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百鬼譚  作者: 忠腹 丹子
序章:求むもの
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2話:声なき叫び

 伊邪那岐命は黄泉醜女から逃れる際、櫛の歯を折って撒きそれを筍に変える事で難を逃れたと言う。月の使った櫛はそれを元に作られた物であり、使用者の生命力を代償に穢れの侵入を妨げる結界を生成する代物だ。オリジナルの様に単体で完成しているものではなく、自身の生命力を払う事で初めて効果を発揮するもので、普段の月であれば何度使用しても支障は無いが今の状態ではそうはいかない。


「......」


 左腕の関節は逆方向に曲がり、手の指は何本か欠損し、右の脛骨は折れている。額から流れてきた血が左目に入った事で、左の視界は無いにも等しい。満身創痍、誰が見てもそう表現する状態であろうと月は冷静沈着だった。

 静かに状況を確認する。地上には4体、空には3体の怪異が30mほど離れた場所から2人を取り巻く様にして伺っている。逃げようにもこの負傷ではそれも叶わず、戦いを挑んでも、主要な武器は遥か彼方まで滑って行った車の中で、勝算は限りなく0に近い。

 ちらりと、竹の様子を確認する。葉先から徐々にではあるが萎れ始めており、枯れの進行度に比例してその速度も速くなっていく。結界と言う物は消耗品だ。どれほど優れた結界であろうと、穢れに当てられ続ければいつか限界はやってくる。今回の斎竹は簡易的なものにしか過ぎず、そう長くは持たないだろう。


「......ふぅ」


 短く、息を吐く。スイッチを切り替える様に、覚悟を決める様に。

 歯の欠けた櫛を髪に差し、まだ辛うじて使える右手の指を舐める。小指は無いが拳を握るのに支障はない。視線を自分の負傷箇所に一瞬視線を落とし、再び怪異と対峙する。

 その様子を見て陽葵は目を疑っていた。櫛を噛みに差したことでも、指を舐めた事などに驚いた訳ではない。負傷部位が目に見える速度で癒えているのだ。流石に欠損や骨折、曲がった左腕は治っていないが、出血は収まり始め、傷口は塞がりつつある。


「このまま行けば結界は5分と持たずに破られてしまいます。そのため私が奴らの気をお引きします。10分は持つはずです。そうすれば先生方も到着するはずです」

「え......? で、でもそんな怪我でどうやって......それに例え壊されても、また作れば......」

「負傷に関しては問題ありません。この櫛には女性の治癒力を増幅させる術が仕込まれております。骨折などは完治できずとも、時間さえ経てばひびくらいまでには治ります。それに魔的存在へ対する強力な武具へとなります。結界の再使用は今の私の生命力では困難を極めます」


 先ほどよりはましになった足を引き摺りながら、月は結界の外へ向かう。


「それに同じ怪異に対して、同じ結界を使うのは得策とは言えません。怪異もまた結界に慣れるのです」


 1歩結界の外へと出る。しかし真後ろにある斎竹から漏れ出す清浄の気によって、不浄そのものとも言える怪異達はまだ近づけない。またさらに1歩1歩と結界から離れ、10歩ほど竹との距離が離れた所で、怪異は動き出した。


「―――――――!!!」


 声は無かった。ただ大きく口を開け、大気を震わせる。それだけの事だった。月の頭を一瞬鋭い痛みを走るが、彼女は平常心で立ち続ける。この痛みは櫛は怪異の眼の呪い、邪視(・・)に抵抗した証だ。月はそこに立つだけだ。この怪異達は直接的な攻撃手段を持たず、視線に乗せた反転の呪いだけが攻撃手段である事は既に調査済みだ。彼女は櫛が壊れるか、先生方が到着するか、そのどちらかまで立っているだけで良いのだ。


「......ッ」


 視界が歪む。この櫛は言わば防弾チョッキだ。銃弾は防げても、その衝撃までは防ぎきれない。2回3回ならなんて事は無くとも、4回5回6回7回8回9回10回、と小銃の様に邪視の連射を受ければ我慢には限界が来る。7回目で視界が歪み、10回目でふらりとバランスを崩し危うく倒れかける。11回12回13回と攻撃は止まず、その後も続く。そのたびに希薄になる意識を針に刺されたような痛みのおかげで、何とか踏みとどまる。


