3話:影
陽葵の衝撃をよそに相はその後も説明を続ける。
次は祓魔師の等級についてで、戊級祓魔師は単身の場合は頑張れば同級怪異に対抗でき、道具や数さえ揃えば単体の丁級怪異にも対処できる事がある。丁級祓魔師はまず戊級怪異は難なく処理できなければいけず、同級怪異が相手でも平均的な丁級祓魔師なら3体くらいまでなら同時に対等以上に戦う事が可能。戊級と同様に人数と相応の道具さえあれば、1級上の丙級怪異にも喰らいつく事も不可能では無い。丙級祓魔師からは凄腕と評される者達であり、戊級丁級怪異に遅れを取る事はまずない。同級の怪異が相手でも不測の事態が発生しなければ浄化可能で、その経験や数多の道具を使った戦法によって乙級怪異に対処できる者も居る。乙級祓魔師は努力だけでは到達できない境地で、天賦の才を持った人物が血反吐を吐き、骨肉を潰す程の努力をして到達するかしないかと言う次元。大抵の怪異を浄化し、甲級怪異すら浄化する傑物も数人存在する。丙級祓魔師が対処できない難事に駆り出されるため、その怪異の危険性は相応に高くなるが、殉職者は甲級祓魔師と同等で非常に少ない。甲級祓魔師は時代が時代であれば英雄と呼ばれ、歴史や神話に名を残したであろう者達。乙級祓魔師ですら対処できない国難クラスの怪異に送られる対怪異最終兵器。兵器と称されるだけあり、人外の強さを持つ。
「祓魔師は総勢で988人。それぞれの分布が戊級は494人、丁級が280人、丙級197人。乙級から一気に減って13人で、甲級は4人だけ。ちなみに自分と秋は乙級だよ。月は準丁級って所だね」
「準......ですか?」
「うん。精神力や実力は申し分ないんだけど、詰めが甘い所があってね。丁級になるには少し足りないんだ」
「次はなんだろ......浄化と封印の違いかな? まぁこれは簡単で浄化は死刑、封印は終身刑。そんな感じで覚えておけば良いよ」
後は何か言う事あるかな、と相は考えている。秋は変わらずに蛙の面を着け、窓枠に肘を置いて話を聞いているだけで、混じってくる気配はない。視線は外を見ているため、本当に加わる気はないのだろう。
「その......怪異に鉄砲とかって聞くんでしょうか?」
「ああ、その説明がまだだったね。答えは基本的には効かない。けれど効く場合もある。それは儀礼によって祝福された銃は怪異に対して有効的な武器となる。よくある手法は大晦日の時に弾丸に伊勢八幡大菩薩と彫ると言う方法だね。その弾丸は怪異に対して非常に強力な武器兼魔除けになるんだ。これを海外の祓魔師の間では魔弾って呼んでて、結構ポピュラーな手段。祓魔師は凶器の所持とかは大目に見てもらえるけど、飛ぶ道具を使ってる人は極々僅かで、近接戦を好む傾向にあるね」
「なるほど......」
「一概には言えないけどね。皆特有、千差万別の浄化封印方法を持ってるから。特に丙級以上の人は」
気が付けば周囲の景色は木々から住宅街に、そしてビル街へと移り変わっていた。「もうすぐだよ」と相が言い、5分もせずに車は6階建てビルの地下駐車場に停車する。
「ここが自分が運営してる組織、怪異物管理局東京総局。怪異を浄化するのではなく、未来永劫厳重な封印のもとに同一の怪異の再来を阻止するために、自分が設立したんだ。君は暫くここの4階の居住区で過ごしてもらうよ。施設の方には連絡してあるから」
「あ、はい。分かりました」
自分の知らない所で話は進んでいたようだ。施設の陽葵の荷物も既に搬入済みとのこと。
幾つかの段差を越え、ビルの中に入る。内部の各地には意味ありげな品が置かれており、聞けば結界の役目を果たしているらしい。
