30.推しとデート、だと……!?
どんなものなのか、実物を見てみたい。問題があるのならば、諦める。
そう言われてしまえば、推しのせっかくの要望を無下にもできなくて。
というか、そんなこと言われるのは初めてだったし。問題も、あるかないかでいえば、全くない。
(だからつい、頷いちゃったけど……)
でも、あとから色々考えてみると。
もしかしなくても、これは……。
(推しとデート、だと……!?)
つまりはそういうこと、だよね!?
しかも、花冠を作る手元も見たいって言われちゃったから、諸々(もろもろ)準備もすることになって。場所だって、そのために確保することになった。
結果。
「……いわゆる、ピクニックデート」
私はこれでも王女なので、簡単には外に出られないから。摘んでいい花のある庭園を、完全に貸し切って。簡単なお茶の準備を侍女たちがしている間、花冠用の花を二人で見繕うことになった。
侍女や騎士たちから見える範囲でしか移動しないから、普段のようにピッタリ後ろを侍女や騎士がついてくる予定じゃないのが。なおさら、デートっぽい。
結局、見られてるんだけどね。たくさんの人に見られながら、だけど。
「でも、それでも」
攻略できないはずの、お助けキャラと。私の最推し様と。
限られた範囲の中だけとはいえ。一緒に、二人だけで歩けるなんて。
まるで、夢のようで。
「……ジェンティーは、資料が欲しいだけなんだろうけどね」
それでもいいんだ。私は、推しの役に立てるのならば。
それがたまたま、私にとっても超絶嬉しい出来事だというだけのことで。そこに特別な意味はないんだって、分かってる。
ただ……。
「こんなイベント、ゲームプレイ中にはなかったな」
つまり、それだけ特殊な状況だということ。
そもそもプルプラは、毎年ちゃんと花冠を作る役目を担っているわけで。そんな人物に、自分のためだけに作ってくれなんて、誰も言うわけないよね。
騎士なら、来年は一番になってみせますって言うべきだし。
「……だから私に、あんな確認をしてきたのかな?」
一度もその役目をしたことがない、王女。
別に私自身は、気にしたことがなかったけれど。はたから見たらどんな風に映っているのかは、分からない。
それなのにわざわざ、あの場で聞いてきたってことは。失礼にあたるって、理解はしていたんじゃないかなって思ってる。
だから、あんなに真剣な表情だったんだろうし。
「…………あれ?」
そういえば、あの時ジェンティーは「信じがたい話」を聞いたって言ってたよね?
結局、花冠を作るってことになっちゃったせいで、その内容を聞きそびれちゃったんだけど……。
「まさか、私が花冠を作ったことがないっていうのが、信じられなかった……?」
いや、さすがにそれはないか。
そもそも彼は、私のこの見た目が騎士たちの好みとかけ離れていることを、おそらく知っているはず。
しかも魔力持ちだってことは、その役目から外される理由としては、十分納得できるだろうし。
正直私だって、見た目だけじゃなく魔力持ちだからっていう理由だと、思っちゃってるし。だから国王陛下であるお父様は、最初から私を候補から外してるんだって。
けど。
「え。じゃあ一体……」
ジェンティーが聞いたのは、どんな話だったのか。
推しとのデートに舞い上がってしまって、今の今まで忘れていた。
いやまぁ、舞い上がっていただけじゃなくて、色々準備もしなきゃいけなかったからね。その指示を出したりとかも、ちゃんとしてたし。
私の場合、侍女たちがそこまで気を利かせてくれるわけじゃあないし。そもそも花冠を作ったことがない王女だから、侍女だって詳細を知るわけがないし。
「……よし。次は忘れずに、ちゃんと聞いておこう」
強くそう決意して。私は、手に持っていた花冠の作り方が書かれたメモに、目を通す。
ちなみにこれは、プルプラに作り方を教えて欲しいと頼んだら、あの子の侍女が説明を聞いてメモしてくれたもの。
婚約者候補たちとの交流で忙しいプルプラのためにと、変に時間を取らずに済むように動いてくれる侍女たちは、本当に主思いで優秀だと思う。
もちろん、プルプラがそうお願いしてくれたんだろうけど。
(私のために、なんて。そんなこと、侍女たちが考えるわけがないからね)
あくまで、プルプラのため。あの子の時間を私が奪わないために取られた、妥協という名の措置でしかない。
でも、それでもいいんだ。プルプラに幸せになってもらいたいのは、私だって同じだし。
それに。
「正直、覚えられるのなら、なんだっていいし」
むしろ、こうやって見返せるほうが、色々とありがたい部分もあったりする。
だって当日までに覚えないといけないのなら、何度でも復習できる方法がいいでしょ?
一度も選ばれた経験がないからって、最推しに情けない姿は見せられないからね!
待っててね、ジェンティー。
私が必ず、完璧な花冠を作ってみせるから!