33.見てしまった
当然といえば当然だけれど、今まで一度もそういった場面に遭遇してこなかった私は、自分で思っていた以上にショックを受けていた。
だって……。
「見てしまった……」
推しとヒロインが、話しているところ……。
お助けキャラだから、そうなんだけど……!
というか、なんでそんなに攻略キャラに詳しいの!?
「本人に聞いたこと、ないんだよね」
自室でお行儀悪く机に突っ伏しているけれど、誰もいない今だけは許してほしい。
というか、本当に今までプルプラとジェンティーが会話しているところなんて、一度も見たことなかったから。本当に助言しているのかすら、定かじゃなかった。
今回のことで、それが真実だったのだと知ってしまったわけだけれど。
「そりゃあプルプラは、たくさんの侍女と護衛を引き連れていたけどさ」
それでも、わざわざジェンティーと話していたのは、事実でしかなくて。
いや、分かってるよ? ただの知り合い程度でしかないって。
だってそうじゃなかったら、二人が接触することを周りが許さないだろうから。
「……プルプラ、嬉しそうだったな」
しかも周りの侍女や護衛たちも、ちょっとほっこりしたような表情だったし。
もっと言えば内容だって、本当にただのアドバイスだったんだけどさ。
「…………いや、おかしいでしょうよ」
そもそもなんで、他国から来た学者にアドバイスを求める? そしてどうして、彼は攻略キャラの好みや行動を把握している?
ゲームだったら、そういう仕様だからっていうメタ発言で許されたことも。現実に起こっていることだと考えると、疑問しか湧かない。
「恋愛対象じゃないって、知ってるけどさぁ……!」
最推しが攻略できないキャラクターだったことは、私が一番よく知ってる。なんせ、何度も何度も通い詰めたんだから。
何週もプレイして、裏ルートとかあるんじゃないかって必死に探して。
それでも、見つけられなかったんだから。
「掲示板でも、隠しキャラなしって書かれてたし」
だからプルプラとジェンティーの間に、恋愛感情がないのは理解している。
いやまぁ、ちょっとモヤモヤしてはいるけれど。
でも問題なのは、そっちじゃないんだよ。
「ジェンティーに限って、ないとは思うけど……」
そもそも、侍女やら護衛の騎士たちやらが、彼の言動に不信感を抱いていないのであれば。おそらく大丈夫な、はずだし。
入国の際に色々とチェックした上で、安全な人物だと判断したから、王城に招かれているわけだけど。
「間者ではない、はず」
個人的にはそう思いたいし、国の体制的にもそうじゃないと困る。
だから、私が疑う必要なんてない。
そう、そのはず。……なんだけど。
「あぁ、もう!」
思い出そうとしなくても、脳裏をチラつくのは。楽しそうに会話している、プルプラとジェンティーの姿。
そしてそのたびに湧き上がる、焦りと不安。
「私だって、ジェンティーと恋愛なんてできないんだけどさ」
分かってる。分かってるけど。
せめて今だけはまだ、彼の恋愛模様とかは知りたくない。
プルプラが相手ならば、なおさら。
「……ジェンティーがプルプラに恋しちゃったら、本気で立ち直れないもん」
ゲーム中、彼はどうやったって恋愛対象にはならなかった。ヒロインでは、攻略できなかった。
そういうキャラクターだからこその、安心感があったのに。
それが崩れ去ってしまったら、本気で現実に希望が持てなくなる。
「どうせ、いつか会えなくなっちゃうんだから」
それまでは、推しの恋愛なんて知らないままでいさせてくれと。生粋のオタクっぷりを発揮しながら。
私はただ、祈ることしかできなかった。




