表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話 通りすがりの大学生

 結局ネフィスさんに効果が失われた短剣をどう返すかを考えたが良い方法は思いつかなかった。

 効果のなくなった短剣をしれっと返して、何か言われても知らぬ存ぜぬを貫くという方法もあるにはあるが最後の手段にしたい。


 粟崎(あわさき)先輩はというと、宿題を終わらせると安定のルーティンで小説を読む。

 この人、悪霊に取りつかれてたんだけどなぁ。

 と思うが、ただ疲れているだけと思っていたらしくそんな深刻に考えてなかったようだ。


 とはいえ、知り合いが悪霊に取りつかれてるのを大丈夫そうだからといって見過ごして後で何かあると嫌なので、悪霊を浄化したこと自体に後悔はない。


 「下校のチャイム聞こえなかった?帰りましょ。」


 考え事をしている僕に、先輩は読みかけていた小説をぱたんと閉じながら声をかける。


 「はい。」


 このままとどまったところで、事態は改善しないだろう。

 続きは家で考えよう。

 そう思ってカバンを取り、施錠しようとしている先輩の後に続いた。


 5月なのでそう暗くはない。

 とはいえ同じ地区の中学だったので、家はほぼ同じ方向だ。

 示し合わせたわけでもなく、一緒に帰る形になる。

 同級生に見られたら妙な誤解を受けるかなと思ったが、急に先輩と距離を取るのも変だし、何か言われても図書委員会の仕事が一緒だっただけだ。と言えば済むと思いそのまま歩く速度もそろえて並んで帰る。


 「高校はもう慣れた?」

 しばらく無言で歩いていると、先輩が話題を振ってきた。

 「ええ、まあ。家を出る時間が少し早くなったぐらいですしね。」

 「起きる時間は早くなってないの?」

 「2年前から姉ちゃんと同じ時間に起こされてますから。」

 両親からすると起こす手間をかけたくないし、伊緒姉さんからすると自分が起きてるのに、僕がまだ寝ているのは嫌らしい。そんな謎の理由で僕は中学在学中から早起きを強制されていた。

 そんな話をすると、

 「伊緒さんらしいわね。」

 と粟崎(あわさき)先輩は手を口元にあてながらクスリと笑う。


 「学校の授業の方はどうなの?」

 「うーん、まあまだ始まったばかりですし、先生も僕らの性格とか知るのに手探りみたいな感じですね。」

 「拓斗君は随分余裕そうね。一か月しかたってないのに、カバンがそんなに軽そうだし。うちは進学校じゃないけど、将来のことを考えるなら予習復習はちゃんとしておいたほうがいいわよ。」

 「そうですか。」

 普段の姉の様子を見ているとそんな風には見えない。

 あとカバンはやっぱり中身を空にしていると、ばれるようだ。

 もう少し重さがあるようにふるまった方がいいかな?

 気を使いながら生活するのも面倒だし、怪しまれない程度には荷物を入れておくか?


 「じゃあ、私これから塾だから。」

 そんなことを考えながら駅の通りを横切ろうとした時、先輩が告げる。

 僕たちは駅をはさんで学校の反対側に家がある。

 てっきり家まで帰るのかと思っていたが、先輩は駅まで一緒のつもりだったようだ。

 「今からですか?」

 9時過ぎになるようだが、先輩は気にした風もない。

 駅からの通りも街灯があるし、先輩の家は大通りに面していたはずだからそれほど心配してもいないのだろう。

 「隣駅の塾で2時間程度よ。じゃあ、またね。今度は当番すっぽかさないようにしてね。」

 といろいろ考えてた僕に別れを告げ、駅へと向かう先輩。

 急に向きを変えたせいか、駅から向かってきてた若い男性にぶつかりかける。


 「おっと、失礼。」

 薄手のジャケットを着ていた若い男性は自分もキョロキョロとよそ見をしていたせいか、急に向きを変えた先輩をとがめることもなくそう一言だけつぶやくと先輩とすれ違い、そのまま僕の横も通り過ぎていった。

 先輩も急いでいたのか、男性に一礼だけして、改札に小走りで向かっていった。

 一瞬僕の方を振り返り、僕がまだここにいるのを見ると、にこりと小さく手を振ってそのまま改札を抜ける。


 先輩の姿が見えなくなるのを確認して、先ほどの男性に既視感を覚え振り返る。

 先輩の姿はもう見えなくなっていたが、その男性はまだ僕から10数メートル先を歩いていた。

 人通りもあるのに他の人のペースをまったく気にせず、ゆっくりと周りを見ながら歩くその姿を見て思い出した。

 日曜日に”鑑定”を初めてかけた人だ。その時もこの駅前だった気がする。

 皆が駅の周辺を慌ただしく動いている中、今みたいに周りを見ながら自分のペースで進んでいる。

 最初に鑑定をかける時も、鑑定結果が見やすいようにと歩くペースが遅かったその男性を選んだのを思い出した。

 変わった人だなと思いながら見ていると、自動で設定していた”鑑定”が発動しその男性のステータスが表示される。

 最初に見た人だしな・・・確か大学生だったっけ?

 そう思いながら表示されたパラメータを見て僕は手にしたカバンを落としかける。


 ---------

【佐村 猛】

 種族:人間 性別:男 年齢:21歳 職業:大学生

 状態1:平常

 所持金:¥120,000

 所属1:佐村家

 所属2:私立宇月大学3年生

 罪歴:なし  (カルマ):-237

 備考:誘拐・殺害経験あり

 ***他の情報はレベル不足のため表示されません。***

 ---------


 ゆっくり歩いている人なんて呑気な感想を抱いている場合ではなかった。

 これはやばい人だ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