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百鬼譚  作者: 忠腹 丹子
序章:求むもの
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5話:求むもの(上)

 獣すら通らぬ道を、秋と楽々は軽い身のこなしで駆け上がってゆく。2人にとっての山頂への最短、そこは人ならずもの達の道でもある。木々の合間を何かが抜けていき、何十というホエザルの鳴き声を圧縮したような鳴き声が常に聞こえる。

 魔界だ。すでにここは信仰対象であり、竜神が護っていた神聖な山の面影はない。木々で遮られているだけでは説明のつかない、鬱屈とした暗さが山全体を覆っている。呼吸をすると、肺が握られるように空気が重い。

 夏だというのに蝉の鳴き声1つ聞こえず、変わりに聞こえるのは底の見えない洞窟の底から吹き抜ける風の音のような、身の毛がよだつ呼び声。人の絶叫にも、猿の鳴き声にも聞こえるそれらは、或いはその両方かもしれない。


「まるで讃美歌だね」


 絶対者の降臨か、凱旋か、生誕か。怪異の声には、狂信者とも言える熱心な信徒たちが、自らが奉ずる神や教祖との謁見や演説に見せるような歓喜が混じっていた。叫ぶように、嘆くように、けれど謳うように。常人であればこれを歓声とは分からず、ただ聞いただけでで気がふれてしまいそうな中、2人はこれが讃美歌である事を理解した。


「この山の頂で、王が生まれようとしている」


 王。祓魔師によっては、魔王と呼称する怪異の王。祓魔師が多大な犠牲と膨大な年月の末に、明治の半ば頃に日本に存在した王たちは、1体残らずこの世から姿を消した。最後の王との戦いの際には、当代の甲級祓魔師5人と、同程度の実力を持つ野良の霊能力者4人、乙級祓魔師17人、諸外国から応援で駆け付けた祓魔師43人。総勢69人の精鋭たちが、惨憺たる戦いの果てに浄化したのだ。生存者は5人、勝利と言うのには余りにも犠牲が多すぎた。

 甲級の上には、実はさらに2つの怪異等級が存在する。下から指定浄化怪異:十級と特定指定浄化怪異:天級、そしてこの2つをまとめて特級と称され、これに値する怪異を総じて王と呼ぶ。そして王が他の怪異と違う点は、他を統率し扇動すると言う事だ。甲級以下も群れを成す事はあるとはいえ、それは頭目の居ない無秩序なものだ。そのため魔竜も特級には値しない。魔竜が率いていたのは所詮自らだ作り出した眷属に過ぎず、他とは呼ばないためだ。

 この2つに該当する怪異は117年間現れておらず、最後の天級も存在自体はそのさらに500年も昔から語られており、最後に特級が発生したのは今より約400年前だ。そのため特級は半ば形骸化した等級であった。


「浄化できず、気まぐれで姿を消した12の魔王の脅威すら完全には消えてないんだ。新たな特級の誕生だけは、絶対に阻止しなければいけない」


 楽々は長い柄を脇に挟んでいた長刀を取り出し、山頂に飛び込んで技も何もなくただ横に振るう。

 名を三宝兜跋(さんぽうとばつ)。長巻と言う大太刀から派生した刀剣で、かつて上杉謙信がこの長刀で怪異を討ったとされる。その一振りは必滅。刀身の右側には三宝荒神、左側には兜跋毘沙門天が彫られている。その威光は凄まじく、この一刀の周囲には弱いながらも不浄を防ぐ結界が張られているほどだ。


「いいね、本気で遊べそうだ!」

「中心に急ぐぞ」


 頂上に集まっている怪異の殆どは戊級や丁級、たまに丙級といった具合で、2人にとっては有象無象にすぎない。その怪異も中心へ我さきにと行こうとするだけで、攻撃をしかけてくるものはいない。そのため2人は速度を落とすことなく、浄化しながらその真ん中へと向かうことができる。

