24.推しが納得いってないのなら、しょうがない
もはや、言い訳は通用しない状況にまで追い込まれて。
というか。追い込んできたのが、最推しと自国の騎士と肉親て。
「私の人生、ホントに詰んでるなぁ」
逃げ場もなければ、隠れる場所もない。
そもそも推しを目の前にして、逃げるとか隠れるとか無理だし。その姿を目に焼き付けておきたいし、いっぱい声も聞きたいし。
「うぅ……。オタクの本能が、推しから逃げるなって言ってるぅぅ」
しかも今回、なにがよくないかって。我が脳筋お兄様が、ジェンティーに言ってしまったらしい。「我が国には必要のない力を持って生まれてきた、いらない王女だ」って。
本当にバッカじゃないの!? それを自国民以外に言うなよ!! 自国民に言うのもダメだけど!!
「時折感情だけで話すの、本当にやめてほしい……」
普段はまだマシなんだけど、魔力に関することになると、途端に嫌悪感を露わにするし。
あれで、第一王子だからね。一応、国を背負って立つ予定なんだけど……。大丈夫かな?
「まぁ、今はそんなことどうでもいいや」
将来困るのも、あの人を教育し直すのも、私じゃないからね。
あと正直なことを言ってしまえば、国王であるお父様にも、そういうところあるし。
魔法関連、毛嫌いしすぎじゃない?
「口にするのも嫌だったっていうのは、まぁ、なんとなく分かった」
だからって、あの人ジェンティーに言ったらしいからね。「本人に聞いてみればいい」って。
なんで私に丸投げ!?
それ以前に、教えちゃっていいの!?
「……最悪、責任は全部押しつけよう」
お兄様が許可を出したとお聞きしましたので、とでも言っておけばいいでしょ。否定しないだろうし。
それに、言い方が悪かったからジェンティーが心配して、気にしてくれているわけだし。
「推しが納得いってないのなら、しょうがない」
とりあえず、魔力があるせいで蔑ろにされてるところがあるってことだけは、手紙に書いておこう。
本当のことだけど、別にいじめられてるわけでもないし。知っているのはごく少数だけの、この国にとってはタブーな話題なんだってことも、ひと言ちゃんと添えておかないとね。
「他国では、魔力持ちって別に普通にいるらしいし」
エークエス王国が特殊なんですよーってことと、だから心配しないでねってことだけは、ちゃんと伝えておかないと。
なんか、ジェンティーからの文面が、すごく、こう……。
「気を遣われてる感、満載なんだよね」
本に挟んだままにしておいた手紙を、手に取って。改めて文面を読み直して、苦笑してしまう。
きっと、真面目な彼のことだから。考えて考えて考え抜いて、この手紙を書くことにして。文章を考える時も、物凄く考えてくれたんじゃないかなって、勝手に想像してる。
「……それを、ちょっと嬉しいと思っちゃうのは」
間違ってるかな?
でも、さ。自分の最推しが、自分のことだけを考えて、心配して、一生懸命手紙を書いてくれてるって考えたら、さ。
こう……なんていうか……。
「オタク冥利に尽きない?」
私だけ、なのかな?
それでも、嬉しいものは嬉しいし。それが本心であることには、変わりないから。
「……ついでだし、ちょっと相談事っぽくしてみる?」
ただの説明だと、読んだ時に暗くなっちゃうかもしれないから。
それよりも、なにかいい方法はないのか相談してみる、みたいな手紙にすることで。少しは暗さが和らいだりとか、しないかな?
ほら、ジェンティーって学者だし。色々知ってそうじゃない?
もしかしたら本当に、なにかいい案を提示してもらえるかもしれないし。
「暗い文面なんて、私には似合わないもんね!」
なるべく、明るく明るく。私はそんなに気にしていないんですよー感を出しつつ。
なんてことを考えながら、頭の中で文章を構築し終わる頃には。
外もしっかり明るくなって、小鳥たちが楽しそうに囀る声も聞こえる、いつもの起床時間が近づいてきていた。