表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Dialogue〜ダイアローグ〜

作者: 山田一朗

※今修正中です

一人称のミスや、誤字があると思いますが

ご愛嬌ということで。。。(勘弁して下さい!!!)

乱立する断末魔に、違和感を覚えた




燃え盛る炎、そこかしこから煙が上がり

途切れる事のない悲痛な叫びが、作戦の快調を示している


「C、今の一団

 刺しが甘かったのかもしれない。確認を急げ」


父は単調に私に告げると小太刀に銃を携え先へと進む

私は命令(その)通りに動くが

本当の所、命令など聞いてはいなかった


聞き違うはずのその声を

聞き違いだと暗示することに手一杯になっていたのだ


違う、、、これも、、これも


一人一人の声を、顔を

まるで自分を(なだ)めるかのように確認していく


嗚咽にも似た唸り声に耳を澄ませたいのだけど

どうにも拍動がうるさい


そして、ついに私は決定的な一人の人相を目にすることになる


色艶の良い肌、整った眉、癖っ毛の金髪

「・・・エドワード...」


どれだけ目を擦ろうとも、例え血塗れだったとしても

その顔を私が見間違うはずはなかった


「え....マ、、、、?」


一度冷静になる間が欲しかったが

私の身体はそれを良しとはしてくれない


「なんで!?、何でここにいるの!?

 エドワード...!」


私の必死の問いかけに、彼は不器用に笑う

その笑顔に、私は不覚にも怒りを覚えた


「ごめんね。だけど、、、

 俺はこの家を離れる訳にはいかないんだ」


何で、、、、何で何で何で

それだけを、ただひたすらに心の内で叫び続ける


何が、何が彼を縛るのか

今更ながら彼のことを理解できない自分に腹が立ってくる

「ゲッホッ、、、ゲホゲホ...」



「もう、、大丈夫、逃げて

 火のまわりが早まってきた。このままじゃ君が・・」


「嫌よ!私、ここにいる!!

 最期まであなたと一緒に居させて!」


彼だけなのだ

彼だけが、いつでもそばに居てくれた


話を聞いてくれた、笑ってくてた、心配してくれた

”認めてくれた”


それが何より嬉しかった


バン、、、バババ!

絶望する私に追い討ちをかけるように

背後から、彼を狙う鉛が容赦無く降り注ぐ。母の援護射撃だった


恐らくは柱を折って建物を倒壊させたいんだろう

自分の無力さを見せつけられるような気がした


「エ、、、マ...これ、持って?」


エドワードは血塗れのその手で

自らの首から下がる小さなロケットをちぎり差し出す


「いやよ?、そんな手で差し出すなんて、失礼だと思わないの?

 私は、、、元気な、あなたの、、、」


言葉が上手く繋がらない


嫌だったのではない

もしも、安易にもその手を取ってしまったなら

もう2度と、彼の手を握ることができないような気がしのだ


彼は一度困ったような顔を浮かべ、その後


恐らく最後の力を振り絞って、私の手を取り

嗚咽を漏らす私の手に硬く握らせた


「愛してる」


最期の言葉だった




「ご両親の職業は?」


誰もが一度は聞かれる質問だが

それは私にとって、頭痛の種だった


父は表向き喫茶店を営む42歳

しかしその実、正しいのは自営業という事だけであり

本業を暗殺業に置く


家は元々暗殺の大家であり、一族は皆暗殺者として

世界中で腕を振るっているという


殺し屋の長女として育てられた私は

幼い頃から、人を殺める訓練を受けてきた


幼少期、同級生が休日両親と遊びに出かける中、

私は父にナイフの構えを教わり


クリスマス、同級生がホールケーキに

チキンを食べる中、私は鉛と火薬の匂いを知った



外は雨が降り、視界が悪くなっている。

よく見ておけ

これが最後になるのだ、そう心に言い聞かせ

ここ数日にできた無数のマメを眺めた


「どこへ行く?」


「新聞取ってくる」


吐き捨てるようにそういうと、父はワンテンポ遅れて

私の方へと目をやった


やっぱり、年々注意が甘くなってる


右脚に重心を寄せ即座に走る体勢に


「やめて」

台所から玄関に向け出刃が飛んだ


危ない、

やっぱり近接戦闘には父の技量が圧倒的だけど


虚を衝く動き対する咄嗟の判断力は母が半歩勝るようだ

刃を投げたのは、恐らく私が走った先


もちろん

急停止が難しいことを見越してのことだ


親が子にするまともな躾の類いじゃない


バキッ!

フローリングに本来あり得ない音を立てて刃が刺さる


母がこれをする時、いつも腿の裏を狙う

だから、フォームをずらして股をすり抜けるようにした


「あら」


まるで他人事...

所詮、私の反抗などその程度の事でしか無い

それが何より腹立たしい。


私は拳を握り締めながら

玄関の扉を開け、私は初めて外へと飛び出した。




タッタッタッタッタッタ


街灯が照らす道を額に雨粒を受けながら私はただひたすらに走った

父、母、妹はもう私を探しに出ただろうか


湿気と強風が私の身体を打ち付けるが

それでも私の()が途絶えることはなかった



”彼の残したものを知りたい”


あの日、私は妹に回収され次に居たのは自室のベッドだった


その後、何が変わったわけではない

ただ、私の首元には彼が最後に私に手渡したロケットがあった


中にはドライフラワーにした

ラベンダーが入っており、まだ相当新しいようだった。



”あなたを待っています”


調べた限りでの花言葉

もちろん確証などない。たまたま思い出として

渡しただけなのかも知れないけど


それでも彼にもう一度で会えるのならそれでいいと

僅かな希望を懸け、家を飛び出したのだ


シュタッ!


異様なスピードでレンガ屋根を走る音が、耳に届く

とうとう父が動き出したのだ



教会を抜けた。

三番街から路地に入って、


ベランダをつたって屋根に登った


私の走る道まで、、、飛び降りるそうだ。


父の技術は一般人にはもちろん、

幼い頃から訓練を受けてきた私の目から見ても、常軌を逸している


恐らく私は父が空を飛べると言い始めても

何一つ驚かないだろう



しかし、私だって父と母の超人性を見越さなかった訳ではない。


むしろ、最も近くでその技を見てきたからこそ

最大限の不確定要素を混ぜた


雨の日、週二で現れるアイスクリーム屋、

不景気で閉店日がわからない店、犬を散歩する老人、大道芸師、野良猫...



ギギギギ,,,


気づくと私は瓦の上でねじ伏せられていた



「痛い!、、痛い痛いってば!!!」


どこまで逃げたのだろうか。

確か、最後に私が走っていたのは、4番街の屋上


母の射撃を避けようと

建物を盾に走っていたところまでは、よく覚えている


「黙れ、自分の立場をよく考えろ」


父の鋭い眼光が私の意志諸共、動きを封じる

「やけに時間とったじゃない。  衰えた?」


ライフルを担いだ母が、私を嘲るように近づいてくる


「緊急事態だぞ?無駄口を叩くな」  「はーい」


汗一滴かいていない

つい先程まで塔の最上階で肩に乗ったそれを構えていたなど

誰が信じるだろうか


「エマちゃん、私、鬼ごっこは大好きよ?