「ゴフッ」


 自分の足元が朱に染まる。それが自分の喀血によって塗られたものだと分かるのに、一瞬の間があった。それ程までに月の意識は遠のいていた。櫛の破魔と治癒の力によって、生身であれば既に4度は死んでいるであろう呪いに抗い続ける。

 常にエレベーターに乗った時の浮遊感の様な感覚に襲われ、寝起きの時の如く頭が働かない。最早頭痛など感じなくなっていた。だが、そんな意識は半ば手放している彼女の意識は突然として浮遊する。


「あ......」


 思わず声が漏れる。

 右足が関節から回転したのだ。全身を駆け抜ける激痛と、その場に倒れんだ衝撃で意識が急激に浮上してくる。


―――パキ


 何かが割れる音がした。それが櫛である事は明白だ。左足が回り、外れる。月は咄嗟に右手で顔を抑える。左肩は可動域を越え、何度も回り続ける。そして次の瞬間、天地がひっくり返る。先ほどまで空だった場所には道路があり、地面だった場所には空がある。地上から50mはあろうかと言う高さ、一瞬の静止の後に月は頭から地面目掛けて落ち始める。30m20mと地面との距離は近づいていき、落ちれば落ちる程落下速度は速くなっていく。今の体では空中で体の体勢を変える事は無理に等しく、このまま行けば頭部は熟した柘榴の様に割れるだろう。けれど月は慌てる事無く、その時を待っていた。


「随分とやられたな、月」


 地面まで10mをきった所で、月の体は羽毛を捕まえるかの如く丁重に稽古着を着た人物によって助けられた。川津堂の主人高羅目秋だ。地面に着陸した秋は跳んで結界の中に移動し、その中にゆっくりと月を寝かせる。


「面はどうした? 着けろと言ったろう」

「申し訳ございません。装備は全て車の中で......」

「そうか......まぁ説教は後だ。今は安静にしていろ。すぐに終わる」


 秋は素顔ではない。死人の顔を模して作られた。そう言われる(かわず)と呼ばれる能面を顔に着けているのだ。蛙が用いられる能はどれも地獄の苦しみを題材としており、面の顔も悲愴な表情となっている。


「知っているか怪異」


 そう怪異達に語り掛けながら、秋は堂々と怪異の方へ歩んでいく。


「神楽とは自分の身に神を降ろし、人でありながら擬似的にそして一時的に神の域へ至る術だ。

人にして人あらずモノと化す。それが神楽だ。そしてそれに使われる面とは往々にして、人外のものとなる。

そして私は知っているぞ怪異......管理局は怪異魔竜と言っていたか。お前達の邪視は人間特攻の術ではあるが、それ以外に対して如何に無力かを」


 指で面を叩く。怪異改め魔竜たちは視線を向けているが、秋の肉体には何の影響も及ぼせていない。それどころか秋を人としても認識できていないようだ。


「そしてお前達の性質を。何の感情かは知らないが、お前達は何かの感情をトリガーにして現れ続ける類の奴らだ。故に幾ら浄化しても何年何十年何百年後にまた現れる。昔はそれでも関係ない、未来の祓魔師に任せると言う形で浄化していたが、今はそれだけじゃない」


 一番先頭に居る魔竜との距離は5mをきる。そこで怪異は1歩2歩と後退りしていく。秋は1歩近づけば、3歩下がる。まるで怯えているように。


「話は終わりだ。既に術は展開されてる。お仲間も一緒だ、寂しくはないぞ」

蛇布連垂(じゃふれんで)


 秋の声では無かった。変声期前の子供用な声が呼び水となって、どこからとも無く現れた14匹の大蛇はそれぞれ一対の番いとなり、魔竜に巻きついていく。そうすると魔竜たちの姿はみるみるうちに岩や木に変わり、大蛇たちも注連縄に変わって行く。


「封印完了と」


 森の中からそう言って出てくる人物が居る。金色の瞳と赤色のインナーカラーの黒髪、中性的な顔つきで、身長は160㎝に届かないくらいだろう、秋と相対するとその小柄さが際立つ。

