表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/64

54.約束、したでしょう? -アルジェンティ視点-

 恥ずかしそうに俯くヴァイオレット様の、真っ赤に染まった頬と耳に。私は一人、満足する。

 私の言動に対して、この反応が返ってくるということは。おそらく今の段階で、すでに希望は見えているということ。


(ここからは、急がず焦らず)


 慎重に慎重を重ねて、決して早急(そうきゅう)に事を進めようとはしないことが大切だと。兄上方にも、助言をいただきましたから。

 常に余裕があるように見せなさい、と。女性が安心して身を任せられるように、と。


(確かに、その通りでしたね)


 最初こそ、驚いたような顔をしていらしたヴァイオレット様も、徐々に落ち着きを取り戻していたので。

 とはいえ私としては、この状況は当然の帰結(きけつ)ですから。

 特にエークエス王国からの条件を引き出せた時点で、結果は見えていました。

 父上や兄上方は、その条件内容に驚いていましたが。直前までエークエス王国に滞在していた身としては、むしろ十分すぎるほど納得してしまいましたし。


(それが双方にとって、利があるというのであれば)


 マギカーエ王国としては、全く問題はありませんからね。

 私としても、ヴァイオレット様を手に入れられるのであれば、それだけで十分すぎる結果なので。

 まだまだ熱が引きそうにないその様子に、思わず愛しさから笑みがこぼれてしまいますが。おそらく彼女には、気づかれていなかったことでしょう。


(ヴァイオレット様。約束、したでしょう?)


 また一緒に、庭園を歩きましょうと。

 あの時から、この結果になるように考え、立ち回っていたのだと告げたら。あなたは、さらに驚いてくれますか?

 あの日あなたが作ってくださった花冠は、枯れない魔法をかけて、大切に保管しています。


(そこにも、驚いてくれるかもしれませんね)


 私の行動になのか、それとも魔法の存在についてなのか。

 いずれにせよ、いつかはお伝えするつもりではいますが。


(国に帰ったら、しばらくは忙しいでしょうから)


 正式な婚約者となった以上、婚姻の準備にマギカーエ王国の生活に慣れるのに、と。ヴァイオレット様がやらなければならないことは、山ほどありますから。

 その中には、魔力について学ぶことも入ってくるでしょうし。

 初めてのことに戸惑うのか、それとも――。


(博識な彼女のことですから、もしかしたら貪欲に学びを求めるかもしれませんね)


 全く新しい知識を得ることに、喜びを感じる性格であるのならば。

 想像すると、戸惑うよりも楽しんでいる姿のほうが似合う気がして。学びに関しては、心配する必要はないのかもしれないと考えているのですが。

 問題は、そこではなく。


(エークエス王国と同じ、というわけにはいきませんから)


 むしろ、この美貌(びぼう)ですからね。父上や兄上方ほど、仰々しいものである必要はないですが。それでも護衛は、多いに越したことはありません。

 守りを強固にしておいて、損をすることもないでしょう。私の心配の種を減らすためにも、必要なことです。

 ただ、一つ気がかりなのは。その分、普段の生活を不自由に感じさせてしまうのではないか、という点。


(この国では比較的自由に、少ない人数で動いていらっしゃる印象でしたからね)


 それが、正しいとも思いませんが。

 少なくとも、私がジェンティー・ヴェフコフとしてエークエス王国に滞在していた際には、ここまで多くの侍女や護衛を従えてはいらっしゃらなかったので。

 もしかしたら、窮屈(きゅうくつ)だと感じる日がいずれ、きてしまうかもしれませんが。


(その分、マギカーエ王国の中を色々と見て回りましょうか)


 エークエス王国では、王城の中からは出られなかったようですから。せめて、嫁ぎ先ではもう少しだけ、自由に動ける範囲を増やして。

 私と婚姻を結んでよかったと、心から思ってもらえるよう。努力を怠らないように、気をつけましょう。

 ようやく手に入れることができた、白く細いその手を離す予定は。私には、ないのですから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