 いつでも誘って欲しいくらい


 でもね、仕事の邪魔をする子は、”大嫌いなの”」

気高き鷹の目が静かに私を刺す



悔しい


昔から、父は私の行動の一切を支配した

食事、生活習慣、運動、学業


どれを取っても両親は一流であり

どこまで抗おうとも、私がそれを逃れる術はなかった


冷静に考えれば、当たり前の事だ

私は、一人前になるまで待つべきなんだ


エドワードが残してくれたメッセージなど

それこそ、時間の経過ごときで忘れるようなものじゃない


分かっていた、その筈だった。



しかし、どれだけ理由(わけ)を並べようと

気持ちを抑えるなんてできない


頬を滴り落ちる雨に、塩気を感じた


不甲斐ない

エドワードへの申し訳なさで一杯だった


「やっぱり、学校に行かせたのは失敗だったのかしら?」


「いや、ここに定住する以上

 年頃の娘が学校にも行かず家に引き篭もっていると

 噂されるのは都合が悪い、変えるべきは彼女の心だ。」


「勝手なこと言わないで!!」


地に這いつくばりながら、私は必死にそう叫んだ


「お黙り!」

怒りを(あらわ)にする母


「まあ、そう激昂する事もない。

 エマ、今日君は少しおかしい


 思春期?とやらにはよくある事らしいが

 一度、家に帰って頭を冷やせ。」


父が平然と放ったその一言に、

ハラワタが煮え繰り返るような激情を覚える


「ふざけないでよ!!!」

口をついて出た一言だった


「私はお父さんの人形じゃない!

 道具じゃない、理想でも代わりでも奴隷でもない

 娘よ!


 強いられて、縛られて、傷付けられて

 嫌だからいなくなるって言うのになんの文句があるの!?」


目が充血し、喉に鼻水が詰まる

心の吹き溜まりを吐き出すように

ただ、叫んだ


「私は、自由なのよ!!!」





しばらくの沈黙が続く


「ねぇやっぱりこの子、、、」

母は途中で言葉を切った

俯きかけていた父の顔がゆっくりとそれも満面の笑みとなって

徐々に上がる


「りないよ…..足りない足りない!!!」


突然、空に向かって叫んぶ

その顔はいつも父が躾と称していたぶるときに見せる

残酷で冷ややかな笑いだった


その時、

鞭にも似た無数の金属ワイヤーが私の身を襲った


「足りないんだ、感謝が!」


始まった


「感謝、感謝、感謝,感謝,感謝.感謝.感謝感謝感謝!!!!!!!

 感謝が足りないよぉ


 だからそんな口の利き方が出来るんだ

 だから出来が悪いんだ

 だから君は学ばないんだ

 だかっっっらぁ!!!!!!,


 育ててくれた恩を仇で返すなんて非常識なことできるんだ

 足りないよぉ〜?、誰が君を育てたか

 考えたことある?」


小動物を見るような下劣な目だ。

昔も今も、

そしてこれからもずっと、私を縛り付ける


ああ、”地獄”がまた始まる



過去にも一度両親に反抗した事があった。小学校3年性の時だ。よく覚えてる


ー◯ー


当時、帰りたくない一心から近所の家に潜り込んだ事があった

そこのご婦人はとても良い人で

私は普段溜まっていた愚痴を話すと、静かに聞いてくれた


ついつい時間を忘れ、気づいた時には夜だった。


家に帰ると、私は父から拷問にも近い()()を受けた


そして次の日、

たまたま偶然、近隣で放火事件が発生し


そこに住む、たった一人のご婦人が亡くなった


ー◯ー


もはや、私が生きる意味などない

大切な人を失い、たった一つの希望すら

私には届かぬほど遠い光だった


私は覚悟を決めると、胸ポケットにしまったナイフを

歯で器用に剥がし、舌に乗せた


緊急自殺法

それは皮肉にも父から初めて教わった技術だ



そして、そのままナイフを

飲み込もうとした次の瞬間だった


パァン!


突如、目の前に眩い閃光が放たれる

流石の二人も動揺し、目元を押さえた


ヒィーーーヒヒヒヒヒヒヒ!!!

世にも奇妙な笑い声と共に一つの影が、私の眼前に燦然と現れた


私は、空いた口が塞がらず

そのままナイフを落としてしまった。


「その美しい御心、要らぬとあれば

 このしがない道化にお譲りいただけますかな?」


目より大きな赤い鼻、絵の具にも似た厚化粧

それはまさに

絵本やサーカスに登場するのピエロそのものだった


「は?いきなり家族の話に割って入ってきて

 オタク、何様のつもり?」


「これはこれは、御家族の方でいらっしゃいましたか♪

 それは大変な失礼を


 にしても最近の家族とは随分、さっぱりしておいでですね?

 ヒヒ!」


!!!w


父と母が嫌悪感を示す中

私は一人、吹き出してしまった


それは両親への反発心からだったのか、

それともこの状況に対する皮肉を笑ったのかはわからない


「何者だ?、今大切な娘に説教をだな」


パチン!


彼が指を鳴らすと、たちまち私は父の下から外れ

道化の腕の中にいた


パチン!


彼がもう一度指を鳴らすと

今度は、私の姿がピエロと瓜二つへと変化する


そのまま運ばれると思えば

今度は手を繋いで屋根の縁へと立たされる


「それでは今宵、娘さんをしばし、拝借致します」


「一度かかった蜘蛛の巣から、逃げ出せるとでも?」


父の顔は余裕そのものだった

私も実際、この道化がこの局面を打破できるとは

微塵も思わない


しかし、目の前のソレから感じるのは

そう言った理屈から生じるものとはまた別の


未知の信頼感だった


「はい!

 私、姿形もこうで道化(ジョーカー)を自称致します故、ヒヒ!」


自信たっぷりに舌を出す男。


その、あまりに狂気に満ちた笑顔と

   憎たらしいまでの饒舌は、


まるで私たち家族の全てを馬鹿にするようで

とても愉快だった


「それでは親御様

 Show Timeですよ?ヒィーハァ!」


私たちは高さ10メートルはあろうかと言う

建物の上から落下を始めた


バン!

正確無比な射撃が私の首筋を横切るが

その照準はなぜだか逸れる


パン!

ピエロの方から破裂音がして、視界は白煙に包まれた



タッタッタッタッタ...


そこからの動きはもうめちゃくちゃだった

街路樹を登って落ちたかと思えば


どことも知れない街の

屋上を走っている。


突然父が背後に現れたかと思えば

知らない空の上でワルツを踊らされている


私も、一体何を見せられているのか訳がわからないのだが

とにかく、ピエロの一挙手一投足には

信憑性が薄く、まるで逃走中に


平行世界(パラレル・ワールド)を何度も行き来しているようだった


そうして、

ようやく視界が定まってきたと思えば


私たちは薄汚い

地下牢跡のような廊下を、駆けていた


「あなた、誰?」


「・・・・」


「どこから来たの?」


「・・・・」


父と母の前ではあれだけ饒舌だった道化師(ジョーカー)

無口な人形(ドール)へと姿を変える


一時の興奮も冷め、薄気味悪さを感じ始めた頃だった


まもなく、一つの扉が目の前に見えると

口をへの字に固めた道化はようやく話を切り出す


「あいつから、頼まれたんだ

 ここへ来いって。だから君を連れて案内する」


その柔和な口調と、首から下がるクローバーの

ネックレスには見覚えがあった


ガチャン!チリンチリン...


「ちょっと待ってて」

扉の中へ入ると道化師は私から手を放し

どこかへ消える


バシャバシャ.....水がはねる音が聞こえ

足音が再び近づいてくる


シュッ...

