第10話 先輩
翌日、目を覚ますとさっそく自動実行の結果を確認する。
《鑑定》 Lv:7/--- (276/640) STAY
《意思疎通》 Lv:3/--- (12/40) 1UP
《治癒》 Lv:1/--- (3/10) STAY
《守備力向上》 Lv:6/--- (172/320) 5UP
《速度向上》 Lv:6/--- (170/320) 5UP
《筋力低下》 Lv:6/--- (170/320) 5UP
《攻撃力低下》 Lv:6/--- (170/320) 5UP
《速度低下》 Lv:6/--- (170/320) 5UP
”治癒”は失敗、右手の傷がうっすら残っているのだがこれは完治扱いのようだ。
レベルが低いからかもしれないけど。
”鑑定”は部屋中のものを一通り鑑定し終わった後は空振りしたのだろう。
”意思疎通”は動画配信のLive映像を一定間隔で切り替える設定をしたのだが、途中で止まっていた。
確認すると予定配信の一つが急遽明日(もう今日だけど)に変更になったらしくそこでエラーになったようだ。
そして残りのバフ、デバフ系。
レベルアップによって何が変わったか。
これは自身の鑑定結果を見るとわかる。
状態2:守備力向上効果 5%UP(残り時間23sec)/速度向上効果 5%UP(残り時間23sec)/筋力低下効果 5%DOWN(残り時間23sec)/攻撃力低下効果 5%DOWN(残り時間23sec)/速度低下効果 5%DOWN(残り時間23sec)
レベルに合わせてパーセンテージが上がるようだ。ただし効果時間に変化なし。
バフ系(向上)はこのまま継続しても問題ない。
あとデバフ系も”攻撃力低下”は攻撃しないから問題ないし、”速度低下”も”速度向上”と相殺。
(厳密には相殺じゃない。表示を信じると105%×95%だから微妙に落ちてることになる。)
問題は”筋力低下”だ。5%減だとそれほど違和感は感じないが、これ以上レベルがあがると困る。
重ね掛けなんかしたら動けなくなるかもしれないし、このままレベル上げて自分では制御できない非自発性の筋肉(不随意筋とか)にも影響がでると困る。
と言うことで”筋力低下”は止めることにした。
”治癒”も止めているので毎秒7回復で6消化の形だ。
昨晩から少しずつ減っていたMPも160(MAXは640)あたりから徐々に回復し始める。
とはいえ回復しきるのは学校から帰るころになるだろうから、自動実行の設定はこれ以上変更せず学校に行く。
学校に向かう途中に何人かに鑑定をかけるが必要な経験値が多いのでなかなかあがりそうにない。
とはいえ、やってることが目に見えるのはありがたい。
勉強もこんな感じで次のステージまでに必要な時間がわかればどんなにいいか。
でもカンストしてたらショックが大きすぎるからわからないほうがいいのかもしれない。
そんなことを考えながら校門に通過すると、腕を組んだ女性が僕の前に立ちふさがった。
肩あたりできりそろえたボブカットの眼鏡の女性だ。
「恩田君、ちょっといいかしら。」
その女性のことはよく知っている。
粟崎 忍
中学からの先輩だ。普段は温厚で人当たりの良い人だが、今日はなぜか口調がきつい。
「粟崎先輩、おはようございます。」
「昨日はどうして来なかったの?」
「昨日?」
と聞き返すと、あきれたような顔をして、
「図書委員の仕事よ。」
と言われてハッとした。
読書部という緩い部活にしたのはいいが、そんなに本が好きならと言う謎理論で押し付けられたクラス委員だ。
「昨日・・・、当番でしたっけ?」
図書委員が交代で図書室で本の貸し出し手続きを行う当番の仕事がある。
おずおずと尋ねるふりをしたもののGW前に粟崎先輩に念押しされていたことまでしっかり思い出している。
スキル育成のことばかり考えていてすっかり忘れていただけだ。
「そうよ。昨日は田崎君に変わってもらいました。」
と先輩は隣のクラスの図書委員の名前を告げる。
「そうですか。すいません。」
と完全に僕が悪いので頭を下げる。
素直に非を認めたので、これ以上怒る気をなくしたのか、先輩は組んでいた腕をほどくと、
「代わりに今日出てもらうから。田崎君と入れ替わってもらう形よ。」
と告げて自分のクラスの方に帰っていった。
先輩の後姿を見ていると、突然後頭部をはたかれる。
振り返ると伊緒姉さんがいた。
「何シノブに迷惑かけてんのよ。」
同じ中学なので姉さんからすると粟崎先輩は後輩にあたる。
普段手を出してくる人ではないけど弟が人様に迷惑かけたので、思わず手が出た感じかな?
ずっと僕の後ろにいたみたいだから、気まずいものもあったのかもしれない。
先輩があっさりと許してくれたのも後ろに姉さんがいたからかもな。
「ごめんって。これからは気を付けるよ。」
せっかく先輩が許してくれたのに伊緒姉さんに怒られたら意味がない。
「じゃあ、姉さん。僕、今日は委員会で遅くなるから。」
そう言い残し、早々に姉さんから離れることにした。
◇◇◇◇◇
夕方、再度すっぽかすわけにもいかないので授業が終わって、図書室に向かう。
図書室につくと粟崎先輩がいた。
「ちゃんと来たわね。」
と僕を見て言う。朝ほど怒ってはいないらしい。
「そりゃ、あれだけ言われれば来ますよ。わざわざ確認しに来たんですか?」
「違うわよ。今日は私も当番なの。」
先輩はそういうと、新刊として入って来た本の整理を始める。
僕の返却後で棚に戻されていない本を棚に戻す作業をはじめることにした。
真面目に来たはいいものの、ものの30分ほどで作業は終わる。
このあとの1時間半はいかに効率的に時間をつぶすかだ。
入学早々にタブレットを開いて小説を読んでいたら先輩に異星人でも見るかのような目で見られたのはいい思い出だ。
インクの香りや本の重みの重要性を淡々と語られたが、ピンとこなかった。
先輩はと言うと、教科書とノートを出して何かしらノートに書き込んでいる。
おそらく宿題なのだろう。これが終わるとどこからか小説を持ってきて下校時間まで読むのが先輩のルーティンだ。
GW前までの僕はどうしようかと毎回考えていたが、今回は違う。ちゃんと時間はつぶせるのだ。
授業中も実行し続けた結果レベルが変わったか確認して設定しないと。
ここで、ハタと気づく。
そういえば粟崎先輩に”鑑定”かけてなかったな。
朝は怒っててそんなことしようと思う余裕すらなかったけど。
さっそく、横に座っている粟崎先輩に”鑑定”をかけてみる。すると・・・
---------
【粟崎 忍】
種族:人間 性別:女 年齢:16歳 職業:高校生
状態:疲労
所持金:¥30,000
所属1:粟崎家
所属2:私立宇月高校2年生
罪歴:なし 業カルマ:0
備考:怨念憑依中
***他の情報はレベル不足のため表示されません。***
---------
一部想定外のパラメータがあるんだが・・・