 その人物は劇の主役を彷彿とさせる大仰な身振りと明瞭な声で喋る。


「これで封印した魔竜は合計で9体かな? いやー、一気に増えたねぇ!」

「そうだな......人除けの術が解けるうちにコレを回収させろ」

「うちの部下たちがすぐに回収に来るから安心しなよ。それよりもだよ!」


 右足を軸に綺麗な半円を描き、その人物は月と陽葵の方に反転して歩みだす。口角を俄かに上げ、人当たりのいい笑みを浮かべながら。


「月、頑張ったじゃ無いか。負傷は酷いけど、何事も死ななければお釣りが来るさ。気にする事は無いよ、次また頑張ろうじゃないか!」

「精進致します」

「君は才能はあるんだ。死んじゃ勿体無いと言うものさ」


 金眼の人物は月の前でしゃがみ込む。

 袖口から細長い白蛇が出てきて、月の全身に巻きつく。その長さは身長が160㎝の月の全身を覆い隠して尚、まだ余裕がある程だ。白蛇は眠る様に瞼を閉じて微動だにしない。その様子を陽葵は心配そうに伺っていたが、金眼の人物は説明する。


「心配する必要は無いよ。この()は再生と不死の側面が大きな古い蛇の一族の末裔でね。こうやって巻きつく事で、対象の怪我や病を治す事が出来るんだ。勿論相応の力を使っちゃうから、多用は出来ないけど」

「そ、そうなんですね......安心しました......」


 陽葵はその言葉に安堵する。月には命を助けられたのだ。彼女は自分を囮だと言っていたが、そんなこと関係なくこの怪異達は陽葵のもとへやってきて、彼女を襲った事だろう。その事を考慮すれば月は恩人であり、その人の取り合えず無事が分かっただけでも十分だった。しかしそんな陽葵の心境など知らぬとばかりに、少女の眼前に金色の瞳が迫る。お互いの呼吸の音や、驚きによって刺激された陽葵の唾液腺、そこから分泌された唾を飲みこむ音さえ聞こえる。それほどの至近距離で、彼の人物はお構いなしに話す。


「ん~......これはダメだね。君の大分深い所まで縁が入っちゃってる。現存する縁切りの術じゃ切れないね、どんまい」

「え、縁......ですか?」

「そう。今回の怪異は厄介でね。自分たちでも手を焼いているんだ。怪異の根幹、言わば真の魔竜と言った所かな。さっき居たのは所詮は下位互換、劣等種だね。本家大本はあの比じゃない」

「......」

「自分らの調査の結果、この怪異の発生理由は1000年以上前に遡る。今まで現れなかったのは、どこかで力を蓄えていたんだ。僕らみたいな退魔士がやってきても、返り討ちに出来る位の強さを得るまで。もしかしたら神代の時かも知れない」


 そこまで言った時に、3台の中型のダンプカーとワンボックカーがやって来る。中からは作業服とスーツ姿の男女が15名出てくる。彼ら彼女らは慣れた動きで封印物の回収と、隠蔽作業を開始する。月は2人のスーツの人物によって、1台のワンボックスカーに乗せられる。「話の続きは移動しながらにしようか」と金眼の人物は言うと、その車に乗り込み、陽葵や秋もそれに続く。全員が乗車したのを確認した運転手は、車を発進させる。


「名乗れるのが遅れたね。自分は久地縄 相(くちなわ しょう)。秋や月の同業者で、今回の怪異解決に協力しているんだ。多分長い付き合いになるだろうから、よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします。私は陽――――」

「あー、君の事は秋から聞いてるから名乗らなくて良いよ」


 相と名乗った人物は微笑みを崩さずにそう言う。自分の自己紹介を途中で切られると言うのは、余り感じの良い物では無いが、この場の空気ではそんな事を思う余裕は陽葵には無かった。


「どこから話したものかなぁ......秋は何か説明したの?」

「していない」

「あ~......まっ君は人に懇切丁寧に説明する様なガラじゃないしね。よし、それじゃあ陽葵くん、単刀直入に言おう!」


 顔を動かし陽葵を正面から見た相は、微笑みは少しばかり深いものにする。その様に陽葵は座席に座りながら、たじろいでしまう。秋の眼は深海の様な底知れぬさがあった。月は冷静に振る舞っていたが、人間的な眼光を放っていた。しかし相の瞳は尋常の物では無い、そう本能が理解した。恐らく蛇と目が合った時の蛙の心境とはこんな感じなのだろう、そう陽葵は考える程に人間離れした得体の知れなさがそこにはあったのだ。


