17.会話できるだけで幸せ
「まぁ! 動物の血を?」
「材料に使っているそうです。独特の風味があって、少し人を選ぶかもしれませんが」
フィールドワークから戻ってきたジェンティーと、さっそく今日はお喋り。
ちなみに、さすがに図書室で話すのもよくないからってことで。最近では、図書室近くの多目的利用ができる、一応サロンと呼ばれている場所を活用するようになった。
なぜ一応なのかというと、騎士たちは基本的に使わないから。
そのせいで、この場所には扉がない。アーチ状の入り口で仕切られているだけで、基本的に中は丸見え。
「本当に、世界には様々な文化があるのね」
「ヴァイオレット様に興味を持っていただけて、私も嬉しい限りです」
とはいえ、人に見られて困るようなことをしているわけでもなければ、聞かれて困るような内容の会話もしていない。
本当に、ただの世間話だし。
ある意味、健全ですよー。やましいことはしていませんよー。という一番の証明になるので、これはこれでいいけれど。
「それなら、他にもどんな独特な文化があったのか、教えてくれる?」
「構いませんよ。そうですね……食品でいえば、ある国では甘いものが好まれ、また別のある国では辛いものが好まれている、とか」
「真逆なのね」
「冷たい食べ物を好むのか、熱い食べ物を好むのかも、国によってかなり違いました」
むしろこれ、騎士の国では知りたがる人なんていないよね。って思うような内容ばかり。
私としては、ジェンティーと会話できるだけで幸せなんだけど。周囲からは、確実に理解されないだろうなってことも分かってる。
でもいいんだ! 推しとの会話は、心の栄養だから!
「本当に極端ね」
「さて、では問題です」
「あら、突然ね」
「えぇ。せっかくですから」
しかも見て見て!
仲良くなったからなのか、こんなにいい笑顔でクイズまで出してくるようになったんだよ!?
最高じゃない!?
「いいわ。受けて立とうじゃないの」
「さすがです」
推しと、このやり取りができるとか。夢みたいじゃない!?
あぁもう本当に、どうして攻略対象キャラじゃなかったのよ! こんなに素敵なのに!
でも今はむしろ、そのことに感謝!
ありがとうございます! おかげで、こんなにも幸せな時間を過ごせています!
「冷たいものを好む国と、熱いものを好む国の、違いは何でしょうか?」
「違い?」
「私が見てきた中では、決定的な違いがありましたから」
楽しそうに弧を描く薄い唇も、優しそうな茶色の瞳も、全部全部魅力的なのに。これでお助けキャラって、信じられる?
私は考えている風を装って、その顔をジッと見つめる。これがチャンスとばかりに、それはもうしっかりと。
(やっぱり、顔立ちはかなりいいほうだと思うの)
というか、筋肉がつきすぎている騎士たちよりは、よっぽど好みなんだけど。
知的というかなんというかさー。これぞ貴族、って感じするもの。
正直、エークエス王国の貴族なんかよりも、よっぽど貴族っぽい。立ち居振る舞いとか、本当に綺麗だし。
何も知らない人に「この人この国の王族なんです」って言っても、通用しそう。
「少し、難しかったですか?」
「待って。もう少しだけ考えさせて」
無言で見つめ続ける時間が長かったからか、心配そうにジェンティーは訊ねてくるけれど。
ごめん、違うの。ただそのご尊顔を、もう少しだけ長く眺めていたいだけなの。
(こんな機会、滅多にないから……!)
とはいえ、あんまり無言を貫き続けるのもよくない。それ以前に、ジェンティーにとって居心地がいいとはいえないだろうし。
推しが嫌がることや困らせることをするのは、本望ではないのよ!
「冷たいものと、熱いもの、でしょう?」
「はい」
そろそろ本気でクイズに挑戦しようと、もう一度確認してみるけど。
これって、さ。明らかに……。
「国の、気候の違い?」
「その通り、正解です。さすがヴァイオレット様ですね」
いやいや、簡単すぎるでしょう。私の推し、優しすぎないか?
「暑い国では、冷たいものが好まれて。逆に寒い国では、熱いものが好まれている傾向が強かったですね」
「体を冷やすためと温めるためで、真逆のものになるものね」
「そのようです。ちなみに暑い国では、甘い食べ物も特に好まれる傾向があるようです。特産の果物も、甘いものが多いですし」
というか本当に、こんな他愛もない話で楽しめるって。推し活、最高じゃない?
よしじゃあ、今度は私のターン!
「なるほどね。それなら次は私からジェンティーに、エークエス王国についての問題を出してあげる」
「それは楽しみですね!」
声が! めっちゃ! 弾んでる!
目がキラキラしてるよ! 本当に好きなんだね!
そしてそんなジェンティーを見られるのが本当に幸せです眼福ですありがとうございます。
なんていう、オタク特有の早口になってしまう心情は、表面上一切見せないようにして。
「我が国にも、貴族制度があります。が!」
「が?」
「それとは別に、騎士としての階級があります。さて、この場合優先されるのは、どちらの階級になるでしょう?」
つい、本当にクイズ形式みたいになっちゃったけど。
これはこれで、楽しいからいいよね?
実は砂糖には、体温を下げる効果があるそうです。
南国のフルーツは糖度の高いものが多いですが、もしかして植物もそういう理由で糖分を生成している…?
なんてことを考えながら、だから「世界一甘いお菓子」と呼ばれるデザートは、暑いインド発祥なのかと。砂糖は体温を下げると知った時、一人で納得していました(笑)