暗闇にマッチが星の光の様に灯った


カチャン

石油ランプだ。独特の油の匂いが部屋に立ち込めた

そのまま、天井の突起にランプをかけると


それまで暗闇だった視界が晴れる。

あたりを見回すと、



そこはドールハウスだった


「ここは?」


「俺とアイツの秘密基地」

道化の厚化粧を剥がしたのはエドワードの親友、ベルだ



部屋の全貌が見えた時、私は心底見惚れてしまう

ワンルームの小さな部屋


手前には高級そうな机に椅子が二つほど置いてあり

奥は軽いキッチンになっている


家具はどれもレトロな雰囲気を持っていて

壁には高そうな絵や工具がぎっしりと掛かっていた


「コンロがあるけど、ガスと水道は通ってるの?」


「ああ、あれは実際通ってなくて

 コンロの上からカセットコンロを置いて使ってる。


 換気口は一応あるんだけど

 子供が通れるくらいの穴を開けただけで

 大した設備じゃないんだ。」


家具自体は時代を感じさせるものが多いのだけれど

埃は一切見られない。なんとも(エドワード)らしいと思った



しばらくの沈黙の後、ベルは私にお茶を出してくれた


「ありがとう。

 それで、頼まれたって言うのは?」


「そう!その話...なんだけど

 ごめんね、まだ全然落ち着いてない状態なのに強引に...」


どうやらベルはなんらかの事情で

彼の死に私が関わっていることを知っているらしかった


「いや、私は大丈夫

 もう気持ちの整理も付いて...」


嘘だ

気持ちの整理なんて付いる筈がない


まだたくさんあった。

伝えたい事が、知ってほしいことが、知りたい事が。

ただ、それを口にするのが怖いだけなんだ


「ほら!だから

 このロケットが気になって出てきちゃっ...」


咄嗟に自分の首にかけたロケットをベルに見せる



「え?」


私は目を丸くした

差し出したロケットが、白い光を放っていたのである


「やっぱり」

ベルは驚く私を前に

予期していたような落ち着きを見せた


「どういうこと?」


Dialogue(ダイアローグ)だよ。魔法なんだ」


怪訝そうな顔を浮かべる。

するとベルはおもむろに話を始めた



僕が初めてエドに出会ったのは俺が物心つく前出そうだ。


それは母親が仲が良かった事も理由の一つではあるけど

それ以上に、貴族の繋がりによる所が大きかった


僕とエドの家は王国でも珍しい

魔術を使える家系だった


その昔、俺たちの先祖はその才を惜しみなく発揮し

錬金術や占星術を駆使して国に貢献した


当時、欧州で魔女狩りが大流行するも

王国は魔術師の存在を国益だとして保護した




そして、時は現在

イギリスが世界に台頭し

後に言われる産業革命が起きた。


大量生産大量消費の時代となり

魔術師はその生産性の悪さから徐々に需要が衰え、

時代の舞台からひっそりと姿を消した


しかし

その素質は世代を経ようと失われる事はなく


俺たちはいまだ魔法を持っていた


次第に王国の中には、それをよく思わない人間が現れていく

当然だ。科学が全てを説明する現代


魔術など

国家の根本を揺がしかねない危険思想と捉えられても

なんら不思議じゃない。


不安に駆られる王国

そこに現れたのがエマの様な家、暗殺貴族だったらしい。


彼らは常人には考えられない知能と身体能力を携え

約100年の間に、王国の魔術師たちを次々に消して回った。


当時100以上あった魔術を使う家は

今では俺とエドの家を含め、10にまで減っていた


僕たちの生まれた頃、家は不安定だった

魔術を使う貴族は皆、分家を集め親戚一同が本邸に住み守りを固めるのだ


息苦しい世界だったと思う。

毎日、家に帰ると親戚の叔母や祖父が出てきて

おっかない顔で


『つけられてないだろうな?』

と真剣な目で問い詰められるのだ


そんな同じ境遇にいた俺とエドは、互いに共感しあって

いつしか親友になっていた。



ベルは何も知らない私に対しても

わかるようにと、丁寧に説明してくれた。


「それで、さっき言ってた『Dialogue(ダイアローグ)

 って何?」


「ああ、それは

 エドが昔から使える、というか出しちゃう魔法なんだ

 

 人の記憶や思いを、繋げて術者が意図する相手に

 伝える。 俺もそれで君とエドに起こったことを知った」


記憶や思いを繋げて、伝える...


「じゃあ、さっき貴方がピエロになったのも?」


「ああ、あれは僕の魔法

 幻影都市の誘い(パラレル・ワールド)

 こことは別の平行世界にランダム行き来できる。」


なるほど、

それなら父の包囲網から一瞬で抜けられのたも説明がつく


「アイツの魔法は、ある一定の条件が揃うと

 変化を起こすんだ。その光るロケットみたいにね


 何か仕掛けはない?」


そう言われて

ラベンダーの存在をベルに伝え、中から花弁を取り出す


ロケットを振って落ちてきた

花弁は、金色の光を纏って光の粒へ分解されるや宙を舞う。


何と幻想的かと感動してしまった


その造形はおぼろげになってゆき

次第に紙のような形を成していった



"Dear Emma”


そう書かれた一片のちぎれた

手紙が私の手元へと降りてくる。


「これって...」


「エドの魔法は、その人ゆかりの品なんだ

 昔僕が見た中だと、オルゴールとか、ぬいぐるみとか


 その人が大切にしていた物を模されて

 魔法になって出てくる


 もしかしたら、これはエドワードが最期にエマヘ綴った

 手紙なのかもね」


最期。。。

不本意だったのだろうか、悔しかったのだろうか

あれだけ・・止めたのに...


もしかしたら、死なせずに済んだのかも知れない


あの日の前日、エドワードに襲撃を事前に話した。

すると彼は笑顔で私に『大丈夫』と言ったのだ


私は、つくづく未練がましい女だと思った


「これって、全部揃うの?」


「ああ、僕がそうだったみたいに

 多分他にも、エドの魔法に触発されてる人間は必ずいる。


 本当は僕一人で探そうと思ってたけど

 エマも探してくれるなら助かる。

 元々手紙の内容もエマに対するものだしね」


「ええ、探しましょう」


かくして私たちは散らばったエドワードの最期の手紙を

探すことにした。


◇ー◇ー◇


はぁ


晴天の空の下、僕はお天道さまにも(はばか)らず

深いため息をついた


バシン!

「ベ〜ル!、何辛気臭い顔してんのさ」


後頭部から強いショックを受ける

出所を目で追うと、そこにはベルの幼馴染レイナがいた


「いってって、レイナ!


 いつも言ってるだろ?

 頼むから挨拶代わりに人の後頭部を強打するのはやめてくれ」


「えぇ〜、いいじゃんアンタと私の仲なんだし」


「それとこれとは別問題でしょ?」


「もぉ〜、いつもそうやって浮かない顔してるから

 振られちゃうんだよ?」


僕がいつ誰に振られたと言うのだ


と、心の中でツッコミを入れるが

決して口には出さない


「何か困ってるなら相談してね?