「このビルの中心には、地元からお越し頂いた神様の分霊に鎮座してもらっていてね。結界の強度はかなりものだよ。戊級丁級の怪異は入って来れないくらいにはね」
そんな事を聞きながら一同はエスカレーターで6階を目指している。月は局員に担架で別のビル内の別の場所に連れていかれたが、相曰く「すぐに戻ってくる」とのことで、そのまま最上階の相の部屋を目指している。
エスカレーターで移動している間に、陽葵は簡単なビルの説明を受ける。
「1階はもし怪異が侵入したり、地下に封印してるのが脱走した場合の戦場になるから受付と当直室以外は何も無いよ。2階と3階は封印具を作ったりする部屋、トレーニング室や娯楽室、医務室とかだね。トレーニング室には一通りの器具はあるし、娯楽室にはビリヤード台とかダーツ、映画を見るスクリーンとか基本的に息抜きできるものは大体あるはず。医務室に常駐している人の腕結構良いから、ガンガン使ってね」
「凄いですね......」
「こんな事を生業にしているんだ、お金を貯めても仕方ないからね。いつ死ぬか分からないなら、使えるうちに使わないと勿体無いじゃないか」
「......」
「4階と5階は居住スペース。基本的に1人1部屋。部屋は沢山余ってるから、もう1部屋使いたくなったら相談してくれれば許可だすよ。6階は自分関係。地下は暫くは行かない方がいいかな」
ビルのF1階からF3階には現在500回近い怪異が封印され、厳重な警備のもと安置されているのだ。封印されある程度は安心と言えど、中にはその強力すぎる力を完全には封じきれず、片鱗が漏れ出ている怪異も数多存在する。その気に慣れていない者が当てられれば良くて気絶、悪ければ発狂する。
「昔、発狂して舌を嚙み切って死んじゃった人が居るからさ。素人が入っていい場所じゃないよ」
「わ、分かりました。肝に銘じます」
「うんうん、それなら安心安心」
6階は1階にも増して何もない階層だ。途中に扉や窓が一切ない殺風景な廊下を進み、相の部屋へとたどり着く。扉の正面の壁は一面がガラス張りで出来ており、それを背後に執務机が置かれている。他には必要最低限な家具があるだけで、特に変わったものは無い。
その部屋に1人、先客が居た。その人物は革張りの明らかに高級であろうオフィスチェアに深く腰掛け、こちらに背凭れを向けて窓から足元を行きかう人や車を観察している。
「今回の怪異は自分と秋、そして彼女3人で組んで解決に当たっているんだ。紹介するよ、彼女は石桐 楽々。甲級怪異の浄化実績のある、乙級祓魔師だよ」
その紹介が終わると同時に楽々はオフィスチェアを反転させ、腰掛けた状態から腕力と上半身のバネを使って執務机の上に飛び上がり、目の前にある障害物なんて関係ない、或いは見えていないとでも言うのか避ける事もせず3人が居る方が歩いてくる。
「へー、その娘が噂のね。確かに、面白い匂いがするねぇ」
まただ。また、今まで見てきた人間のどの眼とも違い光を放っている瞳。飢えた肉食獣の様にぎらついた光を、無理矢理理性で抑え込んでいるかのような眼。陽葵は秋や相、2人のを見ても慣れる事は無い。本能を、無意識的領域に干渉し、自分の心を見透かしているかの様なこの瞳と眼光。
夏場だと言うのに黒のアシンメトリーコートを着込んだ楽々は、陽葵の前まで来るとくすんだ白髪を揺らし、にこりと笑みを浮かべて右手を差し伸べてくる。
「よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いしま―――!」
陽葵も右手を差し出し、楽々の手に振れた瞬間全身に悪寒が走る。反射的に手を放そうとするが、それよりも速く楽々が逃さないとばかりに手を握り、真剣な表情で陽葵の耳元と囁く。