 もう少しで中心地と言うところで、突然蛙の面が粉微塵になる。楽々の方からも障子が破れる音を大音量にしたような、何かが破れる音がする。それとほぼ同時、2人の心臓を、巨大な猛禽類の足が鷲掴みにしたかのような激痛が走る。


「ゴハッ」


 楽々は少したじろぎ、口の端から血が多少流れ出るくらいで耐えた。しかし先の魔竜との戦いで負傷し、疲弊していたからか秋は、自分の足元一面が赤色に染まるほどの量の血を吐き出す。


「らしくないね。君がそんなに当てられるなんて」

「この程度......何の問題もない。それよりも急ぐぞ。胎動でこれだ。生まれたら、産声で途方もない犠牲者が出るぞ」

「全く心配してあげたっていうのに。もう少し人間味のある返事はできないのかい? まぁ、もう慣れたけどさ」


 血痰を吐き出し、再び中心を目指し始める。

 怪異の群れを突き進み、とうとう中心地へ2人は到達する。


「なんだい、これは?」


 そこには空寺に流れ出る川の源流、湧泉があった。

 怪異たちは己の四肢を引き千切り、泉の中心へと投げ込む。腕を足を眼球を臓器を、何のためらいもなく狂喜しながら放るのだ。中には自ら跳び、泉へ入ろうとするものもいる。それらが水面に接触する前、水中から現れた筋繊維がむき出しの腕が現れ、怪異たちが捧げた供物を捕まえ、怪異本体の場合は握り潰して泉を赤に染色する。


人形神(ひんながみ)だ」


 人形神。富山県に伝わる憑き物だ。3年間で3000人の人間に踏まれた7つの村の7つの墓地の土を、人の血で捏ねて神の形にして、その後人々が行きかう道に置いて1000人に踏まれることで完成する呪物であり怪異。それは自らの意思を持ち、造物主の願いであれば何であろうと叶えてしまう。

 欲望の塊。その存在理由は造物主の願望の成就。


「人形神だって? あの製造方法は......いや、そうか。呪いの効果を強化する最も簡単な方法は、肉体の一部を材料に加えること。怪異たちは自らの骨肉を土の代わりに捧げてるってことかい」

「そうだ」


 3000人だとか1000人と言うのは、人間の欲望を微量ずつ吸収する結果それほどの大勢に踏まれないと意味がないと言うだけだ。その点、怪異がこれほど集まり、己の一部を捧げているだけでそれは簡単になされる。くべられる欲望と負の感情は、踏まれて蓄積された墓地の土の比ではない。

 2人は跳んだ。水面の寸前を飛翔する水鳥のように低く、けれど獲物を捕らえる猛禽類のような迅速さをもって。

 水が天高く上り破裂する。筋肉がむき出しの無数の腕が、2人を迎撃せんとその剛腕を振るう。


「この腕の1本1本が乙級の最上位。下手したら甲級下位程度はあるな」

「アハハ、最高だね! 来なよ、怪異。遊んであげる」


 2人を亡き者しようと、数えるのも億劫になるほどの腕が降りかかってくる。しかしそれらが進行の妨げになる事は無く、両雄の絶技の前に粉微塵へと化す。そして新たに現れた腕を足場にして、それを切断し、次の腕へと跳躍する。しかし何本の腕を切り落としても、減ることはなくむしろ増える一方だ。


「聞いたことがある。再度の怪の1つ大腕」

「ボクも知ってるよ。記録だと明治34年に浄化された怪異。再発生......と言うには奇妙だねぇ。大腕の腕は、奈良の大仏の如き力強さと尊さを持っていると記されているんだ。こんなに醜いものではないはずさ」


 豪雨の如き勢いを持って2人に襲い掛かる大腕。雨の中、傘を差さずに歩いて濡れない人間はいない。

 無数の腕を斬り飛ばし、ゆっくりしかし確実に前に進んでいた2人の身体を大腕が捉える。秋の鳩尾を、楽々の喉を抉るように。2人は石で水切りをするように、水面を何度もバウンドして対岸の木を数本なぎ倒して地面に転がる。


