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50.この国の真実 -アルジェンティ視点-

 ヴァイオレット様からのお返事と、調査に向かった先の村人たちの証言、そして王太子殿下のあの表情を総合して考えれば。

 (おの)ずと、この国の真実が見えてくる。

 そして決定的だった、ヴァイオレット様の口から直接告げられた、全ての真相。


 それは、考えていた以上に深刻で、根深い問題。

 外から見ているだけでは、決して理解できないであろうその思想は。私が想像していた以上に、(かたよ)ったものでした。

 そしてその影響を、最も強く受けてきたであろうヴァイオレット様は。これまでいったい、どれほど傷ついてきたのか。

 たったお一人で、おつらい思いを隠しながら。明るく振る舞い続ける、そのお姿に。


「どうして、私はっ……!」


 なに一つ、気がつけなかったのか。

 むしろ「魔法を学びに、マギカーエ王国に留学をしてみてはいかがですか?」などと。さらに傷口を広げる可能性がある言葉を、平気で手紙に書いていたのですから。

 自分が情けなくて、この国独自の文化が憎くて。思わず肩に力が入って、両手を強く握りしめてしまいますが。

 そんなことをしたところで、ヴァイオレット様が救われるわけではない。


「あんなにも、お美しい方を……!」


 この国は、平気で蔑ろにする。

 騎士の国ですから、魔力持ちをよく思わないことに一定の理解は示せます。納得できるかどうかは、また別問題ではありますが。

 ですが、女性を見た目だけで判断してしまうなどというのは、到底理解に苦しみます。

 エークエスの国王が、求婚の申し入れを全て突き返していたのも、ヴァイオレット様を手放したくないからではなく。まだ、適齢期に達していなかったからという理由と。


「……本気で、裏があると考えていたのでしょうね」


 その証拠に、今度はヴァイオレット様を他国へと嫁がせるための準備を、始めているのだとか。

 騎士たちが話していたので、まず間違いないでしょう。

 しかも彼らは、今回の『銀の騎士』はそもそも、プルプラ王女殿下のためだけに用意された人選なのだとまで、楽しそうに口にしていて。

 それを耳にした瞬間の、血が沸騰してしまうのではないかと錯覚するくらい、激しい怒りは。


(にぶ)すぎましたね、私も」


 同時に、今まで気づくことができなかったヴァイオレット様への強い想いを、痛いくらいに自覚させて。

 彼女があの声を、あの笑顔を。私以外の男に向けるのだと想像しただけで、内に眠る魔力が暴れ出しそうになる。


 誰にも渡すものか、と。

 彼女の気持ちも考えず暴走してしまいそうになる己を、必死に律しつつ。

 いつの間にか、私の心の大部分を()めてしまっていた、あの華やかで輝くような笑顔を思い出しながら。

 私は必死に、策を練るのです。


「まずは、兄上方へ協力の要請。それから、父上への報告」


 諸国への牽制(けんせい)が可能かどうかの確認に、魔法使いの国の第三王子と自国の王女との婚姻を、エークエスの国王が承諾(しょうだく)せざるを得なくなるような、交渉材料の確保。

 やるべきことは、山ほどある。

 けれど、その一つ一つをしっかりと消化していかなければ。不利な立場にある私が、愛しいヴァイオレット様の元へたどり着くことなど、不可能なのだから。


「……必ず、幸せにしますから」


 少なくとも、この国で暮らしてきたときよりも、もっとずっと。

 そのためにも、この手を取ってもらわなければ。そう思いながら、開いた手に視線を向ける。

 騎士は好みではないと、そう口になさっていたのだから。きっと、私にも望みはあるはずだ。


 なにより私たち王族の婚姻は、基本的に政略的なもの。そのあたりはヴァイオレット様も、しっかりと理解していらっしゃるだろう。

 あれだけ博識(はくしき)なのだから、間違いない。


「意図せず、望む形になるよう協力していたようですし」


 今まで何度もプルプラ王女殿下に尋ねられ、婚約者候補となる騎士の情報をお伝えしてきましたから。

 まさか、そんなことが役に立つ日がくるとは、夢にも思いませんでしたが。

 見つめていた手を強く握って、顔を上げて。


「約束は、必ず果たします」


 部屋の中で一人、決意を込めて宣言する。

 もう一度、あの庭園を。今度は婚約者として、隣を歩けるように。

 我慢できずに触れてしまった、(つや)やかな髪の感触と。珍しく頬を赤く染めて、潤んだ紫の瞳で見上げてきた、あの可愛らしい姿を思い出しながら。

 妹殿下の話題を口実にすれば、簡単に過去をお話ししてくださる、その素直さごと。今度はこの腕の中に、閉じ込めてしまおうと決めて。


「どうか、ヴァイオレット様……」


 その時がきたら、私を選んでくださいね。

 この手を取っていただけるのなら、私はなんだってしてみせますから。



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