28.あの子は順調みたい
どうするべきかの結論を、まだ出せないまま。朝食を終えた私は、今日はあえて城内を散歩してみることにした。
体を動かせば、もしかしたらいい案が生まれてくるかもしれないから。という建前の、現実逃避でしかないけれど。
「ん……?」
綺麗な中庭でも眺めながら、少しゆっくり考えようと思っていた私は。二階の窓から見えた光景に、その場で足を止めた。
私の目に飛び込んできたのは、色とりどりの花たちに囲まれながら、仲睦まじそうな様子で寄り添う二人。
それは、妹のプルプラと。攻略対象キャラの中でメインヒーローと呼ばれていた、正統派の騎士。
ここからでも十分、二人の姿が確認できるのだから。当然あちらこちらで、噂になっているはずで。
(なるほど)
確かにこれは、直接この姿を見たことがないはずの洗濯担当の少女たちですら、噂話をするはずだ。
立派なイケメン騎士と、清純派儚げ王女。
この国で最も喜ばれるであろう、その並びに。城中どころか、国中が歓喜するであろうことが、容易に想像できてしまう。
(あの子は順調みたいだし、それは別にいいんだけどね)
喜ばしいことでは、ある。私が彼らと恋愛する気が一切ないので、プルプラには好きに選んで、くっついてもらおうと思っているし。
選択肢が少ないのは、私もあの子も同じこと。それならせめて、あの子にだけは幸せになってもらわないと。
(肉親どころか、きっと国の中で唯一、私の見た目を気にしないで接してくれる、優しい子だから)
私も、プルプラのことが大好きだから。あの子の幸せを奪おうなんて、そんなこと、考えてもいない。
ちょっと、今日の担当侍女とか、護衛の騎士たちとかからの視線が、痛い気がするけれど。
そこはもう、考えないことにして。なにも言ってこないんだから、放っておくのが一番。
(でも、今あそこに行くのは、やめておこうかな)
このままだと、イベント発生しちゃうし。
あったよね、確か。仲良くなった攻略キャラとデートしてたら、ヴァイオレットが邪魔してくるっていうやつ。
あれはあれで、好感度が上がるイベントなんだけどさ。今の私は、そういうことをする気がないし。
「……幸せになりなさい」
タイミングよく横を通り過ぎていった、騎士たちの足音に紛れさせて。私は中庭に立つ二人に、そっとエールを送った。
きっと、誰にも聞こえていなかっただろうけど、それでいい。
可愛い可愛い私の妹が、たった一人の言葉に恥ずかしそうに頬を染めたり、嬉しそうに微笑んだり。
そんな姿を見て、温かい気持ちになるのは。ある意味、姉であり同じ王女である私だけの、特権。この気持ちは、きっと誰にも分からない。
(本人はきっと、窮屈だなんて思ってもいないだろうけどね)
でも、それでいいの。
プルプラは、なにも知らずに。ただ、誰にでも優しく。誰からも優しくされて。
苦労も知らないまま、幸せに生きていればいい。
(エークエス王国にとって、あの子は生きているだけで希望になるだろうから)
物語の中の、お姫様と騎士のように。未来の騎士たちに、夢と希望を与える存在として。
私には、どうやったってなることができないから。
(……よし、決めた)
私の可愛い妹は、これからもこの国で生きていくのだから。不利になるようなことを、いくら推し相手とはいえ、残すべきじゃない。
王女が留学なんて、前提がないからきっと許されないって書けばいいんだ。結婚適齢期でもあるから、なおさらだって。
真実ではないけれど、事実ではある。
それに、プルプラが順調にストーリーを進めているということは。きっと、エンディングはもうすぐだから。
(そうと決まれば、早速返事を書かなくちゃ!)
決心が揺らがない内に。
そう思って、私は二人に背を向けて。自室へと向かう一歩を、踏み出した。
~他作品情報~
本日5/11は、コミカライズ版『幽霊令嬢』の更新日です!(>ω<*)
真面目なお話のはずなのに、なぜかコミカルになってしまう二人のやり取りは、絵で見るとインパクトが凄いですよ(笑)
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