37.他に知りたいことは、ある?
「……ヴァイオレット様は、妹殿下を本当に大切にしていらっしゃるのですね」
一人反省している私の耳に、唐突に届いたのは、そんな言葉。
ジェンティーがどんな表情をしているのかも確認せず、私はそれについ条件反射的に。
「当然よ。可愛い可愛い、大好きな私の妹だもの」
そんな風に、返していた。
実際プルプラは、可愛い。見た目だけじゃなく、中身も含めて。
本当に、誰にでも優しくて平等で。まさに騎士たちの理想だと、家族という一番近い距離感で接しているからこそ思う。
「それに、大勢に慕われていたでしょう?」
「そう、ですね」
「それは理想の女性像だからだけではなくて、単純にあの子が魅力的だからなのよ」
大人しいだけの王女でもなければ、お飾りの王女でもない。
柔らかい笑顔と、周囲を安心させ明るくする言動。分け隔てなく接するその姿も、全てがあの子の魅力。
そういう人物だからこそ、皆プルプラを好きになる。
まさに、正統派ヒロイン。ヒロインの中のヒロインだから。
「……私は、ヴァイオレット様も十分魅力的だと思いますが」
「…………え……?」
妹自慢をしていた私に、ジェンティーが告げたのは、予想もしていなかった言葉。
そのせいで、理解するのにも動き出すのにも、時間がかかって。
「私のような外からやってきた人間に、ヴァイオレット様は親切にしてくださいました。いくつもの国を渡り歩いてきましたが、王族の方に直接ここまでよくしていただいたのは、初めてですから」
思わず見上げてしまった先で。今まで見たことのない、それはそれは優しい笑顔を、ジェンティーに向けられてしまった私は。
無防備な状態で、モロにその攻撃を受けてしまって。
「っ……!!」
推しからの最大級の笑顔と、褒め言葉。これにやられないオタクが、いると思う!?
さすがの私も、冷静ではいられなくなりますって!
一国の王女の立場とか、保てなくなりますって!
「そっ、そんなことはっ……」
否定はしているけれど、顔が熱くて仕方がない。
俯くことで顔を隠すベールを髪で作って、さらに口元も軽く指先で押さえてはいるものの。
今、顔を見られてしまったら。完全に、赤いのがバレてしまう。
「わ、私が少し特殊だっただけでっ……」
「えぇ、ですから私は」
それなのに、ジェンティーは。
「ヴァイオレット様はとても優しくて親切な、魅力あふれる方だと思っております」
そんな風に追撃をしながら、私の髪をそっと耳にかけて、ベールを脱がしてしまうのだ。
色々な意味で、心臓に悪い……!
「ジェ、ンティー……」
「はい」
はい、じゃないよ! なんだその笑顔! 反則でしょ!
あと、顔赤いの見られた……!
「っ……。ほっ……!」
「ほ?」
それでも必死に冷静になろうと、喜びと混乱が入り交じる中でなんとか絞り出した、私の苦肉の策は。
「ほ……他に知りたいことは、ある?」
強引な、話題の転換。
声が上ずってしまいそうになりながら、赤くなっている顔を見られてしまったのならせめて、と。にらみつけるように見上げながら。
若干、涙目にもなっていたかもしれないと思いつつ。それでも私には、押し通すしか方法がなかった。
(なんでっ、こんなっ、不意打ちみたいなことっ……!)
急なジェンティーの行動に、割と本気で恨めしく思いながらも。
最推しからの供給過多に、キャパを大幅に超えてしまった私は。
あまりの幸せに、倒れてしまわないようにだけ気をつけながら、彼の返答を待った。