6.タイプじゃない
もしかしたらゲームの中のヴァイオレットは、彼女から幸せを奪ってしまうことに、最後まで躊躇していたんじゃないかと考えてしまう。
だって私は、この子のことが大好きだから。
「プルプラは、何をして過ごしていたの?」
「今日は刺繍を。ようやく一つ、バラが完成したんです」
本当に、とりとめもない会話。でもこれが、私ではプルプラ以外と成立しない。
なんて言ってしまうと、語弊があるかもしれないけれど。でも本当に、プルプラじゃないとこちらを見てもくれないのが普通。特に男性陣は。
ちなみにお母様は、時折私を見て怯えている。どうやら私がツリ目なせいで、睨まれているように見えてしまう時があるらしい。
……もしかして、お父様から避けられている理由もそれが原因だったりする?
「お姉様は、お休みされていたと聞きました」
「えぇ。昨夜、遅くまで歴史書を読んでしまっていて」
今さら気づいてしまったかもしれない事実に、一人でちょっと衝撃を受けつつ。それでも、足も口も止めることなく動かし続ける。
ちなみに歴史書は、面白いから読んでいたわけじゃなく。なにか今後のヒントにならないかと、図書室から借りてきただけのもの。
結局なにも見つけられなかったから、あとで侍女に返してきてもらう予定だったりする。
「それなのに、朝食時にはいつも通り起きていらしていたんですか? 私だと、寝坊してしまいそうです」
純粋な驚きに目が見開かれたかと思えば、次の瞬間には少し恥ずかしそうに頬を染める。
この素直さと表情の変化が、とにかく可愛い。一瞬にして、周りをほっこりさせる力を持っているのは、すごいことだと思う。
私には、真似できないから。
「王女様方、お待ちしておりました」
護衛をぞろぞろと引き連れながら、二人で楽しくおしゃべりをしていれば。あっという間に、目的地に到着した。
出迎えてくれたのは、屈強な騎士団長。強面の彼は、普段はキリッとしているけれど。今日は私たちを怖がらせないためなのか、柔らかな笑顔を浮かべていた。
(どっちかというと、プルプラを怖がらせないため、なんでしょうけれど)
私はあくまでおまけだ。
ちなみにこれは、比喩でもなんでもなく。本当に、私は今日ここへ来る予定なんて、一切なかった。
「王女様方に、騎士団の訓練場まで足をお運びいただけるなんて。部下たちも大いに喜ぶことでしょう」
そう、騎士団。私にとって、最も縁遠い場所。
にもかかわらず、私がここにいるのは。
「ごめんなさい。私が無理を言って、お姉様と二人がいいなんて言い出してしまって」
「いいえいいえ! 無理だなんてとんでもございません!」
そう。なにを隠そう可愛いプルプラが、一人では心もとないと口にしたから。手の空いている私が、付き添うことになったのだ。
前々から父と兄が、騎士団の士気を上げるためにプルプラに視察をさせたがっていたそうで。
紆余曲折あったようだけれど、結局予定が私しか空いていなかったと。まぁ、そういうことだ。
(だから、私の部屋までプルプラが迎えに来きたわけだけど)
それは結局、少しでも長く護衛の騎士たちにプルプラの側に居させてあげようとした、偉~い人たちの気遣い。
ようは、そのほうが護衛の騎士たちの士気も上がるだろうっていう話。
実際、今日の護衛はプルプラと年が近い、未婚の男性ばっかりだから。攻略対象キャラも含めて、ね。
(ある意味、私はダシに使われたってことでしょ?)
彼らが少しでもプルプラと一緒にいられるように、って。
いいけどね。私も別に騎士はタイプじゃないし。
それに、プルプラがこの状況を望んだわけじゃないから。
「それでは、参りましょう」
騎士団長の案内で、騎士団の訓練場の中に足を踏み入れた私たちだけど。
当然のように、護衛の騎士はプルプラのほうに、より多く偏っていた。
仕事しろ、騎士団。