「君はもう普通の生活には戻れない。縁を辿り、君の中に入り込んだ呪力は君の潜在能力......安い言葉にはなってしまうが、霊能力を目覚めさせてしまったんだ。もし今後も同じような生活を送れば、君は望まぬうちに怪異に巻き込まれ、やがてその命を散らす事になる」

「......」

「だから自分の所で暫く面倒を見てあげよう。勿論強制じゃないよ。最終的な判断は君に任せるけど」


 丸かった相の動向が縦長になる。蛇だ、その眼は蛇そのものだった。


「もし1人の時に今回の様な事に巻き込まれたら、君は生き残れる自信があるかな?」

「......無理だと、思います」

「そうだろうとも。だから僕の所に来れば、防御法や退散の仕方くらいは仕込んであげるよ。元々自分の組織の目的には、君みたいな被害者の保護も入ってるからね」


 縦長だった瞳は気が付けば丸に戻っていた。陽葵は今の数舜、自分の呼吸が止まっている事に気が付く。そして全身からは冷や汗が噴き出す。

 畏怖。猛烈な恐怖が今まで時が静止していて、急に動き出した反動の様に陽葵の脳内を駆け巡る。魔竜を見た時でさえ、これ程の恐れは感じなかった。食堂から胃液は這いあがってくるのを感じ、咄嗟に口を抑える。


「やりすぎだ」


 そんな少女の前にポリ袋が差し出される。近くに座っていた秋が差し出しのだ。陽葵は消え入りそうな声が感謝を述べ、ポリ袋を開く。だが口の中を胃液の酸味が支配しただけで、外に出す事は無かった。だが気分は冴えない。


「と言う事でこの子はうちで預かるよ。君は月以外に教え子を持つ気はないんでしょ?」

「ああ」

「いやぁ、教え甲斐がありそうだ! 楽しくなってきたね! なんたって1000年クラスの怨念によって研ぎ澄まされた呪力! それが入り込んだんだからね! この子は大物になるよ!」

「それは良かったな。大丈夫か? 話は聞けそうか?」

「は、はい......大丈夫です」


 気分は悪いままだが、話を聞かないと言う道はない。自分の人生に大きく関わってくる事柄なのは間違いなく、弟を助けるのに一役買えるかも知れないのだ。一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。効果があるかは微妙な所ではあるが、やらないよりは良いだろう。1度俯いた顔を上げ、相を見やると彼は相変わらず微小を耐えさず話す。


「今回の怪異の詳細は後で報告書を見せてあげるよ。だから今説明するのは、怪異と祓魔師のあらましかな。こっちの世界に一歩入っちゃったんだ。知っていた方が良いだろうしね」

「お願いします......」

「それではまず怪異とは何か。一言で言えばこの世全ての影、或いは闇。怪異は生物関係ある無しに関わらず、負の感情、怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみ、畏れ、攻撃性......と言った負の感情全般から生まれるんだ。そこからさらに2種類に分類される。負の感情の持ち主が怪異に成るものと、感情が独立して怪異に成る。だから今この瞬間もどこかで新たな怪異は発生し続けている」

「それじゃ......」

「そう、今君は恐らく『そんなのいつまで経っても怪異は無くならないじゃないか』と考えたろう? その通りさ。この世界があり続ける限り、怪異は無くならない。例えば誰かが自分の死に恐怖したとする。それだけ怪異は生まれるのさ。もしそれを浄化しても、また別の死の恐怖から発生した怪異が現れる。骨折り損の草臥れ儲けとはこの事さ!」


 不毛、そんな言葉が陽葵の脳内を過る。それでは退魔士は何のために怪異に立ち向かっているのか、そんな疑問が湧いてくる。正義感? 使命感? 一種の自己顕示欲? はたまた金銭欲? 幾つもの候補が出てくる。そんな陽葵の思考を見透かしているかの様に、相は微笑を浮かべる。