 なんでも力になるからさ


 ”アイツのこと”はちょっとムリだけど」


”アイツのこと”、、、


その言葉に俺は思わず歯を食い縛る

レイナの言う”アイツ”、とはエドの事だった。


レイナはクラスでまとめ役という立場を取るけれど

その彼女ですら

アイツ、と曖昧に言葉を濁すほど

エドはクラスにとってパンドラの箱的な存在なんだ


きっかけは一月ほど前の事。


エドはそれまでレイナと同じクラスの中心に立つ存在だった


誰に対しても分け隔てなく接し、

成績に優れ、ハンサムで人当たりもいい

好意を抱く女性も少なくなかった


しかし、穏やかな日常は一夜にして一変する


ある日、エドと交友のある女子生徒が

他の女子生徒を刺し殺すという事件が発生した。


狙われたのは、クラスでエドに執拗なストーカー行為を

していた女子生徒で


エドがストーカーをバラさない事を良いことに

表向きエドとは仲が良かった。


当然、事件はクラスを震撼させ、

一時は学級閉鎖にまで騒ぎが広がり


マスコミ各社が校門前まで押しかける


しかし、事態はそれだけに止まらなかった。


なんと刺殺した女子生徒は、殺人の動機について

『アリスさんが

 エドワードにストーカーをしている事を、彼の前で知った』


と供述しているのだ


エドがクラスの前でアリスのストーカーを

話した事などない


それはエドの取り巻きたちが1番よく知っていることだ


しかし、”彼の前で知った”という供述に警察は

エドの殺人教唆を疑い、家宅捜索を行った


当然、証拠など出るはずがない


が、それを知った同級生たちは


エドの身に起きた余りに出来すぎた殺人と

女子生徒の信じられない供述に


『彼は自分の気に入らない奴を人に殺させる

 洗脳犯なのではないか』


という一つの仮説を立てる。

元々、非の打ちどころの無い性格と顔の広さが

根も葉もない説に一層の信憑性を持たせ、噂は瞬く間に全校へと広まった


もちろん、Dialogue(ダイアローグ)の存在など同級生たちが知る筈もない


そして次の日、彼に関わっていた学校関係者の

ほとんどは、エドを避けるようになっていた。



さて


では果たして

エドが残した手紙の切れ端は、学校のどこにあるのだろうか


ここはエドとエマが出会った場所であり、

恐らく、最も時間を長く共にした場所


例え無かったとしても、手掛かりがある可能性は高い


しかし困ったことに一ヶ月前より後、僕はエドの足跡を知らない


そう、僕はエドの直面した災難に困り果て

我が身可愛さにエドを避けていたのだ


後悔している。なんて今更言える訳はない

言う資格も無い


更に問題なのは、ちょうど一ヶ月前からエドが絡むようになった

エマという女の子に関しては、さらに足跡が謎に包まれていることだった


一応彼女の行動範囲を事前に聞いてきたけれど


どうしたものか・・・


僕は途方に暮れ、レイナに話しかける

「レイナ」


「ん?」


「もし、もしさ、両想いの男性が

 自分より長生きするとしてさ、


 それでレイナは最後の瞬間に

 何をその人にプレゼントする?」


「何、いきなり質問が重くない?w」


唐突な質問だったかな...

レイナは少し固まって、その後考えるように

顎に手を当て、そして答えた


「幸せに、、、なって欲しいかな」


「え?」


「だって、逆の立場だったらすごく悲しいもん


 自分のせいで愛する人が涙を流すのを

 ほっとける人なんて、多分いないよ


 だからもし私に最期が来ても私は笑って明日の話をすると思う」


彼女の出した答えに、

僕は頭の芯をぶん殴られるような衝撃を覚えた


「ってそんな立派なこと、いざ死ぬとなったら出来るかわかんないけど」


へへへ、とおどけて見せるレイナ

まったく、自分が嫌になる


とにかくエマに関係のありそうな場所に行こう


          ◇


はぁ〜


晴天の空の下、お天道さまにも(はばか)らず

深いため息をついた

朝方、私はベルに

『僕は学校を探すから、エマは学校の外を探して』


と言われて別れた

エドとの思い出の場所、、、と言っても


私はエドと教室でしか話した事はない


一度だけ家に行けるか尋ねた時

家の事情でダメだと言われたことがある


私は仕事で彼の家を知っていたから

それ以上は何も言わなかった。


ニャァ〜、



ふと外壁の方に目をやると黒猫がこちらを窺っている


何かを見定めるような吸い込まれるような

そんな目をしていた


その猫は少し間を置くと静かに道に降りて

道の脇を歩き始める


その誘う様な仕草は、いつの間やら私の足を猫の後ろへと運ばせた


路地に入り、塀を登り、フェンスを抜ける

当たり前の事ながら狭く、汚い。


普段ならとっくに断念しているところだが、私は猫が歩く

場所に、何故だか懐かしさを抱くのだった


そうして私は、一つの廃墟に辿り着いた


見た所、火事があったらしく建物には所々に

ススが残っている


「あら、猫さん久しぶりね」


庭の椅子に座った老婆、その顔に私はハッとした。



「え、エマさん?、あーー

 ごめん、、私たちあの子とあんまり接点ないから」


まただ...


エマがくれた場所へ向かったが魔法らしきものは無い


仕方ないので

エマの普段いる場所を同級生に聞いて回っていた


しかし、誰に聞いても

彼女の事を知る人間は一人として現れなかった


やっぱり

家族があれだと、普通の人に遠慮するのだろうか

そうだ

もしかしたら、僕が知らない所で何かがあるのかもしれない


放課後の教室、窓からは夕陽が

今日という日の終わりを無造作に告げていた


「ねぇ」

諦めかけていた僕を一人の女性が呼び止めた


「はい?」

声の主は、ホワイト、、、ホワイト・クリサンサマム先生

僕とエマとエドワードは同じクラスだったが

前の担任が彼女だった。


「エマさんを探してるんですか?」

そう言われ僕は一瞬固まってしまった


「ああ、突然ごめんなさい

 さっき同級生の子と貴方が話しているのを聞いてしまった

 ものだから」


「そ、そうですか」


その何処かぎこちない先生の様子に

僕も思わず無理に愛想笑いを浮かべてしまった


「それでね、私は何かを知ってる訳じゃないんだけど

 もし彼女に会えるなら伝えて欲しいことがあるの


 私はもう、会えないから」


エマに?

「はい、大丈夫ですけど。」


そう答えると先生は僕を誰もいない教室連れて行く


ここは、、、前に僕達がいた教室

ちょうど一年前になる。僕がここで、隣がエドだ


エマは確か、隅を希望したんだっけ


「それで、伝えて欲しいことって?」

僕が話を切り出すと


彼女は少しためらった様子を見せ、その後

自分の筆箱から何かを取り出し、手に握った。


「彼女にこれを返して欲しいの」


手の平に乗せて僕の前に差し出したのは

小さなクマのキーホルダーだった


「これは?」


差し出したキーホルダーは

インクがついてこそいたが、所々に直した跡がある



「それは、私を最初に慕ってくれた生徒がくれた物です」

潤むような青い瞳は、何かを見つめるようだった


「去年、私が赴任してきて

 最初に立った噂を覚えていますか?」


「はい、先生が、、男子生徒を誘惑して

 そういう事をした、、、、と」


恐る恐る答える


「そうです。元々、私の事をよく思わない

 今の卒業生が流した根も葉もない噂でした」


先生は凛とした態度で言い切り

続けて、ホワイト先生は少し話をしてくれた



☆ー☆ー☆


あの日もちょうど

今のような、綺麗な夕刻だった


私の心は憂鬱だったけれど

それは決して目の前の書類の山のせいではなく


目の前の夕陽が刻一刻と沈みゆく様子が

私をさらに焦らせた


脳が煮え切りそうだ

先輩の助言も、生徒達の苦情も、上司の勧めも

全て試した。


けれど、現状が一向に好転することはなく

初めは大人しかったクラスは、学級崩壊に近しい状態へ変貌を遂げた


何も見えない

その”分からない”という事が、何より怖かったのだと思う

その時だ

「生....,,先せ、、、先生!」


誰もいないはずの教室に、私を呼ぶ声が響く

「はい!」


慌てて上体を起こすと、そこにいたのは

クラスで最も手のかからない生徒だと思っていたエマさんだ


私は少し戸惑ってあたりを見回す

目の前にいたのは彼女一人だった


「日直日誌の返却に来たんですけど...」


「は、はい......ありがとうございます」


用を済ませると、彼女は足早に

支度を済ませ、鞄を持ってクラスを離れようとしていた


気まぐれに声をかけてみる

何か意図がある訳ではなかった


「クラスをまとめ上げるって、どうすればいいの?」

ぼやきにも似た声だったと思う



少しの間が空き、驚いた様子を浮かべると彼女は

考え込み、そして答えた


「見てあげる、、とかですか?」

その答えは私にとって余りに拍子抜けだった。


だってそうだろう、大の大人がマジメに悩む事を

目の前の少女はたった一言で片付けてしまった


「そんなことはわかって、、、」


「じゃあ、見えてますか?