「覚えておくと良い。これが死体の体温さ」
その手から人肌の温もりは一切感じない。氷の様に冷たい訳では無く、ただ温度を感じられない。マイナスでもプラスでもない。例えるなら自然物だ。木や石、土などにも温度はあるのだろうが、触っても特に熱くも無ければ冷たくもない。あの感じに似ている。
祓魔師とは秋然り相然り、頭のネジが数本外れて居たり、一般社会の常識が通用しない人間しか居ないのだろうか。
「アハハハ! 良い反応だ!」
「全く、君と言う人は。陽葵くん、今のは楽々の十八番の冗談なんだ。気にする事は無いよ」
「そ、そうなんですね......」
「さっ、今後の話でもしようじゃ無いか。皆好きな席に腰掛けてくれ」
その言葉に各々部屋の中央にあるソファに腰掛けていく。局員によってお茶が出され、各々の調査報告や今度の方針についての協議を始める。
「取り合えず管理局は縁を辿るよ。前回と今回封印した合計9体の怪異が居れば、大本について何か分かるだろうしね。もしかしたら居場所が分かるかも知れない。早くて今日中、遅くても明日の夜までには終わらせるよ」
「ボクはボクなりに調査しながら、連絡してくれればすぐに応援に行けるようにしてるかな。こういうのは2人の方は得意だからさ」
「私は空寺に行く。今ある有力な手掛かりはこれだけだかな。それに焦らずとも、相の方で縁を辿って見れば、自ずと黒幕に行き着くだろうしな。私は今回の怪異の因縁を探ることにする」
怪異は単純に負の感情によって現れるものではない。必ず背景があるのだ。憎悪によって生まれた怪異ならば、何を忌み嫌い、何故そう思うようになったのか。それは等級が上がれば上がる程に顕著であり、今回の魔竜が1000年と言う膨大な時間を使い負の感情を研ぎ澄ましたように、等級が上の怪異程に原因は一時の気の迷いがもとではなくなる。祓魔師は因縁と呼びこれを知り断ち切る事が出来れば、その怪異の再発生を大幅に遅らせられる。因縁を解消した結果、何百年と再来していない怪異も存在するのだ。そのため祓魔師の多くは浄化の前に、その怪異の因縁を探ろうとする。
話し合いは10分ほどで終わる。
「それじゃ明日の午前10時にもう1度ここに集合して、その時に縁を辿った結果を報告するよ。それまでは各々で調査して、何か進展があったら随時と言う事で今の所は解散!」
「分かった」
「りょーかい」
秋と楽々の2人はそう言うとすぐに立ち上がり、部屋を後にする。
扉を出てすぐ横には、先ほどの下位魔竜との戦いで深手を負った月が立っている。左腕はギプスで固定されているものの、ある程度歩けるまでには癒えたようだ。
「申し訳ありませんでした」
体を腰から深く前方に曲げ頭を下げる。
「謝る事は無い。装備の件は次回に活かせ。最初に私が伝えた依頼人を護る事は果たしたんだ。満点とはいかないが、十分及第点だ」
「あり難きお言葉ありがとうございます」
「だから頭を上げろ。一度帰るぞ」
「かしこまりました」
頭を上げた月は、秋の影を踏まない様に数歩後ろからついていく。
1階に下りた時、局員が家まで送るという事で2人と楽々は別れる。行きとは違う道で帰り、そう時間はかからずに川津堂に着く。
「......」
視界を遮るの水飛沫と鼓膜を劈く瀑声。
川津堂の裏山の一角にある幅15m落差80mの滝。岩壁を削りながら流れてくる滝の中には無数の石礫が混じり、霧になる事無く勢い良く水面にぶつかる水と合わさり、容易く人の肌を切り裂く凶器となっている。
秋はそこで滝行をしていた。白装束を身に纏って、傍らには抜き身の太刀と鞘を置いている。落石の様な衝撃を持つ滝の落水、肌を切り裂く石礫、鼓膜を刺す瀑声。それらをその身に受けても動じず、瞑想を続けている。
