘やかされてたし。そういう言葉ももらってるし、結婚するんだって思ってはいたけど。
いざ、そこまで許されるという事実に直面すると。逆に、困惑する。
だって今までは、そんなこと無理だって自分に言い聞かせてきてたのに……!
条件とか言ってたから、この婚約にも政略的な意味合いがあるって、冷静な部分で思ってたりもしたし……!
それ以上に、あんまり真剣に考えすぎると頭パンクしそうだったから……!
王女としての威厳を保つためにも、普段通りに振る舞おうってしてたのに……!
(いきなり、はいどうぞって言われても……!)
好きなんだけど! メチャクチャ好きなんだけど!
いいのね!? 本当にいいのね!?
「愛していますよ、ヴァイオレット」
「ふゎぁっ……!」
待って! 反則反則!
だってそんなっ! 画面上でも見たことのない、優しすぎる笑顔でそんなこと言われたら……!
「わっ、私の推しはっ、あなただったのよっ……!」
いきなりカミングアウトだって、しちゃうでしょうよ……!
「……おし?」
「い……一番好きな人、というか……」
確かに、推しなんて言葉の意味、この世界の人には通用しないよね。
あと、正確に言えば少し違うんだけど……。まぁ、だいたい合ってるし。間違いでは、ない。
それに、その……。私が、自分自身に言い聞かせてきてたってことは、つまり。逆を言えば、本気で彼に恋していたということ、で……。
「ヴァイオレット……!」
「っ……」
私の言葉に、感極まったような声色と共に抱きしめてくれる、この人は。
政略でもなければ義務でもなく。本当に、ただただ純粋に、私を好いてくれているのだと分かるから。
つい、そのまま体を預けて。
「ア、アルジェンティ様……」
「どうか、今まで通りジェンティー、と」
あわわわわっ!
耳っ! 耳元でっ! そんなっ!
呼ぶけど! 呼ぶけどさ!
「ジェ、ジェンティー……」
「ふふ。はい、愛しいヴァイオレット」
だっ、だから耳元で……!
私はその優しいテノールも含めて、画面上で確認できていた彼の全てが……!
「す……好きぃっ……!」
「嬉しい言葉をありがとうございます。私も愛していますよ、ヴァイオレット」
そうだけど、そうじゃない……!
大好きだけど! 今の言葉は推しとしてっていうか!
人としても好きだけど! この世界で出会った男の人の中で、一番好きだけど! 恋してるけど!!
というか!
(こ、腰がっ……!)
砕けるっ……! なんだその色気!
私、こんなジェンティー、知らない……!
どうやら、通称悪役王女のヴァイオレットこと、私は。同人乙女ゲームの最推しであるお助けキャラを、攻略してしまっていたようです。
そして今後、しばらくの間。王女としての私と、プレイヤーとしての私の情緒が入り乱れて、大変なことになるのだけれど。
そんな私を楽しそうに、愛おしそうに見つめるジェンティーがいたことだけは、ここでハッキリと言っておきたい。
こうして私たちは、隠し事一つなく。これからもずっと、側にいられるようになったわけだけれど。
実は彼の魔力は、王族という括りの中では劣っている、というだけで。マギカーエ王国内全体だと、上位に位置するほうだと説明されたり。私の魔力も、一般人よりは多いほうだと判明したり。
でも結局、魔法以外の方法で国の発展に貢献していって。最終的には、かなり特別な扱いを受けることになったりもするのだけれど。
それはまだ見ぬ、未来のお話。
本編はこれにて終了です!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!(>ω<*)
明日・明後日はおまけ話を更新する予定ですので、そちらもお時間のある方は、ぜひ!