「無事かい?」

「無論だ」


 土煙を突き破り、地を這うようかのような低姿勢で駆け抜ける。

 2人を圧し潰さんと殺到する大腕は雨霰の如く。


「君達の特性は理解したよ。なら対処は簡単さ」


 楽々は持っていた長巻を高速で回転させながら、横へ投擲する。そして己に向かってくる大腕を、自身の両腕で迎え撃つ。仮に楽々が怪力無双の超人であっても、これ全てを正面から受けきるのは不可能だ。

 両者が衝突する寸前、楽々が無数の大腕の間をすり抜けていく。それは蝶の様な美麗にして優美な舞いではなく、得物めがけ森の木々の合間を飛翔する梟の如く。

 数多の大腕が数ミリ横を豪速で抜けていく。楽々はそれの合間を跳ね、飛び、駆ける。些細なミスも許されぬ状況で、極めて冷静に隙間を探しそこに飛び込む。

 進みながら大腕に、自分の掌で触れていく。それは指先だけのこともあれば、手全体の事もある。


「王は途方に暮れた」


 その言葉が終わると同時に、全ての大腕が石と化した。微動だにしなくなった大腕の間に楽々が立っている。

 楽々は手で触れたモノを石に変える事が出来る。ギリシア神話には同じように触ったものを黄金に変えるミダス王が存在するが、その力と違う所は自身でオンオフの切り替える事が出来る点だ。


「生ず殺さずってね。さぁ道は開いたよ秋。行こうか」

「ああ」


 木々をすり抜け戻ってきた長巻を楽々は掴む。大腕と2人の攻防の余波により、他の怪異はすでにこの場には居ない。視界を遮る存在が居なくなったおかげで、怪異が殺到し大腕が守護していたものが分かる。それは小さな社だ。

 2人は踏み込んだその時、石化した大腕が砕け粉となる。直後風が吹き、破片が社の中へと入っていく。

 大腕は自ら形を持った怪異である事を辞め、ただの負の感情に戻ったのだ。それによって砕け塵となった。

 なんのためか。簡単な話だ。王が生まれるのを速める養分に志願したのだ。大腕ほどの怪異の栄養を吸収したならば、誕生は時間の問題となる。


「させないよ」


 殺到する石礫の中に腕をいれると、それを操り全く異なる方へと流す。しかしそれは一部に過ぎず、焼け石に水程度の効力しか発揮されない。楽々は同じことをしていくが、1人でどうにかなる量ではない。


「......」


 一度の閉眼の後に、目を見開く。秋の瞳には多数の瞳孔が現れ、それは各々目の中を動き回っている。

 秋の持つ魔眼は鬼眼(きがん)と呼ばれ、3つの力を有する。その1つ絡鬼眼(らくきがん)は視認中のモノを操る。対象に抵抗の意志があったりする場合は屈服させなければならないが、負の感情だけになった大腕の残骸を御することなぞ、秋にとっては簡単なことだった。

 しかしそれでも間に合わなかった。既に殻には亀裂が入っていたのだろう。石礫は栄養こそ上げる事は出来なかったが、その殻を破る事には成功したのだ。


「来るぞ」


 湧泉の水が全て天へと昇る。それは昇天する竜だ。しかしそれは途中で内部より膨張し、破裂して山頂を濡らす。源流は枯れ、社が寂しく佇む。その社の扉が独りでに開く。

 ソレは現れた。社の大きさに到底収まり切れぬ巨躯を、尋常の生物では不可能な挙動で這いずり出てくる。本来の姿は分からない。その全身を怪異の恨み辛みによって変色した、或いはあれが怪異の願いなのかもしれない。真っ黒の形代の覆われ、その真の姿を拝むことはできないのだ。

