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5.ヒロインは可愛いもの

 そもそもあの子は、本当に可愛い。身内の贔屓(ひいき)目を抜きにしても、可愛い。

 これを言っては元も子もないんだけど、基本的に物語のヒロインは可愛いものでしょ?

 実はそれって、乙女ゲームのプレイヤーキャラにも言えることなんだよね。


「どのゲームも、主人公は全員可愛いんだよねぇ」


 恋愛ゲームって、男性向けだとプレイヤーキャラは顔が見えないことが多いみたいだけど。女性向けは、基本的に顔どころか全身がちゃんと描写(びょうしゃ)されてる。

 もしかしたらそれは、男性向けのほうがより主人公に自分を重ねやすいように、という配慮(はいりょ)なのかもしれない。

 顔がないキャラ=自分自身みたいに、ゲームの中のキャラに自分を投影(とうえい)することで、感情移入がしやすい可能性は否定できないし。

 でも、女性向けで顔が出てこないゲームを、私はスマホゲー以外で知らない。


「あったのかなぁ?」


 全部の乙女ゲームに手を出してきたわけじゃないから、もしかしたら存在していたのかもしれないけど。

 少なくとも、私は知らないんだよね。

 しかも私の場合、一番ハマったのが同人ゲームだから。


「それでも可愛かったんだよなぁ」


 グラフィックも綺麗だったし、立ち絵もすごくよかった。プルプラは本当に可愛かったし、ヴァイオレットはメチャクチャ美人だったし。

 攻略対象者である騎士たちも、三者三様で。騎士らしい、無口で武骨(ぶこつ)なガタイのいい人物と。軽薄(けいはく)そうに見えて、実は一途な人物と。そして、若くして近衛(このえ)隊の一つを任されている、エリート。

 当然、メインヒーローはエリートの彼だ。しかもエンディングにたどり着くには、パラメーターを全て最大値にしておく必要がある。

 正直、難しすぎて投げた。自分一人の力では攻略できないから、誰かが作ってくれた攻略チャートを駆使(くし)して、ようやくエンディングまでいった覚えがある。


「……プルプラなら、たぶん問題ない気がする」


 ふと、妹の性格や仕草(しぐさ)なんかを思い出して。王族としての振る舞いを、完璧に自分のものにしているのは当然のこととしても。

 あの可愛さなら難しくはないだろうと、つい考えてしまう。

 そもそもそれだけ系統の違う三人でありながら、あくまで好みは守ってあげたい女性という見事な統一がされているわけで。

 となれば、全員プルプラが魅力的に見えているはず。


「今の段階で、すでに落ちてる可能性も否定できないよねぇ」


 実は、我が妹は。そのあまりの可愛さに、王女でありながら大勢の騎士から本気の愛を向けられているという、末恐(すえおそ)ろしい人物で。

 とはいえ王族の結婚は、個人的なやり取りで決まるものではないし。きっと今頃、プルプラの嫁ぎ先候補の選抜も最終盤(さいしゅうばん)になっているはず。

 だってゲームは、明らかにその最後の選択をプルプラにさせるためのものだったから。

 大人たちが(えが)いたシナリオに、ヴァイオレットは踊らされていただけ。三人ともどちらかを選べと言われたら、結婚するんならプルプラ一択だろうし。


「私だって、あの頃ならそう答えてた」


 知らなければ、きっと誰もがそうだろう。プレイヤーたちだって、それは一緒。

 だって、本当に知らなかったんだから。

 ヴァイオレットが、国のために残ろうとしていたなんて。そのためには、手段なんて選んでいられなかったんだって。


「……そろそろ、かな」


 暖炉(だんろ)の上に置かれている時計を見れば、プルプラとの約束の時間が(せま)ってきていた。

 しばらく休みたいからと言って、侍女も部屋の外に出てもらっているし。戻ってくる前に、メモもペンも片付けておかないと。

 まぁ、ペンは机の上のペン立てに戻せばいいだけだし。メモだって、机の引き出しの中に入れてしまえばいいだけ。


「ヴァイオレット様。プルプラ様がいらっしゃいました」

「今行くわ」


 長時間座っていたからか硬くなった体を、グッと腕と背中を伸ばしてほぐしていたら。ちょうど軽いノックの音がしたあと、外から声をかけられて。

 私の返答があったからなんだろう。無表情の侍女二人が、私の部屋に入ってきて。少しだけ、髪と服装を整えてくれた。


「ありがとう。さぁ、行きましょう」

「はい」


 彼女たちからすれば、仕事だから当たり前なんだけれど。無表情なのは、どうしても気になってしまう。

 もしかしたらプルプラの側にいる侍女たちと比べて、雰囲気が暗いように感じるからかもしれない。

 だって、ほら。今日の私の担当侍女を連れて、部屋の外へと出ると。明るい雰囲気の中、侍女と笑い合ってお喋りをしているプルプラが。


(これと比べれば、私の周りは暗すぎるでしょ)


 とはいえ、それに不便さを感じたことはないから、別にいいんだけど。ただ、私が気になるっていうだけで。

 そんなことを考えながらも、楽しそうなお喋りに割って入るべきかと躊躇(ちゅうちょ)していたら。

 私が部屋から出てきたことに気づいたのか、こちらに目を向けるプルプラ。その瞬間、ふんわりと動く紫の髪。


「お姉様」


 私と同じ色をしているはずの紫の瞳が、嬉しそうに輝いて。唇は、優しく()(えが)く。

 この子が、『キシキミ』の世界の主人公で。私の、妹。


「行きましょうか」

「はい」


 可愛い可愛い、プルプラだ。



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