 私の気持ち」


意表を突かれた一言に言葉が返せなかった。


そんな私を見かねてなのか

彼女はカバンから一つのキーホルダーを取り出す


それは土産屋に売っているような

どこにでもあるタイプのものだった


「先生は今、これをキーホルダーと呼ぶように

 みんなを生徒達、と括りました


 だけど、これはでキーホルダーあってもクマです

 生徒達であっても一人の人なんです


 もっと丁寧に、見てあげてください」


☆ー☆ー☆


ホワイト先生の話に、僕は妙な親近感を覚えた

多分、僕がホワイト先生の立場でもそうなのだろう。


「その後、私はこれをもらって、生徒一人一人に

 寄り添うことにしたんです」


ホワイト先生の評判は、学校では折り紙つきだった


「だから、もし、彼女が今、困難に直面しているのなら

 これを渡してあげてください。

 それが私にできる、せめてもの力添えです


 そして忘れないで欲しい

 あの日、確かに救われて今ここを歩く私がいることを」


困難、、そういうことか



「ありがとうございます。必ず、伝えます」


僕は先生に一礼をすると教室を出た


「あら、猫さん。久しぶりね」

それはどこかで聞いたことのある声だった


「あ、あなた..は、、?」

唇を震わせて私は、やっとの思いで言葉を紡ぐ



それほど、私は彼女の容姿に動揺していた

「ペトレア・ブラウン。婦人よ」


その女性は私が子供の頃、忍び込んだ邸宅の婦人の名と同じだった。

顔つきも容姿も、当時のまま


だけど、彼女は私が忍び込んだ後、僅か一晩のうちに

放火で亡くなった


そのはずだ。


「ねぇ、そうしていても退屈でしょ?

 私とお茶してくれないかしら。」

私は咄嗟に声が出なくなってしまっていた


何を言おう、何を言えばいい?言葉を探さないと


「いいよ!」


言われるがまま、彼女と相対する席へと腰を据える

座ったのはまだ幼い”私”だった


婦人は嬉しそうにティーポットを手に取る

カップへそそぐ、優しい音色が間近に聞こえてきた


そうだ、ここで私はすぐに空きてしまうんだ


席を離れ、花壇の方へと歩いて行って

「ねぇ、このお花なんて言うの?」


「どれどれ?...ああ、これはねペトレアっていうの」


「おばあさんの名前とおんなじ?」


「ええ」

何かを憂うような目をして広い邸宅の

建物を見上げる。その様子を私は心の中で妙に印象的に写していた


それから席に戻り私はお茶とお菓子をご馳走になり

談笑したのだ


そう、いろんな話をしたっけ。

家族のこと、友達のこと、この街のこと、将来のこと


今では絶対に言えないようなことも

子供心もあってか、なんの躊躇いもなく話していた気がする


おかしな子供と思われたかも知れない

だって、まだ7つ8つの子供が

任務、とかワイヤー、とか平然と話すのだから


それでも、目の前の老婆は私の話を

静かに、あまりにも丁寧に聞いていてくれた。


「それで、お母さんはお屋根でコケなかった?」


「ううん!、お母さんすごいんだよ

 私と同じくらいあるライフルを、お屋根の上で持ち上げちゃうの!」


「そう。私は数年前に落ちかけちゃったわ」


二人の笑い声が誰もいない小さな庭に吹いた


今思えば、たわいもない冗談だったのだと思う

だけど人前であまり笑えなかった私に、笑うきっかけをくれたのは

このお婆さんだった


「私も同じ」


ふと後ろから声がした


ヒュルルル...

強い風が吹いたと思えば、


さっきまでの情景は綺麗さっぱりなくなって

代わりに、あの日のお婆さんがそこにいる。


言いたい事があった


「ペトレアさん、ごめんなさい

 私のせいであなたの家が放火されて

 全然、こんなことになるなんて知らなくて・・・」


ペトレアさんは必死に言葉を重ねる私に、

頭を撫でて優しく微笑みかける


「そんな顔しないで?

 私はただ貴方に、お礼が言いたかっただけなの」


「え?」


彼女の放った意外な一言に驚くと共に

私は初めて自分の顔が歪んていたことに気がつく


「貴方に出会った頃、主人を亡くた私は一人で

 この邸宅に住んでたの。


 元々ヤンチャな息子4人と主人で暮らしていたこの家は

 私にはあまりに広過ぎたわ。


 でも、あの日ね?

 私は一人になってから初めて、この庭が好きになれたの


 だって、あんな可愛らしい妖精さんが

 降りてきてくれたんですもの。」


婦人は、そっと私の頬をに手を当てた

「でも、私のせいでおばあさんは」


私は言いかけていた自分の言葉を

思わず飲み込んでしまう


「いいの。


 退屈で、モノクロームに包まれた私の日常が

 たった一時でも

 あれほど鮮やかに彩りを取り戻したのですもの」


「でも、それは私でなくても・・・」


私の反論に、婦人は少し呆れたようなため息をついて

それから、私の目を見つめて言った


「バカね。

 あなただから、あそこへ来てくれたのでしょ?

 あなただから、私とお茶してくれたのでしょ?


 主人に先立たれた私にとって、

 それがどれほど嬉しかったことか」


私の頬を撫でる婦人の手に触れると

少しだけ、婦人のシワだらけの手が濡れていた



そしてその手は、まるで春の野に舞う綿毛のように

散ってしまう。


「おばあさん!、手が、体が...」


「もう時間みたいね。」

少し悲しそうに、それでいてとても清々しく

婦人は微笑んだ。


「いってしまうの?」


「ええ」

そっと告げる

もはや、言葉は出てこない


「手を出して」

そう言われて手を出すと、婦人は右手で何かを

スカートの後ろから取り出す


手に置いたのは、一つの貝殻だった


「こんなこと、いきなり言われたら

 びっくりするかもしれないけど・・・」


婦人が一歩を踏み出したかと思うと

  優しく私を抱擁して、耳元でこう囁く


『大好きよ』


それはたった1日の出来事だった

事態を知った時も全然、大したことじゃないと


ずっとそう思い続けて、騙し続けて、

見て見ぬふりをしていた。


それが今、忘れられていた記憶(思い出)が掘り起こされるように

沸々と湧き上がる。涙が止まらなかった



それからしばらく時間が経ち、

気づくと私は何もない空き地にうずくまっている。


手には婦人がくれたと思しき貝殻が握られていた


「そっか、そんなことが」

ベルはそれ以上何も言わず、そっと笑顔を浮かべた


夕方になり、手紙の破片らしき物も

見つからないので私たちは再び秘密基地に集まっていた


「でも、そっか。

 ホワイト先生、そんな風に言ってくれたんだ」


テーブルに置かれたクマのキーホルダー。


随分生意気を言ったと

今更ながら自分を恥ずかしく思うような、

それでいて嬉しくもある


不思議な気分だった


パン!


