第08話 勝利
目の前いっぱいにネフィスさんの剣先が迫った。
「ちょ、近っ……!?」
その瞬間、背後から立て続けにベアトリクスさんの声が飛んでくる。
『《守備力向上》を付与します――』『《速度向上》を付与します――』
脳内アナウンスが滝のように流れ込んできて、僕の体が一瞬で軽くなる。
ベアトリクスさん、バフ全部盛りですか……!?
「YES!! YES全部!!」
返事をしながらも、視界の端ではメイドさんがネフィスさんに向かって何かを叫んでいた。
次の瞬間――
『《攻撃力低下》を習得しました』『《速度低下》を習得しました』『《筋力低下》を習得しました』
デバフまで飛んできた!?
メイドさん、意外と容赦ないタイプなのか。
「V"TX*6a,sd!!」
ネフィスさんが叫ぶや、銀光が弾けた。
全力の一撃――僕の右肩めがけて振り下ろされる。
「うわ、絶対死ぬやつじゃん!!」
太刀筋なんて素人の僕に分かるわけもない。
ただ、本能が叫ぶ。
――イチかバチか!
「頼むっ!!」
僕は振り下ろされる刃の直前、右手を差し出し、《格納空間》を発動した。
瞬間――
ザシュッ!
手のひらに激痛! そして、剣が光の粒となって消えた。
「っっだああああああああ痛ぇぇぇ!!」
右手から血が噴き出す。
その向こうではネフィスさんは自分の武器が消えたことに驚愕していた。
だが、すぐさま立ち直り再び空間から何か出そうとする。
付き合いきれるか!
「はいドーン!!」
僕は《格納空間》にある最大サイズの物――ベッドを、ネフィスさんの真上に戻した。
「!?」
ネフィスさんも気づいたが遅かった。
おまけに取り出したのは短刀。分が悪い。
部屋が揺れるほどの轟音がおこる。
白い脚が一瞬バタついたが――
そのままベッドからはみ出る形で動かなくなった。
ベッドを《格納空間》にしまい、
横たわるネフィスさんにおそるおそる近づく。
立ち上がる様子はおろか指一本動く気配もない。
上から顔を見下ろすと白目をむいている。
どうやら気を失っているようだ。
整った顔の美人さんなだけに白目顔は残念でならない。
緊張が解けた途端、僕はその場にへたり込んだ。
「いてて……これ、手のひらパックリいってる……」
そんな僕の横にメイドさんが来て、そっと右手に触れる。
『《治癒》が使用されます。許可しますか?』
「YESに決まってる!」
光が走り、血が止まり、裂けた皮膚が逆再生のように閉じていく。
『《治癒》を習得しました』
「え、覚えちゃうの!? ありがと……ほんと助かったよ。」
メイドさんは驚いた顔をしたあと、小さく頭を下げた。
入れ替わるように、ベアトリクスさんが僕の横へ来る。
うつむいたまま肩を震わせている。
(怒ってる? 落ち込んでる? どっちだ……?)
そっと声をかける前に、彼女が顔を上げた。
「――すばらしいです!!」
「え?」
目がキラッキラしている。
「レベル1のあなたが、レベル20のネフィスに勝つなんてっ!」
「いや、運というか……ケガもしたし……」
「かすり傷ですわ! 《治癒》で治る程度! 完勝です!」
そんなものか……?
「勝ち、なんですかね」
「はい、完全に勝ちですわ」
その瞬間。
『ネフィス・ラーンに勝利しました』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
『戦闘経験がレベルアップの規定回数を満たしました。』
と立て続けに脳内アナウンスでレベルアップが告げられる。
”鑑定”魔法で僕のステータスを見ると・・・
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【恩田 拓斗】
種族:人間 性別:男 年齢:15歳 職業:高校生
状態:安堵 所持金:¥8,250
所属1:恩田家
所属2:私立宇月高校1年A組
Lv:7/--- 6UP
HP:640/---
MP:640/---
魔法:
《鑑定》 Lv:7/--- (247/640) STAY
《意思疎通》 Lv:2/--- (0/20) 1UP
《格納空間》 Lv:5/--- (115/160) STAY
《治癒》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《召喚》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《守備力向上》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《速度向上》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《筋力低下》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《攻撃力低下》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
《速度低下》 Lv:1/--- (0/10) NEW!