本来なら秋が禊をする時は怪異の根幹、元凶の浄化に赴く場合だけだ。今回は空寺への調査、それだけであったが祓魔師としての経験と勘が秋に告げていたのだ。邂逅すると。ならば普段通り、怪異を浄化しに行く際のルーティンをしない訳にはいかない。
「......霊験は得た」
静かに、けれど迅速に太刀を携えて立ち上がる。
かつてこの滝壺には天界で罪を犯した白龍が翼を捥がれ、堕ちてきて長い年月を過ごしたという。しかし天界へ戻る事を諦めきれなかった白龍は、蛇となってしまった矮小なその身で滝登りを行い、後もう少しと言う所で無数の石礫によってその身を散らした。その際白龍から流れ出た神気が今尚この地に残り、禊をしたものの肉体に宿るとされる。
月から受け取った清潔なバスタオルで軽く水を拭き取る。
「行くぞ」
「畏まりました」
死に装束と言うには、余りにも生気に溢れた白い装束に着替えた秋。
2人は一言も喋らず空寺を目指す。場所はそう遠くなく、気が付けばそこは空寺だった。
「静かだな」
人口は100人にも満たない小さな集落だ。静かな事は当然だが、この異様な静けさは違和感を感じる。まるで夜中に1人で訪れた墓地。虫や鳥の囀りさえも聞こえない。まだ空高くから日輪がこの世を照らしているが、その光さえこの鬱屈とした静寂を晴らす事は無い。
「以前、とある怪異を浄化したことがある」
「......」
「自分と同じ目に遭わせるために怪異と成った男は、その村の住人全員に、自分が壮絶な村八分にあうという幻覚を見せ続けた。1週間ほどの出来事だったが、怪異の力によって住人が体感した時間は21年。私と仲間が駆けつけた時には、恨みを返す為にと全員が武器を持ち、殺し合いをしていた。その頃には住民はもれなく鬼と化し、目に映る対象全てに凶刃を振り落とした。祓魔師にも例外なく」
「どうなったのですか?」
「村1つを浄化した。住民含めてな」
村の中心まで来たところで周囲に聞き耳を立てる。そうすると四方から草をかき分け、土を踏む音が聞こえる。風に乗って流れてくる鼻をつまみたくなる程の悪臭と、今にも倒れてしまいな弱弱しい息遣いの音。がちっがちっと歯を鳴らしながら近づいてくるそれら。
「以前のは乙級怪異判定だった。力は強力だが、その怨みの対象が村と限定的だったからだ」
濡れた様な刃を持つ太刀を抜刀する。月は背中に背負っていたケースから、三日月の如く美しい形した和弓を持ち、矢を番える。
その視線の先には人間らしきもの達が居た。四肢や胸などは酷くやせ細っているのに腹部だけは膨らみ、逆立った髪で浅黒い肌色の人型の集団が、サイズの合ってない服の裾などを引き摺りながら2人を目指して歩いてくる。一見であれば何かしらの病気の人間とも見れるかもしれないが、その全身から放たれる異様な気配と敵意は一般の人間が出して良いものでは無い。
「怪異を作る怪異。魔竜は住民たちに極度の飢餓と食欲を与え、餓鬼にしたわけだ」
「......」
月は軽く下唇と奥歯は強く噛み、弦を引く。秋は太刀を抜いただけでまだ構えない。
「前回と今回の怪異の違いは、その規模だ。鬼たちは村限定だったが、魔竜は外に進出し始めている」
「......」
「魔竜含め派生怪異全て浄化しないと最悪日本が終わる。魔竜の推定等級は甲級、或いはさらにその上。月、私らが今、ここでこいつらを残らず浄化するぞ」
「了解です、先生」
4人張りの強弓から放たれた矢は容易く、月の正面に居た餓鬼の頭部を貫く。それと同時、全身の穴と言う穴から銀色の煙を吹き出しながら、その場に倒れる。その煙を浴びたり、吸った近くの怪異も次々と動かなくなる。