!?

私たちが余韻に浸っていると

入り口から唐突に破裂音が響いてくる


なんだ?

そう思って外の様子を伺おうとしたけれど

間髪入れず迫り来る足音に、私は即座に動きを変えた


「誰!?」


「お父さん達だ」


「だって、ここは地図にも載っていない場所だよ?」


「そんな常識、あの人たちに通じる訳ない」


そうだ、お父さんはいつも襲撃前には入念な調査を行う

フェンスの高さから建物の構造、果ては近隣住人の起床時間まで


ありとあらゆる情報を入れてくる


「ベル、あの魔法また使える?」


「わかった」

そういうとテーブルに置いてあるピエロの

仮面とキーホルダーを手に取ると、ランプの光を消す


「つかまって!」


抱えられた途端、景色が二転三転する


2度目なのに体はどうにも慣れず

まるで万華鏡に、オリジナルの景色が無際限に生成されているようだ


気づくと、私たちは手を繋いで屋根の上を走っていた


「だけど、なんで一々平行世界を

 何度も行き来するの?」


「ああ、それは」


パシィン!


背後から鋭い銃声がした。

咄嗟に、ベルを見ると

鉛玉がベルの脇腹を貫いていたのだ


「う゛ぅッ!」

悶えながらうずくまるベル

私が肩を貸して歩き出そうとしたその時だった


「家出娘を返してもらいに来たわ」


そこには冷ややかに笑う母の笑顔があった。

「なんでベルの動きを読めたの?」


「わかるわよ。

 だってベル君の家の魔法は王国に知れてるもの」


ふと、疑問が湧いた。

なぜ個人で暗殺業をする父と母に王国から情報が入るのだろうか


「なんで、王国しか知らない事が

 お母さん達に回ってるの?」


「ああ、まだ貴方には言ってなかったわね。


 私達は

 魔法を持ってる貴族を殺すために、王国政府に雇われた

 貴族家の皮を被った暗殺者”集団”、家族じゃないわ」


母の口から衝撃の一言が発せられた


「い、今、なんて?」


「だから、言ってるでしょ?私たちは集団

 あなたが家族だと思ってたみんなはね

 血なんて継がれてないの、赤の他人同士なのよ?


 ちなみにあなたは物心つく前に王国が孤児院から

 引き取った赤子。


 全く、お役人さん達があなたを連れてきた時3()()

 頭を抱えたわ」


私は言葉を返す事ができない


母の言葉は、今まで私が受けてきた家族の態度に、扱いに、目に

その全てに説明をつけてしまった


そして、父、続けて妹のミアが現れる


「ねぇ、嘘、嘘よね?

 ミア、貴方は私の妹でしょ?もう何年もそうだったじゃない」


私がミアの目を見るけれど

彼女がしていた目は私が見たこともないものだった


「何言ってるの?

 私は、ここにきて3年しか経ってない


 それまで病院で療養してたって、本気で思ってたの?

 おかげでいい歳して、貴方に

 『お姉ちゃん』とか黄色い声で言わなくちゃならなかったじゃない

 私はとっくに30過ぎだっつうの」


声が出せなかった

私が信じていた、今までの感謝とか、愛とか、信頼とか

そういうものの全てを今、否定されたのだ


「さぁ、その子を殺して帰るわよ?

 私たちは、本来あんまり外に出ちゃいけないんだから」

ベルに容赦無く銃口を向ける母


「なんで・・・」


私が一言を投げかけようとした時には

母はベルに向けていた銃口を私に向けていた


「質問が多いわね、


 まさかとは思うけど、家出までして

 まだ貴方に発言権があるとでも思ってる?」


その眼は、仕事で幾度か見た

母がスナイパーライフルの引き金を引く瞬間と同じ眼だった


ヴ〜、ヴ〜、ヴ〜

不意に、母の無線に連絡が入ったようだった


おもむろに無線に出る母。取り出した無線は

私が一度も見たこともない形をしていた


ーーーーー

『こちらB、本部応答願います。』


『Cの回収は済んだか?』


『はい只今を持ちまして完了致しました』


『よろしい』


『一つ、伺ってもよろしいでしょうか』


「なんだ?」


『なぜ、単独ではなく

 家族全員を回収に向かわせたのでしょう

 市民に見られるリスクが高いと思われますが』

ーーーーー


電波が乱れたのか数秒、本部からの連絡が途絶え

そして、母は屋根の向こうから気配を感じていた


「君たちをまとめて処分するためだよ」


物影から何者かが現れる。そして同時に

黒尽くめの殺気に満ちた目をした野郎がエマ達家族の周りを囲んでいた




刺し殺すような日差しの中

荒野の真ん中を護送車で横断していた


手足に拘束を施され

窓の外には、三台の戦車のエンジン音が女を威圧し、

また上空では無数のガーディアンが空を覆う


                       ※ガーディアン=ヘリの名称



高々人間一人を護送するっていうのに、随分豪勢な...

私も随分大物になったものだわ


感心しながら

虚な目で窓の外を眺めるが、コンドルの一羽など飛んでもいない


私は殺人鬼だ



一年で、世界の要人及びその家族5000人以上を葬り

国連本部にサリンを撒いた張本人


新聞には多分そんな記事が載っていた。


男の子が砂遊びをするように、女の子おままごとをするように

はたまた、


自分の家の庭で、チェーンソーで殺ったあの日から

私は


私は血の匂いが、たまらなく恋しくなっていた


誰一人として受け入れてはくれなかったけれど

”これだ”という確信があった


だから、暇になっちゃう


「ねぇ」

バサ!、ガチャガチャガチャ!!!!


私の問いかけを号令に、全員の銃口が彼女をさす


「なんだ?」


「前からお客さんよ?」

漫然とした笑みを浮かべた


「無駄口を叩くな!!」


不気味なその笑みを思ってか

女性隊員のリーダーらしき兵が彼女の頬を叩こうとする


ブ~ブ~ブ~!

無線連絡だった。


『はい』


『B1に報告

 前方よりトラクター10台が接近、臨戦体制へ移れ』


「臨戦態勢!」


ここはアメリカ、アリゾナ州北西部

私が捉えられたメキシコシティからの護送の道中だった


乗車していた隊員たちが降車して行き

最後の部隊長らしき人間が装甲車の鍵を閉めて降車する


ドォン!

突然前方から地響きがした。


『B3地雷により走行不能:乗員安否不明』

女の入れ歯に隠した受信機が無線の周波数を捉える


銃声が車内に響く

恐らくは、銃撃戦になっているのだろう

火薬の匂いも次第に濃くなり、予断を許さない状態だ


しかし、車内をこだまする音の違和感に私は気づいていた


地対空ミサイルが出す独特の暴発音

 敵の備品は明らかにマフィアやチンピラが持つような


旧式のものじゃない、もしかしてバックに何かいる?w


不気味な笑みを浮かべながら、彼女は唇を舐めずった

バシン!


突然、錠付きの扉が爆風でこじ開けられ

男が現れる。


労働者の体なんででしょうけど、(たたず)まいは最も精鋭部隊w


「君を保護しにきた

 王国政府が君をご所望だ」


「テメェらに私が回せんのか?」


わざと気性を荒く見せ、推し量る

男は、私の挑発的な態度に全く物怖じせず淡々と話を続ける


「暗殺業だ。嫌いか?」

以後、私は今の職に身を置いた



「とうとう、きちゃったの」


諦めたように母が言った


「確かに、私たちの虚を衝けるタイミングは

 家族トラブルしかない


 まさか、最後の最後で仇になるなんてな」


後悔の残るような口調で、父は漏らす


ダッ!


