悩みさえ 幸せに変える 春の夜
開業して、二週間も立っていないとと言うのに、便利屋昴は、もう大繁盛。主人は、今日も夜十一時の帰宅。
お風呂から出る頃合いに、私は、事前に、彼の部屋にいき、彼のベッドに腰掛けて、待機した。
今日は木曜なので、もちろん、セックスするつもりではない。未だノーパン生活ではあるけど、ブラもネグリジェも着て、待機した。
彼が部屋に入ってきて、私を見つけると、凄く驚いた顔をした。
「安心して、セックスするつもりはないから……」
そう言ったのに彼は照明を切って、バスローブを脱ぎ捨て、パンツ一枚の身体になり、私をベッドに押し倒してきた。する気はないのに、身体は興奮し始める。
「ねぇ、磯川さんと貴方、何か私に隠してない。二人で何か調べてるでしょう」
「えっ、なんのこと?」
彼は、何を勘違いしているのか、腕を私の背中に回し、ゆっくりとさすり始めた。昔の私なら、直ぐに、やめろと腕を撥ね退けたけど、今は身体が無性に彼を欲しがり、拒否できない。
「磯川さんが、訓告処分になったのって、貴方の依頼で、磯川さんが動いたからでしょう」
「ちょっとある人物の調査を依頼した」
彼はブラのフックを外した。
「もしかすると、あのヤクザさんの事件と関係が……」
彼の手が、ネグリジェの中に入ってきて、私は、言葉を続けられなくなった。
主人は、私の足を優しくタップすると、体制を変えて、本格的な愛撫の体制にはいった。
「お願い、大事な話なの。少し真面目に訊いて、あぁ~ん」
「今は裕子本人だと、確信できるんで、つい嬉しくて」
そう言いながら、手は徐々に優しく身体を愛撫しながら、胸の所まで上がってきた。
私は既に、彼を受け入れる体制になっている。でも、ブラの下にもヌーブラをして、興奮状態にならない様に防御してるのに気づき、彼は愛撫を止めてくれた。
「御免、本当にエッチが目的じゃなかったんだ。てっきり本人確認の合図かと思った」
正直、アソコは既にぐしょぐしょだし、体中ざわざわして出来上がっている。話はセックスの後でも構わない気になったけど、身体を起こして、ブラを付直し、意識を立て直した。
主人の話によると、私達を誘拐した理由は、往凶会理事長、柴崎さんを刺し、アタッシュケースを盗んだ男を探しだす協力をさせるためだという。でもその男は、実は忍者女子高生で、国会議事堂前で、謎の人物にアタッシュケースを渡した。そして、その謎の人物のその後の動向を追いかけるため、磯川さんに、その謎の人物の鮮明な写真を集めて欲しいと依頼したという。
そして、磯川さんは、五枚の顔写真を入手し、その人物が、財務省の大臣官房秘書課の人間と言うところまで突き止め、後は、訓告がでたので協力できないと言ってきたと言う。
昴もその情報を元に、昴システムで、その前後数日のその男の行動を調査した。すると、白人の外国人男性五人と、あの男とが、関連していて、その白人外国人のバックには、もっと大物の人物がいた。それが誰かは分っていないらしいけど、ザ・キャピトルホテル東急という五つ星ホテルに宿泊していたVIP。アタッシュケースはその人物の手に渡った。
私は、アタッシュケースの中味が何なのかと訊いてみたけど、それも、現時点では分っていないと言う。
でも、警察組織のトップクラスや国家も絡むかなり大がかりな何かが背後にあり、磯川さんは調査から手を引き、今は昴独りで仕事の合間に嗅ぎまわっているらしい。
「じゃあ、あなたが嗅ぎまわった所為かもしれないわね」
「何の話?」
「言い忘れてたけど、今日、夕実に電話したら、磯川さん、経費横領なんていう不当な言いがかりをつけられて、二ヶ月の懲戒停職を言い渡されたんだって……」
「何で、それを先に言わない」
「だってあなたが、勝手に私の身体を愛撫しはじめるから、判んなくなったのよ」
「ライム」
「バカ」
何を思ったかのか、また急に彼が私を襲ってきた。
「今日は木曜日だよ。セックス中毒が悪化しちゃう」
「そうなったら、自分が責任をもつ。構うものか」
「明日、磯川さんの家に行くことにしたの。だから、何て話そうかの相談だったのに……」
「それは、明日にしよう。愛してる」
もう、この調子じゃ、週三ペースになってしまう。そんなことを一瞬、脳裏をかすめたけど、直ぐに何も考えらなくなった。
結局、この日も、昴としてしまった。でも、昴が嫌でないなら、構わない。もう自分に素直に生きようと決めたから。
事が終わって、部屋に戻って、明日の作戦を考えた。
お金を無利子で貸すと言った方が良いのか。それとも、一時的に、働かないかと持ちかけた方がいいのか。
でも、ふと、今ならと言う気もしてきた。
実は、以前、磯川さんをうちの事務所にヘッドハンティングしようとしたことがある。昴は、あんなだから、忙しくても人を雇おうとは絶対にしない。でも、気心の知れた磯川さんならと、職場に、面会にまで行って、頭を下げた。
なのに、彼は自分の仕事を愛していて、生き甲斐だからと、あっさり断られた。
でも、今の状況なら、もしやと言う気もする。
問題は、磯川さんをどう攻めるか。彼も昴と似たもの同志で、かなりの頑固もの。
さて、どう切り崩すか……。
私は、あれこれ考えたけど、きっと昴もその方法を考えてるのではないかと言う気がして来た。さっき、あんな事をしてきたのは、頭が混乱して、回答できる状態になかっただけ。今頃、明日、どう対処するかに頭を悩ませいるに違いない。
それが、磯川さんを雇用する事かは、分らないけど、そうでなかったなら、私が、その場で判断して、適当に対処すれば良いだけの事。
私は、昴じゃないのだから、くよくよ悩んで、考えてもしかたがない。私の取り得は、臨機応変な対応にあるのだから。
そう心が決まった途端、また、昴との事を考え、身体が疼き出してしまった。
今日、思わぬセックスをすることになったけど、正直、十分に満足できたわけではない。
どうも、最近、あの人が、どんどん弱くなっていく。
去年までは、あんなに精力絶倫の遅漏だったのに、最近は、直ぐに休憩を取って動かなくなるし、挿入時間も短くなっていく。今日なんて、僅か十分。
それでも、何回も行けて、気持ち良かったけど、あの全てが同時に行く最高のスクスタシーはもう得られない。
でも、明日もセックスできるし、贅沢は言えない。
私は、直ぐには寝付けなかったけど、それでも疲れていて、ぐっすり熟睡できた。