引くのに80㎏の力を要する弦を、月は表情一つ変えずに何本も矢を番えては放つ。1体に当たれば煙によって3体4体が連続して倒れる。1本の矢で5人近くは倒しており、仮に村民全員が怪異になっていたとしても20本も撃てば、全員を浄化できる。だが実際の所、戦いの終わりはもっと早く訪れることとなるのは間違いない。
「......」
一閃。日本刀の切れ味と秋の技術が合わさり、餓鬼の骨など障害足りえない。刀が反射した光が餓鬼の目を照らす頃には、すでに斬り終わっているのだ。その絶技の数々は努力や才能だけで説明がつくものではない。時の剣豪剣聖が記憶と技術を完全に継承して、幾度もの生を剣に費やしてやっと到達できるかどうかという武の極み。
秋の振るう太刀は斬り伏せた相手だけを浄化する。倒れた怪異から何かが放たれる訳でも無い。それだと言うのに秋が浄化した怪異の数は月を凌駕する。
攻撃されるよりも前、痛みや恐怖が全身を駆け抜けるよりも早く、秋の太刀は怪異を両断する。何十と言う怪異を斬り、その刃が血で濡れてなお、その刀身の輝きに一切の陰りは無い。白装束には返り血の一滴も着いておらず、その姿は青空に浮かぶ太陽の影。
「......ふぅ」
月は息をつく。7本目の矢を番えた所で、餓鬼は全員浄化された。
右手を握ったり広げたりを繰り返す。痛覚を鈍らせる呪いをしてきたおかげか、体のどこにも痛みは感じられない。これならまだまだ戦えそうだ、そう彼女は思った。
「......足りないな」
「? 足りない......ですか?」
「そうだ。この村の人口と浄化した元住人の数が合わない。私と月で合計82人浄化したが、人口は88人だ」
「偶然留守だったとかでしょうか?」
「7歳だ。7歳以下の住人だけが居ない。下位魔竜は失踪した児童から作られたのだろう。だが私達が今まで封印した数は9で、分かっている失踪者は7人だ。既にイコールではなくなっている」
日本は年間約8万人が行方不明となる。そのうち7歳以下の子供が占める割合は他の年代に比べれば圧倒的に少ないが、ここ5年間で増加しているという。
秋達が動き出したのは児童連続失踪事件の1件目と同時か、もしくは若干早いくらいだ。それは怪異の早期発見を得意とする術を持つ者が、良からぬ存在が動き出したことを察し、個人的に深い関係で実力的にも申し分ない秋達にその事を伝えたからだ。
ただ、もしだ。魔竜は数年前にこの世に顕現し、水面下で他の事件を隠れ蓑に子供を攫っていたとするのならだ。
「月、お前は退け。そして念のために2人に連絡しろ」
「分かりました」
月は急いで車の運転席に滑り込み、助手席に雑に弓を置いて急発進する。
それを尻目に見送った秋は刀を地面に軽く振るい、地面に線を引く。風が吹けばすぐに消えてしまいそうな、薄い薄い線だ。しかしこの線を引いたのは平安時代後期に名匠によって作り上げられ、先ほど竜の気配残る滝に打たれた代物だ。
「これは境界だ。魑魅魍魎跋扈する異郷と顕世を乖離させる幽谷」
陽を遮り地面に影が落ちる。正面の地面は全て影で埋まり、秋を境にして深夜と昼間の様になっている。
「私が今そう決めた。言っておくが私の言挙げは、なるかも知れないなんてものじゃ無い。そうなるのが、私の言葉の重みだ」
顔を上げる。そこには夥しい数の下位魔竜が秋を見下ろしているのだ。夕刻、空を覆いつく鴉の群れのように、蚊やユスリカが群れを成して飛ぶ蚊柱のように。下位魔竜は旋回を続けながら、蛇の舌の眼だけは秋を凝視している。その視線は子供が蟻の群れを見て、踏み潰すの直前の狂気にも似た好奇心を感じさせる。
「20......30......いや、もっとか。安心しろ。お前達全員、人として往生できるように浄化してやる」