「え?」


次の瞬間、エマは衝撃のカミングアウトを受けた妹に

ベル共々脇に抱えられる


エマはほんの数秒で視界がぐらつき

ミアの様子は酷くおののき、また焦燥していた


(何が起きているの?)


「逃がさん」


パシィン!


まるで、獲物を捕らえる獣のように

刺客の一人がミアの膝関節を正確に撃ち抜いた



「う゛ぅあぁ!!」


ミアが手を離し、屋根に転がるベルとエマ


「ミア、無駄だよ。

 彼らの服装を見るといい、ウインドブレーカーに黒ジーンズ。

 恐らく、この街は既に彼らの手中にあるのだろう


 この街に君達のお友達は何人いるのかな?」


牽制するように視線を送る父


しかし右に備えたナイフを固く握り締める手は

震えていた


「死に行く者どもが知ってどうする」


バァン!

容赦なく二発目を発砲する男


ドスッ!...ガリィン!!

放たれた鉄球は突如、その軌道を逸らし瓦を剥がした


「何?」


敵の男が顔を歪める

父が持つ糸が血を帯び、拳の中から滴っていた


「なるほど、お前の糸が弾道を変えたわけか」


「暗殺にデザートイーグルとは、

 軍部は我々をなんと心得ておられるのだ?」


もちろん、暗闇で銃身が見えるはずはない

父は、糸に弾が触れたたった一発の感覚を頼りに


アサルトライフル一発に相当する威力をもつ銃の名を言い当てたのだ


「ッ!!! ....化け物め!」


周囲のそこかしこからそんな声がする

父の業は、その場の全員を凍り付かせたのだ



「レミリア!こうなった以上は仕方ない

 ベルと、エマを連れて逃げてくれ


 俺とミアはここを制する」


「了解」


母の怪力がエマとベルを再び担ぎ上げ

空を舞った。

ダダダダダダダン!


暗黒を裂く無数の弾丸

その全てを大胆に、そして繊細にかわし母は逃げる


「君達の相手はこの私だ」

シュルシュル!


腕を広げ放たれた工業用ワイヤー

それらが正確に諜報員の腕に巻きつく


「いつまで寝ている?」


すると、撃たれたはずのミアの影が烈火の如く動き出し

巻きついた工作員の動脈を裂いていく


「どういうことだ?!」

工作員たちは動揺する


「筋じゃヤバかったわね

 だけど、ご生憎のとこ皮なんだわ!」




夜風が強く吹き付ける中

私は、物心ついてから初めて母に抱き上げられ屋根の上を駆けていた


「ねぇ、なんで?

 なんで、()()()()()は、私達を逃したの?」


私の問いかけに、母が応じる様子はない

それどころか冷たくそっぽを向き


あまつさえ、顔すら合わせたくないと言った面持ちだった


「ねぇ?、ねぇってば!!!」


「お黙り!」

母は、先ほどまでの冷静さとは打って変わって

何かに取り憑かれたようにそう叫ぶ


なぜ?

さっき、家族であることを否定して


私の事を、今までずっと騙してきた癖に

なぜ今になって、私たちを助けようとしているの?


すると、

流石に体力の限界が来たのか、母は立ち止まった

「ベルの坊や、魔法はもう使える?」


「うぅ、、、ごめん...なさい

 まだ数分、インターバルが。。」


「連続は999回までだっけ?、運が悪かったのね」



ビシュッ!

母は、父特製の登坂用ワイヤー投げる


ガチャ

「いくわよ?」


母が滑車を口に咥えた

ギュルギュルギュル!!


滑車が唸りを上げた次の瞬間

私の体が街の時計塔の壁に吸い付けられる



バァン!、バンバン!!!

地上では無数の銃声が錯綜(さくそう)

壁の左右に銃痕をつけていった


「上に行くわよ?」


コンクリートの壁を這いつくばりながら

私たちはなんとか屋根の上へ辿り着いた。


ゆっくりと私とベルを下ろし、周囲を確認する


「さ、これで数分くらい...」


不意に、母の身体から芯が揺らいだ

バタン!



「はぁ、はぁはぁ....」


全身の関節が悲鳴を上げてる。筋肉が今にも裂けそうだ

恐らく一瞬でも気を抜けば倒れるだろう


私が行ってきた準備も、娘の気まぐれによって

あっさりと崩壊、ミアの体力ももう限界が来ている


「王国諜報部員50人、


 僅か4分半でその約半数を壊滅させる実力、流石と言って余りある物だ

 しかし、そろそろ限界が見えてきたな?」



そんな事は刃を交える前から分かっている

しかし、なんという事だ。


目先に現れた、光を守るために

自ら命を絶つような選択肢を取るとは


恐らく人はこれを”狂気”と呼ぶのだろうな


「、、、、フフフフフフハハハハハ!!!」


自分の声が街中にこだまするのが聞こえ

声を発するだけで、喉に痺れるような痛みが走った


「なんだ?追い詰められておかしくなったか?」


「感謝...」


「は?」


「感謝、感謝感謝感謝感謝感謝感謝!

 感謝が足りませんよぉ!!

 あの娘が与えてくれたものは、こんなものでは済みません


 私たちが、あれほどの仕打ちをしながら

 あれほどの扱いをしながら


 彼女は

 最後まで”お父さん”、とそう言い切った!!

 それがどれだけ慈愛に満ち、温情に溢れていたか


 我ら闇を生きる存在に、一体どれだけの勇気と光をもたらしたか!!!

 ミア、忘れたわけではあるまいね?」


血を頭から滴らせながら、ミアはそれでも立ち上がる


「ああ、もちろん

 大事な”お姉ちゃん”のためだ。」


お互い千鳥足だ


16年一緒に仕事をしてきたが

こんな姿を目にしたのは、お互い初めての事だろう


「死ぬ覚悟はできたか?」

「もっぱらくれてやるつもりさ」


笑って、私たちは敵中心へと走り込んだ


突然、母が屋根に倒れ込む

咄嗟に私は母の背に手を回し抱え込んだ


「え」


触った瞬間、手に強烈な(ぬめ)りを覚える


慌てて母の背を見ると、無数の切り傷があり

弾丸の一発が肋骨(あばらぼね)に刺さっていた


よくよく考えれば当たり前の事。

いくらこの人が人間離れしていると言っても


視界もはっきりしない中で

背を向けながら全ての弾丸を避けるなんて

到底不可能


わたしたちを運びながら

全ての弾丸を致命傷を避けて(かす)らせて、尚走る。


一体、どれだけの忍耐を...


ゲホッ...!

母が吐血する。必死に声を絞り出そうとする歪んだ表情


それは、否が応でも私たちに

母の死期が近い事を予感させた


「あぁ、、、まさか最期に抱いてもらえるなんてね

 本当に優しい子」



「なんで血も継ながっていない

 私を、そんなになるまでして守ったの?」


私がそう問いかけると、母は少し意外そうな顔をして

その後、ゆっくりと話を始めた


「貴方は私たちを冷徹人間だと思うでしょう?