 立ち上がると胴体だけで高さは8m近くあり、首を擡げるとその体高がゆうに15mを超える。頭部の形代を髪の毛のように揺らし、その顔を2人に向ける。そこには穴が開いていた。人1人くらいなら余裕で吸い込みそうな穴だ。向こう側は見えず、ずっと見ていると言い知れぬ不安感と恐怖感に陥る、深淵そのもの。

 形代をかき分け、無数の腕の様な触手の様なものが現れる。それは多種多様であり、獣のものから植物を彷彿とさせるもの、中には幻獣と思わしきものもある。その中には当然の如く人の腕に類似したものも。それらは触れた先は植物を枯らしたり、逆に生やしたり。発火し、腐食させ、地割れを起こす。あの1本1本に、この存在の糧となった怪異の力を濃縮し増大させたものが宿っているのだ。

 後に特定指定浄化怪異:天級の等級が当てられ、名を成碑王(じょうひおう)と呼ばれる新たな怪異の王だ。この異形こそが、怪異が求め、そして求められ受肉した王。

 2人は同時に己の得物で切りかかろうと踏み込む。しかしその前に、2人はこれまた同じタイミングで大きく飛び退く。

 成碑王の周囲から霧が立ちこみ始める。それはその巨体を隠すほどの濃霧となり、その姿を覆い隠す。しかし消えたわけではない。その強大すぎる威圧感存在感は未だにそこにあるのだ。2人の警戒は最高潮に至った時、その霧が針や棘、はたまた蛇か竜か。ともかく成碑王を取り巻く霧から、くねり渦巻きながら無数の霧の線が2人に襲い掛かる。

 例え回避したとしても、周りの木々を破壊しながら追尾してくる。破壊された木々は抉れ、燃え、腐り、融け、朽ちる。直撃は勿論、掠っただけでも致命傷は免れないだろう。


「ッ......!」


 秋の目が見る見るうちに充血していき、多量の血涙が流れる。それにより、幾つかの霧の槍はそれていく。


「これなら避けた方がマシだな」


 目元拭う。左目は見えるが、右目は酷くぼやけてしまっている。その間も紙一重で避け続ける。楽々も同じように回避に専念している。先の大腕よりは攻撃の量は少ない。だが決定的にその一撃一撃の重みが違うのだ。あちらは当たっても2人には大したダメージは無かったが、これは直撃すれば即死、髪の毛の先端や薄皮、衣服の一部が当たっただけでもすぐに適切な処置をしなければ、死は免れないのだ。

 成碑王の周囲の霧は徐々にその範囲を広げている。このままでは山頂どころか、この山全てが霧に覆われる事だろう。そうなってしまえば、今ここでの勝ち目は絶望的となる。それだけは避けなければいけない。成碑王は生まれたばかりで、しかもその誕生は予定よりも随分と速いのだ。本来持って生まれるはずの力は持っていないか、弱体化しているだろう。何故なら、それを補うはずだった大腕の大部分は吸収できてないからだ。

 今は最大にして最後のチャンスになるかも知れない。少なくとも、今後これ程の絶好の機会は訪れないだろう。


「変化」


 霧の中心地に1つの小柄な人影が落ちていく。


宗抑柳御前(そうよくりゅうごぜん)


 相の全身に蛇の鱗が出現し、瞳が縦に伸びる。

 変化。それはかつてある祓魔師の一派が低位のものであっても、上位等級の怪異を浄化できるように作られた術。母体の中に居る胎児に生まれる時まで、24時間毎日無休で呪いを注ぎ続ける。それに耐えらなければ流産、例え生まれても人の形をしていない化物の姿かたちをしており、その場で処理される。無事に出産できても殆どは内に眠る負の感情を制御しきれず、怪異と化す。当然だが母体へのダメージも甚大で、助かる事は無いに等しい。

 それは一種の蟲毒だ。数多の母体と赤子を犠牲として、その2つの怨念すらも糧として完璧な変化を使えるものを作り生み出す。倫理観や道徳心から著しく乖離したこの儀式を、当時の祓魔師たちは邪法と呼び忌み嫌った。

