41.最後に真実を
それからは、本当に周りが慌ただしくなって。
けれど私自身はまだ関係がないから、もう少しだけ自由にしていていいって言われた。
「間違いさえ起こさなければ、好きに過ごしていて構わない」
お父様の口からそんな言葉が出てきたことに、私は少なからず驚いてはいたんだけれど。
考えてみれば、私がジェンティーと会っているという報告は、確実に受けていたはずで。それを問題なしと判断したのは、国王その人だ。
そういう意味では、最初から好きにさせてくれていたのは、多少の親心もあったのかもしれない。
(プルプラとの差がありすぎるし、魔力持ちに対する忌避感もあっただろうから)
でもそれなら、もうちょっと分かりやすく伝えて欲しいところではあるけれど。
とはいえ、今さらプルプラ以外の家族からの愛情なんて、求めてないし。
もう少しだけ猶予ができたと、今はそう思えるだけで十分。
(もうすぐ会えなくなっちゃうのは、事実だし)
今はプルプラと『銀の騎士』に関する準備で忙しいから、それどころじゃないだけで。私の嫁ぎ先の選定も、すぐに始まるはず。
『銀の騎士』決定の発表は、今朝方されたばかりだから。国中がお祭り騒ぎだろうし。
それが落ち着いて、お披露目が終わったら、かな。
(ジェンティーが、いつまでこの国にいてくれるのかは、分からないけど)
実は彼には、すぐに嫁ぐことになるかもしれないという事実までは、伝えていない。
何も決定していない状態だったから、というのもあるけれど。それを伝えたら、今度こそ本当に遠慮して、距離を取られてしまうような気がしたから。
彼は学者であると同時に、貴族位を持っている。そしてとても、頭のいい人だから。きっと、すぐに気づいてしまう。
他国に輿入れする直前の王女が、別の男と親しげにしているのはあまりよろしくないことだ、と。
(これが他の国だったら、そもそも許されなかったんだろうなぁ)
エークエス王国が騎士の国だから。女性に対する理想が、凝り固まっている国だから。
だから、許されていただけ。
きっと騎士たちからすれば、女性としての魅力がない王女ならば、問題も起きないだろうと思っていたに違いない。
(でもヴァイオレットって美人だからね!? 他国基準でいえば、モテるんだから!)
実際、他国の使者に言われたことがある。婚約者がいないのであれば、ぜひ我が国の王子のお妃に、と。
その時にはまだ幼かったし、それ以上にプルプラが泣いて嫌がったから。その話は、立ち消えになったんだけれど。
あの時プルプラが拒否していなかったら、たぶん今頃はその国の王子と、本当に婚約関係を結んでいたと思う。
そのくらい私の存在は、この国では軽い。
(それを知って、ジェンティーは怒ってくれたけど)
いつものサロンの中に、見慣れた背中を見つけて。少しだけ頬が緩む。
彼に会えるのも、あと何回だろう、なんて。一人でいる時は、どうしても考えてしまうけれど。
今はそんなこと、後回しでいい。
「ジェンティー」
「ヴァイオレット様! 今朝の発表、聞きました。プルプラ王女殿下のご婚約と、新たな『銀の騎士』の誕生、おめでとうございます」
「ありがとう。プルプラにも、あなたからお祝いの言葉をいただいたと伝えておくわ」
あと少しだけの、限られた時間を。
ただ彼と、いつも通りに過ごしていたいから。
でも――。
どこかで、最後に真実を伝えるべきなのではないかと。一人心の中で、迷っているうちに。
結局、伝えられないまま別れがきてしまうなんて。
この時の私は、想像すらしていなかった。