34.一人で考えてても仕方ない
「う~……」
この世界の神か何かに、祈りをささげた翌朝。
ベッドの中で、寝起きから唸り声をあげる私は。まだ、昨日の出来事を引きずっていた。
それもそのはずで。
「夢見悪すぎぃ……」
眠りに落ちる直前まで、二人のことを考えていたせいで。夢の中で、これ以上ないほど幸せそうに微笑む二人の結婚式を見ながら、涙を流すという。個人的に最大と言っても過言ではない悪夢を見たせいで、それはもう、心に大ダメージを負ったのだ。
どう考えてもあり得ない組み合わせだって、目が覚めた今なら理解できるはずなのに。夢の中だと、なぜかその状況をおかしいとも思えないし。
エークエス王国の、理想の女性像そのままのはずのプルプラが、騎士以外と結婚できるはずがない。
「分かってるけどぉ……」
夢の中なのだから、不可能も可能になってしまうのだ。仕方がない。
そしてそのせいで、朝から気分はどん底。完全にブルー。
これで天気が雨だったら、自分の惨めさに浸ることもできたかもしれないけれど。あいにく外は、雲一つない青空。快晴そのものだった。
「なんなのよ、もう」
一人で勝手に落ち込んで、一人で勝手に傷ついて。
これじゃあ、まるで……。
「……っ。あー、やめやめ!」
こんな暗い感情、私には似合わない。
それに、こういうことは考えていたって、答えなんて出るわけがない。
「よし。ジェンティーに直接会って、確かめよう」
一人で考えてても仕方ないんだから。だったら、そんな悶々(もんもん)とするような状況は、早めに打破してしまったほうがいい。心の安定のためにも。
あんな夢を毎晩見続けたら、確実に精神を病みそうだし。
「意図してなかったとはいえ、盗み聞きしちゃったことは謝っておくべきだよね」
いきなり切り出すような話題ではないから、まずは謝罪から入って。そこから会話をつなげよう。
プルプラとは、比較的頻繁に会っているのか、とか。どうして婚約者候補たちの情報を知っているのか、とか。
「……いや、それも唐突か?」
とはいえダラダラ会話してたら、切り出すタイミングを逃しそうだし。
それならいっそ、こう、さりげなーく……。
「いけるか? さりげなく」
嫌われないように、決して疑ってるわけじゃないんですよー感を全面に押し出しながら。でも要点は、ちゃんと聞き出したい。
それを、推し相手に。
果たして私は、そんなことができるほど器用な人間だっただろうか?
「いく、けど。……聞くけど、さぁ」
考えれば考えるほど、難しいような気がしてきて。変にドツボにはまりそうだ。
それならいっそ、その場のノリと勢いというか。雰囲気でなんとか押し通したほうが、思わず感が出ていいと思う。……ような?
「……考えるよりも行動あるのみ、かな」
結局これだって、一人でシミュレーションすることに意味はないんだから。
まずは、疑問をぶつける。その上で、嫌われないようにする。守らなきゃいけないのは、この二つだけ。
そのために、やるべきは。
「着替えて、朝食を済ませないと」
実際には、朝食の時間には少し早い気がするけど。目が覚めてしまっている以上、先に着替えだけでも終わらせておけばいいし。
もしくは滅多にしないけど、アーリーモーニングティーとか?
ベッドの中で飲むなんて、ある意味で最高の贅沢だよね。
「……そうしよう、うん」
まずはゆっくり紅茶を飲んで、心を落ち着かせてから。きっとそれが、一番効果的な気がするし。
気合を入れるためにも、少し特別なことから始めるのは大事。そう、大事なはず。
自分にそう言い聞かせて、私はサイドテーブルに置かれているベルを手に取った。