 だがその果てに生まれた赤子には絶大な力が秘められていた。最初の変化師と称された祓魔師は、日本の祓魔師の歴史においても屈指の浄化数を誇り、甲級怪異ですら相手にならなかったとされる。

 始まりの変化師は自分の強大な力を受け継ぎ、尚且つこれをより鋭く強力な武具に昇華できる人物は未来永劫現れないと予言された。そこで自分の呪いを12の胎児に分割したのだ。

 久地縄家こそが12に分かれた呪いを受け継ぐ血脈の1つ。そして相は久地縄家歴代最高の変化を有する。

 変化使用時の変化師は実質怪異だ。数多の怨と業を背負い、内包し、それを外に発して使える変化師は怪異に対しての切り札足りえる。しかし少しでも変化率を間違えてしまえば、そこ先にあるのは怪異と成り、浄化される未来だ。


「活路は自分が開くから、後は頼んだよ!」


 その様相は蛇人間と言う言葉似合う。

 呪い返し。それは自分に向けられた呪いに対し、それよりもより強い呪いを術者に送り返す方法だ。呪いに対する有効策は同じ呪いであり、それは成碑王の霧にも同様の事が言える。成碑王が放っている霧は莫大な怨念の具現化だ。これに対する最も有効な防衛手段は祓いではなく。より強大な、それか同等の怨念を以て跳ね返すか中和することだ。

 相は両手足を地面につけて着地する。そうすると掌と足裏が接している部分から土が沼に変容し、泡立ち始める。それは徐々に範囲を広めていく。


「流石に......きついなぁ」


 相の変化は完全が100だとするならば、今は40に留めている。それでも本来は十分であり、猛毒とその気体に籠められた怨念は100年では効かない。しかし成碑王の起源はこの山そのものだ。人間がこの地に住み着き、そしてこの山に畏敬と崇敬の念を抱いた事にまで遡り、それは1000年なんて歳月ではない。

 相と成碑王には絶望的ともいえる格の差が存在する。年月の他にも犠牲になった母体と赤子の怨念が籠められていようともと、それは成碑王も同じことなのだ。それが覆る事は無く、むしろ限定的とはいえ中和に成功している時点で賞賛ものだ。


「だけれど......君達ならこの程度の念、越えられるだろう?」


 僅かに中和された霧を突き破り、秋と楽々が躍り出る。目から鼻から耳から血液を垂らし、2人は成碑王へと迫る。

 楽々の伸ばした手のひら成碑王の形代を掻き分け、この存在を形を成している物質に触れる。それは石だ。

 両手を経験したことの無い激痛が襲う。冷たく熱く、燃えているのか凍っているのか、融けているのか固まっているのか。斬られている様で、信じられない力で腕が捻じられているかのような。この世にあるあらゆる苦痛が楽々の腕を襲い、それは腕から浸食する様に全身へと至る。

 笑う。まるで口が裂けたような深い笑み。全身の穴と言う穴から血液を流しながら、全身を痙攣させながら。


「ボクの直上、その正面だよ」


 落雷。その2文字が脳を過ぎる轟音が楽々の背後で鳴る。それは踏み込みの音だ。秋は太刀の切っ先を成碑王へと向け、放たれた矢のような速度を以て迫る。

 楽々が指示した場所に秋の刺突が命中するまでに、そう時差は無かった。黒色の形代を幾つも突き破り、その内部へと至った太刀。

 辺り一帯を包んでいた霧も急速に成碑王へと収束する。

 時が止まる。時間にして1秒も満たない一瞬だが、成碑王と3人の動きが静止する。まるで時が停止したかの様に動きを止める両者。


『オ......オ......』


 大気が震える。それは悍ましい声だ。夜の明かりの無い山道の闇、それを音として表現したのであれば、こんな音なのだろう。そんな声。


『オネエ......チャン......』

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