「雑草を駆除してもそれは一時的なものにしか過ぎないだろう? でも、人は一時しのぎに雑草を駆除する。それが好きな人も居るだろうし、仕事だからする人も居る。もしかしたら雑草駆除に生き甲斐を感じてる人も居るかも知れない。自分ら祓魔師をする理由なんてのはそんなものだよ。そこに大層な大義は必要ないのさ」

「......」

「中には怪異に大切な人を殺されたと言う復讐心から、退魔士をしている輩も居るけどね。そう言う人は長続きしない。理由は分かるかな?」

「負の感情が大きすぎるから......ですか?」

「正解! 負の感情が原動力の祓魔師が迎える結末は3通り。1つは怪異に殺される。感情が大きくなりすぎて、冷静な判断が出来なくて早死にしてしまうだ。2つ目は自らが怪異と化して、浄化されたり封印されたり......時には自分が生み出した怪異に殺されちゃう。これはさっき説明した通りだね。3つ目、そうなる前に同業に殺される。悪い芽は早めに摘んじゃうのが1番! ってこと。だから祓魔師は修行段階で徹底的に感情の抑制の仕方や殺し方を学び、動じない強靭な精神力を作るんだ。それでも成っちゃう時は成っちゃうけどね」


 その話を聞き、陽葵は月のあの冷静沈着ぶりの意味が分かった。自分がどれほど負傷しようとも眉の1つも動かさず、凪のの様な感情。それは彼女の修行の成果であり、祓魔師になるためにはあのくらいの感情のコントロールが出来なくては、きっと話にならないのだろうと。同時に秋と相に感じていた違和感の正体にも推察がつく。秋から感じる底知れぬ様の一因はこれであり、相は微笑みを崩さないのもきっと相なりの感情の抑制の仕方のなのだろうと。


「後は等級かな。怪異と祓魔師には等級があって、日本では下から戊級、丁級、丙級、乙級、甲級の5段階で区分されるね。そしてそれぞれの等級の脅威を分かりやすく説明すると」


 相は曰く戊級怪異は喧嘩慣れし、金属バットや鉄パイプで武装した不良程度。戊級怪異であれば、訓練を受けておらず、霊能力に至ってない言わば霊感の持ち主でも場合によって対抗できる事がある。しかし丁級怪異からは訓練を受けた祓魔師以外では逃げる事すら困難であり、丁級怪異は最新鋭の兵器で武装し、高度な訓練と数多の実戦を潜り抜けてきた歴戦の機械化歩兵小隊に匹敵する。丙級怪異ともなると装填を必要とせず、あらゆる地形を踏破する未来の戦車で、突然街中に現れれば近場に凄腕の祓魔師が居ない限り、その地域は甚大な被害を被ることとなってしまう。乙級怪異は意思を持ったミサイルであり、都市が崩壊する危険性も高い。甲級怪異は大量破壊兵器であり、不特定多数の都市を再生不能までに破壊し尽くして、国家の命運に関わってくる可能性もある。


「等級が高い怪異は出現頻度は少ないから、そうヤバい事態に陥る事はないけどね。それに祓魔師の中にはそう言った怪異の発生を予知できる人も居るから、今の所は何とかなってるのが現状」


 ゴクリと鉛の様に重く硬い唾を飲みこむ。言葉が出ない。相の言い方を考えると、陽葵の人生の知らぬ所で災害に匹敵する怪異が現れていたとも解釈でき、恐らくそれは間違いでは無いだろう。この1時間足らずで体験した尋常ならざる出来事と、相の話の内容に陽葵の脳は既に許容範囲を越えようとしている。


「そ、その......今回の怪異の等級と言うのは、どうなんでしょうか?」

「そうだねぇ......さっきみたいな下位魔竜は戊級から丁級って所かな。だから自分たちからすれば然程問題じゃない。自分と秋は結構強いんだよ? でも問題なのは本物の魔竜さ」


 陽葵の首筋を嫌な汗が滴る。知ってはいけない、踏み入ってはいけない。そう少女の本能が警鐘を鳴らしている。しかしもう、後に戻るには遅すぎるのだ。止まる事はできない。故に進み、聞くしかない。例えそれが彼女にとって聞きたくない、知りたくない事であっても。


「推定甲級怪異。今はまだ大きな動きは見せてないけど、もし本格的な行動に移ったら計り知れない被害になるよ」

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