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38.求められるなら、喜んでー! 

「他、ですか。そうですね……」


 考える素振りを見せたジェンティーは、私から視線も意識も逸らして。腕を組んで顎に手をあてて、目線を右下へと移動した。

 確か向ける視線の方向で、ある程度どんなことを考えているのかが分かるとか。そんな心理学的なことを、『キシキミ』の二次創作で見たことがあるような気がするけど。

 今は全然なにも思い出せない私は、それよりも先ほどまでの状態から解放された、安堵感のほうが強かった。


(た、助かった……)


 推しに対してそう思うのは、おかしな話かもしれないけれど。この時は本当に、そうとしか思えなかった。

 あの感覚は、一体なんだったのか。

 嬉しいし幸せだけど、同時に恥ずかしくて追い詰められているような……。


(と、とにかくまずは、ゆっくり深呼吸)


 ジェンティーの気が別のところにいっている間に、普段の自分を取り戻しておかないと。

 これ以上あんな姿を見せるのは、なんか、こう……ダメな気がする。色々と。


「あぁ、でしたら。聞かせていただけませんか? ヴァイオレット様とプルプラ王女殿下の、思い出話を」

「私と……プルプラの?」


 なんとか平常心を取り戻してきていたところに、今度はそんなことを言われて。

 思わず問いかけてしまったのは、純粋に疑問だったから。

 そんなこと聞いて、なにか楽しいのかな、と。


「はい。ヴァイオレット様が妹殿下を本当に大切になさっているのは、お話しされている際の表情からもよく分かりますから」

「そ、そんなに表情に出ているの?」

「とてもお優しい表情をされておりますよ」

「っ……!」


 そこまで顔に出てたの……!?

 プルプラを可愛いと思っているのも、大切にしているのも事実だから、間違ってはいないけれど。

 そこまで知られていると思うと、なんかちょっと、恥ずかしさがぶり返してくる。


「ヴァイオレット様がそこまで妹殿下を愛していらっしゃるということは、きっと素敵な思い出話を拝聴できるのではないかと思いまして」

「そんなことで、いいの?」

「もちろんです。エークエス王国の、理想の女性像その人だというお方は、ご家族からどう見えているのか。非常に興味があります」

「なるほど、そういうことね」


 確かにそれは、学者としては興味があるだろう。

 というかむしろ、そういうことならどんとこい!

 推しのためなら、いくらでも語っちゃうよ! 推しごと大事だからね!


「さて、それじゃあ……。どこから、話すべきかしらね?」

「プルプラ王女殿下ご誕生の瞬間は、覚えていらっしゃいますか?」

「さすがに覚えていないわ。まだ一歳だもの」

「それでしたら、覚えている中で(もっと)も古い記憶はどうでしょう?」


 質問形式のように、ジェンティーに聞かれたことに答える形で。私は少しずつ、プルプラとの思い出話を口にする。

 ただ。

 それがどんな経緯(けいい)で、今こうなったのかは分からないけれど……。


「安全な飲み水の確保という観点から考えても、汚物や死骸を川に流すのは、推奨(すいしょう)できないわね」

「同感です。水が豊富だからといっても、いつそれが変化するのか、予測はつきませんから」


 求められるなら、喜んでー! の精神で、あれやこれやの質問に答えていたら。いつの間にか、話題は各地の文化や、環境問題に発展していた。

 本当に、どこからどうしてこうなったのか、不思議でしょうがないのだけれど。


「もっと早く、ヴァイオレット様とこういったお話をしておくべきでした」

「あら。私はあなたに、有益な情報を与えられていなかったのかしら?」

「いいえ、まさか! ただ、私が各地を渡り歩いて得た成果を、こんな風にしっかりと話し合える方と巡り合った経験が、今までなかったものですから」


 それは、つまり。

 ある意味、私がジェンティーの初めてになれた、っていうこと!?


(やだ、なにそれ! 光栄なんですけど!)


 今日はもう、推しからの供給は十分すぎるほどだったのに。ここへきて、まだそんな燃料を投下してくるなんて……!

 さすがだわ、私の最推し様。


「ヴァイオレット様、お時間です」


 でもそんな楽しい時間も、こうやって唐突に終わってしまう。

 久々に、キラキラした子供のような目で語る、楽しそうなジェンティーの姿が見られたのに……!

 なんて、思ってたら。


「ヴァイオレット様。続きはまた次回に、ぜひ」


 物凄く真剣な表情で、でもちょっと興奮気味に、そう彼が言うから。


「えぇ、ぜひ。楽しみにしているわ」

「私もです、ヴァイオレット様。ありがとうございます」


 素直に返した言葉に、同じように素直な言葉が戻ってくる。

 正直、国のアレコレに関係しないのなら。推しが求めること全て、私は教えてあげたいし、叶えてあげたいから。

 できる範囲で、なんでもしてあげちゃう! それがオタクってもんよ!



~他作品情報~


 本日5/21は、コミカライズ版『王弟殿下のお茶くみ係』の更新日です!(>ω<*)


 さらにさらに!

 一気読みしたい!という方には、オリジナル描き下ろし漫画つきの【Renta!限定版】もありますので、ぜひ!



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