42.突然の別れ
「どういう、こと……?」
その日渡されたのは、一通の手紙。
差出人の名前は、ジェンティー・ヴェフコフ。紛れもない、私の推しキャラその人からだった。
「急ぎ戻らなければならない用ができてしまったとのことで、お忙しいヴァイオレット様にせめてお手紙だけでも、と」
確かに、最近は忙しかった。プルプラの婚約発表に『銀の騎士』のお披露目と、国を挙げての行事だったから。
王族である私も、当然参加しなければならないわけで。結果、ここしばらくはジェンティーに会えなくなっていたけれど。
まさか、久々に訪れた図書室で。司書のおじいさんに、彼から預かった手紙を渡されるなんて。
(しかも、ジェンティーはもう、いない?)
あまりにも唐突すぎる展開に、頭がちゃんと働いてくれない。
確かに、いつものサロンに寄っても彼の姿が見当たらなかったから。もしかしてと思って、こちらに来てみたけれど。
「国中が慌ただしく過ごしておりましたからな。この老いぼれぐらいしか、手の空いている者がいなかったのですよ」
おじいさんは、そう言ってくれるけれど。もしかしたら他に手紙を預けられる人物に、心当たりがなかったのかもしれない。
だって私は、これでもこの国の第一王女。本来ならば、気軽に手紙のやり取りができる相手では、ないはずだから。
しかも、誰もが忙しそうに動き回っている中、わざわざそのためだけに呼び止めるなんて。
(きっとジェンティーなら、そんなことしない)
だから、図書室だったんだ。
私たちが最初に出会った、この場所なら。普段から人が少ないことを、知っていたから。
(急ぎの用って、なんだろう)
考えてみれば、彼の出身国を聞いたことはなかった。
世界は広いから。いくら一国の王女とはいえ、全ての国を把握しているわけでもないし。
それよりも、目の前にいるジェンティーと一時でも会話できることのほうが、ずっとずっと大切な時間だったから。
(……ちゃんと、お披露目とか見れたのかな)
街中がお祭り騒ぎのようになっていた、あの華やかな期間を。彼はちゃんと、自分の目で見ることはできたのだろうか。
民衆へのお披露目が終わっても、各国からお祝いに来てくれた使者を、もてなす必要があったから。
せめて私が忙しくしていた間に、街の活気だとか儀式だとかを見ていられたのなら、いいのだけれど。それはきっと、彼の今後の研究に役立つはずだから。
「中身は検めておりませんので、そのままお持ちください」
「……いいのかしら?」
「お二人の関係に、やましいことが一切なかったのは、誰もが知っている事実です」
そう言って、おじいさんが私の後ろに控える侍女や護衛に、目を向けたから。つられて、そちらを振り向けば。
全員が、しっかりと頷いてくれる。
(あぁ、そっか)
私たちが普段サロンという、ある種公の場で開かれた空間にいたからこそ。会話内容も、ただの世間話の延長線上でしかなかったからこそ。
今こうやって、彼らは信頼してくれているのだ。
「……ありがとう」
ジェンティーとの突然の別れは、まだすぐには受け入れられないけれど。
それでもまずは、一刻も早く、この手紙の内容を確認したい。
「ごめんなさい、今日は――」
「承知しております。どうか、ごゆっくりお休みください」
それは、私が昨日まで忙しかったからという、労いの言葉であるのと同時に。
唯一と言っても過言ではない、人生初の友人との、初めての別れに傷心だろうからという、おじいさんなりの気遣いだったのだろう。
「えぇ、そうするわ。ありがとう」
それを素直に受け取って、私はついさっき入ってきたばかりの図書室の扉を、もう一度くぐる。
早く、早く。
そんな焦燥にも駆られながら、普段よりも早足で向かう先は。
一人でこの手紙をゆっくりと読める場所である、先ほど出てきたばかりの自室だけだった。
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