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春色の 家族の笑顔 思い出せ

 一昨日、磯川が懲戒になったと裕子に打ち分けられ、どうすればいいのか分からす、彼女に相談をさせないように、時間稼ぎの手を打った。

 お蔭で、昨晩も連日、セックスする羽目になったが、一晩考える時間を稼げ、最良の方法を考えることができた。

 磯川を、私の会社に招き入れるためのシナリオだ。あいつは、頑固者だから、どう攻めても、俺の許で働く事はしないが、このシナリオ道理に運べば、必ず仲間になってくれる筈だ。

 実は、このシナリオは、昨日の磯川家訪問から始まっている。

 昨日の裕子の演技が見れなかったのが残念だが、作戦通りに、本日、磯川がここに来る。

 ここからは、私の演技力に、成功の可否が掛かっている。全てが台無しにならない様に、慎重に事を進めるだけだ。

 そう思って、午前中の仕事を熟していたら、昼前に磯川が事務所に来てしまった。

 未季が居ると、話がややこしくなり、全てが御破算になるからと、昼過ぎに、時間指定したのに、大誤算だ。

 でも、未季は、何時もの様にランチに出かけて行った。早めに戻って来られると、全てが終わるが、戻ってくるまでに、全てを終わらせればいいだけの話だ。

 裕子に、視線を送ると、ここまでの首尾は上々と、無言で応えて来た。

 いよいよ、自分の演技の見せどころだ。

「磯川、悪いが、こっちに移動してくれ」俺は、そういって、奥で、磯川に話し始めた。

 まずは、磯川に自分の立ち位置を確認してもらわないといけない。世間は厳しく、そう簡単にお金は借りれないと認識してもらう必要がある。

「昨日、こいつに話を聞いたが、その契約、白紙に戻してくれないか?」

「理由による」

「自分は、お前に、謝らなければならないことが二つある。一つは、今回のお前の処分は、自分が、あのやばい件に、首を突っ込んだことで起きたのだと思う。私の責任だ」

 彼は、そんなことはないとばかりに、磯川は首を横に振った。

「それともう一つ、夕実と別れて欲しい」

 ここで、磯川にどれだけプレッシャーを掛けられるかるだ。そう思って磯川の表情を観察していると、隣で、裕子が、私の足を蹴ってきた。

 仕舞った。お金を先に提示する筋書きだった。

「それはないだろう。彼女を悲しい目には、あわせていない。今回のことだって理解してくれている」

 案の定、反論してきた。だが、今、お金を積むのは不自然なので、こっちの意図を明確にしてから、提示する作戦に切換えた。

「都合が言い話なのは分っているが、俺は、この巨悪との戦いを止めるつもりはない。そして、裕子から聞いたが、君も内側から戦うつもりらしい。なら、これからも君の懲戒が頻繁に起きる。金の工面なら、いくらでもするが、利子を付けないと、君は受け取らないと言う。つまり、夕実に待っているのは、借金地獄だ。それに君自身が言ってただろう。魂をとられるかもしれないって……。そんな、将来暗雲しか見えない男に、大切な娘を任せられない」

 裕子は、呆れたと言うように、冷たい表情で、こちらをみていたが、私が「おい」と合図を送ると、紫の袱紗を出し、百万円の束、五束を磯川の前に差し出した。

「頼む。君には本当に悪いと思っている。慰謝料とし、安すぎるかもしれん。だが、夕実と二人の孫を家で引き取らせて欲しい」

 磯川の表情が見る見ると青ざめていく。

「親父の言い分は確かに正論だ。だが、どんなに言おうが、別れる気はない。夕実も、大輔も、祐輔も、俺の大事な家族だ。絶対に渡さない」

 多少失敗はあったが順調だ。今度は、裕子にバトンタッチ。

 どんどん追い込んで、自分の信念よりも大切なものがなんなのか気づかせないと、頑固な男は、絶対に自分の意志を曲げない。自分の夢を最優先しても、愛さえあれば何とかなると信じ込み、大切なものを失ないかねない事実が見えなくなっている。

「夕実さんは、きっとあなたに一生ついて行くって言うと思うの。でも、そんな夕実さんを今の貴方で、支えて行けるの? 現実を見て話して。どうやって、明るい未季を描くつもりなのかを訊かせて!」

 裕子の話し方は、冷静であるほど怖い。今、磯川は必死に心の中で葛藤している筈だ。きっと、刑事を辞めない限り、夕実を苦しめる事になると考えている。

 後一押し。私はソファから立ち上がり、床に土下座して懇願した。

 裕子も磯川も、目を見開いて、驚いている。

「磯川くん、君の悔しい気持ちは良くわかる。でもお願いだ。夕実と私のために、別れてくれ。それができないと言うのなら、どうか、此処で働いてくれないか? うちは人手不足で、巨悪を探る時間も取れない。私はさっきも言ったように、時間が掛かっても、何としてでも巨悪と戦いたい。一緒に戦ってくれると本当に助かる。夕実や子供たちのため、そして、年老いた私のために、一つ自分を曲げて、警察を辞めると言ってくれ」

 安川の顔は、笑顔になったが、その目は潤んで、今にも涙が零れそうだ。

「すっかり、嵌められたみたいだな。親父に頭を下げられたら嫌とは言えない」

 よし、作戦成功。後は、裕子に任せておけばいい。

「土下座はやりすぎよ」

 裕子の言葉を聞いた磯川は、はっと我に返った。どうやら、全てをさっしたらしい。だが磯川は、一度口にした言葉を撤回する男ではない。

「一つ、教えてくれ、この猿芝居は、親父さんの作品か?」

「決まってるじゃない。こんなの自称小説家の神威先生にしか書けないでしょう」

 彼女との出来事を書いて応募した小説が、二次選考で落ちた事を、未だに言ってくる。

 そのあと、一緒に出前の鰻重を食べて、条件の摺合せをする運びだ。

 ついでに四月からの来夢の契約更新もするらしい。社長もいろいろと大変だ。

 その時、また次のお客さんがやってきた。忙し、忙し。



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