 目の前で人が倒れても涙も流さず目尻一つ腫れない」


「でも、現にあなた達は私を騙してきたじゃない!」


この後に及んで、何を言い出すのだろう

”やめて”と、心の中で叫んだ


言い訳なんて、見てるだけで不愉快だ


「でも違うの、涙が流れないのは悲しくないからじゃない

 虚しいから。」


「え?」


母は両手を頬にそっと手を当てる

「あなたは私達()()の誇りよ。

 たとえ私たちが偽りだったとしてもね。」


悲哀が、激情が、喜楽が、

心の中で入り乱れ、歪な思いとなって顔へと溢れてくる


その激流は、もはや私の意を介そうとはしない


「いやよ、いや、なんで

 なんでいつもこうなの?どうして私はいつも何も救えないの?」


理不尽だ。


いつも、私だけが何も分からないまま

みんなどこかへ行ってしまう


何も分かってあげられない、救えないまま

勝手に納得して、独りよがりに覚悟なんて決めて


私はまだ、、、

「私はもう、十分救われているわ。」


この異常事態だというのに、母は私に笑みを浮かべる


「さぁ、もう行って?ベル君

 いや道化師(ジョーカー)


 この子をそこ(並行世界)へ案内しなさい」


するとベルが、片腹を抑えながら

私に近づく。


「ベルお願い、お父さんとお母さんを一緒に連れて行って

 まだ私何も分かってない、何もかもまだ」


バン!!


刹那、私が夜景に背を向けると

母は自身の銃を私に向け胸部に向けて発砲をした


虚を突かれバランスを崩す。もはや塔からの落下は免れない


ベルは慌てて私の手を握ろうと宙へと手を伸ばした



「楽しかったな」

落ちる寸前、母がそう呟いた気がした



青臭い匂いがする。


意識はまだ朦朧(もうろう)としていて

ズキズキと痛む頭を抑えながらゆっくりと立ち上がる


「ここは・・・・・そうだ!!

 お母さんは、」


周囲を見回すと、そこは一面の花畑だった


頭上には青空が広がり

近くでは私を嘲るように鳥が(さえず)っている


う”う”!!!


突然、割れるような頭痛に襲われた。

内臓がまるで言う事を聞かず、四肢は今にも裂けそうになる


『死ねよ』


声がする


「あん、た、何者、、?」


激痛の中、目の前に立ち塞がる相手に

私は必死に声を絞り出した


()だ、エドワードだよ』


「は?」


『君は、多くの者に愛されながら

 その恩に背を向け、剰え怯え逃げようとした』


「私は、愛されて、、なんか・・・」


『ではなぜ!

 婦人は貴様を”大好き”などとのたまった?

 なぜ!!、

 君とクラス担任程度の繋がりしかない女が

 キーホルダーを君に渡した?


 なぜ!!!

 君の母親は、塔の屋根か君をら銃で突き落としてまで

 君を助けた!!!?』


「そ、それ、は・・・」

言葉に詰まった



『理解してくれる人がいないなんて、、

 全て君の思い込みに過ぎない


 勝手な妄想じゃないか!


 きっとその妄想で君はこれからも、間違いを犯し続ける

 本質に気づく事なく

 本当に大切に思ってくれる人を見殺しにするのだろう?』


「違う!」


『違わないさ!!!

 俺がここにいることが、何よりの証拠じゃないのか?』


言い返せない


いや否定の余地なんて、最初からなかったんだろう


確かに、、そうだ

私は今まで目を背けてきた


家族にも、優しい隣人の思いにも、

あなた(愛する人)にさえにも


[怖かった]



なんて言葉で彼らに弁解するつもりはない

贖罪ができるなんて思い上がってもいない


だけど


「そうね、確かにそうよ

 私はただ一方的に目を逸らしていただけ


 理解してくれる人がいないなんて、単なる私の

 自己中心的な思い込みでしかないわ」


『だったら...』


「それでも!!!!」


私を愛してくれた人達に

せめて、何か言葉を贈るのだとしたら


「私は生きる


 愛してくれた人達が、こんなにも

 可憐に、美しく、必死で、私を救ってくれたんだもの

 私はまだ、死ねないわ!!」


『どこまでも図々しい女だ!!!』

さっきまでエドワードの姿をしていた男は


みるみる内に皮膚を変色させ、額から角を露わにする

それはまるで童話の中の怪物そのものだった。


私は瞬時にナイフを取り出すと

奴の懐をめがけて


グサッ、、、ザッ!!!!


素早く内臓を引き裂く


『グア”アァ!!!』

人間で言えば致命傷を与えた

確かな手応えだった。




そしてその時、辺りの花畑はガラスが割れるように

景色ごと崩壊する。


一瞬、光に覆われたかと思うと私とベルがエドワードの館にいた。

そして、私は目の前の光景に愕然とする


「べ.........ル........?」


目の前には腹を切られたベルがいたのだ


「なんで?、なんであなたが刺されてるのよ!?」

驚きと、混乱で頭が破裂しそうだ


『ごめん、本当に騙すような真似をして...』


「あやまってないで説明して!」


また、、、、

また私は、何も救えず知らないまま大切な人を・・・


「そうじゃ、、ないんだ」


「え?」


「実は、あの火災に、、、僕もいたんだ」


「え?」

彼が放った一言に、私は酷く動揺した



「君のお母さんに足を撃ち抜かれて、


 魔法を使う間も無く

 君のお父さんに胸を刺された。


 停電したと思ったら

 一瞬の出来事だったんだ


 その後、屋敷から火が出て、

 家の一部で爆発音がした後


 倒れてきた瓦礫の下敷きになった。

 もうおしまいだって思ってたら体が光出してさ、、、


 真っ暗な闇の中に落ちていく僕に、エドワードが

 ”エマを、助けてやって欲しい”

 って言われて


 気づいたら秘密基地に居たんだよ」



「じゃあ、あなたはエドワードの手紙の事を最初から」


彼は、私の問いかけに少し間を置いて

それからゆっくり俯いて答えた


「いいや、僕は助けて欲しいって言われただけ

 エドが何を伝えたかったのかまではわからないんだ」


ベルは申し訳なさそうする

抱えている彼の体が、少しずつ崩れていくのがわかった


「ほら、悲しまないで?

 誰も悪くないんだ、悪いとしたらエドワードさ


 死にかけの僕を、

 こんな方法で延命したりしたんだから」


「ええ。」


泣いてはいけない

ベルは自らの命を賭して、私と闘ってくれたのだ

だったら私がするべくは


感謝することであって、、、


「涙、止まってないよ?」


「うるさい」


頬は未だ湿気を帯びている、強い湿気だ。


理性とはなんと、脆いものだろう。

こんな大切な一時にすら、心に余裕を与えてはくれない


「ほら、手を出して?」


ベルの掌には、ホワイト先生のクマのキーホルダー

     ペトレアさんの貝殻

     ラベンダーの花弁、


そして、母が私の胸ポケットの防弾プレートめがけて

放った一発の弾丸があった


私はそれに触れる

すると、それらはたちまち眩いばかりの光を帯びて

綿毛のように浮かび上がった


呼応するように邸宅の芝生から次々と蕾が立ち、花が咲き

辺りは一面のお花畑へと姿を変える


そして光は次第に一つの紙を成し

私の手元へと、舞い降りた


「さあ、これで僕の役目も終わりだ」

悲しげに、しかしどこか清々しくベルはそう告げた

次第に体は綻び、声は掠れていった


「待って!

 最後まで一緒に居て

 私、不安で仕方ないの。


 また何か、大切なものを落としてるんじゃないかって

 それが分からないまま、生きていくんじゃないかって」


するとベルは少し困った顔をして

そして、次にこう呟いた


「大丈夫」


そういうとベルは、朗らかな優しい光に包まれ

消えていった



ご購読お疲れ様でした


最後まで読んでいただきましたこと心から感謝申し上げます

良ければ高評価、悪ければ悪評、ドシドシ叩きつけて頂ければと思います


コメント欄も是非!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