23.虚構も現実も厳しい!
「プルプラ様が、順調に候補者の皆様と仲良くなっていらっしゃるそうよ!」
「まぁ! それならご婚約の発表まで、もう少しかしらね?」
「きっとそうよ! 『銀の騎士』と並び立つプルプラ様は、きっと今まで以上にお可愛らしくてお綺麗に違いないわ!」
「えぇ、本当に」
楽しそうに会話しながら通り過ぎていく、大量の洗濯物を抱えた少女たち。
目線の位置よりも高いところにある、私の部屋の窓が開いていたことに。きっと彼女たちは、全く気がついていなかったんだろう。
「……というか、こんな早い時間に自分で窓を開ける王女がいることのほうが、おかしいのか」
まだ、日が昇って間もない時間に。本来ならば、まだ目覚めてもいないはずの人物が。これまた本来ならば、侍女に開けさせるはずの窓を自分の手で開けている、なんて。
前日の洗濯物を集めて、これから洗濯をしようとしている彼女たちが。そんなこと、考えるはずもない。
そもそも普段であれば、この時間帯には警備の騎士たち以外とすれ違うことすら、ない。だから彼女たちは、こんな朝早い時間に働いているわけだし。
「おかげで、聞こえてこない情報は手に入ったけど」
早く目覚めてしまったからと、何気なく窓を開けただけだったのに。思わぬ形で、プルプラの動向が分かってしまった。
私は、開いていた窓をそっと閉じて、カーテンも元通りにして。少しだけ、薄暗い状態になった部屋の中で。
「虚構も現実も厳しい!」
一人頭を抱えて、誰も部屋に入ってこないであろうギリギリの声量で叫んだ。
だって! ゲームでは最推しを攻略できないし! 現実では、そもそもプルプラの進捗状況すら分からないなんて!
結局今、どういう時期なのよ!?
「……ジェンティーにも、色々バレちゃったし」
ベッドのサイドテーブルに置いたままの、昨日借りたばかりの本に目を向けて。私は、昨日から何度目かも分からないため息を、一人そっと零す。
本の内容自体には、とても興味が惹かれるけれど。当然のように挟まれていた手紙の内容は、直前までの私のドキドキを返してほしいと思うようなものだった。
ある意味、違う理由でドキドキさせられたけど。
「誰よ。仕事中に私の悪口なんて無駄口叩いてた、無能な騎士は」
いや。一番の無能は、我がお兄様か。
ジェンティーからの手紙の内容から察するに、騎士たちは自分の好みのタイプについて話していたにすぎない。たとえそれが、一国の王女に対して物凄く失礼な内容だったとしても。
そこまでは、個人的な好みの問題だと。いいことでは当然ないけれど、同時に咎められるようなものでもなかった。
だから彼も、少し疑問に思った程度でしかなかったはずなのに。
「どうして身内がわざわざ、王城に招かれているお客様に対して、私の悪口なんて言っちゃうかなぁ!?」
そんなことしたら、頭のいい彼はすぐに気づくに決まってる。
しかも、相手は学者。気になったことは、とことん調べるタイプだっていうのに。
「あの脳筋どもは、内情をペラペラと……!」
上の立場の騎士たちなら、きっとそう簡単に口にはしなかったはずのことも。まだこれから騎士の称号を手に入れようとしている見習いたちは、そういうところに疎すぎる。
そもそも自国の王族のことを、自分たちの感情や考え方だけで簡単に話していいはずないでしょうが! しかも王城内で!
学者とはいえ、一応他国の人間に聞かれたんだよ!?
「相手がジェンティーだったから、まだいいものの……!」
いや、本当はよくないけど!
これが他国の間者とかだったら、どうするつもり!?
そうじゃなくても、エークエス王国では臣下が噂話を簡単に口にしてしまうくらい、王族は軽く見られているとか思われるかもしれないじゃん……!
他国でそんな事実が広まったら、どうするのよ!
「明らかに、上司の責任。監督不行き届き。罰則対象」
そういう教育、ちゃんとしておきなさいよ……!
今回はただ、私を心配してくれていただけみたいだから。手紙には、このことは一切公言するつもりはないって、神に誓ってもいいって書かれてたから、まだよかったけど。
これがジェンティーじゃなかったら、今頃大変なことになっていたかもしれない。
……いや、今後どうなるのかは、まだ分からないんだけど。
個人的には、全面的にジェンティーを信じたいけど。王族としては、よろしくないことだとも理解している。
ただ、起きてしまったことを、これ以上どうにかできないというのもまた、事実ではあるし。
「自覚がなさすぎて困る……」
そして同時に、私は本気で彼に心配されるようになってしまったみたいで。
とはいえ。
婚約者候補がいるはずの王女が、他国から来た学者の男性と仲良くしていても何も言われない、という状況がまかり通っている時点で。きっと、どこか不信感は抱いていたんだろうなとは、思うけれど。
「…………どうしよう……」
目下、一番の悩みは。ジェンティーからの手紙に、一体どう返事を書けばいいのかという。
悩みすぎて早起きしてしまった、といっても過言ではないこの状況に。私は、本気で頭を悩ませるのだった。




