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35.たのもー!

 しっかりと、アーリーモーニングティーで気合を入れて。朝食も着替えも終わらせて。

 でも、ジェンティーと会う約束をしているのは、お昼過ぎだから。先に会話のネタを探すために、図書室へと向かう。


(でもなんか、こう……。ちょっと、決戦に向かう前のような気持ちになっているのは、ナゼ?)


 もしくは、道場破り?

 たのもー! なんて、さすがに言えないけれど。気分は本当に、それに近い。

 なんだか、自分まで脳筋になってしまったような気がして、少しだけ(へこ)む。


「おや、ヴァイオレット様。昼食前にいらっしゃるとは。最近では、珍しいですね」


 図書室へと入るなり、かけられた声に。そういえば、いつもは時間にかなり余裕のある時にしか来たことがなかったと思い出す。

 まぁ、最近はジェンティーと会えない日にばっかり来てるから、仕方がないのかも。


「昼食後だと人と約束をしていて、来られそうになかったのよ」

「なるほど、そのようなご事情がおありだったのですね。あぁ、でしたらお時間も少ないでしょうし、このようなところでお止めするわけにはまいりませんね」

「急かしてしまうようで、ごめんなさい」

「いえいえ。どうぞ、お気になさらず。ごゆるりとご覧ください」


 司書のおじいさんは、きっとほとんどの騎士が寄りつかないこの場所に、頻繁に通う人間が珍しくて、毎回声をかけてくれるんだろうけれど。

 それでも、こうやって少しでも普通に会話できることが、今はありがたい。

 侍女も護衛も、基本的にビジネスライクなお付き合いだから。ずっと一人で考え事をしているだけだと、なんだか耐えられなくなりそうで。

 それだけでも、この場所に先に来ておいた甲斐(かい)がある。


(それに、長年司書として勤めてくれているからなのか。他の騎士たちよりも、ちょっと知的な雰囲気なのも、いい)


 脳筋よりも知的な人がタイプな私からすれば、本当にこの国には、好みの異性が存在していない。もちろん、向こうからしても同じなんだろうけれど。

 だからこそ、ここのおじいさんは唯一の癒しだったような気がする。


(まぁ、私は国から出ていくことが決定しているから。いずれは、さようならなんだけど)


 けど、もう少しだけ。まだ、時間はあるはず。

 今すぐの話でもないのだから、焦る必要はない。

 すでに読み終えた本ばかりの背表紙に、目を通しながら。本棚の間を、ゆっくりと歩いていく。

 唯一ここだけにある、紙とインクの匂いが。私に少しだけ、冷静さを取り戻させてくれるような気がした。


(とりあえず、ジェンティーが知らなそうなことを考えないと)


 この国の、文化や歴史。その中でも、本に書かれていないこと。

 もしくは、こうして背表紙を見ているだけでは、決して手に取らなそうなもの。


(歴史書や伝記は、真っ先に目を通しているはず)


 騎士の心得のようなことが書かれている本も、前にオススメしたから、読み終わっているかもしれない。

 だとすれば、見習い騎士たちが手にするような、武器や防具についての本は?


「あら。貸し出し中なのね」


 初心者にオススメ! というような本であれば、別に知られても困らないと思ったけれど。どうやら、すでに誰かが借りていたようだ。

 武器や防具について知りたいと思った、若い見習い騎士がいたとしても、おかしなことではないので。

 むしろ、自分でしっかりと調べようとした、真面目な見習いがいたのだと思うと、ちょっと感心する。

 正直、本を読むくらいならば先輩に聞いてしまえというのが、彼らの基本的なスタンスだから。

 でも。


「……どうしようかしら」


 そうなってくると何を選ぶべきなのか、本気で迷ってしまう。

 グルグルと本棚の間を歩き続けて、迷いに迷って。

 結局、私が選んだのは。


「おや、ヴァイオレット様。もうお帰りですか?」

「えぇ。気になっていた本は、誰かが借りているようだったから」

「さようでございますか」


 図書室に置いてある本ではなく、前にジェンティーと話したことがある、私物の絵本を持っていくことにした。

 お姫様と騎士のお話なら、プルプラの話題に移りやすいと気がついたから。


(多少の気分転換にもなったし)


 図書室に足を運んで、少しだけ会話をしたからこそ、思いついたのかもしれないし。

 そう思えば。この時間も、きっと無駄じゃなかったはず。



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