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2.乙女ゲームのライバルキャラ

 そもそも乙女ゲームのライバルキャラとは、物語を彩るためのアクセントにすぎない。

 ある意味で、プレイヤーキャラと攻略対象キャラが共に乗り越えるべき、試練ともいえるかもしれない。

 ネット上の小説の影響で、悪役とか言われることが増えたけれど。基本的に公式では、ライバルと呼ばれることのほうが多いと思う。


 そう。私がドハマりしたあの同人乙女ゲームだって、そうだった。


 あくまでヴァイオレットは、主人公のライバルキャラ。

 主人公のパラメーターや、それぞれのキャラクターとの信頼度や愛情度なんかの絆が足りないと、最後に媚薬やら魔法やらでその攻略対象キャラを奪っていってしまう。


 ちなみに、時折(ときおり)デートの邪魔までしてきたところから、徹底的(てっていてき)にプレイヤーたちに嫌われて。

 掲示板なんかでの通称(つうしょう)は、悪役王女だった。


 そう。王女。

 私が好きだった『銀の騎士とアメジストの君』という名前の同人乙女ゲームは、主人公とライバルが同じ国の王女で、姉妹という設定だった。


 プレイヤーはヴァイオレットの妹の、デフォルト名プルプラを操作してゲームを進めていく。

 彼女はエークエス王国の第二王女で、王族の特徴の紫の髪と瞳を持つ、とても愛らしい姿をした少女。

 ゆるふわな長髪が、その優しそうな見た目に物凄く似合っていて。

 見た目や性格からプレイヤーたちにも気に入られて、彼女を主人公にした二次創作も出たほど。


 それに対して、姉のヴァイオレットは……。


「まぁ、そりゃあ嫌われるでしょうね」


 プレイヤーからしてみれば本当に、いちいち邪魔してくる存在なわけで。そんな彼女が好かれるはずがない。

 ただし。見た目だけは、それはもう恐ろしいほどの美人。


 エークエス王国の第一王女であるヴァイオレットは、プルプラと同じ王族の特徴である紫の髪と瞳を持つ、作中一の美人だった。

 ゲーム中の台詞ですら、美しすぎて近づけないと言われるほど。


 確かに、黙っていると恐ろしいほどの美人であることは否めない。今の自分の見た目だけれど。

 意志の強そうな、ツリ目がちな目元。

 妹のプルプラとは真逆で、完璧なストレートの長髪。

 身長も女性にしては高いほうで、なにも知らなければお姉様と呼びたくなりそうだ。


「鏡を見るたびに複雑な気持ちになるのが、本当に申し訳ないくらいの美人なのよねぇ……」


 こんなに綺麗なのに、素直に喜べないなんて。神様はなんてひどいことをするんだろう。


「せっかく、一番好きな推しキャラがいる『キシキミ』の世界に転生したのに~!」


 『銀の騎士とアメジストの君』略して『キシキミ』なんて。分かりやすい略称(りゃくしょう)にもほどがあるって、言われちゃいそう。

 でも意外とこういうのって、略称が広がりやすいんだよね。掲示板でも、普通にそう呼んでたし。

 けど。


「もう私、ヴァイオレットを悪役王女様なんて呼べないよ」


 掲示板では、皮肉を込めて『悪役王女様』なんて書かれることもあって。(だい)悪口大会になって、大盛り上がりしていたことだって何度もある。

 そのくらい、嫌われているキャラクターだったのに。


「バックボーンを知っちゃうと、何も言えなくなっちゃうじゃん……」


 そう、バックボーン。

 そもそもあれはキャラクターで、作られた世界の中でのお話だから許されていたのであって。

 本当にそんな世界が存在していて、そこで生きていくとなると、話は別。


「というか、なんで実在しちゃってるのよ」


 同人乙女ゲームだったはずの、世界が。

 私はメモを始めてから、今日何度目かも分からないため息をついて。無駄に豪華な部屋の天井を見上げた。



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