罪歴:なし 業:-1
備考:異世界転移経験あり(3回)
***他の情報はレベル不足のため表示されません。***
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「……ええ……僕ってこんな成長曲線なの……?」
指数関数的に増えてないか?これ。
もはやベアトリクスさんより高い数値もあるじゃないか・・・。
とはいえ、強くなったという自覚はまったくわかない。
僕を治癒してくれたメイドさんが、ネフィスさんを乱暴に引きずっていく。
「顔で床を掃除してるけど!?」
突っ込みを入れたが改める様子もない。
ネフィスさんは気を失ったままなのでなされるままだ。
・・・まあ、
メイドさんの静止を振り切ったのはネフィスさんだし、仕方ないか。
すると再び外で声がする。
メイドさんの制止する声と何か咎めるような口調の異国の言葉が聞こえるが、姿が見えないと”意思疎通”は使えないようだ。
「どうやら先ほどの騒ぎで寮監が来てしまったようです。」
とベアトリクスさんが何事もなかったかのように伝える。
「寮監?」
「はい、ここは私共が生活している女子寮ですので。」
「女子寮?」
「はい。」
いや、てことは・・・
「ちなみにネフィスさんは何と言いながら僕に切りかかってきてたんですか?」
「”何故、男がここにいる!”だったかしら。うふふ、私がお呼びしたのですからここにおられても不思議ではないのに。」
「ネフィスさんは前回僕を殺そうとしましたよね。同じ理由で切りかかって来たのでは?」
「いえ、ネフィスにはちゃんと説明しましたわ。対抗戦は私に考えがあるので手出し禁止って。」
ネフィスさんが僕に切りかかってきた理由は前回と違うらしい。
手段はともかくとして、ネフィスさんはベアトリクスさんが対抗戦とやらで恥をかいたり、ベアトリクスさんの部屋に男性が入っていたことであらぬ風評が立たないように動こうとしたのだろう。
斬ってなんとかしようとしているところに脳筋要素を多分に感じるが、何も考えてないわけではなさそうだ。
とはいえ、外の音がだんだん大きくなってきた。
他の人も寄ってきたのかもしれない。
「そうですか。女子寮に男性がいるのはまずいでしょうから、私を戻していただけますか。」
「そうですわね。また改めてお話させてください。」
「次回は女子寮でないところがいいですね。」
「そうですか?余計な人間が入らないので自室だといろいろ都合がよいのですが。」
「男性がいるのはよくないでしょう。」
「サナとサヤがいますから問題ないです。」
サナとサヤってのはさっきのメイドさんたちかな。
「わたしが落ち着かないので女子寮はご勘弁ください。」
「そうですか、残念ですわ。ではまた・・・」
あまり残念でもなさそうな口調でそういうとベアトリクスさんは何事か唱える。
こればっかりは”意思疎通”してても日本語化はされないようだ。
周辺がゆっくりと光はじめ、僕はその光に包まれた。
◇◇◇◇◇
「拓斗、ご飯って言ってるでしょ!」
「うおっ!」
自室に戻り、慌てて家具を配置しなおした直後、母さんがドアを開けた。
ベッドに向けて手を伸ばしている僕を見て、何か言いかけたが口をつむぎ、
「早くきなさい」
と言い直しキッチンへと戻っていく。
「……はーい」
間一髪だった。
だが――
「……問題が一つ残ってるんだよなぁ」
《格納空間》の一番下に鎮座する武器。
ネフィスさんの刀、である。
「持ってきちゃってますな・・・」




